She is here.   作:非単一三角形

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 特に改変入らない部分はダイジェストにしようかなあ。
 ……流石に勿体無いかなあ。



C2-7 狭めた視野

 

 

『───私怨で動くのはやめた方がいいよ』

 

「あいつをまず助けろよ」

 

 

 ()の頭に響いたのは、対極の位置に立つ二人の言葉。

 

 

 

『"個性"の規制化を進めていった中で"個性使用が許されてるわけだから、ヒーロー活動が私刑となってはいけない』

 

「目先の憎しみに捉われ私欲を満たそうなど……ヒーローから最も遠い行いだ」

 

 

 軽挙の代償は、切り裂かれた両肩。

 地に伏した頭を踏みつけられ、彼は激情に満ちた頭で落とされる言葉を聞く。

 

 肩を貫き、その身を地に縫い付けた刀が引き抜かれる様を目で追いかけ。

 即座に抗わんとした身体を襲った、不自然な脱力に歯の根を食い合わせて。

 

 

「じゃあな、正しき社会への供物」

 

「黙れ……黙れ!!! 何を言ったっておまえは、兄を傷つけた犯罪者だ!!!」

 

 

 動かない頭の真上、無情に振り下ろされんとする刃。

 自身の命が摘み取られる恐怖を前に、唯一動かせる口から憤りを吐いた彼───飯田天哉は。

 

 

 

(たす)けに来たよ、飯田くん」

 

「緑谷……くん……!?」

 

 

 突如路地裏に響いた打擲音と、一陣の風。

 怨敵との間に立った級友の声と見慣れた背中を、呆然と見上げるのだった。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 ───体育祭の最中、俄かには信じ難い凶報を耳にしてから今日(こんにち)まで。

 飯田の頭にあったのは、ただ『仇討ち』の一言のみであった。

 

 

 規範とあらねばならぬと背を伸ばしてきた日々を遥か彼方に。

 自身の芯に据えていた志をも真っ向から否定し、唯々復讐の機会を得るべく彼は道を選んだ。

 

 それを察していたのだろう先達、プロヒーロー『マニュアル』の諫言にも返す首肯は上辺のみ。

 フルヘルメットのヒーロースーツの下に昏い殺意を蓄え、()()()だけを目に宿して。

 

 

 ───奴はこれまで現れた場所で、必ず4人以上のヒーローに危害を加えている。

 

 ───目的があるのかジンクスなのか知らないが、必ずだ。

 

 ───保須市(この地区)ではまだ、兄さんしかやられていない。

 

 

 ───来い……!! この手で、始末してやる。

 

 

 そうして待ち望んだ邂逅の機会は、いっそ滑稽なまでに易く飯田の元へと転がり込んだ。

 職場体験三日目、何処かで響いた爆発音が起こした喧噪の先に、他ならぬ彼自身の目が路地裏へ消える()の者の姿を捉えるという形で。

 

 爆音にヴィラン発生を悟ったマニュアルの指示も、走り出していた飯田の耳には既に遠く。

 先に標的にされ、行動不能に陥っていたヒーローを除けば誰の目も無いその場所で、彼は対峙を果たしてしまったのだ。

 

 心より敬愛する(ヒーロー)を再起不能の身に落としたヴィラン───『ヒーロー殺し ステイン』に。

 

 

 

「───仲間が『救けに来た』良い台詞じゃないか」

 

「だが俺はこいつらを殺す義務がある。ぶつかり合えば当然……」

 

「弱い方が淘汰されるわけだが、さァ、どうする」

 

 

「やめろ!! 逃げろ、言ったろ!! 君には関係ないんだから!!」

 

 

 頬に受けた彼の拳は浅かったか、処刑人を思わせる威容を損なうことなく冷たい害意を漲らせるステインに、静かに対峙し拳を構える緑谷に、動かない身体を震わせながら飯田は叫ぶ。

 未だ全身を不可解な脱力に囚われたまま、己を救けに()()()()()()友人の背中へと。

 

 友人の身を想う憂慮と、仇に対する怒りと意地。

 ない交ぜとなったそれらが自身をどのように占めているのか、当人にすらも分からないままに。

 

 

「そんな事言ったらヒーローは何もできないじゃないか!」

 

「い……言いたいことは色々あるけど……後にする……!」

 

「オールマイトが言ってたんだ───余計なお世話はヒーローの本質なんだって」

 

 

「ハァ…………」

 

 震える声で言い切った緑谷の言葉に、飯田は口角を上げるステインの表情を見る。

 これまでとは異なる仇敵の反応に、彼が疑問を抱いていられたのは刹那の間。

 

