やあ (´・ω・`)
「───おお緑谷来た!!! おつかれ!!」
「へっ!?」
「いや何喋ってっかわかんなかったけどアツかったぜ、おめー!!」
「よく避けたよーーー」
「一戦目であんなのやられたから俺らも力入っちまったぜ」
初めての戦闘訓練を終え、日も暮れた放課後。
粉砕した腕の処置を経て教室に戻ってきた緑谷を迎えたのは、今日の授業の反省会に盛り上がるクラスメイト達であった。
窮地を戦い抜いた彼を口々に称え、距離を詰める一同に恐縮する緑谷。
そんな中で彼に問いかけたのは、入学以前から何かと縁が出来た一人の女子生徒。
「あれ? デクくん怪我!? 治してもらえへんかったの!?」
「あ、いや、これは僕の体力のアレで……それよりも―――」
先の訓練でもコンビ相手となった彼女、麗日お茶子。
対女性経験の壊滅的不足により未だまともに異性と話せない彼が、それほど吃音に陥ることなく会話を成立───目は合わせられないが───させられる現状唯一の女性である。
―――故に。
「ああ、その事についてなんだけど、ちょっと良いかい、緑谷くん?」
「あ、空翔さん」
「うぇっ!? は、はい、ななな何か御用でしょうか……?」
彼女とは別の女性、且つ、彼が最も屈折した感情を抱える幼馴染と、入学から幾度となく口論を繰り広げていた女傑───空翔胡魄の呼び声に、彼は傍から気の毒に見えるほど震えあがった。
周囲から、そして当の彼女からすら苦笑いを進呈されつつ、彼への話は続けられる。
「ボク、というよりは咲鳥ちゃんがね。今日の授業を見てキミに伝えたいことができたらしくて、急遽ボクにメールを送ってきたんだよ」
「……御魂さんから、僕にメールが?」
『ピィ、ピィ』
「ああ。……文面を直接見せるよ。それが彼女の希望だからね」
言いながら、軽快に操作した携帯電話の画面を緑谷に向けて差し出す空翔。
何となく流れでやり取りを眺めていた麗日も彼女に視線を送り……にこやかに頷かれたことで、彼と共に差し出された画面を覗き込んだ。
そこに開かれていたのは、件名すら省略した一通のメール。
肝心の本文を目に入れようと、二人の視線が画面下部へと動き───
"ヽ(`Д´#)ノ"
「「…………?」」
疑問符が飛んだ。
二人の頭に。それはもう盛大に。
意図を掴めず呆然とする彼らに対し、少しの沈黙を経て空翔は口を開く。
「───『幾らヒーローになりたいからって授業の中で四肢粉砕してまで戦おうとするだなんて、親から貰った自分の身体を何だと思ってるんだー!』……だってさ」
「「……いや書いて
さも当然という口調で耳に入って来た解説(?)に、揃って素っ頓狂な声を上げる緑谷に麗日。
そんな二人に対し、ああ、と一度頷いた空翔は、彼らの疑問(?)に答えるべく言葉を続ける。
「今の咲鳥ちゃんの容態だと、文字を一つ打つのにだって体力を使うんだ。だからなるべく負担を減らせるように、メールの文面では
「止むに止まれぬ事情!!」
「ツッコミづら過ぎる!?」
"(# ゚Д゚) "
「あ、追加だ。……『幾らリカバリーガールが居るからって、砕けた手足が綺麗に治る保証なんかどこにもないんだよ? 折角
「誠に申し訳ありませんでした!!」
「なんやこの……突っ込み所しかないのに……どうしたらええんやコノ感じ……」
耳に痛すぎる正論に思わず土下座の勢いで頭を下げる緑谷と、その傍らで遠い目になる麗日。
そんな様子を斟酌しているのかいないのか、再びの着信音が彼らの耳朶を叩く。
"(`‐ω‐´)"
「『分かってくれたならいい。ヒーローを目指す気持ちは私も同じ。これからも一緒に頑張ろう。それから……できれば私とも友達になってくれたら嬉しいな』」
「御魂さん……」
『ピィ』
「……無粋やとは思うんやけど、ホンマにソレで合ってるん?」
『ピィ♪』
「理解力!?」
「幼馴染だからね」
「ソレで説明付く範囲かなあ!?」
「……さっきからどういう会話してんだ、お前ら……」
あくまでシレッとした態度のまま通訳(?)をこなす空翔に、堪らず声を上げる麗日。
その騒ぎ(?)に関心を惹かれたか、銀髪の彼女が現れた時にはやや遠巻きにしていた面々も、徐々に三人の周囲に集まり始めた。
何故と問えば何の事は無い。
彼らは皆、やや複雑な事情を抱える級友との距離感を、今の今まで掴みかねていたのである。
「…………なんか、普通、だな?」
「うん、今まではなんかこう……どう接して良いか分かんないとこあったけど……」
「なんつーか……そうだよな、御魂も普通にクラスメイトなんだよな」
「……だね! よーし……咲鳥ちゃん……ピィちゃん? とにかく、こっちおいでー!」
『ピィ? ……ピィ♪』
しかして蓋を開ければこの通り。
各々驚きと、そして少なからず笑いを浮かべつつ、彼らは先の焼き直しの如く『小さな友人』の元へ我先にと駆け出していった。
