She is here.   作:非単一三角形

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 台詞は考え易いのに中心に据えようとすると途端に難しくなる(n回振りn度目)。
 筆が乗らない逃避で過去作に閑話書いたら今作のお気に入りがめっさ増えました。わぁい。



C2-10 透かして溶かして

 

 

「おはよう、今回の期末テストだが……残念ながら赤点が出た。したがって……」

 

 

 

「―――林間合宿は全員行きます」

 

「「「どんでんがえしだあ!」」」

 

 

 言葉は淡々と、しかし告げる表情は洒落っ気に。

 もたらされた報せに噴出した叫びが、静まり返っていた教室を響き揺らす。

 

 上げられた快哉の主は、来るべき筈だった無慈悲な宣告に先だって肩を落としていた者達。

 試験結果が赤点なら校舎に残って補習地獄───前もって与えられていた報に矛盾する、されど赤点確実だろう自分達には朗報であるソレに、故も分からぬまま声を上げた様がコレであった。

 

 

「筆記の方はゼロ。実技で切島・上鳴・芦戸・砂藤、あと瀬呂が赤点だ」

 

「行っていいんスか俺らあ!!」

「確かにクリアしたら合格とは言ってなかったもんな……」

 

 波乱の期末試験から明けて翌日。

 涙ぐみ喜びを露わにする彼らに、予想外の恩情に少なからず混乱する他の面々に担任教師相澤は常の調子を崩さぬままにその由を語っていく。

 

 試験の目的、教師側が評価の対象として見ていたモノ。

 続いて合宿の目的、対象、そして今回の結果に応じ確保された補習予定。

 

 

「おまえらには別途に補習時間を設けてる。ぶっちゃけ学校に残っての補習よりキツイからな」

「「「───!!」」」

 

 喜色から再び一転、想像できてしまった地獄に顔を蒼白に変えて固まる赤点面子。

 そんな彼らへの無感動な一瞥を最後に、説明は締め括られるのであった。

 

 

 

 

「───まぁ何はともあれ、全員で行けて良かったね」

 

 若干五名が僅か数分の内に天と地の心地を往復したHR(ホームルーム)を終えて放課後。

 諸々呑み込んだ上で切り出された尾白の一言が、後に続いた話題の皮切りとなって。

 

「一週間の強化合宿か!」

「けっこうな大荷物になるね」

「水着とか持ってねーや。色々買わねえとなあ」

「暗視ゴーグル」

「キミそれを何に使う気……いや、突っ込んだら負けなのかなコレは」

 

 先の宣告に意気を落としていた者達も交え、彼らは来る行事への期待に花を開かせる。

 その流れが自然と不足品の購入へと傾いたところで、葉隠の口から一つの提案が挙げられた。

 

 

「あ、じゃあさ! 明日休みだしテスト明けだし……ってことでA組みんなで買い物行こうよ!」

「おお良い!! 何気にそういうの初じゃね!?」

 

「おい爆豪おまえも来い!」

「行ってたまるかかったりィ」

 

「轟くんも行かない?」

「休日は見舞いだ」

 

「ノリが悪いよ空気を読めやKY男共ォ!!」

 

 

「あ、ゴメンよ。ボクも右に同じ……咲鳥ちゃん?」

『ピィ、ピィ』

「……ひょっとしてだけど、こっち優先してって言ってたり?」

 

「……よく分かったね、芦戸さん。そのまさか、なんだけど……参ったな」

『ピーィ』

 

 男子二人から早々に不参加が伝えられる一方で、轟と同様の理由で辞退しようとしていた空翔を引き留めたのは、まさしく彼女に見舞いされる側に当たる者。

 幼馴染の彼女でなくとも容易に察せられた小鳥の声に、念の為の確認に返った頷きに、ならばと身を乗り出した影が二つ。

 

 

「それじゃ一緒に行こうよ空翔も! 今までこーいう機会無かったしさー!」

「そうそう! この機に一緒にショッピングしておしゃべりしよー!」

『ピッ♪』

 

「…………そう、だね。咲鳥ちゃんまでそう言うなら仕方ないなあ」

「「よっしゃー!」」

 

 苦笑混じりに肩を竦めた空翔に、綺麗に揃った喜びの声を上げ。

 互いに目を───片方は見えないので恐らくという位置に───見合わせて頷いて。

 

 

「(……意外と雑談出来るタイミングが無いんだよね、胡魄ちゃんって)」

「(お昼はお弁当派みたいで、ランチラッシュの食事処(食堂)で顔を合わせる事も無いもんねえ)」

 

「(休み時間なんかに話しかけても、咲鳥ちゃんの話題で大体終わっちゃうし)」

「(なかなか自分の事は話してくんないんだよねー……だけどこういう機会があれば───)」

 

 

 

「「(空翔(胡魄ちゃん)の悩みを聞き出して欲しいっていう麗日(お茶子ちゃん)の頼みも達成できる! 多分!!)」」

 

