異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第105話 本領発揮

 シロムの時のような殺戮現場とは違う。

 敵と味方の息遣い、呼吸の荒さ、そして独特の空気の重さ。

 互いが互いを憎しみ合い、美しい帝都を血に染める。

 だが、戦争の様子に呑まれるどころか、むしろ率先して人類反撃の狼煙をあげたのが、この男だった。

 

「戦争の大義もクソも興味ねえ。だが、テメェらよくも俺の国のもんに手をだしてくれたな。抉れて死ね」

 

 通り過ぎていく。

 風のようにただ、サイクロプスの群れを通り過ぎてゆく。

 サイクロプスたちはその男を捕まえることができない。

 何故なら通り過ぎるその男を手で捕まえようとした瞬間、サイクロプスたちの肉体の一部が円状に抉れて消滅したからである。

 

「なな、ナンダこの人間ハ!」

「イデーヨー!」

「ツカマエラレナイ!」

 

 槍閃。

 その動きは誰にも捉えられない。

 

「俺を愚弟のような戦争や殺しを敬遠するクソ甘ったれと一緒にするな。この身も魂も、薄汚ねえ血で汚れる覚悟はできている」

 

 一つ瞬きをした瞬間に、数匹のサイクロプスの頭部が消滅する。

 初めて見せる、ファルガの殺し。

 それは俺やフォルナの前では一度も見せたことがない、絶対零度の冷たい瞳と厳しさが宿っている。

 

「す、すげえ、ファルガ王子! あの人、あんなに強かったんだ!」

「当然だ! ファルガ様は人類大連合軍に所属していたら、とっくの昔に光の十勇者に数えられたお方だ! その武威は紛れもなくエルファーシア王国最強だ!」

 

 青い血飛沫が何度も何度も映される。

 普段は一般人がよく通り利用するであろう商店の看板、オープンカフェの白いテーブル、白い石造りの建物が、真っ青に染まっていく。

 それは、味方も敵も戦慄するほどの光景だった。

 

 

「ほほう。この私が武者震いを。ハハハハハハ、面白い! この私が直々に粉砕してやろう!」

 

 

 だが、ファルガの戦に一人だけ笑う者がいた。

 ハイサイクロプスの、レッドロックと名乗っていた魔族。

 

「おおお、レッドロック様が直接!」

「レッドロック様、あなたは将ですよ? ラガイア王子も仰ったではないですか。一騎打ちは控えるようにと」

 

 レッドロックの笑みは変わらない。部下たちの制止など聞く気などなさそうだ。

 そして、一駆けで突き進むファルガの前方に立ち、金棒を振り合わして迎え撃つ。

 その振り合わした金棒から強烈な旋風が巻き起こる。

 

「ハーハッハッハッハ! さあ、来るが良い! エルファーシア王国第一王子、緋色の竜殺し・ファルガ・エルファーシア! いざ、尋常に勝負!」

 

 いきなり将自ら乗り出して迎え撃つ。

 

「ふん」

 

 ファルガも一騎打ちそのものには興味ないかもしれないが、レッドロックの首を落とすために真っ直ぐ突き進む。

 だが、その時だった。

 

 

「待ってくれ、ファルガ王子!」

 

 

 帝都に一人の男の声が響いた。

 思わずファルガが足を止める。

 レッドロックも横を向く。

 するとそこには、真っ赤な血に染まりながら、既に両足に力も入っていないフラフラのくせに、剣を片手に立つ一人の男が居た。

 

 

「そいつは、俺に任せてくださいよ」

 

 

 それは、レッドロックに一撃を入れられたバーツだった。

 

「バーツ、テメェ…………何言ってやがる。クソ正気か?」

「ほう、私の一撃を受けて立ち上がるか、少年。だが、その怪我でまさか私とまだ戦おうと言うのか?」

 

 二人の言うとおりだ。そのケガでお前に何ができる?

 何の意地かは知らないが、そのまんまじゃ無駄死にするぞ?

 だが、そんな周りの意見を吹き飛ばし、バーツは叫んだ。

 

 

「なーにやってやがんだよ、人類大連合軍! この程度で、もうへばったか! この程度の絶望で王子たちの力に縋り付くのかよ! 情けねえと思わねえのか!」

 

 

 それは、この場だけではない。映像を通して帝都全土に散らばる味方へ向けて叫んだ言葉だ。

 だが、それに応えるものは居ない。

 そもそも、ほとんどの兵たちは既に戦意を失いかけ、今まさに現れたファルガたちに縋ろうとした新兵たちだからだ。

 しかし、

 

 

「新兵もクソも関係あるか! 俺たちは、自分の意思でこの道を選んだんだ! それがどうだ? 英雄の道や戦争に興味ねえとか言って飲食店で働いてる、あのバカ野郎が心配して駆け付けちまうぐらい俺たちは情けねえってことじゃねえのかよ!」

 

 

 …………そのバカ野郎って、俺のことかよ……

 

 

「いいか、覚えておけ! 人類大連合軍はただの戦争するための兵隊じゃねえ! 人類に襲いかかる絶望を打ち砕くための戦士たちだ! その俺たちが先に絶望してどうすんだよ! 絶望が降りかかってこそ、俺たちが本領発揮しなくちゃいけないんだろうが!」

 

 

 あまりにも不器用すぎる、バーツなりの檄。

 発破をかけているつもりなんだろうが、どうだ?