「……というかメールじゃなくて通話にすれば? スピーカーモードなら御魂も喋れるじゃん」
「だな! ……あ、でも病院の中だろ? 通話は流石に問題あるんじゃ……」
「……そうだね、ちょっと病院側の人に聞いてみてくれるかい?」
『ピィ。…………ピィ!』
「お、大丈夫っぽい!」
「……『大声じゃなければ特別に許可する、だって』かな。皆、なるべく静かに頼むよ?」
「鳴き声でもイケんの!?」
『ピィイ♪』
「そして合ってるっぽい!? 以心伝心過ぎる!?」
「まあ、幼馴染だからね」
『ピィ!』
「だからその範疇じゃねえって!?」
「全国の幼馴染のハードル上げるのヤメなー?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『───それじゃスピーカーに切り替えるよ。無理して答えなくて良いからね、咲鳥ちゃん』
「…………ありがとう、みんな」
『おっ、これ御魂の声か!』
『こら、大声出すなって言われたばっかでしょ?』
『こっちの様子はピィちゃん越しに見えてんだよな? 何か不思議な感じだなー』
「……ふふっ」
静謐だった病室に届く、少年少女達の声。
これまで"個性"越しには何度も聞いてきたそれらに、白髪の少女は知れず口元を緩める。
『───うわあ、ピィちゃん、ふわっふわ! ほら、梅雨ちゃんも触ってみなよ!』
『……良いのかしら?』
『ピィ♪』
『こんなに大人しく触られてくれる小鳥なんてどこにも居ないよね。なんかそういう方向の仕事も出来そう。アニマルセラピー的な』
『……でも、こうして触ってるのも御魂に伝わってるんじゃない? 大丈夫なの?』
「気にしないで。身体を触られるのとはまた別の感覚だから」
『───けど、やっぱ一回ぐらい直接会いてえなー。なあ、空翔? 御魂が入院してる病院って、どの辺にあるんだ?』
『んー……結構遠いよ? ここからだと、新幹線で数時間って距離だね』
『遠っ!? マジかよ! ……それじゃ、ちょっと放課後にって訳にはいかねえなあ』
「……何とも気の良いクラスメイト達じゃのう」
「ええ、流石はヒーローを目指して雄英生になる人達、ですよね……ひとり例外は居ましたけど」
「ホホッ、以前聞いた『爆破』の少年かの? 確かに興味深い子じゃったのう」
その傍には、つい先刻少女から通話の許可を請われ、特に迷うことなく応えてみせた老人の姿。
あの問いが為されたその時、丁度この場に『理事長』という座に就く彼が居合わせたことこそ、あれほど迅速に許可が下りた理由であった。
『一応、名前だけ教えてくんね? 行ける機会が無いか調べてみてえからさ』
『いやいや、そういうの個人情報でしょ。簡単に他人に教えちゃダメな奴だって』
『……まあ、此処に居る皆になら良いかな。変に発信したり押し掛けたりなんてしないだろうし』
「……しかしまあ、器用なもんじゃ」
「慣れましたから」
「慣れ、か……まあ、上手いことやっとるようで何よりじゃが、何か困った事があったらいつでも言うんじゃぞ? ワシに出来る事なら何でも協力するからの」
「……既に恩を返しきれないぐらい、お世話になっていると思うんですが」
「ホホッ、若者が遠慮をするでないわい。お前さんの"個性"には、この老体では滅多に見ることの出来ん景色を幾つも聞かせて貰っとるからのう。恩返しなんぞ、それで十分じゃよ」
「……ありがとうございます」
白鬚をたくわえ、好々爺の笑みを浮かべる理事長に、言葉少なながら深く感謝を滲ませる少女。
そんな彼女に向け、老人はふと思い出したとばかりに呟いた。
「……そういえば、ちょいと耳に入れたんじゃが、つい最近突然"個性"を発現したクラスメイトがおるんじゃったな?」
「? はい。今までは身体が耐えきれないから表に出なかったんじゃないか、と」
「それで、身体が破裂しかねん程の"増強系"か」
「……何かおかしな事でも?」
「いやいや……ホホッ」
「……?」
それが先日女性看護師に話した内容であることにはすぐに気付き、しかし少女は首を傾げる。
何か、面白いモノを見付けた、とばかりに笑いを堪える老人を不思議に思いながら。
「……いや、ワシも医師の端くれとして気になる事例じゃと思うてのお。今後はその少年についてある程度注目しておくように頼めるかの?」
「ええ、構いません。元からそのつもりでしたし……あんな状態、とても放っておけませんから」
『マジで!? よっしゃー!』
『……本当に良いの、空翔?』
『この短い付き合いでも、人の良さは十分わかるからね。……場所は京都、病院の名前は───』
「ホ、ホッ……! ならば頼むわい。あまりムチャをせんように見守ってやっておくれ」
「分かりました。なるべく彼から目を離さないようにしますね───」
『───蛇腔病院だよ』
「───殻木先生」
タグ:「青山不在」
うん、「また」なんだ。すまない。