 

 自他共に認めるコミュ(りょく)強者女子組───葉隠透および芦戸三奈は、つい先日とある級友より受けた不思議な相談を胸に、人知れず拳を握るのであった。

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「───胡魄ちゃんの様子がおかしかった?」

「……そうなんよ。ちゃんとした根拠とかは無くて……勘みたいなものでしかないんやけど」

 

 

 初め、彼女達がその話を振られたのは実技演習直後の事。

 無事に条件を達成、特に怪我無く教室に戻った葉隠に話し掛けたのは、常のうららかさが鳴りを潜めた麗日であった。

 

 曰く、以前から微かに違和感はあり、故を知っていそうな面々には既に尋ねたが、もしかしたらという情報しかなく。

 (有るなら)悩みの深さも推し量れない以上は様子見に留めようと思った直後の、見ない振りは出来ない『豹変』……のように自分には見えたと彼女は語り。

 

 

「最終的に試験はクリアできたけど……()()()()()()()()には相当時間かかるみたいやし」

「削っ!? ……あー、それで教室に戻ってきてないんだね、胡魄ちゃん」

 

「それで、えっと……こういうんを聞き出すんは透ちゃんか三奈ちゃん辺りが上手そうやなって、思ったと、いいますか……」

「なるほど! 任せて!」

 

「えっ……ほ、本当にええん? 自分で言うてて結構無茶なお願いやと思ってたんやけど?」

「大丈ー夫! こう見えてもお悩み相談は大得意なのさ! こう見えてもね!」

 

「…………あ、コレ突っ込み待ちか!? イヤ見えへんて!」

 

 そんな頼みに葉隠が返したのは、否の無い二つ返事による承諾。

 声に笑みを乗せ両の手袋で己の顔を指差す自分に、やや遅れて反応(リアクション)をとる麗日へ、葉隠はまた朗らかに笑いながら答えて。

 

「まあ冗談はともかく……仲間(クラスメイト)が悩みを抱えてるなら、力になるのがヒーローってもんでしょ! お茶子ちゃんだってそう思ったから私に話してくれたんでしょ?」

「う、うん、まあ……」

 

「それに、こーいう話で頼りにしてくれたのだって嬉しいもん。友達に頼られると張り切っちゃうタイプだよ、私は!」

「……そっかぁ」

 

 むん、と握り拳を作る手袋を見た麗日が、ホッとしたように口元を緩ませる。

 葉隠もまた相手の目に映る部分で是を示し───その途中、ふと浮かんだ冗句を口に滑らせた。

 

 

「それにしても……前々からちょいちょいアヤシイとは思ってたけど、まさかこんなふうに()()()聞かせて貰える日が来るとはなー、感慨深いなー」

「……へ? のろけ?」

 

「え? だって初めは緑谷くんみたいに見えて、でもすぐ違うと思ったって言ったよね。それってつまり、一目で見分けがつくぐらいにいつも彼の事を見てるからー、って話じゃないの?」

「…………ほへぇ!? え、そ、それは、そんな……そういうんじゃ、な……っ!?」

 

「……わお」

「!? な、なんなんその反応!? ちゃうよ!? これはそういうのとちゃうから!?」

 

 何やら一瞬の思考を経て真っ赤に染まった顔を覆い、言葉にならない呟きを漏らし始めた麗日。

 そんな彼女の、いっそ気の毒になる程わかりやすい反応に、驚いたのはむしろ葉隠の方で。

 

 ───あれぇ? ちょっとした冗談のつもりだったのに。

 ───え、コレひょっとして無自覚だったの? 今の今まで?

 ───えぇ、なにそれ…………すっごくおもしrげふんげふん。

 

 顔を覗かせかけた下世話な思考を良心で抑え込み、沸き出した諸々を咳払いに変えて。

 これはつつく加減を誤らないようにせねばと、未だ朱色の頬を抱える麗日に一歩踏み込み───

 

 

 

「───うわあぁーーーん!! 葉隠ー! 麗日ー! 慰めてぇー!!」

 

「おわっ!? ……三奈ちゃん!?」

「え、なになになに!? いったい何が……あっ」

 

 

 そこに涙目で叫びながら現れ、二人に縋りつく勢いで跳び込んできたのは芦戸三奈。

 何事かと疑問を抱いた刹那、今がどういう時間であったかを思い出し、二人は事態を察する。

 

「……三奈ちゃん、駄目やったんかぁ」

「校長がー! 根津校長がひどいよー!! あんなん無理だってぇー!?」

 

「……これで学校で補習地獄確定……」

「ヤダぁーーー!!?」

 

 合宿を人一倍楽しみにしていただけに、試験を突破できなかった嘆きもまた人一倍深く。

 話の続きは放ったまま、酸の涙を流す彼女を二人掛かりで宥めることに終始したのであった。

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「───ってな感じでやってきました! 県内最多店舗数を誇る、ナウでヤングな最先端! 『木椰区ショッピングモール』!」

