She is here.   作:非単一三角形

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 お待たせいたしました。新章一話目、オリキャラ回になります。
 ……原作あんまり関係ない回の投稿は、どうにも気後れしますねー。



Chapter-2
C2-1 御魂咲鳥:オリジン


 

 

「二人で一緒に、ヒーローになろう?」

 

 あの日の一言が、私のハジマリ。

 

 

 

 

 

 

「───さとりちゃーん、こっちだよーっ」

「あぅ……待って、待ってよ、こはくちゃんっ」

 

 生まれた家はお隣同士、生まれた日から、ずっと一緒。

 遊ぶのも、眠るのも、何をするのも私達は一緒だった。

 

 

「ひぃ……はひぃ……っ」

「はは……さとりちゃんってば、いつもそうやって思いっきり走るからすぐ疲れちゃうんだよ?」

 

 幼かったあの頃に思いを馳せれば、いつでも彼女を追いかけていた私ばかりを思い出す。

 思えばあの頃から私の身体は、私が想像する通りに動いてはくれない。

 まだ幼いから、頭の中のイメージに身体が追いついていないんだろうと言われたのは、いつの、誰からの言葉だったろうか。

 

 勿論、その頃の私に、そんな理解が及ぶはずもなくて。

 ただ離れたくない、置いていかれたくない……そんな想いで身体を動かしていた。

 

 ……そんなの必要なかったって、今ならちゃんと分かるのにね。

 

 

「だ、だってぇ……」

「そんなに慌てなくっても大丈夫さ、ほら───」

 

 

 だって私が手を伸ばせば、いつでも彼女は振り返って。

 

 笑って。

 

 答えてくれたから。

 

 

 

「ボクは、ここにいるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「───やめなさいよ、あんた達っ!」

 

「「「げっ!?」」」

 

 小学生の頃、私は特に同じ年頃の男の子達を相手に突っ掛かることが多かった。

 

 理由は単純。その年頃の男子ときたら、大人しい子の持ち物を盗ったり隠したり、時には囲んで苛めたり……そんなくだらないイタズラにばかり精を出す生き物だから。

 対して私は、自分の傍で起きているそうした出来事に、見て見ぬ振りをしてはいられない性質をしていた……ただそれだけのことで。

 

 

「……って、なんだ()()()()か」

「ちぇっ、驚かすなよなー」

 

「っ、なんだとは何よ!? 私、ちゃんと見てたんだからね! 今、そこの机から持ってった物、ちゃんと元の場所に戻しなさいよ!!」

 

 だけどそんな私の行動には、彼らを戒められる故が伴っていなかった。

 

 小さい頃よりはマシになってはいたけど、どんくさ……運動神経がよろしくない子供だったのは否定できないし、体格も年齢性別相応で……ひと回り以上大きな身体をした男の子達に、私が何を言ったところで、何をしたところで、抑止として働く筈もなく。

 

 

「んだよ、うるさいなぁ……"()()()"が調子に乗ってんじゃねーよ!」

 

「っ、……」

 

 

 ……加えて、()()だ。

 私は、"個性"の発現が周囲に比べて()()()()

 

 今となっては、既に発現していたが条件が分からないままだった……ということになるけれど、そんなの子供どころか誰にも分かるはずもなく。

 

 

「そん、なの……っ、関係無いでしょ! いいからさっさと───」

「なんだよー? これがオレ達の物じゃないって、証拠でもあるのかよー?」

 

「っ、だから! さっきそこから盗っていくところを見たって言って───」

「そんなのお前が勝手に言ってるだけじゃんか? それなのに、人のことドロボウ呼ばわりかよ? ヒデー、うっわヒッデェ、傷付いたー。シャザイとバイショウを要求しまーす」

 

「なに、よ、それ……私は───」

「どーせオレ達が羨ましくて嫌がらせしてんだろ? "無個性"だから」

 

 

 付け加えられたその言葉に、あの日の私は喉を詰まらせた。

 不本意の極みに頭は煮え滾って、だけどそれ以上に心に沸いていたのは、声にならない無力感。

 

 

 ───"無い"よりも"有る"方がエライ。

 

 エライ奴はエラくない奴に、何をしてもイイ。

 

 

 そのたった一つの『違い』が、私の言葉からあらゆる力を奪い取る。

 子供同士の()()()()は、どんな理屈や正論をも踏み潰してしまうものだったから。

 

 

「…………っ」

 

「お? 泣いてる? 泣いてんのか?」

「図星突かれて悔しくなったんだろ?」

「お前なんか、空翔が居なきゃ何も───」

 

 

 ……違うのに。

 間違っているのは、相手の方なのに。

 私が振るう『正しさ』では、何も覆すことができない現実が悔しくて。

 

 

 

「───ボクが居なけりゃ、なんだって?」

 

 

 

「「「……ゲッ!?」」」

 

「……胡魄ちゃん」

 

 

 そんな現実を。

 私の前に立ち塞がった理不尽を。

 乗り越え打ち砕いてくれるのは、いつだって彼女だったから。

 

 

「人の幼馴染に随分と好き勝手言ってくれたみたいじゃないか? ああ、先に言っとくけど弁明は聞かないよ。これがキミ達のいつも通りの悪行であることぐらい、周りの人間の眼を見れば改めて尋ねるまでも何が謝罪と賠償だ張ったおすぞ

 

「文脈!?」

「だからキレるのがちょっと早いんだって!!」

「話すこと言い切ってからにしろよ!? いつもの事だけど!!」

 

 

「問答無用ッ! 覚悟ォ!!」

「「「うわあああぁっ!?」」」

 

 

