前作でも描いたし散々指摘もしたし、サクッとカットしようかなと思ってました。
……でもなんか勝手に動き出しちゃったんだ。仕方ないね。
「───まァまァ……飯とかはね……ぶっちゃけどうでもいいんスよ」
壁を見上げ、仁王の如く立ち尽くす男が一人。
雑念が混じる事を『濁る』と呼ぶなら、一念のみを宿したその瞳は正に『澄み切って』いた。
「求められてんのってそこじゃないんスよ。その辺わかってるんスよオイラぁ……」
場所は温泉、背には湯船に浸かる同性のクラスメイト達。
思い思いに寛ぐ彼らから多少なり怪訝な目を向けられるも、その立ち姿に迷いは無く。
「求められてるのはこの壁の向こうなんスよ……」
「一人で何言ってるの峰田くん……」
誰に聞かせているやら不明な彼の呟きに、緑谷から呆れ混じりの突っ込みが飛ぶ。
しかし気にする節も無く動き出した峰田は、屹立する仕切り板にペタリと耳を押し付けた。
『───気持ちいいねえ』
『温泉あるなんてサイコーだわ』
「「「…………!!」」」
壁向こうの様子など知る由も無く、仕切りの先から漏れ出づるは華やかな囁き。
───そう厚くはない壁の向こう、同級生女子一同入浴中。
そんな事実を理解してしまった高校生男子達に平静を保てとは土台無理な注文であるわけで。
途端、誰から合図するでもなく息を潜めてしまうが青少年。
壁を越えて彼らの耳へと届くは畢竟、女性特有の高い声と水音。
『───ねえ、空翔? あんた、前に言ってたよね? その身体、本当は実体の無い物質を人型に固めてるに近いんだって』
『え、うん、言ったけど……どうしたんだい、耳郎さん? 何だか目が───』
『それってさ、例えば…………
『あ、えっと、その……可能不可能で言えば…………可能、だね』
『……成程。それなら空翔? ウチの目を見て答えて欲しいんだけどさ───』
『今、
『…………………………いや?』
『沈黙なっが』
『声ちっさ』
『焦点合ってへんよ』
『分かりやすいのね』
『待って。耳郎さん待って弁解を、弁解を聞いて下さいお願いします』
『…………何?』
『えっと、何というか……立ち姿の問題、なんだよ』
『……立ち姿?』
『その、ほら……例のコスチュームを着た時に……このぐらいのサイズが無いとシルエットとして映えないって咲鳥ちゃんが言うもんだから、それで……ね?』
『…………御魂?』
『ピ、ピィ……』
『……だ、だから、そのイメージに合わせるべく、ちょっと……ほんーのちょっとだけ……うん』
『ピィ、ピィッ』
『…………そう。そっか……』
『……耳郎、さん?』
『…………御魂を引き合いに出せば何でも納得すると思うなぁッ!!』
『わぷっ!? ちょ、待っ、これに関してはボクも正直どうかなとは思っ、ゴボゴボ……!?』
『うわぁ、耳郎ご乱心』
『殿中、殿中でござるよー』
『……ここは殿中ではなく温泉なのですが……』
『そゆことじゃないんよ、ヤオモモ』
「───ホラ……いるんスよ……
「……うん、まあ、確かに盛り上がってんなぁ、女湯」
「……峰田くん、やめたまえ! 君がしている事は己も女性陣も貶める恥ずべき行為だ!」
「やかましいんスよ……」
バシャバシャという水音に時折混じる、キャットファイトを思わせる嬌声。
その度に血走った目で、果ては同化するのではというほど仕切り板に身体を貼り付ける峰田に、見兼ねた飯田から制止の声が飛ぶ。
しかし当の峰田から返ったのは、一種の『境地』に至ったかのような静かな一言。
異様な迫力の込められたその返答に、何故か怯まされた一同から沈黙が流れて、一拍。
「───壁とは越える為にある!! "Plus Ultra"!!」
「速っ!! 校訓を穢すんじゃないよ!!」
静から、動へ。
己の"個性"、頭から毟った『もぎもぎ』を張り付け、目にも止まらぬ速さで壁を登り出す峰田。
『夢』に向かって突き進む男の背中に躊躇いなど無く。呵責など無く。
瞬く間に手の届かぬ距離まで遠ざかった彼に、口々に掛けられる友人達の声も耳に遠く。
滴り落ちる
「ヒーロー以前にヒトのあれこれから学び直せ」
「くそガキィイイィイ!!?」
届くか否かというところで壁の内側より現れた少年───宿場の管理者『プッシーキャッツ』がメンバーの一人『マンダレイ』の従甥、出水洸太の手によって墜落、敢え無く
未就学児の正論過ぎる諫言に逆ギレをかます
『やっぱり峰田ちゃんサイテーね』
『相変わらず己の欲に忠実というか……なんかもうすごいな彼は』
『ありがと洸太くーん!』
当然ながら、
欲望丸出しの叫びに戸惑いと嫌悪を露わにしていた彼女達が、不届き者を撃退してくれた壁上の小さな騎士へと手を振り口々に感謝を示す。
