異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第119話 撃墜型浮沈艦(笑)

 議会は意外なほどアッサリと閉会した。

 

 

――彼の処遇について、私に一任させてくれないかしら?

 

 

 光の十勇者・アルーシャ姫はそれ以上は言わなかった。

 いくら帝国の姫で、世界有数の英雄の一人とはいえ、十代のガキがこれほど発言権があるのはいかがなものか?

 だが、アルーシャの発言に、老獪な役人たちが言葉を失って頷いた。

 審議会で権限を持つ者たちも「姫様がそう仰るなら」と、簡単に了承しちまった。

 その直後に、アルーシャの側近と思われる、同じ黄色いロングコートを羽織った者たちが審議会に入り、そのまま加賀美をどこかへ連れて行った。

 加賀美は特に抵抗する様子もなく、ただニヤニヤと笑ったままだった。

 

 

――ひはははは、またね、ヴェルトくん♪

 

 

 それだけを言い残してあいつは連れて行かれた。

 一体、アルーシャは加賀美をどうしようとしているのか。

 そして、アルーシャの正体は、本当に俺の知る女なのか。

 また、めんどくさいことになりそうだった。

 

「この世界は単純なのか、それとも複雑なのか、何だか考えるのもめんどくさくなってきた」

「どうしましたの? ヴェルトが真剣に難しいことを考える顔は嫌いですわ。そういうとき、ワタクシをまったく見ていませんもの」

 

 俺たちは今、バーツやシャウトたちが帝国の拠点とする人類大連合軍宿舎の食堂に居た。

 俺は兵士じゃないが、フォルナ、バーツ、シャウト、ホーク、サンヌが許可を出して追い出されるはずがない。

 綺麗に壁を白く塗られた、何百人も一斉に収納できる広い食堂の長テーブルの椅子に座り、俺はあっという間に訳の分からない展開で幕を閉じた審議会を思い返していた。

 

「それと、君はさっきのような行動は今後やめなさいよね。私たち、もうどうなるかと大慌てよ」

「そうだよ~、ヴェルトくん。まさか、柵を乗り越えてマッキーラビットと言い合うとか、怖い物知らずにも程があるよ」

 

 悪かったよ。我ながら痛い行動をしちまったと思ってるよ。

 ただ、あいつに面と向かって皮肉の一つぐらいは言ってやりたかったんだよ。

 

「でよ~、話変わるんだけどさ、あのときいきなり入ってきた、帝国の姫のアルーシャってのはどんな奴なんだ?」

 

 その瞬間、五人一斉に俺の頭を殴った。

 

 

「「「「姫様を呼び捨てするな!!」」」」」

 

「っ、て~な! いいじゃねえかよ、別に俺の国のお姫様なわけじゃないんだし」

 

 

 急に殴るもんだから、ビックリして昼時に食堂に集まっていた他の兵士たちも一斉に振り返って、すっかり注目を浴びちまった。

 だが、フォルナたちはそれを気にする様子もなく、俺に詰め寄った。

 

 

「よろしいですか、ヴェルト。ワタクシと接するときのような態度ではダメですわ。相手は人類大陸最大国家、アークライン帝国のプリンセス。位で言えば、人類最高位に位置する方ですわ」

 

「さらに、その才覚は百年に一人の逸材と呼ばれているんだよ? 僕やバーツたちと同期なのに、大帝国軍士官学校を、歴代最速と呼ばれたフォルナ姫と一緒に卒業しているんだよ?」

 

「そして、人類最大最高の称号、光の十勇者の称号を持つ方だ。っていうか、お前はフォルナ姫がメチャクチャすごい人だってことをまず自覚しろよな?」

 

「戦場でもどんどんと手柄を上げ、特に彼女が隊長となって率いる、帝国軍のエリート兵士で構成されている、『独立特殊部隊・イエローイェーガーズ』、通称『黄色い狩人たち』の戦果は、人類大連合軍の中でもトップクラス部隊よ」

 

「おまけに、あれだけの美人でしょ? まあ、フォルナ姫も男性にモテたけど、故郷に婚約者が居るってハッキリと公表していた分、そういう浮いた話のなかったアルーシャ姫の人気はすごかったんだよ~。まあ、告白されても全部撃墜しちゃってたみたいだけど」

 

 

 どこのチートだ。

 つか、死んで生まれ変わったと思ったらお姫様って、どんだけ恵まれてるんだ? 

