異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第126話 別れと旅立ち

 朝刊を広げてみると、一面には「人類大連合軍快進撃」の見出しとともに、神族大陸にて魔王国軍と戦う人類大連合軍の経過が書かれていた。

 

 そこでは、希望はとことん大げさに騒ぎ立て、人類の不安など全てかき消すかのように、勇者たちを褒め称える文章が延々と書かれていた。

 そのためか、帝国大決戦から数日も経てば、俺の上げた功績は既に新聞の片隅にすら載らず、帝都に出ても「おお、フォルナ姫の彼氏じゃん」と、俺を英雄視するよりも、近所の兄ちゃんに挨拶するような態度になっている。

 俺やファルガたちが帝都を出ようとしても、特に盛大な見送りもない。

 まだ、もやがうっすらとかかるほどの時間、帝都正門の前は、人通りが少なく、騒ぎを起こさずに旅立つには十分な朝だった。

 

「まあ、この方が俺たちらしいか」

「まあ、私も帝都はあまり居心地よくないしな」

「おい、クレラン。テメェもついてくるのか?」

「あたりまえでしょ。ファルガたちと一緒だと~美味しいもの食べられそうだし~、それに………私が居ないと、神族大陸行きのトンネル使えないよ?」

「まあ、よいではござらんか。クレラン殿が居れば心強い」

「お願いっすから、オイラを食わないでくださいっす!」

 

 俺たちは、帝都から、帝国から出ることにした。

 準備を進める俺たちの傍らには、ごく親しい者だけが見送りに集まっていた。

 

「うううう、うおおおおおお、うおおおおおん」

「泣くなよ、ガルバ」

「しかし、しかし、ヴェルトくん、せっかく君に会えたというのに……」

「ったく、泣いてねーで俺の嫁さん、しっかり頼んだぜ」

「ッ! ああ、ああ! 必ず! 必ずッ! 命に変えても」

 

 見送りにきたのはフォルナ、ガルバをはじめとする、エルファーシア王国の面々。

 そして、綾瀬とその仲間たちだった。

 

 

「綾瀬……」

 

「朝倉くん……」

 

「その、なんだ……加賀美のことだが……」

 

「加賀美くんのことは……とりあえず、こちらで今後の処遇を考えるわ」

 

「ああ……」

 

 

 あっという間だった。

 加賀美の一件で、偶然巡り合った俺たち。

 お互いに思い出話に花を咲かせて、再会を喜びあったというのに、完全なるハッピーエンドのまま別れることはできない。

 戦いで失った命は戻ってこないし、加賀美に関する問題の解決も結局未来へ先延ばしにしただけだからだ。

 でも、そんなことを顔に出して暗くするわけにはいかねーよな。

 

「本当は、もっとお前らと仲良くなりたかったけどな、ヴェルト」

 

 やけに馴れ馴れしく、俺の肩に腕を組んでくるのは、綾瀬の仲間でイエローイェーガーズの脳筋体育会系男のドレミファ。

 バーツやシャウトとも、仲が良さそうだから、悪い奴ではないんだろうが、そこんところを良く分からないまま俺たちはバイバイするわけだ。

 そして、ドレミファもまた、俺のことをそこまで知らないまま別れる。

 だからなのか、ドレミファは俺だけに聞こえるような小声で耳打ちしてきた。

 

「なあ」

「あっ?」

「正直な、イエローイェーガーズはお前が嫌いだ」

「はあ? なんだよ、直球だな」

「お前と話すときの姫様は、とても自分をさらけ出されていたからだ」

 

 綾瀬が自分をさらけ出す。まあ、今は帝国の姫という仮面をかぶり続けて、人類を引っ張っていく立場の人間だ。

 弱音や建前のない本音などは、そう簡単にさらけ出せるような奴じゃない。

 それこそ、アルーシャ姫ではない、綾瀬であるときのこいつを知っている「俺たち」でないと。

 

「だから聞きたい。お前は……姫様の翼になってくれないのか?」

「翼? なんだそりゃ。中二病か?」

「チューニ? いや、よくわかんねえけど、姫様にはお前のように自分をさらけ出せる相手が居たら、もっともっとしなやかさが出るっていうか、人間味がでるっていうか、もっと高みにまで行けると思うんだ」

 

 この世界の女は強くてどんどん遠いところへ行っちまう。

 綾瀬がこれ以上すごくなって、どうすんだよ。

 もっとがんばれよ、男の子。

 

「あんま高く飛んでもいいことねえぞ? 落ちたとき、より痛くなるだけだ。それに、俺は人を何人も飛ばせられるほど、俺自身が高いところに居る人間じゃねえしな」

「そうか……一緒に戦ってみたかったけどな、お前と」

 

 そう言って、ドレミファはどこかスッキリしたのか、俺の背中をバシンと叩いた。

 マジで体育会系だな、こいつは。

 

「ヴェルト、いつか必ずまた会おう」

「今度会う時は、人類を救えるぐらいデカくなってやる」

「元気でね、会えてよかったわ」

「姫様は私たちに任せてね。あなたの代わりに、私たちが守ってみせる」

「じゃあ!」

「いつか故郷で、また会おう」

「ぜってー、酒飲めるまで生き残って、大騒ぎしようぜ」

 

 一人一人別れを告げていく、シャウトやバーツ、そして幼馴染たち。

 正直、この中の全員ともう一度生きて会うことが、どれだけできるか。

 こいつらはこれからも、いつ死ぬか分からない戦場に戻っていく。

 今回、死んだ奴らの想いとともに。

 

「ああ。全員でな」

 

