She is here.   作:非単一三角形

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 ここ暫く書いては消し書いては消しを繰り返してました。ここまでの難産は初かもしれない。

 その反動(?)で短編六本ほど書き散らしました。総計五万文字弱。なにやってんだ。
 いずれも本作とは微塵も関係ないですが、短編集としてまとめてます。お暇な時にでもどうぞ。

 ちなみに主に苦悩したのはオリキャラの扱いです(自業自得の極み)。
 改変が絡まない部分は、なるべくさくさく進めたいのですけどねー。



C2-9 『笑顔』

 

 

 ───変わったな、と。

 誰に聞かせるでもなく、彼女は呟いた。

 

 

 

 

 日々の授業に向ける熱意の違い、姿勢の違い。

 誰もに多かれ少なかれ起きている、微かな振舞いに滲む意識の変化。

 

 それは、誰か数人に限った事でもなければ、自身を除いた話でもなく。

 その故はきっと、これまで漠然と将来の夢としていたプロヒーローの現場を経験したが為。

 

 職場体験なる場で間近で見聞きし、肌に感じた経験がそうさせるのだろうと、ハッキリ言葉にはしないままに及んだ理解が彼女の内にあって。

 

 

 

「───職場体験直後ってことで今回は遊びの要素を含めた救助訓練レースだ!!」

 

 

 契機となったのは、週明け最初の『ヒーロー基礎学』。

 工業地帯を模した訓練場を舞台に、5人4組に分かれて1組ずつ行うレース形式の授業でのこと。

 

 その1組目に選ばれ各々スタート位置に着く5人と、待機場所に向かう残りの面々。

 後者に含まれることになった彼女が、そこに設置された巨大モニター越しに、動き出した彼らを見たその時が、()()()()()()

 

 

「おおお緑谷!? 何だその動きィ!!?」

「遂に骨折克服か! 流石オールマイトだぜ!」

「…………言われてみれば」

『……ピィ』

「一週間で……変化ありすぎ……」

 

 快哉の声の対象になったのは、難儀な"個性"を抱えた級友、緑谷出久。

 自らの四肢をも砕く制御不能の『超パワー』……だった筈の『力』を以て、密集する家屋の中を軽業師の如く駆け抜ける彼の姿だった。

 

 今まで文字通りその身を犠牲にするしか手を持たなかった彼の、鮮烈な躍進。

 観戦していた面々が皆、口々に喜色に染まった声音で彼を言祝いでいた中で。

 

 

 

『ピッ、ピィ♪』

「ふふ……そうだね、()()()()()()()()()()よ」

 

 

 

「(…………なんやろ。なんか、()()()()()()()()()()()ような……?)」

 

 

 すぐ隣で『小鳥』と言葉を交わす級友を横目に見た彼女───麗日お茶子は、最早慣れたハズのやり取りに、そこに浮かんだ薄墨のような微笑みに、人知れず首を傾げたのだった。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「───夏休み林間合宿やるぞ」

 

「知ってたよー! やったー!!」

 

 

「ただし、その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は……学校で補習地獄だ」

 

「「みんな頑張ろーぜ!!」」

 

 

 

「あの、相澤先生?」

「……どうした、空翔?」

 

 

 それは、学期末を間近に控えたある日のHR(ホームルーム)

 担任教師の告げた朗報と警句に生徒達の意気(テンション)が乱高下する中、俄かに騒めきを押し留めたのは上がった一本の手であった。

 

 手と問いの主は、肩に『小鳥』を乗せた生徒、空翔。

 周囲の注目の中、相澤より視線で続きを促された彼女は自身の肩上を見遣りつつ口を開く。

 

 

「期末テストでは実技演習も含むと聞いていますが……『彼女』の扱いはどうなりますか?」

『ピィ?』

「あァ……御魂にも筆記は当然受けてもらうが実技(そっち)は免除だ。流石にな」

 

 言葉は発せない『彼女』に代わったらしい質問に、返ったのは後ろ髪を掻きながらの答え。

 教師側でも様々協議したのだろうことが窺えるその仕草に、生徒達からは「あぁ」と声無き声による納得が溢される。

 

「すると合否に……補習の要否に関しては筆記(そちら)で?」

「そういうことになるな」

 

「そうですか……分かりました。ありがとうございます」

『ピィ』

 

 

 

「えぇ……それって御魂にまで補習地獄の可能性があるってことですか?」

 

 

 今なお病床に居る幼馴染の為と、質問を終えた空翔は『小鳥』と共に頷き、手を下げた。

 一方で顛末を見守っていた級友達からは、そのにべもない回答に小さく疑問の声が上がる。

 

「……諸々配慮はするが特別扱いは話が別だ。水準に達していないなら補習は必要だからな」

 

「そりゃそうっすけど……」

「そこはもうちょっと手心とか……」

「無慈悲……」

 

 

「まあまあ、彼女も納得してるんだからさ。……ね、咲鳥ちゃん?」

『ピィピィ』

 

