She is here.   作:非単一三角形

26 / 35

 遂にビジュアル(?)初公開。



C2-11 後顧抹り消す眼

 

 

「───こちらの声は……映像は、届いているな?」

 

 雄英校舎内、防音を備えた一室に、あるいは遠く離れた院内に。

 尋ねる相手を慮り囁くような問い掛けが、機材を通し零れ落ちた。

 

 

「木椰区ショッピングモールに出没した(ヴィラン)連合首魁、死柄木弔……警察の見解は互いに不如意の遭遇だったとのことだが、雄英(うち)をつけ狙い活動している(ヴィラン)組織の存在について無視はできん」

 

「それらを鑑みて、先日周知した合宿開催地を急遽キャンセル、当日まで場所を明かさない運びとなったのは知っての通りだな」

 

「現時点で想定される不特定多数への情報漏洩……生徒それぞれから保護者に、そこから二次的に情報が広がった範囲について把握不可能であること。……他にも幾らか理由はあるが───」

 

 

 言葉が区切られ、視線が動く。

 伸ばし放題の髪から覗く目が、()()()()()()返る鈍い光に照らされて。

 

 

「……携帯端末一つあれば誰でも位置情報を発信可能なご時世、だからといって学校行事を名目に生徒からその手の機材を取り上げるわけにはいかん。雄英が国立の教育機関を名乗る以上はな」

 

「故に当日、合宿地に着いた生徒諸君から各保護者へと電話等により伝達される、まではこちらも想定内だ。……そもそも保護者から子息子女の居場所を尋ねられれば、学校として答えないという選択が取れるはずもない」

 

「だが……伝達方法という観点から見て、些か()()()()()()()()お前とは別途認識の擦り合わせが必要と判断したんでな。こうして機会を設けさせてもらったわけだが……」

 

 

 開かれたノートパソコン。画面の向こうに映し出された病室。

 伝聞としては耳にしていた通りの、目の当たりにするのは初となる光景を前に。

 

 

 

「…………ここまでに何か疑問点はあるか? 御魂」

 

『いえ……理解、できています。問題……ありません……相澤、先生……』

 

 

 

 雄英ヒーロー科、1年A組の担任を毎年務めてきた彼───相澤消太は、無数の機材と管に囲まれ横たえた身体で首だけを向ける少女の姿に、己の喉から漏れ出んとする嘆息を呑み下すのだった。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 ───ヒーロー科の門戸を叩く生徒とは、その凡そが()()()()()()()子供(ガキ)である。

 

 

 街往くヒーローの華々しい活躍ばかりを目にして育ち、その姿を自身の未来に重ねて。

 あるいは称賛ばかりを受けてきた"個性"を振りかざし、肥大し過ぎた自己認識を持て余して。

 

 とりわけ国内最高峰を冠する雄英高校に、狭き門を越えてきた自負まで上乗せされてやってくる彼らが『問題児』でない方がむしろ稀……というのが、相澤が教師人生で培った持論であった。

 

 

 現に彼が去年担当した二十人は、全員が全員『除籍』という『死』に近い処分を経験している。

 今では無事に復籍を果たし、その強烈な精神外傷(トラウマ)体験によって『地に足つけた』ヒーロー志望の道を歩み直しているわけだが、それほどの荒療治が必要(相澤視点)になる夢見がちな少年少女が如何に世に溢れているかを物語る証左だと言えるだろう。

 

 そんな彼にとって、今年の担当生徒達はさてどうであるか。

 本気で除籍処分の(死を与える)必要を考えた生徒は非常に少ない……と言えば聞こえは良いものの、そこには例年にも増して頭の痛い実態が詰まっていたのだった。

 

 

 実力は確かながら素行に……特に言動に対して大きな問題を持つ者。

 

 資質には光るものを見せつつ、不安定に過ぎる実力に加え土壇場の行動に別の不安を抱える者。

 

 急激な心境の変化でもあったのか、ここにきて先の二人に並ぶ要観察者に躍り出た者。

 

 他に比べれば大きな問題ではないが、そのうち本気で性犯罪に繋がる行動を取るんじゃないかと折に触れて一抹の不安が過る性欲の権化…………よく考えたらコイツ一番問題じゃないか?