 しかし、誰もが言葉を失って、押し黙っている。

 いくらそう言われても簡単に立ち上がれない。

 それほど誰もが強いわけではない。

 言葉だけで動くには限界がある。

 だが、

 

 

「うるさいぞ、少年。至高の一騎打ちを邪魔するでない」

 

 

 いつまでも演説を垂れ流しさせるほど敵も空気を読める奴じゃない。

 レッドロックが振り上げた金棒をバーツに振り下ろして潰そうとする。

 

「ちっ!」

 

 一瞬反応が遅れたファルガが止めに入ろうとするが、間に合わない。

 しかし、

 

「お………オオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

「なっ!」

「ラアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 バーツが雄叫びとともに剣を振り上げ、激しい金属音と衝撃波を生み出しながらも、レッドロックの一撃を受け止めた。

 

「なっ、私の一撃を! 受け止め……なんだ、この少年……そんな力がまだあったか! だが、次の一撃で貴様も…………」

 

 思わず目を見開いたレッドロックだが、すかさず追撃を放つ。

 一度目はまぐれだ。二度目は無いぞと言っているかのように、容赦ない一撃をもう一度放つ。

 だが、

 

「ズアアアアア!」

「な、なんだと!?」

 

 バーツは再び渾身のひと振りを放ち、今度はレッドロックの一撃を止めるどころか、むしろ金棒ごとレッドロックを弾き飛ばした。

 

「バーツ……テメェ……」

「馬鹿な! レッドロック副長が! あんなフラフラのガキに!」

「信じられねえ、あんな細い剣、簡単に砕かれるはずなのに、むしろ副長を押し返した!」

「なんなんだ、あのガキは!」

 

 思わぬバーツの反撃にファルガもどこか嬉しそうにほくそ笑んでいる。

 レッドロックも予想外のことに目を丸くし、バーツの一撃に腕が痺れたのか、何度も手を開いたり閉じたりしながら呟いた。

 

「少年……どうやら……ギリギリの状況から化けたようだな……。長く戦場に居ると、そういう実践で成長する奴が居る。ふっ……だから戦はやめられん………胸が躍り、血が騒ぐというものだ!」

 

 ボロボロからの反撃の姿を見せたバーツ。

 それは、俺ですら胸が熱くなるほどのスカッとする光景だ。

 言葉だけじゃねえ。あいつは、確かな姿で自分の意思を見せた。

 

「シャウトー! 聞こえてるか! 姫様やガルバ隊長は指揮の取れない状況だ! 俺たちの指揮は……お前がやれ! 俺は、この野郎をぶっ倒す! 王子やウラたちが駆けつけたから勝てましたなんて言ってみろ! 俺たちは何のためにこれまで血反吐を吐いてきたんだよ! これじゃあ、ヴェルトに馬鹿にされんぞ!」

 

 その姿を見せられたら、もはや黙っている奴らも居ない。

 

「……………くく、あのやろう」

「ああ、その通りだぜ」

「まったくよ! ヴェルトくんに笑われる? あんな問題児に笑われたら一生の恥じよ!」

「ちっくしょう! やってやろうじゃねえか、コラァ!」

「シーやガウの仇だ! あいつらの分もやってやんぞ!」

「行こう! みんな!」

「オオオオオオオオ!」

 

 それは、一瞬で帝都に波及し、各地で一斉に戦意の込められた人類の意志が叫ばれた。

 

 

「分かったよ、バーツ! たった今から、僕が指揮を執る!」

 

 

 力強く拳を突き上げ、シャウトが応える。

 

 

「弓兵部隊と魔法部隊を後方まで一旦本陣まで移動! 第七部隊、第三部隊は周囲の残存兵を回収しつつ、最前線のホークたちと合流し支援を! 第八部隊と第九部隊はファルガ王子につけ! 全軍! 反撃せよ!」

 

「「「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」」」」」」」

 

 

 次々と動き出す兵たちの士気は、開戦直後以上の激しさを増している。

 しかも、今度は初陣に舞い上がって無我夢中に勝手な行動をするわけではない。

 シャウトの出した指示に従い、それぞれがその指示通りに十二分の力を発揮した。

 

「お、おお、すごい、シャウト隊長!」

「はは、さすがシャウト様だ! すぐに盛り返したぞ!」

 

 シャウトの部隊も自身の隊長の思わぬ抜擢ながらもその力を発揮する姿に目を輝かせている。

 だが、シャウトの表情には一切の余裕はない。

 何故なら、状況が不利なことには変わらないし、自分の指示一つで味方がどれだけ犠牲になるかが決まるからである。

 なによりも、

 

「ギャアアアアア!」

「しま、こ、こいつら、ぐあああ!」

 

 指揮官となったなら、自分が狙われる可能性も存分に高まるからである。

 

「騒ぎすぎだぞ~、小僧ども~」

 

 それは、指揮現場に突入してきたハイサイクロプスの部隊。

 

「くっ、もう来たか」

「お前が指揮官だな、小僧~。しかし、俺たちハイサイクロプスの乱戦特化百人部隊が近くに居たのが運の尽きだな」

 

 スクランブルで抜擢されたために、指揮を取るためのシャウトの周りの護衛は手薄だ。

 シャウトもそれを見越して早めに自身の周りを固めようとしたが、敵の手の方が早かった。

 人型でありながらも、人間よりもはるかな巨体と凶暴なハイサイクロプスの群れ。

 集団で一斉に来られたら、ひとたまりもない。

 だが…………

 

 

「さあ、その首もらった! そして覚えておけ! 俺は、乱戦特化百人部隊隊長の~ぷげらづだいお!!??」

 

 

 名前を名乗る前に、そのハイサイクロプスは両断された。

 それは、疾風閃光の一撃。

 

 

「人間は嫌いでござる…………しかし、殿のご友人のためならば、迷うことなど一切なしでござる!」

 

 

 ムサシ。

 天下無双の名を持つ剣士が、種族の差を越えて参上しやがった。

 

 

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