She is here.   作:非単一三角形

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 コマに入ってる七人の中には見当たらないんですよね。
 初めから中に居てもおかしくなさそうなんだけどなあ。


 あと短編書きました。今作とは無関係です(いつもの)。
 なんだか妙に筆が重いんです、今作。そして詰まる度に増えていく短編。



C2-17 くちなし

 

 

「───捕えた脳無はいずれもこれまでと同様、人間的な反応がなく新たな情報は得られそうにありません」

 

 

 一地域が残骸と化し、『平和の象徴』の真の姿が衆目に晒された日から、一夜。

 様々な媒体より異口同音に語られた報が世間を騒然とさせる傍らで。

 

 

「大元は捕えたものの……死柄木をはじめとした実行犯らは丸々取り逃がした……とびきり甘く採点したとして……痛み分けといったところか」

「馬鹿野郎。平和の象徴と引き換えだぞ」

 

 場所は警察庁、背広にスーツで居並ぶ顔ぶれは官僚組。

 一部では華々しいヒーローと比較し、『(ヴィラン)受け取り係』等と揶揄される組織の上に立ってきた彼らが今、たった一晩で酷く重くなった頭を抱えつつ額を集める姿がそこにあった。

 

 

 これまでの、"絶対に倒れない平和の象徴"はもういない。

 ()()()()()()()()()寄りかかれた主柱は消えてしまった。

 

 彼の人物を持て囃してきた、自身らを含む国民にとっても。

 その威光の下に抑圧されてきたヴィラン達にしても同様に。

 

 

 その意味を誰より───頼るだけを良しとしなかった極一部のヒーローを除き───実感として抱く彼らは、深い自省を込めて額を寄せ合う。

 

 

「我々警察も"(ヴィラン)受け取り係"などと呼ばれている場合じゃあない。改革が必要だ」

 

 重く、響いた一言に、面々から返ったのは同意の頷き。

 硬く冷え切った空気に僅かながらの熱が宿る中、書類を捲る音だけが会議室に溢された。

 

 

「……さて、次は()()()()()()()()諸々の件についてだが───」

 

 

 

「お話中、失礼します」

 

 

 

 不意に、議題の進行を遮った声の主は、会議室の扉前に立っていた警官の一人。

 席に腰を下ろした一同が微かに眉をしかめるも、そも会議自体が緊急のそれであり、また同様に急を要する一報の可能性も十分に考えられるわけで。

 

「……何が起きた?」

「会議室前に、()()()()()()お見えです」

 

「…………分かった。通せ」

 

 果たしてもたらされたのは、ある意味穏当な、またある意味では大いに()()を感じさせる報せ。

 会議の参加者全員が目に宿った疑念の色を隠すことなく、しかし黙考の末に告げられた承諾が、閉ざされていた扉をゆっくりと開かせた。

 

 

 

「……会議の参加には都合が付きそうにないと聞いてたが?」

「ええ、だから手持ちの案件は大急ぎで片付けてきたわ」

 

 

 胡乱な声音の問いかけに泰然と答えながら、会議室に足を踏み入れるは初老の女性。

 共に社会の安寧を守るという職務を背負う同僚でありながら、交わされる視線に温度は乏しく。

 

「……それで? いったい何しに来た……違うな。()()()()()()?」

「あら、この火急の事態に額を合わせに来たとは考えてくれないの?」

 

「そう思うんなら独断の()()()()は程々にして欲しいものだな」

 

 表面だけなら軽口じみた、しかし強い疑心の込もる無数の視線が来訪者を射抜く。

 針の筵と称して遜色ないそれらを、まるで微風の如く受け流す彼女に、また幾人もの警察官僚が隠す素振りもなく眉をひそめていった。

 

 

 目の前の女性が、その下にある組織(公安)が"安寧の維持"を理由にこれまで何をしてきたか。

 その大部分は『前任者』から引き継いだ代物であり、またそちらに比べればある程度の譲歩こそ見せているとはいえ、まるで異なる意思で『公権力』を振るう存在を愉快に思える筈も無く。

 

 

「……必要だった、というのを丸ごと否定はできんし、今はそちらの議論をしている時間も無い。いいから会議に横から首突っ込んでまで何を伝えにきたか、さっさと言ったらどうだ」

「せっかちね。本題より先に前置きが必要になるのだけど」

 

「……はぁ」

 