 

 

『先生方の……懸念は……分かり、ます。私自身は……ここに……居ながらにして……様々情報を得られて……しまいます、から……』

「……ああ」

 

 そして方向性は全く異なるが、扱いの難しさという意味では上位に来てしまう生徒が、一人。

 液晶の彼方で目を伏せ、青白い顔でたどたどしく応える少女、御魂咲鳥の姿を今一度見つめて、相澤は情報としては聞き及んでいた彼女の容態を脳裏に思い起こす。

 

 

 ───事故の際に負った半身不随に加え、高温の煙を吸ったことによる呼吸器系への後遺症……

 炎熱と気体化した化学物質に侵された肺は、再生の可能性こそあるそうだが……現状では機械に繋がれていなければ呼吸すら儘ならない、か。

 

 ───それでも入試および入学当時は今よりマシな容態だったと聞いたが……容態の急変により緊急手術を受けた日から二ヶ月少々となれば無理もない。

 

 ───身体的、精神的衝撃により色素の抜けた白髪……いや、()()()()()()()、だったな。

 

 

『……今年、だけで……私の為に、山ほど……例外を作ることに……なってます、よね。ご迷惑、おかけして……申し訳、ありません』

「……例に無い対応を重ねているのは事実だが、お前が負い目を抱く必要は無い。お前は敷かれた合格基準を満たしただけ、入学に値すると判断したのは雄英(こちら)だ」

 

 頭を下げる、という行為の代わりのように瞼を動かす御魂へと、相澤は小さく首を振る。

 謝意自体を「非合理だ」と言い捨てる彼に、込められた意を察した少女は微かに口端を上げた。

 

 

『"個性"を……ピィちゃんを通して、見聞きしたものは……なるべく胸の裡に、留めて……ああ、でも……私達の、保護者代わりをしてくれている方、には……』

「ああ、分かっている。……代わってくれるか?」

 

 頷いた相澤の言葉を受け、少女の視線が画面の外へと向けられた。

 ()()()()()()()との目線によるやり取りの後、液晶に映る景色は捻るように動かされる。

 

 機材を動かす腕と白衣。その背後でゆるりと流れていく病室の壁。

 時間にして数秒、切り替えられた画面中央に構えるのは、一人の老人。

 

 

 

『───初めまして。御魂咲鳥の主治医兼保護者を務めております、蛇腔病院理事長の殻木です」

 

 

 

 蓄えられた白鬚に、泰然とした微笑み。

 眼鏡の奥に光る深い知識を宿した瞳と、画面越しに視線を合わせて。

 

 

「…………担任の相澤です。こちらこそ初めまして」

 

 

 ───刹那。

 ほんの一瞬、目の奥で火花が散るような幻覚を感じながら。

 

 それでも相澤は教師として───社会人として初対面の挨拶を淀みなく口にするのだった。

 

 

 

 

 

 

『───ホ、ホッ……まさかあの雄英で教師を務めるトップヒーローと、このような形で話をする機会に恵まれるとは、いやはや長生きはするものですなあ』

「……はぁ」

 

『抹消ヒーロー イレイザーヘッド。存じておりますぞ? メディアの報道で見掛ける事はとんとありませんが、このトシになるとそういったシブイヒーローの方がむしろ好みでしてなあ」

「…………」

 

『特に先生の"個性"『抹消』実に興味深い! そうそう、こう見えてワシは"個性"研究の分野でも一家言持っておりましての? 機会があれば是非一度ワシの研究に───」

「すみません、折角のお話ですが、またの機会にお願いできますか」

 

 好々爺然とした態度、かつ研究者特有の圧で迫る殻木に、少なからず辟易を宿した表情の相澤が機器に向けて手を伸ばすことで制止を掛ける。

 画面を覆っただろう掌に「むう」と口を噤んだ老人は、しかし上機嫌のまま彼を見返していた。

 

 

「……隣でお聞きになっていたかとは思いますが、本題は情報の漏洩に対する認識についてです。(ヴィラン)の動きが活発化している昨今、対応には保護者の方のご理解が必要ですので……」

『ホホッ、分かっておりますわい。有事の備えとしてワシと、加えて個人的に信用できる者までは彼女から知り得る情報を共有させてもらう腹積もりですが、その範囲に留めるとしましょうぞ」

 

「……はい、それで構いません。ご協力いただき感謝いたします」

「しかしまあ……このタイミングで突然の開催地変更となると実は相当苦労されたのでは?」

 

「…………ええ、まあ」

『教師というのも大変ですのお……まったく(ヴィラン)も面倒なことをしてくれよるわい』

 

 憤懣遣る方無い……とばかりの仕草は同情故か。

 殻木の言葉に、急な変更が元で圧し掛かった事務仕事を頭の片隅に思い出してしまった相澤が、数刻前とは別方向の頭痛を抱えて目元を揉み解した。

 

 