 

「良い」

 

「っ! ダメだ斬りつけられたら……」

 

 走り出した緑谷に、ステインが手にした二刀にて迎え撃たんと動き出す。

 友の身が剣閃に重なる未来を予測した飯田が声を上げると同時に、緑谷の身体が()()()()()

 

 

「5%デトロイト(DETROIT)……スマッシュ(SMASH)!」

「……ッ」

 

「な……!」

 

 振り下ろされた刃を地を這うように躱し、そのまま股下を抜ける。

 背後に回ったところで、振り向かれる前に死角となる頭上へと跳び上がる。

 そのまま壁を蹴って拳を振り上げつつ落下、敵の頭部を狙った一撃を放つ。

 

 ───離れた場所からだからこそ捉えられた一連の攻防に、飯田は半ば呆然と目を瞠った。

 

 

「(何だあの動きは! まるで爆豪くんのような……!)」

 

 視界に残るのは、地面に手を付き着地した緑谷と、殴られた頭を俯かせ動きを止めたステイン。

 よもやあの凶敵を相手に勝利を掴めたのかと、彼の内心が跳ねたその瞬間。

 

 

「……!! なっ……」

 

「パワーが足りない」

 

 

 突如、糸を切られたかのように全身から脱力した緑谷が、驚愕に染まった表情で膝を突く。

 慄く彼の見上げた視界に入ったのは、顔を下げたまま一言呟いたステインがざらつく舌先を刀の刃先から離す様だった。

 

 

 ───『ヒーロー殺し』を"ヒーロー殺し"足らしめた彼の"個性"『凝血』。

 その機能は血を舐める事で相手の身体の自由を最大8分間奪うというもの。

 

 加えて相手に出血を強いる刃物を武器に、僅かにでも傷を作れば"個性"により抵抗の術を奪う。

 一対一の戦闘において、ほぼ全ての攻撃を致死の一手に変える悪辣な戦闘スタイル。

 

 

「……ちくしょう!! やめろ!!」

 

 詳細までは分からずも、腕に負っていたカスリ傷からそれらを推察した緑谷は、焦燥に染まった顔で歯を食いしばる。

 這いつくばる己を一瞥し、顔を歪める飯田の元へと歩き出すステインに制止を叫び───

 

 

 

 

『───ピィ♪』

 

 

 

 

「……えっ」

「なっ……」

 

「……小鳥?」

 

 

 場違いにも路地裏に響いた()()()()()に、彼らの時が一瞬止まる。

 ()()を視界の上部に見付けて訝し気に目を眇めたステインは、しかし意識を割くにも能わぬと、すぐさま正面に視線を戻し。

 

 

 

「……ッ!?」

 

「っ、躱されるかあ。耳郎さん御墨付きの無音飛行だったんだけど……なっ!」

 

 

 弾かれたように下がった頭の上、虚空に描かれた警棒の軌跡がステインの後ろ髪を薙ぐ。

 咄嗟の動きに崩れた体勢を目掛け、続けて放たれた振り下ろしは構えた両刀に受け止められた。

 

 

「「……空翔さん(くん)!?」」

「お前は……ヒーローか? だが、何処から……?」

「生憎、戦いは許可されていない見習いの身さ。けど三人抱えて逃げるのは無理……っと!」

 

 動揺を突いた噛み合いが成立したのは数秒。

 力任せに武器を押し返され、蹈鞴を踏むように宙を掻いたはヒーロー科A組、空翔胡魄。

 

 

「……っ、どうして君まで!?」

「緑谷くんからこの場所を……位置情報の一括送信を受け取ったんだ。この状況からも察するに、よっぽど立て込んでたようだ」

 

 愕然と問いかける飯田に、空翔は僅かに口角を上げて返答する。

 同じく視線を向ける緑谷に小さく頷きを返し、彼女は手に握る警棒を正眼に構えた。

 

 

 飯田を探して路地裏を駆け回り、ステインと対峙する彼を発見、救助に飛び込んだ緑谷が即座に行ったのは、携帯電話の僅かな操作で行えるクラスメイトへのメッセージ一斉送信。

 誰かしらに意図が通じれば、示した場所に応援を呼んでくれる可能性が───そんな考えの元に彼が採った行動の結果の一つが、目の前に()()()()()もう一人の級友であった。

 

 

「……職場体験先のヒーローには、向こうで暴れてる脳無を理由に避難を指示されたんだけどね。その途中でメッセージに気付いて……空から見ればこの窮地。他に選択肢は無かったよ」