 言外に、()()をするつもりだと察した男が、わざとらしい溜息でそれに応える。

 それでもこれ以上の問答は無意味と動かした彼の視線に、眼前の相手からは頷きが返り───

 

 

 

「蛇腔病院の地下から、複数"個性"を持たされた改造人間達……通称『脳無』の製造に関わったと思われる機材───の()()が確認されたわ」

 

「っ……」

 

 

 促しに応じた口から淡々と語られた言葉に、理解の及んだ者から息を呑んだ。

 

 

「誤解の無いように言っておくけれど、調査の手を入れた時点で各種端末や機材、製造中だったと思われる個体、生体サンプルらしき物に至るまで全て破棄されていたわよ。……物理的に」

「……物理的?」

 

「ええ、私自身の確認は写真や映像を通してだけど……機器の類はいずれも粉々。生体は保護用と思われる容器から出されて寸刻み。……ただでさえ通気性皆無の地下に加え、この季節。どうやらあっという間に腐敗が進んだようね」

「…………」

 

「……()()()()()()()()わけじゃないわよ。倫理的にも絶対に世に残してはならない技術だった。そこは意見を揃えられると思うのだけど?」

「……ああ、そうかい」

 

 取り繕った様、には見えにくい嫌悪感を滲ませた問い掛けに、幾人かが鈍く同意を示す。

 抱いていた隔意が『重い』情報に薄められ、溜息と共に姿勢を崩す者も少なくはなかった。

 

 言葉から()()()()()()()()()光景と、ある意味で俎上に上がる前に()()()()()()()()()難題。

 喜ぶべきとも嘆くべきともつかず、辟易が会議室の空気に滲む中で、最初に気を立て直した男が再び問いを口にする。

 

 

「……それで? その話が『前置き』だと言うなら『本題』は何だ?」

「そう睨まなくてもいいじゃない。そちらにとっても悪い話ではないわ」

 

 白々と言い切られた台詞に、散らされていた視線が再び刺すような熱を宿して注がれる。

 また何を言い出すのか、と口ほどに物を言うそれらを浴びながら、深く年月の刻まれた鉄面皮を揺るがさぬままに、()()は告げられた。

 

 

 

「この件に()()してくれた『情報提供者』。その身柄は、公安(こちら)の預かりになったわ」

 

 

 

「…………『また』、()()()()()()()()気か?」

 

「……当人の希望よ」

「どうだかな」

 

 

 これまで、公安、という組織に『スカウト』されてきた『子供』達。

 忘れられる筈もない過去の『所業』に向けた非難の槍衾を、現在()の委員長を務める女性はやはり動じる気配すら表に出さず受け止める。

 

 公安と警察。

 無言のまま続けられた平和を願う二組織の睨み合いは、やがて後者が()()()()諦念混じりに息を吐く形で納められた。

 

 

 ───必要なのだ。

 

 人として当たり前の良識を、倫理の一切を置き去りにしてでも事を為せる手段というものは。

 全てを拳一つで解決してきた『ヒーロー(象徴)』には最早頼れないのだから、尚更に。

 

 

「……話は分かった。だが学校側への対応はどうなる? 話も通さず強行できることじゃないぞ」

「そちらも問題ない、と見ているわ。……これも当人からの案なのだけどね」

 

 

 

 

「確かめる手段は、もうどこにもない……だ、そうよ」

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「───とりあえず1年A組、無事にまた集まれて何よりだ」

 

 

 雄英敷地内、校舎から徒歩五分。

 様々な事情を背景に導入された全寮制、それを故に建てられた学生寮。

 その門前に集まった生徒達二十名を前に、担任教師相澤は常と変わらぬ調子で口を開いた。

 

 

「皆 許可降りたんだな」

「私は苦戦したよ……」

「フツーそうだよね……」

「二人はガスで直接被害遭ったもんね」

 

 生徒達が小さく溢すのは、全寮制導入にあたり設けられた家庭訪問での出来事。

 国を揺るがす一夜の事変を理由に、我が子の身を案じる親の説得に苦労した者から、思いのほか簡単に賛同を得られた者まで、様々な体験が口々に語られる。

 

 

「無事集まれたのは先生もよ。会見を見た時はいなくなってしまうのかと思って悲しかったの」

「…………俺もびっくりさ。まァ……いろいろあんだろうよ」

 

 

「……ボクは両親が既に鬼籍に入ってるからね。そういう苦労は無かったけど……」

「っ、空翔、お前は、その……身体に問題は無い、のか?」

 