『ム? ……ふむ、時に先生。先生から見て、この娘……は評価は難しいじゃろうが、もう一人の娘……空翔胡魄についてはどうじゃろうか? 彼女はヒーローに向いた素質の持ち主かの?』

「…………そうですね」

 

 不意に視線を画面外へと向けた殻木が小さく頷き、やや唐突な質問を口にする。

 その様から問いの主が誰なのかを察した相澤は、目元に呆れを滲ませながら暫し思考に沈んだ。

 

 

 ───空翔か……何だかんだで飯田と並んであいつらを纏めてくれる貴重な人材、だったが……つい先日、暴走気味なところを見せてくれたばかりだからな。

 まァ、鉄火場で躊躇いなく動けるのは一概に悪いとは言えん。似た傾向のある緑谷共々どこかでブレーキを掛けられるように指導する必要はあるが───

 

 

 思考の途中、ちらりと向けた視界に面白いモノを見るような老人の瞳が入り込む。

 何やら期待を抱いているらしい様子に内心で意外なものを感じながらも、生徒の保護者に対する適切な言葉を探した相澤は、やがて遠く病室に居る二人へと口を開いた。

 

 

「彼女もまた……ヒーローへの道を弛まず邁進する有望な生徒です」

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「───どうやら……バスに乗って移動する、みたいです。今、校舎を……出発しました」

 

 

 時は過ぎて夏休み。林間合宿当日の朝。

 ()()()()()()()()()()()()()()少女は静かに、彼方の道行を語り続ける。

 

 

「……あれ? なんだか、随分……回り道、を……あ、もう一台の……B組のバスが、離れ……」

 

「これは……もしかして、あの山に向かって、る……? でもこの方向、何も……」

 

「……やっぱり、パーキングエリアじゃない、よね? あ、なんかすごい格好……ヒーロー?」

 

 

「…………山の麓に宿泊施設……『プッシーキャッツ』の所有地、だそうです」

「ウム、上出来じゃよ」

 

 目を閉じ、意識を集中させる少女の傍らで、老人もまた隠した口元で静かに()()

 口端に刻んだ皺に溢れる感情を滲ませ、今にも呵々大笑せんとばかりに。

 

 

「雄英校舎からバスで一時間。山岳地帯、私有地。そこまで分かれば特定には苦労せんわい」

「…………あの、殻木先生……? くれぐれも……」

 

「ホホッ! 安心せい。あの担任教師殿とも話した通り、伝える相手は選ぶとも」

「……はい」

 

「そもそもが何事も無く終われば無用な備えじゃ。お前さんは気にせず合宿を楽しむんじゃな」

「そう、ですね……何事もなければ……」

 

 

「…………ふむ」

 

 微かに、しかし初めて声に疑念を籠らせた少女を、笑みを薄めた瞳で一瞥し。

 しかしすぐさまニヤリと口を歪ませた老人は、首を傾げる彼女に軽い足取りで背を向ける。

 

 

「さてさて……宣言した通り、ワシが()()()()()()()に連絡しておくとす───」

「───え゛っ?」

 

 

「……どしたんじゃ?」

 

 病室を出る寸前に届いた少女にしては大きな疑問の声に、老人が思わずという風情で振り返る。

 向けたその視界に映ったのは、目を見開く少女の困惑と呆然の狭間にあるような表情。

 

 

「は、早ければ12時半……辿り着けなければって、どういう……へぁっ!?」

 

「え、あの、待っ……そんな無理矢理森に……ここから自分の足で三時間……えっ……?」

 

「そんな、山道……というか、森を突っ切る準備なんて、誰も……」

 

 

「……まさか事前通告無しに生徒を森に突っ込ませたのか? いったい何を考えて───」

 

「さらに妨害有り!?」

「妨害!? いやいやこの季節に備え無しで森を歩かせるだけでも大概じゃぞ!?」

 

 

 その後も少女の口から漏れ聞こえてくる、学校行事という言葉を調べ直したくなる所業の数々。

 事ここに至って、ヒーロー科の強化合宿なるものを真に理解した老人は、数刻前の愉悦も忘れて彼方へと遠い目を向けるのであった。

 

 

「み……みんな、がんばれ……」

「……ヒーローも大変じゃのお……」

 





 原作における相澤先生の名シーン、病室とのビデオ通話。なお
 色々と捏造含んでますが、いち教育機関である以上は雁字搦めも致し方無しですよね。

 ところでタイミング的に、この時点で原作相澤先生にも『性欲の権化』認識されてる峰田氏よ。
 警戒した通りの犯罪行為(覗き)にも吶喊してるし、一番マズイのやっぱりコイツなのでは。


 それにしてもこのジジイ、ノリノリである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。