「空翔さん……!」

 

「勿論、周辺のヒーローには咲鳥ちゃんが連絡してくれてるよ。数分もすればプロも現着……ッ」

 

 

「……別の仲間か。威勢は良いが───」

 

 

 溜息交じりの一閃、二閃。

 宙に浮かぶ空翔の懐へと容易く飛び込んだステインの刃が彼女の防御を弾き、潜る。

 

 

「力の伴わぬ意思など、ただ淘汰され……?」

 

 振り抜かれた剣閃は、彼女の脇腹を裂いた軌道。

 手慣れた()()()()()を打つべく、握る刃に目を向けたステインの声に、戸惑いが混じった。

 

 

 

「……悪いね。そういうの(刃物)は効かないんだ」

 

「ッ……!?」

 

 

 再々度、意識の間隙を狙った一振りが、仰け反ったステインの頬を掠める。

 動揺か、はたまた様子見の為か距離を取る彼に相対する形で、空翔は動けぬ面々を背に構えた。

 

 

「そ……っか! 空翔さん! 多分そいつは血の経口摂取で相手の自由を奪う! 皆やられた!」

「成程? それじゃ、精々()()()()()()()()()()()()()としようか」

 

「ハァ……そういう"個性(身体)"か」

 

 手応えに反して血濡れの無かった刃先を見遣り、息を吐いたステインが空翔を睨む。

 そうして尚も笑みを崩さない彼女の立ち姿を確認し、巻いた布の下で目を細めた。

 

 

「恐れの無さは、その身体由来か? 見習いと言ったな……お前は何を想いヒーローを志す」

「……時間稼ぎに協力してくれるのかい? こちらとしては有難い限りだけど───」

 

答えろ

「…………何を想って、と言われても困るなあ」

 

 

 視線に極寒の意思を漲らせるステインに、薄墨のように笑って、彼女は口を開く。

 

 

「何故、なんて無いさ。……ボクという存在がその為にあるから、だよ」

 

 

 

「弱い人の前に立ち塞がる理不尽を打ち砕き、『正しさ』を示す」

 

「悪い事を悪いと正し、良い事を良いと貫く」

 

「頭の天辺から足の先まで、この身体はその為にある」

 

 

 

「だから、()()()はヒーローになるんだ。……これで良いかい?」

 

 

 

「…………及第」

「厳しいなあ!」

 

 

 その評価(応答)を契機に、再び襲い来るステインに身構える空翔。

 しかし接敵の瞬間、彼の姿が()()()焼き直しの如く彼女の足元へと深く沈んだ。

 

「……っ、そう来るか……!」

「ハァ……何より意思に見合う力を付けろ。『置物』に為せる役目など無い」

 

「血の出ない空翔さんを無視して……!? 飯田くん!!」

「ぐっ……!!」

 

 先の彼が如く、死角へ抜けられた空翔が咄嗟に振り返るも、その背中は既に遠く。

 裂かれた両肩から血を流す飯田が、地に伏せ叫びを上げるしかない緑谷が、振り上げられた刃を為す術なく見上げて。

 

 

 

「───緑谷、こういうのはもっと詳しく書くべきだ。遅くなっちまっただろ」

 

「……!! 次から次へと……っ」

 

 

 

「「「……轟くん!!」」」

 

 

 凶刃を遮り空を舐めた業火と、地を走る氷。

 左右の半身にそれぞれを宿す級友、轟焦凍の姿を路地の入口に見るのだった。

 





 今話前半みたいな原作書き起こし部分はなるべく省略したい。
 でも改変部分に繋がるように書くには全カットするわけにもいかないジレンマ。

 空が飛べるアドがある分、轟くんより先に到着するオリキャラさん。
 逆に読み返して気付く原作轟くんの現着早過ぎ問題(緑谷くんメッセ送信→ひと当て→到着)。
 しかもこの時点だと()を使った高速移動も習得前ですし、一斉通信受け取った時点ですぐそこに居た事になりますよね。

 なお、後半戦は多分バッサリいきます。原作とほぼ変わんないので。


Q. (前話後書きより)結局『ザ・フライ』 is 誰?
A. 弔くんがステイン憎しで保須に放った脳無にやられちゃったモブヒーローA氏、なのです。

  原作モブヒーローB氏「『ザ・フライ』がやられた!! オイどうなってんだ!!」

  = そこに職場体験に行ったオリキャラも保須に居合わせる、という伏線()だったのです。

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