 逃げる彼らを追いかけて、追い立てて。

 ものの五分もしない内に、確りとお灸を据えた後で、彼女は微笑みを浮かべて戻ってくる。

 

 彼女が……胡魄ちゃんこそが、私の想う『正しさ』。私の中の『正義』そのもの。

 

 

「全く彼らは毎度毎度……大丈夫かい、咲鳥ちゃん?」

「……うん。ありがとう、胡魄ちゃん……ごめんね?」

 

「ん? 何がだい?」

「だって……また、どうにもできなくなってたところを助けられちゃったから……」

 

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()()。そうだろう?」

「…………うん」

 

 

「それなら謝るなんてやめておくれよ。それに、約束しただろう?」

 

 

 そう言って笑いかけてくれる彼女が、私には眩しくて堪らなかった。

 悪い事を悪いと正せて、良い事を良いと貫ける。

 その為の心も、力も、既に持ち合わせていた彼女。

 

 あの日の私が見ていた、彼女の姿こそが───

 

 

「二人で一緒に、ヒーローになるって」

 

 

 私にとっての『ヒーロー』だったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

『───ピィ!』

 

「……咲鳥ちゃん、それはいったい……?」

「……こ、胡魄ちゃん、これっ……え、えぇ……?」

 

 そんな彼女も、()()()には。

 私の"個性"が『判明』したその時は、流石にポカンと口を開けて驚いていた。

 

 小さい頃から飼っていた、小鳥のピィちゃん。

 私が小学生になったぐらいの頃から少しずつ元気が無くなってきて、もうそろそろトシだからと言われていて……ある朝、動かなくなっていたこの子と、最後のお別れをしていたその日の事。

 

 

 悲しかったし、辛かった。

 また元気なところを見れたら良いのにって、何度も考えていた。

 土に埋めて手を合わせている間も思い出が頭を過って───また会いたいと、思いはしたけど。

 

 

「これ……もしかして、私の"個性"……?」

「え……!? じゃ、じゃあ、生き返って……まさか……!?」

 

「あ、う、ううん、それは違うと思う。これ…………『私』だ」

「…………は?」

 

 

 見た目も、動きも……羽の動かし方とか、私の記憶にあるままのピィちゃんだったけど。

 手や足とは全く違う感覚で……『これ』を動かしているのは、私だと分かったから。

 視界とは微妙にズレた像として、私の顔が視えていたから。

 

 今までに無かった感覚が、身体が、突然()()()ような心地。

 だけど増えたその『部分』が『私』の一部だって、何故だか理解できたから。

 

 

「…………そっか、これが咲鳥ちゃんの"個性"……これが……これで……!」

「うん……私、"個性"があった……! 『発現』、してたんだ……っ!」

 

「ふ、ふ……良かった……良かったねぇ、咲鳥ちゃん……っ!」

「胡魄ちゃん……ッ!」

『ピイィィ…』

 

 

 驚いて、驚いて。

 衝撃が過ぎ去ると同時に、浮かんできたのは胸に溢れて破裂するような喜びで。

 その想いは言葉になって喉を通るよりも先に、熱い雫になって目から溢れ出した。

 

 抱き締めてくれる彼女に泣き縋りながら。

 祝福のように響く『小鳥』の囀り───自分の心の声を耳に浴びながら。

 私はその日初めて、ハッキリと『それ』を胸の裡に刻んだ。

 

 

 これで、私も───『ヒーロー』を()()()()()()()()、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───痛い。

 

 熱い。

 

 赤い。

 

 

 ()()()、私の頭にあったのは、たったそれだけ。

 何が起きたのか、何があって私がどうなったのか───理解が及んだのはずっと先の事。

 

 

 高速道路。大きな車。

 私の家族と、胡魄ちゃんの家族。

 大きな衝突音、衝撃、身体が浮かぶ感覚。

 

 ポキポキと周囲から、身体の中から聞こえた、何かが折れる様な音。

 ぐちゃりと何かが、水気を含んだモノが潰れるような音。

 べしゃりと顔に掛かった、固体混じりの赤い液体。

 

 

 熱い、痛い、息苦しい。

 動けない、助けて、誰か───胡魄ちゃん、助けて。

 

 

 沈んでいく意識の中で、『それ』を叫んだことだけが記憶の隅に残っている。

 

 

 

「───ごめん、ね? これじゃもう、無理だよね、約束……っ」

 

「…………」

 

 

 

 原型が分からない程に潰れて炎上する車の中から、彼女が私を助け出してくれた───それが、後に聞かされた事実。

 それを聞ける身体になったその時、私の前にあったのは今までの何よりも理不尽な……何よりも残酷な現実で。

 

 感覚の無くなった両脚、ひどく緩慢にしか動かない腕、僅かな身動ぎで息の切れる身体。

 泣くことすら満足にできない私に、彼女はただ静かに手を握っていてくれた。

 

 

「…………ううん。もう、()()()()、じゃない。()()()()()()、なんだ」

 

「これは……()()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

「何があっても……二人で一緒に、ヒーローに……!」

 

 

 動かなくなった身体で、息を切らして宣言した私に。

 彼女は、そっと微笑みながら頷いてくれて。

 

 ……そんな彼女に、少しだけズルイと思いながらも、私は『それ』を口にした。

 

 

 

「───ねえ、胡魄ちゃん。胡魄ちゃんは、ずっと私の傍に居てくれるよね?」

 

 

 

 だって私がそう聞けば、いつでも彼女は頷いて。

 

 笑って。

 

 答えてくれるから。

 

 

 

 

『ボクは、ここにいるよ』

 

 

 

 






 I am here.


 She is here too.

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