異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第103話 この世で最も凶暴な男

 あいつはチャラくて軽い。

 だから、自分のどんな行動にも深い意味なんてないのかもしれない。

 それが戦争だろうと殺しだろうと、悲劇だろうと。

 まあ、それが本当かどうか分かるほど、俺は奴のことを分かっているわけじゃないが、少なくともこれだけは言える。

 あいつを今すぐ殴りたいと。

 

「いや~、すごいすごい、みんなもがんばって、大将同士も熱くて自分に酔って、マジパネエ。ほ~んとにな。なんつうか、もう飽きたな」

 

 天空庭園で寝そべって観戦しながらつまらなそうに、マッキーラビットが呟いた。

 それは、まるでこの戦争そのものを鼻で笑っているように見える。

 そう、まるで戦争映画を見て、つまらなかったと言っているような感じだ。

 そして、物語に飽きた観客がやることは、実に単純だった。

 

「雷獣の牙!」

「ダークガトリング!」

 

 未だ光と闇の攻防が続く中、伸びをしながら立ち上がったマッキーラビットは、宙を舞うフォルナの方向へ手を伸ばす。

 

 

「無属性魔法・ハイグラビディフィールド」

 

 

 それは、状態の安定していない不安定な歪みを持った球体の魔法。

 

「なっ、えっ、あああ!」

 

 その歪みがやがて球体の形状を保てなくなった瞬間、魔法ははじけて、その場にあった物理法則がマッキー、マニー、ラガイアを除いて発生した。

 

「こ、これは重力魔法!」

 

 突如、巨大な質量に押しつぶされたかのように落下して地面に俯せになるフォルナ。

 その表情には怒りが滲み出ていた。

 

「そーだよー、どんなに速く動けても、重くしちゃえばいいんだから、パナイでしょ?」

「くっ、この、一対一の戦いに手を出すとは、武人の風上にも置けない方ですわ! 恥を知りなさい!」

「あはははは、だって、俺は武人じゃねーし。みんなのアイドル、マッキーさんだよ~?」

 

 戦争なんだ。汚いもクソもねえってことぐらい誰だって分かっている。

 だが、きっと誰もが思ったはずだ。こいつにだけはどうしても言われたくないと。

 

「マッキー、君はどういうつもりだい?」

「どうした? 王子様」

 

 それは、同盟を組んでいたラガイアにも不愉快だったようだ。

 

「何故邪魔をした?」

「おやおや、戦士の矜持なんてアホらしいんだろ? いいじゃねえか、こいつは戦争だ。汚いもセコイもねーんじゃね? てか、やばくね? 俺、結構、それっぽいこと言った?」

「ッ、この外道が」

「よく言うよ。戦争出ている分、俺よりたくさん殺しを積み重ねてきたくせに」

 

 ラガイアとてこれが戦争だと理解している。だからこそ、これ以上は言わない。

 だが、それでもどこか納得できないのか、表情はまったく晴れていない。

 しかし、マッキーラビットにはそんなことどうでもいい。

 マッキーラビットは、俯せになりながら、超重力で立ち上がることのできないフォルナを嘲笑っていた。

 

「ふ~ん、目を見れば分かるよ。君みたいなタイプは、どんなに自分が傷ついても心が折れないタイプだ。いいね~、正義の使徒キターってね! だ~け~ど~、マッキーさんはそこで引き下がらないよ~。むしろ、絶対に折れない女の子を落とすって最高じゃね?」

 

 フォルナを小馬鹿にし、何か悪巧みを思いついたような笑みを浮かべ、マッキーラビットはフォルナの頭に手を伸ばした。

 

 

「な、なにを、ッ、汚らわしい! ワタクシに触れるなど許しませんわ!」

 

「安心しろって。レイプは俺の趣味じゃないからさ。ただ、君の記憶を読みとるだけ。夢の国からやってきたマッキーラビットは、人々を心の底から笑顔にしたり、時には恐怖のアトラクションで人を脅かす。だから、君が一番怖いことを知りたいんだよね」

 

「何を仰っているのか、理解不能ですわ!」

 

「なーに、簡単だよ。君にとって、この世で最も死んで欲しくない人は誰だい?」

 

 

 その質問に、一瞬だけフォルナの表情が凍り付いた。

 だが、すぐに毅然として鼻で笑った。

 

「父も、母も、兄様も、ガルバも、シャウトやバーツたちも、エルファーシア王国の全ての民を、さらには国を出て出会った信頼できる戦友も、この帝国で支えてくれた方々も、ワタクシは愛していますわ! そんなことを知って、なにをするというのです?」

 

 全ての者を愛している。そう答えて強い態度を見せるフォルナだったが……

 

 

「ふ~ん、ヴェルトくんっていうのか~、生意気そうな顔だね」

 

「………………えっ?」

 

「君の記憶を読みとって、真っ先に思い浮かんだのがその男の子だった。いいね~、ハンパねえ! お姫様が平民に恋してるとか、マジ映画!」

 

 

 フォルナが蒼白した。

 何故? どうやって? いや、それ以前に、それを知ってどうする気だ?

