異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第130話 無償の愛

 そこから先は、俺は一切声を出すことができない。

 それどころか、俺の体を上空から見ている気がする。

 この感覚……うおおおおおお、幽体離脱してんじゃねえのか?

 やばい、意識が遠のいて……なんだ? 

 

 

―――ヴェルト、元気か?

 

―――ヴェルト、大きくなったわね

 

 

 あ……親父……おふくろ…………何で二人の姿が、ここに?

 

「ヴェルトが、ヴェルトが凍りついてしまった! う、うそだ! うそだああ!」

「殿ォ! 殿ォ! とのおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「愚弟! 目え覚ませ! こら、死んだら殺すぞ! くそふざけんじゃねえ! 愚弟!」

「やばいわよ、体の芯まで凍りついて……仮死状態に近い……このままじゃ、弟くんが!」

「にいさあああん! にいさああああん! にいさあああああん!」

 

 ようやく目的地にたどり着いたのか、過酷な環境から一変したようだが、俺に何の実感もない。

 目的地に着いたというのに、誰も景色を見ようとしない。

 俺は、身動き一つせずに横たわる俺の肉体の傍らで必死に叫んで泣きじゃくる仲間たちを、遥か上空から見ていた。

 

「そ、そんな、彼は……彼は一体どうされたのですか?」

 

 何が起こったのかが理解できずにうろたえるエルジェラに、ファルガが鬼のような形相で掴みかかった。

 

「この、クソ女が!」

「ッ!」

「いや……テメェを責めても仕方ねえ。愚弟が耐え切れねえことを真っ先に気付かなかった、俺の責任だ!」

 

 ファルガが悔しそうに雲の地面を殴りつけた。

 

「お、おきろ、起きろヴェルト! こ、こんなバカみたいな死に方は許さないからな! わ、私を、私の傍に居てくれるって約束したではないか! フォルナだって、フォルナだって!」

「殿…………くっ、何が……何が殿の懐刀か……」

「ちょっ、ムサシちゃん! 何をお腹を切ろうとしてるのよ!」

「落ち着くっす! このままじゃ、兄さんが、兄さんが、兄さんが! そうだ! じ、人工呼吸とか! とにかく兄さんの体をあっためるっす!」

 

 ああ……なんだよ、これ……これが、ヴェルト・ジーハの最後か?

 朝倉リューマは事故死で、ヴェルト・ジーハは凍死?

 なんつう、何の前触れもないあっという間な幕切れだよ。

 だが、その時、暗雲漂う空間に、神々しい光が差し込んだ。

 

 

「みなさん……下がってください」

 

 

 それは、目を覆うような光のオーラを身にまとった、エルジェラの真剣な表情から発せられた声だった。

 

 

「申し訳ありません。地上人は皆、環境変化に耐えられると思ってしまった、私の落ち度です。だから、その償いを……彼を絶対に死なせません。天に誓って」

 

 

 その時、何を思ったのか、エルジェラが自身の服をビリビリに破いて、何一つ覆うことのない生まれたままの姿になった。

 

「テメェ……」

「貴様、こんな時になにを!」

「エルジェラちゃん?」

「何をするでござる!」

「うおっ」

 

 は? はああああああああああああああ! ちょ、なんか、エルジェラが素っ裸になったんだけど! 

 しかも、一切包み隠してねえし! ちょっと待て、スーパーモデル並のスタイルは分かった!

 てか、全部見えてんだろうが! でっかい山とか、谷とか、茂みとか!

 

「私が介抱します」

 

 それは、一瞬だった。

 エルジェラが手を横たわる俺に向けた瞬間、凍りついた俺の衣服が全て粉々に砕け散った。

 って、お、俺を全裸にしてどーすんだよ!

 

「失礼します」

 

 誰もが呆然としていた。

 いや、全裸のエルジェラにあっけに取られていたわけではない。

 その所作一つ一つがとても高潔なものに見え、その行いを決して邪魔できないような感覚が場を覆い、誰もが見惚れていた。

 

「あなたにはまだ、帰りを待つ方がいます。戻ってください。私に謝罪をさせてください。そして、私に……あなたの名前を教えてください」 

 

 そのままエルジェラは俺の体を優しく、そして強く抱きしめた。

 

「天空の癒しの力、注ぎ込みます。どうか、目を覚ましてください」

 

 それはまるで、母が生まれたばかりの子を抱くような、無償の愛を見ているようだった。

 そして、エルジェラと俺の体を、エルジェラの大きな翼で包み込み、その姿を完全に覆い隠した。

 