 できれば、全員でもう一度。その想いを込めて、俺も別れを告げた。

 

「もういいの?」

「ああ、もう十分だ、綾瀬」

「そう。……あなたたちのことは……父には、私の口から伝えておくわ」

「ああ」

 

 これ以上は、もう必要ない。

 交わす言葉は十分、交わした。

 

「それで、朝倉くん。私には? 何かないのかしら?」

「そうだな~、まあ、無理すんなよ、か?」

「あら、無理するに決まってるじゃない。私たちが無理をしないで、誰に無理を強いるというの?」

 

 なんとも男前なセリフを胸張って言いやがる。

 

 

「だったら、お前に言うことは特にねえよ。俺たちは、全く違う人生を歩んでるんだ。そもそも、交わること事態が不自然なほどにな」

 

「そう……君は本当に甘えさせてくれないわね」

 

「既に甘えん坊の女を何人か抱え込んでるんでな」

 

「君は分かっているのかしら? ひょっとしたら、私とだって、これが最後になるかもしれないのに……せめてちょっとぐらい……その、君を想っていた女の子に何かしら……」

 

「ああ、またいつか会おうぜ」

 

「ッ………………ええ、…………またいつか……」

 

 

 今生の別れになるかもしれないが、それでもいつかまた……そんな気持ちを込めて伝えると、綾瀬は一瞬涙を拭うような動作を見せてから、小さく笑った。

 

「朝倉君」

「ん?」

「言っておくけど、私……結構、執念深い女よ? フォルナ、ウラ姫……こんな素敵なプリンセスたちに囲まれて幸せそうな君に一言、伝えておくわ? 掻っ攫う気満々よ♪」

「お、おい……シャレにならんから冗談はやめ……冗談だよな?」

 

 ゾッとするようなことをウインクしながら告げる綾瀬に苦笑した。

 まあ、これだけ逞しければ、こいつは大丈夫かな。また、会えるさ……

 

「じゃあ、そろそろいくか……」

 

 一通りの別れを済ませて、振り向いた先には旅路の準備が整った、

 ファルガ、ウラ、ムサシ、クレラン、ドラ。

 

「兄さん。またオイラが巨大化するっすか?」

「お前に乗れば、馬車より船より早く着くからな」

 

 巨大化したドラが屈んで、その背中に俺たちは飛び乗った。

 

「すごいですわね、カラクリドラゴン。ヴェルト、あなたは探し人を見つけるよりも難しいものを見つけていますわ」

 

 巨大で、雄々しい……かは微妙だが、誰もが初めて見る鋼鉄のドラゴンの姿に目を奪われながら、俺たちは全員でその背に乗り、改めて手を挙げた。

 

 

「フォルナ。ずっと、傍にいてやれねーんだ。浮気したくなっても、俺は怒らねえぞ?」

 

「おほほほほほほ、心の中では常にヴェルトはワタクシの傍にいますわ。というよりも、ワタクシは浮気なんて生まれ変わってもしませんし、逆にもしヴェルトが浮気しましたら……七大魔王や四獅天亜人と戦う時よりも、ワタクシは全力であなたを殴りますわ」

 

「くははははははは…………マジで?」

 

「側室枠はウラまでなら許しますわ! そのかわり、『これ以上増えること』は断じて許しませんわ!」

 

 

 俺たちは笑いあった。

 まあ、フォルナとは、既に存分に別れを済ませたからな。

 どんな形にしろ、こいつとは笑いながら別れられる。

 

「無理するなよ、愚妹」

「フォルナ、ヴェルトのことは私に任せるんだ。私が幸せにする。私が正妻、お前が愛人枠だ」

「奥方様! 殿のことはお任せくだされ」

「じゃあね、妹ちゃん」

「またっすね!」

 

 手を振りながら、徐々にドラが翼を羽ばたかせて、高度を増していく。

 あと数秒後にはみんなが小さく見え、そしてすぐに見えないところまで離れてしまう。

 その時が来るまで、俺たちはずっと手を振り続けた。

 そして………

 

「ッ……フォ、フォルナアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 俺は最後に、フォルナに向かって叫んだ。

 

「俺もお前に負けないぐらい、イイ男になってやる! だから、必ずまた会おうぜ!」

 

 他にも言うべき言葉はあっただろうが、それでも、唯一絞り出せたのは、この言葉だけ。

 だが、フォルナにはそれで良かったのかもしれない。

 両手を上げてジャンプしながら、フォルナが空に向かって、叫んだ。

 

「当り前ですわ! そしてワタクシは、イイ男になったあなたに相応しいイイ女になっていますわ! だから……いつかまた!」

 

 もう、フォルナの姿が遠く見えなくなっても、その言葉だけはちゃんと俺に届いていた。

 

「ふっ……まったく、クソメンドクせー夫婦だな」

「……ふん……もう、フォルナに気を使うのはやめた。今日から私が……早速夜這いを……」

「ウラ殿、何やら物凄い闘志がメラメラと!」

「ふふふ、か~わい~な、みんな。食べちゃいたいぐらい」

「兄さんモテモテっすね~」

 

 少しだけしんみりとした気持ちも、すぐに吹っ飛ばしてくれる。

 こういう時、一人じゃないっていうのは本当に救われる。

 

「で、愚弟……とりあえず、神族大陸を目指すのか?」

「ん? そうだな……」

 

 この旅はどこまで続くのか? どこを目指すのか?

 それは世界の果てまでだ。

 その果てで、いつかあいつを救えるぐらいの男になって再会してみせる。

 

 

「とりあえず……『どこまでも』だ」

 

 

 俺の旅はまだ終わらない。

 

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