 そんな表情をしているフォルナに対し、マッキーは軽口で言った。

 

「よ~し、ヴェルトくんを殺しちゃおう!」

「ッ!」

 

 その瞬間、俺ですら見たことのない憤怒に狂ったフォルナが叫んだ。

 

「キッ、キサマアアアアアアアアアアアアアアア!」

「あはははははははは、ついにメッキが剥がれたな、お姫様! それだよそれ! そ~の顔いただき! パネエ怖い!」

「ヴェルトに、ヴェルトに指一本触れてみなさい! 殺してやる! 殺してやりますわ!」

「アハハハハハハハ、おもしろす! 殺す~だって! 殺す~! 正義だなんだと語っても、惚れた~男のためならば~ってね。ファンタジーって言っても単純パネエ!」

 

 この時フォルナが、人類大連合軍が、人類が、世界が同じことを思っただろう。

 

――誰かあのバカをぶん殴ってくれ

 

 でも、フォルナ。安心しろ。

 だって………………

 

 

「ん? なんだ? 影が………」

 

 その時、太陽に映っていたマッキーラビットの周囲を途端に大きな影が覆い、薄暗くなった。

 何事か? マッキーラビットが上を見上げた瞬間、マッキーラビットはひっくり返りそうになるほどの驚きを見せた。

 

「って、なんだ~! パネエ! ドラゴンじゃん!」

 

 ドラゴン。

 帝都の上空を飛ぶ、巨大な鋼鉄竜。

 それは、カラクリドラゴン。

 そして、そのドラゴンの背に乗って現れた謎の集団。

 

「兄さん!」

「ヴェルト!」

「殿!」

「愚弟!」

「弟くん!」

 

 俺たちだ!

 

「お待たせ。俺ですら待ちくたびれるほどにな」

 

 ああ、お待たせしましたよ。

 俺も、もう本当に待ったよ。怒りを通り越すほどな。

 

 

「いくぞコラアアアアアアアア!」

 

「「「「オオオオオオオオオ!」」」」」

 

 

 俺たちは、もはや一瞬も待つことが出来ず、まだ遙か上空だというのに飛び降りていた。

 まあ、どんな上空から落下しても俺のふわふわ時間で全員大丈夫なんだけどな。

 だが、俺だけはゆっくり降りなかった。

 落下速度にさらに勢いをつけて落ち、そして引き寄せる。

 

「ふわふわ回収!」

「……………ん? えっ、おっ? あれれ!」

 

 その瞬間、俺の魔法にかかったマッキーラビットが宙に浮かび、真っ直ぐ俺に引き寄せられた。

 

「な、あれ? 何で俺の体が急に! つか、君は誰よ!」

 

 誰? どっちの名前で答えたらいい? まあ、後で教えてやるよ。

 

「ッ、その生意気そうなツラ、今フォルナ姫の記憶にあった!」

「ああ、正解」

 

 だから今は…………

 

「いや……それだけじゃ……なんだ……君の……その目……どこかで……」

 

 今はただ………

 

「ワリ。後回しだ。まずはいっぺん、死ぬほどぶっ飛べよ!」

 

 俺の落下と引き寄せの威力倍増のカウンターで、ふざけた夢の国のお友達を殴り飛ばしてやった。

 拳が潰れてもかまわねえ。

 骨が折れようと、上等だ。

 今ただ、俺の怒りの全てをこいつの骨の髄までたたき込むだけだ。

 

「マ、マッキー!?」

「新手かい?」

 

 勢いよく地面にたたき付けられたマッキーの周りはクレーターが出来た。

 なかなかの威力だ。

 かなりスッキリした。

 だから後は…………

 

「ふわふわ回収」

 

 ゆっくりと着地をして、呆然としている大事なお姫様を俺の腕の中に引き寄せて抱きとめた。

 

「………うそ………ど、し、どうし、て……だっ、て……」

 

 俺の腕の中で、全身を震わせながら驚愕しているフォルナ。

 潤んだ瞳、言葉の出ない唇、冷静に働かない頭、凛々しく雄々しく保っていたはずの心。その全てが壊れてなお、俺の顔に手を伸ばして、俺の存在を確かめようとしているフォルナは、今が戦場であることを忘れているだろう。

 だが、今だけはいい。俺は幻じゃねえと頷いてやった。

 

「あ~、びっくらこいた~、つ~、マジパネエ痛い……なんなの? つか、なんなの、君は?」

 

 体を起こしたマッキーラビット。

 着ぐるみしているからダメージまで分からないが、少しだけイラついているのが分かった。

 そして、俺が誰か? そこまで名前が通ってないから言っても分からないだろうが、俺は言ってやった。

 

 

「俺は、リモコンのヴェルト。麦畑で生まれたこの世で最も凶暴な男だよ」

 

 

 その瞬間、俺の腕の中に居た女が声にならないほどの涙と共に、力強く俺に抱きついた。

 

「ッ…………、ヴェ、ヴェルトッ!!!!」

 

 だから俺も、今日だけは特別、力強く抱きしめてやった。

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