個性届って便利ですよね。
後で齟齬が露見しても、「そうだと思ってた」の一言で済むんですから。
───面白い拾い物をした。
最初に抱いた印象は、その程度のモノだった。
高速道路、カーブ地点で起きた交通事故。
死傷者の数は不明、生存が確認された二人の子供の搬送先として、最寄りの病院であった此処が選ばれた……始まりは、ただそれだけのことだった。
事故現場───爆発炎上した複数台の車両から救助された子供のうち、片方は意識不明の重態、骨や臓器への影響の恐れあり。……集中治療室の要有り。
ではもう片方は───
互いに知己があるらしく、炎上する車両からその手で助け出した少女から離れたがらない。
肉体的な怪我は無いとはいえ精神的なショックは計り知れず、引き離すのは悪影響と判断、共に搬送する運びとなる……成程成程?
そんな呟きを加えつつ、文言を目でなぞっていた彼───殻木球大は、これは少しばかり興味が湧いてきたわいと、口にたくわえた白髭の下で口角を上げたのだった。
「───"個性"『飛行』、地を走ると同様に空を翔けることが出来る。……診断・登録時の情報はこうなっておったわい」
渦中の少女達が院内に運び込まれた報せを受け取る一方で殻木が行ったのは、彼女達の"個性"の確認───もとい、登録情報の確認であった。
何より医療の現場において、未確認のまま処置にあたるなど許される行いではない。
そんな錦の御旗の下、その情報を彼は実に合法的に、かつ迅速に受け取るに至り。
しかして受け取ったそれを一目見て、彼は大きく首を傾げることになる。
何故なら、伝え聞いていた事故当時の状況や少女の様子等、どのように経過を鑑みても、そこに記されていた"個性"では起こり得ない結果が麾下に届いていたのだから。
「……しかし蓋を開けてみれば、あんなカラクリだったとはの」
斯くして、"個性"研究者としての顔で当人に接触、聞き取り調査を行った彼は、幾つもの新たな知見を───比類する驚愕と共に───深めることになる。
「"個性"由来の分類困難な物質なんぞ今に始まった話ではないが……魂、魂魄……まさかこの齢になって『二十一グラム説』を真面目に検証する羽目になるとはのお」
その道に邁進し続けてきた彼をして、多少なり辟易を吐かずにはいられない出来事であった。
「何とかそれらしい説の体裁を整えてやらんといかんが……まったく"個性"という奴は研究すればするほど……ううむ……」
「単に性質を誤認していた、とすれば良いんじゃないかい? 『飛行』が副産物に過ぎず、肉体の半霊体化……『魄化』が神髄だったなんて、こんな事でもなければ気付ける訳も無いだろう?」
「……まあ、そんなもんでええかの」
懊悩する殻木の声に、くつくつと笑う『声』が重なる。
声の主を仰ぎ見た彼は、手元にあった
「それにしても、態々保護者の代わりを名乗り出るとは随分『人が良い』じゃないか、我が友よ」
「む? ああ、『治療の甲斐なく』として『回収』も考えたんじゃが、ありゃダメじゃな。本人でなければ制御できんタイプじゃわい」
「へえ? 確かに僕には『いらない』と思ったが、脳無でもダメかい?」
「診断してみて分かったんじゃが、とにかく『思考』が重要な"個性"じゃったわい。仮に開発中の思考持ち……『ハイエンド』が形になったとしても、有用な実装は現実的ではないの」
「……それは残念だな」
「ああ、全くじゃ」
机上に落とした書類───"個性"『魂鳥』の記述を再度一瞥し、殻木は嘆くように首を振る。
身体機能、という前提をある意味で逸脱したソレもまた、強く関心を惹かれた"個性"であり……思わしくはなかった『結論』に、当時の彼は気落ちしてすらいた。
「それにワシは『表』では慈善家の名士で通っとるからのお。それでなくとも、身寄りを失くした
「……そんなに見込みがあるのかい?」
「いいや? じゃが、面白いとは思わんか?」
曲りなりにも子供らの庇護を行う者としての仮面を、彼はそんな言葉でひょいと脱ぎ捨てる。
あっさりと、何もかも『戯れ』に過ぎないのだと口にして。
少女達の『熱』も『夢』も、一絡げにまとめて嗤いながら。
「───あの"個性"が、本当にヒーローに
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
故に。
それは
「───今日はクラスの委員長を決めましたよ。……多数決で」
「まだ互いに知り合って三日かそこらじゃろ? 票の集まりようが無いではないか」
「はい、大体みんな自分に投票していて……そんな中でも三票を集めた緑谷くんが一度は委員長になったんですが……」
───『オールマイトが教師になるという噂がある』。
ばら撒いた『駒』の何れかが、
「本人は色々思うところがあったのか、結局飯田くんの方が相応しいからと譲ってしまいました」
「そやつに投票した者達の気持ちはどうなるんじゃい。……当代継承者は何というか、こう……」
「……殻木先生?」
「ああ、いや何でもないわい」
数多存在した択の中でも、これ以上なく『鮮度』の高い情報源。
想定を遥かに上回る理想の『駒』と化した少女に、殻木は好々爺の仮面の下でほくそ笑む。
「……そう言えば昼食の時間、校内にマスコミが入り込んで騒ぎになっていました。すぐに警察が来て退去させていましたけど」
「ホウ? ……その後、学校側から何か連絡はあったかの?」
「いえ、特には」
「そうかそうか……ホホッ」
「……?」
───ああ、容易い。
腹の底に笑いを収めて、彼は今一度
厄介な"個性"を持って生まれた。
親と折り合いが悪かった。
何某かの不幸に舞い込まれた。
理由は様々に、頼るべき寄る辺を失くした子供達。
偶然か、故意であるかの違いなど、彼らにしてみれば幾重にも無価値かつ無意義。
「……今日は、このぐらいですね」
「うむ、今日も良い話を聞かせてもろうたわい。……体調に問題は無いかの?」
「はい。……いつもありがとうございます、殻木先生」
「ホッホッ、そりゃこれがワシらの仕事じゃからのー」
「いえ、それもですが……私達が学校に通えるのも、先生のご厚意に拠るものですから」
そこにひとたび手を差し伸べてやれば、これこの通り。
人を操るに、恐怖も、悪意も、必要不可欠な要素には当たらない。
与えられた善意に善意で報いようとする人間こそ、何より扱いやすい『駒』となる。
「ホ……ッ、恩を返すというなら、お前さん達が『夢』を叶えてくれるのが一番の恩返しじゃ」
「っ、はい……!」
動かぬ身体で気炎を吐き、決意を深める少女。
その身に宿る"個性"を思い起こす彼の口が、白髭の下で醜悪に曲がる。
彼は知っている。
少女の語る『夢』が、如何に
それをまた、選りに選って彼らの元で叶えようと足掻く姿が、どれほど滑稽であるかを。
しかしてだからこそ、それらを現実に
「そうそう、前までお前さんの担当をしとった看護師じゃが、どうもその『夢』に対して否定的な態度が気になったからの。担当から外しておいたぞい」
「あ……」
「ま、あの者に限らず色々言う輩はおるじゃろうが、決して諦めるでないぞい」
「……はい。何があろうと、必ず」
───有り得ない? 絵空事? 結構々々!
『戯言』実践するのが
『OFA』継承者早期バレ。
ヒロアカ二次では最早定番ですねー。
原作にて蛇腔病院襲撃時にドクターを庇おうとした病院職員が印象的でした。
あの病院、多分殆どの職員が何も知らずに
まあ『支配者』と『研究者』の結果を求める姿勢の違い、というだけな気もしますが。