 軽く苦笑を浮かべつつ、異を唱えてくれる友人達に謝意を籠めて宥めに回る空翔達。

 肩に乗る小鳥───御魂咲鳥の意思を映す()()との息の合ったやり取りがそこに重ねられて。

 

 それは、彼女達と共に机を並べる間柄となった面々にとって、幾度も目にしてきた日常風景。

 皆が慣れに親しみすら交えて見守るその光景こそが、()()()だった。

 

 

 

「(…………なんなんやろ、このモヤモヤした感じ……?)」

 

 

 何気ない様子、にしか見えない『二人』に今一度、離れた席から視線を向けて。

 煮え切らない己の心の動きすらもが腑に落ちないまま、麗日は無意識のまま首を傾げる。

 

 

 

 ───肩の上に向かって何事かを囁き、それに対して小さな囀りが返る。

 傍から聞けば小鳥の鳴き声、けれど相変わらずの以心伝心振りで内容が分かるのだろう。

 また何事かを囁き返し、訴えるような鳴き声に頬を緩めて───

 

 

「(特に変な事も無いはずやのに……こうして見とると、なんか───)」

 

 

「……麗日さん? さっきからやけに不思議そうにしてるけど、何かあった?」

「……え、あっ、尾白くん? な、なんでもあらへんよ?」

 

 その様が奇異に映ったか、真後ろの席より掛かった尾白の声に、麗日が勢い良く首を横に振る。

 半ば反射的に反応(リアクション)した後で、「そ、そう?」と目を白黒させた彼に一瞬迷った彼女は、しかし開きかけた口を噤むことを選んだ。

 

 それは、抱いた違和感の源が何物であるのか、自身の中でも言語化できなかったが故に。

 また確たる理由も無しに『何か変』と糾弾するような真似も避けたいと考えたが為で。

 

 

「(……職場体験で何かあったんやろか? もしそうやったら……)」

 

 心中で呟きつつ、麗日が視線を向けた先は件の二人の席から更に奥。

 何やら考え事をしているらしいモサモサの緑髪を視界に映し、彼女は小さく頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

「───空翔さんと御魂さんの様子?」

「……特には……いつも通りに思えたが?」

 

「そっかあ……そうやんね……」

 

 

 そうして麗日が相談に選んだのは下校の途上。

 相手は普段から付き合いがあり、また事情を知る可能性も高いと判断した二人の男子だった。

 

 唐突な、それでいて常の彼女には珍しく歯切れの悪い様子に疑問符を浮かべる緑谷に飯田。

 返答にも頷きはしつつ一段と思い悩む姿を見せる麗日に、彼らは一度視線を合わせ尋ね返した。

 

「……僕らにはいつも通りに見えても、麗日さんは何か感じたってことだよね?」

「うむ、何かしら疑問があるのであれば、可能な限り付き合おう」

「ん……う、上手くは言えへんねやけど……」

 

 気遣い溢れる二人の問い返しに、麗日が若干気恥ずかしげに目を逸らす。

 僅かな逡巡を経て正面に向き直った彼女は、瞳に真剣な光を宿して口を開いた。

 

 

「その……()()()()()()()と思ったんが職場体験明けからなんよ。だからデクくんや飯田くんなら何か思い当たる事があったりせえへんかなって……」

 

「「……!」」

 

 麗日の言葉に二人が再び、今度は強張った表情で視線を交わし合う。

 その脳裏に高速で過るのは、ほんの一週間程前に辛くも潜り抜けた『死線』の経験であった。

 

 緑谷に飯田。ここに轟を加えれば、彼の人物と共に件の『事件』に居合わせた面子が揃う。

 麗日が言外に含ませた懸念と意図を合わせて理解し、二人が息を呑む音が重なった。

 

 

 『ヒーロー殺し ステイン』との邂逅と戦闘。

 

 未だ経験浅い学生の身に浴びせられた、悍ましいまでの殺気と狂気は二人の記憶でも色褪せず。

 特に"個性"相性により実質無傷に終わったとはいえ、腹部を切り裂く斬撃を───並の身体なら致死となるだろう刃を───浴びていた彼女が受けた恐怖は如何ほどであったか。

 

 ───それが彼女の心身に、自分達の気付かない所で影を落としていたのだとしたら?

 

 何かと問われたなら、これ以上は無いとまで言って相違ないだろう『心当たり』。

 互いに目の前の友人が同じ結論に至ったと瞬時に悟った二人は、されど一度首を横に振る。

 

 

「…………もしかしたら、だけど……ヒーロー殺しに言われた言葉が響いてる、のかも」

「っ、ヒーロー殺しに?」

 

「うむ……少々、力不足を揶揄するような暴言をぶつけられていたな。その時は特に気にしているようには見えなかったんだが……」

「……そう、なんや」

 

 強張った顔で話す緑谷に、嘘ではない話をしつつも後ろめたさを滲ませる飯田。

 麗日からはやや怪訝な目が向けられるも、二人は隠すべき部分に触れないよう話を選ぶ。

 