 こっちは農民の息子……いや、恵まれた環境で言えば、俺も人のことは言えねえか。

 さすがに、これ以上の贅沢は言うまいと、俺は言葉を引っ込めた。

 すると、その時だった。

 

 

「あら、今日は賑やかね」

 

 

 噂の張本人が、ゾロゾロとお仲間を連れて参上した。

 

「アルーシャ姫!」

「姫様! ご帰還されたと聞いたが、本当だったんだ!」

「アルーシャ様! それに、帝国新人騎士最強のドレミファまで居るぞ!」

「新人魔法技術選手権優勝者のソラシドまで!」

「帰ってきたんだ、帝国の英雄たちが帰って来たんだ!」

 

 黄色い集団に送られる黄色い歓声。

アルーシャ自身はクールに無表情で何も答えないが、一緒に引き連れてきた十人程度の連中は芸能人みたいに笑顔で手を振って答えている。

 歳は意外に若い。多分全員が十代から二十台前半に見える。

 

 

「あれが、アルーシャ姫の黄色い狩人たちの主力部隊にして、通称アルーシャ親衛隊。全員が私たちのほぼ同期か年齢の近い先輩。帝都の若武者の中でも選りすぐられたトップクラスの面々よ」

 

「ふふ、相変わらずの人気ですわね。次世代を担う帝国の英雄たちのお出ましですわ」

 

「まあ、国の英雄といえど、僕たちとは彼らでは意味が違う。彼ら帝国は他国に比べて規模や人口が違う。当然、同世代同士のライバルの数は、僕たちエルファーシア王国も含めて圧倒的に違う。その競争を勝ち抜いた彼らの才能と実力はダテではないよ」

 

「おい、何言ってんだよ、シャウト! いつも、そんなこと関係ねえって言ってんだろ! 俺たちだって、最終的にはあいつらと同じ教育を受けて卒業したんだ! そこに、差なんてあるかよ!」

 

「バ、バーツ、声が大きいよ~、聞こえちゃうよ~!」

 

 

 その時、騒いでいる俺たちに気づいたのか、黄色い狩人たちが笑みを浮かべて俺たちに近づいてきた。

 

「おお! フォルナ姫、バーツにシャウトも元気そうだな」

「ええ、ドレミファ。あなたもご苦労様」

「全くですよ。我らのリーダー様は人使いが荒い。北方に行った瞬間に、すぐ帰還ですよ?」

 

 ニコやかな笑みと共に気さくに話しかけてきたのは、ドレミファという名の男。

 一人だけ、黄色いロングコートの肩を切り取って、ロングコートのノースリーブという変なファッションだ。

 紫色のショートモヒカンという、日本で結構見たことあるような髪型のイケメン。

 身長がでかく、体格もいい。シャウトのようななよっちい体や、速度を兼ね備えて無駄な脂肪のないバーツとも違う。

 だからといって、ガルバのようなゴリラとも違う。スピード、パワー、全てをバランスよく鍛えられたオールラウンダーのような体格だ。

 つまり、強そうってことだ。

 

「バーツ、それにシャウト」

「よう」

「久しぶりだね、ドレミファ」

 

 何故か無言で見合う三人。すると、急に三人は拳を中央に突き出して同時にぶつけた。

 次の瞬間、三人とも、ニッと笑った。

 

「サイクロプスの件、よく帝国を守ってくれた!」

「ああ、大変だったぜ」

「あの時ほど、君たちが居てくれたらと思ったことはないよ」

 

 ドレミファは、くったくない笑みを浮かべながらも、どこか瞳が潤んでいるのが見て取れた。

 

 

「死んだ奴らのことは聞いた。力になれなくて、本当にすまなかったと思ってる。でも、もう二度とあんなことはさせねえ。しばらくは俺たちも帝都に駐留する。今度は俺たちが帝国を守り抜いてみせるぜ」

 

 

 その頼もしい言葉に、食堂がワッと盛り上がった。

 

「そうだそうだ! お前らがタダメシぐらいだから悪いんだ!」

「今度はちゃんと戦えよな!」

「バカね、私たちだって大して活躍して無いじゃない」

「そうだよ、活躍したのは、フォルナ姫、バーツ、シャウト、ヴェルトくんたち、そして命を張って逝ったあいつらだ」

「俺たちも今度こそ負けねえ!」

「帝国も守る! 人類大陸も守る! そして、魔族や亜人に絶対に負けねえ!」

 