「帰ってきてください。この世界に」

 

 エルジェラが顔を寄せ、そして俺の体内に、温かい力、生命の息吹、深い愛情を注ぎ込むように唇を重ねた。

 その瞬間、俺の体の心臓がポンプした。気づけば、第三者のような視線ではなく、紛れもなく俺の肉体から見る世界が広がっていた。

 体の芯から温まり、心すら洗われるような感覚。

 目の前には、涙を流しながら微笑む天使。

 天使は俺をそっと抱きしめて、囁いた。

 

「おかえりなさい。無事で……良かった……」

「……生きて……んのか? 俺は……」

「そして…………ごめんなさい………私の所為で……あなたを……」

 

 正直、アホみたいな流れで死にかけて、色々と言いたいことがあったのに……

 

「ヴェルト・ジーハ」

「えっ?」

「それが、俺の名前だよ。……満足か? それと………あ、ありがとよ……なんつうか……助かったよ」

 

 俺が、まだ硬直が溶けきっていない体で、何とかそれだけ搾り出すと、天使の微笑みから一変し、一人の女のような可憐な笑顔に変わった。

 

「はい。よろしくお願いしますね、ヴェルト様!」

 

 今、俺は奇跡の中に居るのかもしれねえな。

 不良は神に祈らねえのに、天使に命を救われた。

 

 

「く、はは、まったく、こんな形で、死んだ親父とおふくろに再会するとはな」

 

「まだ動いてはダメです。体が元に戻るまで、どうかしばらくこのままで。こうして肌を直接重ねることが一番温かいのですから」

 

 

 とても温かくて、心地よくて、いい香りがして、すげーやわらかい。

 そして、俺はこのとき気づいた。

 人工呼吸と人命救助のためだけど、俺は今、絶世の美女と裸で抱き合って唇を重ね合わせてしまったこと。

 

「というわけで、もっと力を送り込みますので……チュッ」

「ッッ?!」

「あん、ん、離れてはダメです……その、わ、私もやり方を知っているだけで、今日が初めてですのでうまくできていないかもしれませんが……」

「い、いや、そうじゃなくて!」

「遠慮は無用です、チュッ!」

 

 そして、エルジェラはキスを止めねえ。俺の頭をガッチリと掴んで口内をクチュクチュ音を立てながら何かを送り込んできている……なんか、エネルギー的な? 熱い。体が。確かに熱く……いや、これはもう別の意味でも熱くなってる!? やはりこの状況が色々とまずい!

 ヤ、ヤバイ。気づいたら……

 

「あん」

「ッ」

「な、なんです? 何かが、私の足に当たって……」

「う、うご、動くなああああ!」

「な、なんですか、これは! す、すごい、かたい……まだ、硬直が! で、でも、温かい。それに、こんなもの、私たちにはついていない……」

「テ、テメェ握るなァ!」

「きゃっ! び、ビクって! こ、これは一体……熱がこもっていますね……まるでココもまた一つの生物のように……地上の方は体に妙なものをお持ちなのですね……」

「うごお、ふご、ふご、ふるがは! ふがるはあああ!(は、離れろ! い、息ができねえ! 胸を俺の顔におしつけるな!! 握るなぁあああああ!!)」

「や、やん、ダメです、くすぐったい、しゃ、喋らないで……ください……ヴェルト様……あ……な、なんでしょう、私……ドキドキしてきました……お、お股もムズムズと……」

「ふごぉおおおお!?」

 

 ………ダメだ、フォルナには絶対にバレちゃまずい。

 

 

「あん、ヴぇ、ヴェルト様……て、天力は口移しで受け渡すもので……む、胸からは……な、何も出ませんが……ですが、それで落ち着かれるのでしたら、どうぞご自由になさってください……」

 

「ッッッ!!??」

 

「その代わり……その……せっかくの貴重な経験ですので、私もヴェルト様のモノを触られせてください……」

 

「――――――ッッ!!??」

 

 

 バレたら、天使でも治癒不可能なぐらい徹底的に殺される……てか、俺は初対面の天使なお姫様とナニをやってるんだ?

 

 

「おおおおおおい、ヴェルトぉおおおおお! この翼の中で何をしているぅぅううう! 声は聞こえているんだぞぉお! 生きてるならまず顔を出せえええ!」

 

「殿ぉおおおお! 殿おおおおお! 拙者にも殿のご尊顔をぉおおお!」

 

 

 そしてこっちもヤバイ……

 

 

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