 何故となれば、あの日あの場に居合わせた彼ら四人が『ヒーロー殺し』と直接対峙し、"個性"を用いて戦闘行為に及んだ事実は、警察署長との話し合いの末に隠蔽されているからだ。

 一般に流出された情報は、あくまで彼の者が最後の気力にて世に吠え猛った宣告と立ち姿のみ。

 その暴威に直接触れたことに関しては、たとえ級友であっても口外するわけにはいかず。

 

「……うむ! 話してくれてありがとう、麗日くん! 推測でしかないとはいえ、そうだと思っていれば気に掛けることも出来るだろう……友として!」

「そうだね、あの時の悔しさは皆同じ……乗り越えていくんだ。ヒーローになる為に」

「…………うん、そうやね!」

 

 そうして不自然にならないよう気を張りながら話を切り上げた二人に、麗日は強く頷きを返す。

 疑問は残れどそれはそれ。追及してはならぬと何となく察してくれたらしい彼女に、二人もまた内心で息を吐くのだった。

 

 

 

 その後、三人の中では件の級友に対し、なるべく押し付けにならない範囲で心配りをしていく、という結論が出されることとなる。

 またとある筋(B組)からもたらされた情報によって、以後数日間の彼らが主に筆記試験に関する対策に注力したこともあり───麗日が再び()()を意識したのは、()()()の機会が訪れたときであった。

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「───囮役はボクに任せておくれ」

 

 

「どのみち正面戦闘で打倒を目指すのは分が悪すぎる。どうにか潜り抜けて脱出するのが想定解、と見ていいと思うんだ。とりわけボク達の場合はね」

 

「なあにボクなら大丈夫だよ。何よりボクの"個性"的にもこれが最適な役回りだ」

 

「防御や回避困難な"個性"の対処こそ、ボクの持ち味……組み合わせからしても()()()()()()さ」

 

 

「それじゃ、頑張っていこうか───麗日さん」

 

 

 ───学期末テスト、演習試験。

 指定されたクラスメイトとの二人一組で、現役トップ級プロヒーローたる教師との戦闘……即ち想定は格上ヴィランに対する不如意の遭遇戦。

 

 戦って打倒するか、あるいは指定の位置まで逃げ延びるか。

 生徒側に与えられた択を吟味すべく、掛けようとした麗日の声に応えたのは矢継ぎ早な見解で。

 

 

 組の相方は空翔、試験官となる教師は『スペースヒーロー 13号』。

 強力無比な"個性"を持つ彼のヒーローに対し取り得る策は、攪乱隠密を軸とした逃走の一手。

 

 言い渡されたその結論自体には、麗日をして否は無く。

 試験官(13号先生)が背中に構えるゴール───脱出ゲートへと辿り着く隙を伺いながら、彼女は()()を目にする形となっていた。

 

 

「───空翔さん!? 僕の『ブラックホール』にそうもギリギリの接近を繰り返されては手足がもげかねませんよ!? 真剣に試験に挑む姿勢は認めますが、持つべき恐れは持ってください!」

「おや? 先生方の事はヴィランそのものと考えるのではなかったのですか? 13号先生!!」

 

 

 万物を吸い込みチリに変える穴を両手から生み出す"個性"を相手に。

 半霊体と飛行能力を駆使して、()()()()()()()()()()()吶喊を繰り返す級友の姿を。

 

 

「ボクの"個性"なら手足の二、三本削れても何の問題も無い! 先生方ならご存じでしょう!!」

「確かに君ならそうですが……ヒーローの戦い方として安易に認めるわけにはいきませんよ!」

 

「ではお聞きしますが! 己の四肢や時には命を擲って他者の為に戦うヒーロー達! 彼らに対し与えるべきは批判の声のみだと言われるのですか!?」

「っ、……それとこれとは……ッ!?」

 

 

「(…………なんか、ちょっと前までのデクくんみたいな……イヤでも、あれは……)」

 

 見方によっては、ある意味で見慣れてしまった自己犠牲を問わずに目的に向かう姿。

 されど何処かに。口角の上げられた横顔に、麗日は言葉にならない引っ掛かりを覚えて。

 

 

「……恐れない。決して恐れませんよ、ボクは…………ボクだから!」

「空翔さん……!?」

 

 

「(……なんで、やろ? どこからどうみても、不敵に笑っとる顔やのに───)」

 

 

 

 

 

 

「(()()()()ように、見えた)」

 

 





 誰かの『笑顔』が大好きな彼女、だからこそ。



 対ステイン戦を他クラスメイトがどこまで知ってるのか書いてて分からなくなっていました。
 麗日さんが電話で「安静に」と言ってるので緑谷くんが入院した事は知ってるっぽいのですが。

 その後の教室のシーンで「エンデヴァーに救けられた」という台詞もあるので、USJ時のような不如意の遭遇から抵抗→負傷というイメージでしょうかね。


 まだ視点の軸に抜擢されていないA組面子も残り少なくなってきました。
 このまま全員いけるかなー、どうかなー。

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