 食事の手を止め、一斉に立ち上がって拳を突き上げる兵士たち。

 誰もが、「俺も」、「私も」と呼応し、熱く叫び始めた。

 そして、それが最高潮に達しようとした、その一歩手前で、一人の女が前へ出た。

 

 

「その通り、次からは私たちも戦うわ。でもね、私たちだけでは戦えないのも事実」

 

 

 アルーシャだ。その凛としたクールな面構えとは裏腹に、随分と熱の込った声を皆に向けて発していた。

 

 

「みんな、ドレミファも言っていたけど、改めてお礼を言うわ。この国を、人類を守ってくれて、本当にありがとう」

 

 

 空間がざわつきだした。

なんと、表情こそは無表情のくせに、アルーシャは姫という身でありながら、この場にいる全員に向けて頭を下げたのだ。

 その突然の行動に誰もが声を発せられない。

 そして、

 

 

「今度は、あなたたちだけでも、イエローイェーガーズだけでもない。共に戦いましょう! 一人はみんなのために。みんなは一人のために!」

 

 

 一度爆発寸前だった兵士たちの思い。

だが、それは更なるエネルギーを為、次の瞬間には圧倒的な熱量を生み出して爆発した。

 

 

「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」」」」」

 

 

 顔には出さなくても、言葉に込められた熱は伝わるものだ。

 その想いに心を打たれた兵士たちが涙を流しながら、その檄に応えた。

 

「く~、さっすが、相変わらず我らがリーダー様はアゲてくれる」

「まっ、だからこそ命がけでお仕えできるわけですが。ただ、個人的にはもう少し愛想良く、色恋にも興味を抱いて頂けたら嬉しいですけど」

「おいおい、言っておくけど、帝都守備戦に参加した俺たちの経験値はハンパじゃねえぞ?」

「そうそう。あまり余裕を見せていると、僕たちの足手まといになるよ?」

「ええ、帝国エリートにだって負けないわ」

 

 まあ、なんだかすごい熱くなってるところ悪いんだが、

 

「くっ、ぷくくく、ワンフォーオール、おーるふぉーわん……くっさ~」

 

俺としてはアルーシャの熱弁に、爆笑を堪えるので精一杯だった。

 

「あら、どうしたのヴェルト?」

「いや、なんつうか、とことん俺とは無縁の世界だって思ってな~」

 

 加賀美。お前はどう思った?

 お前が下らないと言った世界で、仲間と共に、世界の平和のために熱く生きるこのお姫様を、どう思った?

 多分、爆笑したんだろうな、お前は。

 

「ふふ、同じ女性とはいえ、やっぱり憧れるわね。あの、カリスマ性。フォルナ姫にもあるけど、タイプが違う」

「うん、いつもはクールであんまり笑顔は見せないけど、心は熱く、そして強い。戦う女って感じだよね~」

 

 それが、この世界での評価か。

 そして、それがお前の生きる道か。

 とりあえず、しんどい人生ではあるが、仲間に囲まれて十分じゃねえか。

 

「まあ、そういう仕切屋なところはお変わりないようだがな」

 

 気づけば俺はいつの間にか歩き出し、アルーシャの前に立っていた。

 

 

「あら、あなたはさっきの? ヴェルトくんね」

 

 

 俺の存在に気づいたアルーシャが振り向いた。

 

 

「ヴェルト・ジーハだ。さっきはどうも」

 

「ええ。先ほどはゆっくり挨拶も出来なくて申し訳なかったわね、ヴェルトくん。改めて宜しく」

 

「ん、おお」

 

 

 アルーシャが少しだけ口元をゆるめた挨拶。

 まあ、クールだなんだと言っても、根暗なわけじゃねえのか。

 

 

「なあ、姫様、ちょっと話があるんだけど」

 

「あら、何かしら?」

 

「ん~、あ~、ここでは何だから、ちょっと二人で―――」

 

 

―――――――ッ!!!!!????

 

 

「「「「「―――――え!」」」」」

 

 

 …………?

 

 

「はっ?」

 

 

 あれ? なんか、場の雰囲気が急激に変わったぞ。

 全員揃って、何を口をパクパクさせてんだ?