 

 

「…………今なんかすっごい話が飛んだ気がする」

「葉隠さん?」

 

 試験結果が伝えられた日の翌日、盛況なショッピングモールに集まったのは、爆豪と轟を除いた1年A組生徒18名……と1羽(?)。

 ずらりと並んだその顔ぶれに、すれ違う人々が時折足を止め、目を瞠る姿が其処此処に有って。

 

 

「……お!? アレ雄英生じゃん!? 1年!?」

「体育祭ウェーイ!!」

 

「うおお、まだ覚えてる人いるんだぁ……!」

 

 とりわけ陽気な一団から掛けられた声に、麗日が驚きの声を漏らすがそれもそのはず。

 外から見れば皆が皆、つい一ヶ月ほど前に全国放送の場で鎬を削り合った面々であるが故に。

 

 

「とりあえずウチ大きめのキャリーバッグ買わなきゃ」

「あら、では一緒に回りましょうか」

 

「俺アウトドア系の靴ねえから買いてえんだけど」 

「靴は履きなれたものとしおりに書いて…………あ いや……しかし成程用途に合ったものを選ぶべきなのか……!?」

 

「ピッキング用品と小型ドリルってどこ売ってんだ?」

「……どうも想起される用途に不埒な気配を感じるなあ」

『ピィ……』

 

 元々の混雑具合に加えて、個々人の目的にバラツキが多く固まって行動する理由が少ない。

 そう判断したことで自然と、目的が似通った者同士で数人ずつのグループを作る流れとなり。

 

 

「ねえ、空翔はどこ行くのー?」

「え? えーと……元々付き合いで来たようなものだし、特に何を買うとも決めてなくて……」

 

「じゃあ私達と一緒にアウトドア用の靴見に行こう! 良いよね?」

「あ、うん、良いけど……?」

 

「「よし決定!」」

 

 そんな中、やや傍観気味だった空翔を挟むように迫ったのは葉隠と芦戸。

 戸惑うその口から了承が取れた瞬間、二人は息を合わせて彼女を該当グループへと連行。

 先に居た男子達が目を丸くする中、上機嫌な二人に牽引される形で一行は動き出すのであった。

 

 

「……なんかゴリ押しされてたけど良いのか、空翔?」

「まあ、ボクは別に? 巻き込んじゃったみたいで悪いね、上鳴くん」

 

 

 

 

 

 

「───それで? いったいボクに何の用があるんだい、葉隠さんに芦戸さん?」

「……ありゃ、分かってた?」

 

「そりゃあれだけ目力強く引っ張って来られたら流石にね」

「ムム……ならば最早小細工は無用! 胡魄ちゃんに質問だよ!」

 

 

 

「今、悩んでる事とか、あったりしない?」

「…………確かに直球、な上に随分唐突だね。なんでまた?」

 

「最近の空翔が妙に焦ってるというか……()()()()()とのタレコミがありまして」

「タレコミて。……でも、そっか」

 

「お? 自分でも心当たりある感じ?」

「…………そう、だね。逆にボクから聞いても良いかな?」

 

 

 

「ボクらしさ……二人から見たボクの印象って、どんな感じなのかな?」

 

 

 

「ん-と……ちょっとお堅いカッコイイ系女子?」

「オンナノコってよりは、アネさん! みたいな? 背も高めだし」

 

「初めの頃は、よく爆豪くんとぶつかってて近寄りにくかったりもあったけど……あ、でも悪口は許さないーって感じの怒り方だったから怖いとかは無かったよ!」

「いつも一歩下がって気を回してくれてるみたいなトコあるよね! 沸点低いイメージだったのも実は御魂の事だけだったみたいだし」

 

「後は……そうだ、USJの時……爆豪くんと一緒に飛び出した緑谷くんを追いかけて行ってたの、すごいなと思ってたよ、ずっと。……私達、あのとき震えてるばっかで動けなかったから……」

「え……な、ナニソレそんな事あったの!? あ、そっか、だからあの時……!」

 

 

「うん、だから私の印象としては……一番近くの、追いかけなきゃいけないヒーロー、かな!」

 

 

 

 

「…………そっか」

 

「……ありがとう、二人とも」

 

「それなら……良かった」

 

 

 

 

 

 

「ボクは、()()()()()()()()()

 

 





 原作69話、靴の試着をしている芦戸・葉隠・上鳴・飯田の扉絵から着想。

 オリキャラさんが期末試験におけるポジション青山の大事な役割()を放棄しちゃってたので、葉隠さんに急遽代役をお願いしました。やはりデク茶だ、デク茶は全てを解決する。
 とはいえ前作で散々描写したので今作ではシンプルに抑える予定です。悪しからず。


 そのせいで普段一話四千文字弱に抑えてるのにショッピングに入る前に三千文字オーバーしててちょっぴり頭抱えたのは余談なのです。

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