男湯側の顛末に目を向けていた少年もまた、自身を呼ぶ声に気付いて振り返り───
「わっ……、あ……」
『『『あっ』』』
されど
異常に気付いた緑谷が滑り込むようにキャッチするも、少年の身体に力は無く。
落下中に失神してしまった彼が部屋に担ぎ込まれていく様にて一連の騒動は幕となるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「―――それじゃ、聞かせてもらおうか?」
腕を組み、明王の如く見下ろす女が一人。
煩悩を力尽くで晴らす事を『救済』と呼ぶなら、それは正に『慈愛』の微笑みであった。
「確かに合宿のしおりを見る限り、個人の荷物について細かな規定は無かったよ。その辺りは基本生徒の自主性に任せるってことなんだろうね」
「それぞれが合宿に必要だと思う物を常識の範囲内で。"個性"次第で生活必需品にも色々あるし、通り一遍の規定はそもそも不可能って事情もあるのかな?」
「だからまあ……"個性"等々、何らかの理由で
言葉を切り、頬に刻んだ笑みを一層深くする空翔の前に、静かに正座するは
常ならばそれでも悦に変換しそうな状況に、されど今に限ってその顔色は蒼白に染まり。
「この
『ピィ?』
「…………抜き打ちは反則だろぉがよおぉっ!!?」
様々な形状の金属棒に手持ち式小型ドリル。ついでに鎮座する暗視ゴーグル。
少なくとも林間合宿という行事で必要にはならないだろう品々を並べられた峰田は、しかし尚も生き汚く、
(……確かに皆で買い物行った時そういうの口走ってたけど)
(マジで持って……というか買ってたのかよ、その手のツール)
(それは駄目だろ峰田お前……)
「……ボクだって
「お……」
「結果、就寝時刻までの短い間ではあるけど、部屋の訪問は問題無いと言質を貰ってる。それからキミの荷物から発見した品々を咲鳥ちゃんから聞いて、こうして確認にきたわけだ」
「う……」
「何なら相澤先生同伴で糾弾に来ても良かったんだよ? だけどまあ……疑うだけの実績と物品はあっても未遂なのは確かだからね。
「…………」
(((……うわぁ)))
笑顔の空翔から引き合いに出されたのは、まさしく事実上の
これには流石の性欲魔人も心胆に響くものがあったか、滝のような冷や汗を流して黙り込む。
これまで相当な『やらかし』をも笑い話にしてきた菩薩の如きA組女子一同でも、凡そ五時間に及ぶ強行軍の末に辿り着いた
女性陣の冷たい怒りを体現する微笑に、むしろ傍で見守る男性陣が顔を引きつらせるのだった。
(……それにしてもやっぱり凄いな御魂さんの"個性"は。現に男子部屋に入って峰田くんの荷物を確認してたなんて全く気付かなかったぞ。というかどこから部屋に入ってきてたんだろう? 扉は勿論窓だって開けっぱなしにしていた訳じゃないしここに居た男子13人の誰も出入りする小鳥に気付かなかっただなんてまさか───」
「イヤ声出てる出てる途中から」
「落ち着け緑谷、今そういう空気じゃねえ」
「ほんと唐突にスイッチ入るなお前」
「あはは……まあこれで言うべきことは言ったかな。後の引き締めは頼むよ、男子諸君?」
痛い程の沈黙を破ったのは、溢れる思考をそのまま漏らしたような緑谷の呟き。
一瞬、慌てたように見遣った男子達の視線に、空翔から返ったのは険の取れた苦笑であった。
「……小鳥の目が怖くなるのは疚しいことがあるからだ。これからは胸を張って見返せる生き方をするんだな───って口上を咲鳥ちゃん用に考えてたんだけどなあ。まさかヴィラン相手より先に同級生に送ることになるとはなんというか……」
「あー……その、なんつうか……」
「い、良い口上だと思うぜ、うん!」
「ありがとう。……何よりボク達女性陣が危惧してるのはB組まで被害が広がる可能性さ。ほら、バスに乗る時の顔合わせでもアレな言動してただろう、彼?」
「……!?」
「「「…………」」」
刺した釘の頭を追加で叩き込む一言に、ギクリと震えるはブドウ頭。
垣間見えた反応に「まだ諦めてなかったのかよ」という想いを一致させる男性一同。
「ああ、成程……懸念は重々承知した」
「この合宿中は俺達で峰田を見張ろう」
「……おまえマジでダメだぞ、そろそろ」
不動明王は大日如来の教令輪身とされる。
(出典:Wikipedia)
初めてオリキャラを前面に出して行動させた気がする。なお理由。
タグにあります通り単行本派な作者ですが、某所にてピッキングに及んだ峰田が小説版(?)の公式設定と知って驚愕いたしました。峰田くんマジ峰田くん。
念の為ここらで宣言しておきますが、この方面に関してギャグの範疇を越える展開にする予定は全くございません。特定キャラのアンチヘイト作品にする気は無いのです。ご安心くださいませ。