「はは……もう今更だけど緊急時とはいえとんでもないモノ見せちゃってすまないね、障子くん。あの時は、とにかく周りの状況を確認しないとと思って『眼』の再生に集中したから……ね?」

「…………成程、身体の一部のみを生やす感覚なら俺には理解できる。……あれはそういうことだったのだな」

 

 

「あー……なんか、あの時の空翔、すごいことになってたってらしいね? 伝聞だけど」

「ウチと葉隠はガスで気絶してたからね。……なんでかウチに話すときは皆顔反らすけど」

 

「「「…………」」」

 

 事件の後、(ヴィラン)から受けた負傷や諸事情から顔を出せずにいた数人にとっては、久しぶりとなるクラスメイトとの顔合わせ。

 快気祝い、という気分ではないにせよ、無事に再会が叶った喜びと安堵が、引き締められていた空気が少しばかり弛緩するのだった。

 

 

「はは……あの後暫くは人型に戻れるまで苦労したんだ。……皆、色々やっていたみたいだけど、顔を出せなくてごめんよ?」

 

「あ……」

「……それは」

「その……」

 

 

「……その様子だと、大多数は事を把握していたワケだ」

 

 

 しかし続いたその言葉に、幾人か───とりわけ五名の生徒が気不味げに目を泳がせる。

 他の十五名から、そして相澤から向けられた極寒の視線に、彼らはまた身を縮めさせた。

 

 

「……轟、切島、緑谷、八百万、飯田。この5人はあの晩あの場所へ、爆豪救出に赴いた」

 

「色々棚上げした上で言わせて貰うよ。オールマイトの引退がなけりゃ俺は、爆豪・耳郎・葉隠・空翔……それと御魂以外、全員除籍処分にしてる」

 

 

 その冷徹なる宣言に、ひゅっ、と喉を鳴らした生徒達を一瞥して、相澤は続ける。

 

 オールマイト(平和の象徴)の引退により敵の動きが読めない現状、雄英から人を出すわけにはいかないこと。

 実際に動いた5人は勿論、事実上黙認した他の面々も信頼を裏切ったのは事実。

 故に今後は、正規の手続きを踏んだ正規の活躍にて、信頼回復に努めてもらいたい。

 

 

「───以上! さっ! 中に入るぞ元気に行こう」

 

(((いや待って行けないです……)))

 

 

 言うだけ言って何事も無かったように入寮を促す相澤に、生徒達の心の声が揃う。

 歩き去っていくその背を追うこともできず、一様に顔を俯かせる彼らの姿がそこにあって。

 

 

 

「あー…………この流れで言うのもなんだけど、少し良いかな、皆?」

 

「っ、空翔?」

「……どうしたんだ?」

 

 そんな中で声を上げたのは、ある種『対象外』だった為に立ち直りが早かったらしい約一名。

 やや気鬱な様子で、しかし「言うなら早い方が……うん」と呟き、彼女は一人小さく頷く。

 

 

「……まだ、日取りは決まってない……というか揃って外出できる日にしてもらうつもりだから、学校側とも擦り合わせることになるんだけど───」

 

 

 とある生徒が、()()()()()()()()()()、と受け取ったその顔で。

 ()()()()()を損なわない、前を見据え続ける瞳を見開いて。

 

 ふと、その視線を自身の肩の上───()()()()()()()へと向けながら。

 

 

 

「できれば、皆に出席して欲しいんだ。…………()()()()()()()()()に、さ」

 





 前作は休学。今作は……

 次回から新章開始……の予定なのですが、ちょっと章立てが無計画過ぎたかなぁ今作……



 今話を書いてる途中で、ひょっとしてヒーロー公安委員会と警視庁公安部って別物なのでは? という懸念にぶち当たりました。
 でももう半ばまで書いてましたし、前作でもしれっと同組織別部署な設定で書いちゃってるし、もし反証があってもこの世界線ではそうなんだよ、で通すことにします。


 そして公安と他部署、メチャクチャ仲悪そうだよなー、とこれまた捏ね捏ね。
 地道に証拠を探して捕まえようとしてた汚職ヒーローとか片っ端から暗殺(狙撃)されてたでしょうし、色んな意味で努力を水の泡にしてきた相手と仲良くなれる筈がないよなあと。

 まあ、そもそも

  ナガン:公安スカウト時、推定女子高生
  ホークス:公安スカウト時、推定未就学児

 ……まともな良識が少しでもある大人なら顔をしかめますよね、そりゃ。

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