 

「君、奥さんの目の前で、他の女性と二人きりで話したいなんて…………」

 

 次の瞬間、俺の後頭部がフォルナにぶん殴られた。

 

「ヴェヴェヴェヴェ、ヴェルト! あ、あ、あ、あなた、何を言ってますの! よよ、よりにもよって、アルーシャを連れ出そうなど、不届きもいいところですわ! 大体ワタクシとウラというものがありながら!」

 

 いや、ちょっと待て。お前は何を勘違いして……

 

 

「ヴェルト、君は、君は何でそういうことをサラッとやってしまうんだい! あまりやりすぎると、僕たちでも庇いきれないよ!」

 

「ヴェルト、お前……アルーシャ姫と浮気しようなんて、なんつーとんでもないことを……」

 

「あなたは、どうしてこう常識をアッサリ破るのよ。大体、幾多の英雄や他国の王族からも交際を断り続けた、撃墜型浮沈艦のアルーシャ姫を相手に!」

 

「ヴェルトくん最低だよ!」

 

 

 シャウトたちまで口を揃えて、言いたい放題だな。

 

 

「おいおい、そいつはダメだぜ、ヴェルト~だっけ?」

 

 

 そして、今日会ったばかりのドレミファとかいう奴にまで呆れられる始末。

 

 

「まあ、お前がアルーシャ姫様に見惚れるっていう気持ちも分からなくもねえ。でもな、姫様の心を掴むのは、この世界を変え、人類を新たに導く大勇者にこそふさわしい。まあ、お前さんもこの間の勲章授与で英雄になったが、それでも姫様の心を掴むにはまだまだだ。出直してきな」

 

 

 やべえ。こいつら、何で俺がこの女に惚れた前提で話を進めるんだ?

 挙げ句の果てに、俺じゃ不足だ?

 ウッゼ~。

 

 

「ああ? チゲーよ。ちょっと内緒話があるから、あんま人に聞かれたくねえだけだよ」

 

「はあ? お前が姫様と何の内緒話があるんだよ!」

 

「だから、人には言えない事情があるんだよ」

 

「じゃあ、その事情はなんだ?」

 

「それを話したら内緒の意味ねえだろうが、ハッ倒すぞこの野郎!」

 

「なに? 俺を倒す? おいおい、俺のことを知っててそんなこと言ってんのか?」

 

 

 なんかムカツイタから、ふわふわパニックでもかましてやろうか? 

 だが、そう思いかけたとき、アルーシャが一言放った。

 

「いいわ。話を聞きましょう」

「あっ、マジで?」

「姫様!」

 

 その意外な言葉に、兵たちが慌てだした。

 ただし…………

 

「ただし、話は今この場でなさい」

 

 だから、それじゃあ、意味ねえんだよ。

 こいつもメンドクセーな。

 

 

「君がどんな内緒話をしたいのか分からないけど、私は仲間に聞かれて困る秘密は抱えていないわ。むしろ、秘密は仲間に対して不信を招くわ。だから、今この場で言いなさい。それならば、私も話を聞くわ」

 

 

 秘密を抱えていない? うそつけ!

 おい、そこの兵士共。姫様……とか言って感動してるけど、こいつは秘密を抱えているぞ?

 

「……おい、いいのか?」

「ええ、構わないわ。それに、その方がフォルナ姫も安心でしょう?」

 

 ったく、仕方ねえな。それじゃあ、要点だけ……

 

 

「さっき、加賀美がボソッと呟いてたけど、お前が綾瀬なのか?」

 

「………………………………………………………………ほへっ?」

 

 

 綾瀬の名に、予想外だったのかキョトン顔。

 しかも、さっきまでの凛としたクールビューティーから変顔に。

 

 

「「「カガミ? アヤセ?」」」

 

 

 そして案の定、周囲はこの反応。

 ほらな。やっぱり秘密を公表してねえ。

 すると、クールな仮面を被ってた女が、急に震えだした。

 

「えと、えっと。え~っとあ……れ? あの……君……ひょっとして、『そう』なの?」

「ああ、『そう』だ」

 

 その『そう』が示すのは俺たちの間で一つだけ。

 すると、アルーシャ姫は俯いたまま、何故かゴゴゴと怖い威圧感の音が聞こえだしたかと思ったら……

 

 

「そ……それを先に言いなさい!!!!」

 

 

 おい、仮面が剥がれてるぞ。お仲間が動揺しまくってるぞ。

 耳が痛くなるほど怒鳴られた。

 

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