異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第138話 今日この日のため

 緊急事態だった。

 

「……生まれますか?」

「生まれます」

「……お、おめでとうさん。良かった……な?」

「はい、こんな状況なのに幸せなので困ります」

 

 正直、現実逃避したい気持ちでいっぱいだった。

 だって、そうだろう?

 生きるか死ぬかの佳境の中で、共に戦うべき相方がデキちゃって生まれそうなんだから。

 

「ッ、おい、本当なのか? 腹だって、出てないし!」

「えっ? 地上人は子供が生まれるときに、お腹が出るんですか? なぜ?」

「なぜって、子供は腹の中に宿って生まれるもんだろうが!」

「そ、そうなのですか? 我々、天空族は、子供は超天能力の天力の光に包まれて排出され、その光が子供へと変わりますので」

「いや、別にそれはどうでもいいけど、とりあえず生まれるんだな! 生まれるんだな?」

「え、ええ……ど、どうすれば……」

 

 いや、そんなの男の俺に聞かれても。

 五年前にハナビが生まれた時の知識しかねえし。

 

「大丈夫です、今、この場で生みます」

「お、おい! こんな所で生んでどうするんだよ! あぶねーだろうが! もう少し我慢できねえのか?」

「……残念ながら……今、この子を生まずに、これ以上私が天力を消費すれば、間違いなくこの子は死にます。だからと言って、チロタンが近くを飛んでいる以上、街へ戻ることもできません。だからこそ、この子を救うためにも、今この場で分裂します!」

 

 ちょっと待て、マジで状況を考えろ! ……と、言おうとしたが、俺はハッとした。

 

「おい、これ以上力を消費したら、死ぬってどういうことだ?」

「………」

 

 その時、エルジェラが難しそうな顔をした。

 

「私は今日、大幅に天力を消費しています」

 

 そうだ。

 俺を復活させたこと。そして、戦争やさっきの戦闘でもそうだ。

 

「通常であれば問題ありませんが、今日はあいにく……ですから、この子を無事に産むには、天力のみならず、別の力で補うしかありません」

「……別の力……だと?」

 

 俺の脳裏に嫌な予感が過ぎった。

 それは、今のエルジェラは何かを決意したような、それでいてどこかで見たことのある表情をしていたからだ。

 

 

「私の、生命力です」

 

 

 ああ、思い出した。

 親父だ。

 

 

――ヴェルト。パパがこいつを倒す。その間に、城へ逃げなさい

 

 

 あの時……突然現れた亜人におふくろが殺され、せめて俺だけでも逃がそうと、死を覚悟した時の親父と同じ顔だ。

 

「ヴェルト様。一生のお願いです。もし、私の身に何かありましたら、この子をどうか姉さまたちの所へ」

「ッ、エルジェラ!」

「必ず、この子を産んでみせます!」

 

 どうしてだ? 何で『お前ら』は簡単に子供のために命を投げ出すんだよ!

 残された子供が、どんな気持ちになるか、考えたことはねえのかよ!

 

「くそ……」

 

 いや、分かってる。どうして、子供のために命を投げ出せるのか。

 理屈じゃねえ。簡単な気持ちだ。

 

 

―――ヴェルト、世界一愛している

 

 

 世界一愛しているからだよ! 自分の命よりも何よりも! 

 それなのに、俺はどうだ?

 親父とおふくろに守ってもらったこの命に……ふさわしい生き方をしてんのかよ!

 

「くそ、おい、エルジェラのガキ! 天力とは違うが……俺の魔力も持っていけ!」

 

 気づいたら、俺は手を伸ばしていた。

 

 

「ヴェルト様、何を! 危険です! このままでは、ヴェルト様まで! 私が、命に変えてもこの子を産んでみせます!」

 

「ガキの意思を無視して勝手に親が命を懸けるんじゃねえ! ガキがみんな、それで喜ぶと思ったら大間違いだぞ!」

 

「ッ、ヴェ……ヴェルト……様……」

 

 

 ああ、本当に俺は何をやっているんだよ。

 今日初めて出会ったばかりの女のために、何で俺が命懸けにならなくちゃいけねえ。

 こういう時は、いつだって、『興味ねえ、メンドくせえ』ってシカトするはずなのに。

 いや、違うな。

 俺がこうやっちまったのは、エルジェラのためなんかじゃねえ。

 

「なあ、エルジェラ。お前はさ、親に命を捨ててまで守られた子供の気持ちが分かるか?」

 

 今から生まれてくるエルジェラの子供に、俺は背負わせたくないと思っちまった。

 

「親が自分の身を投げ出してでも助けてくれた。子供はな、親に感謝をするんじゃねえ。申し訳なく思うんだよ。自分がいなければ……自分がもっと強ければ……自分が親父とおふくろを救えるぐらい、しっかりしてさえいればってな!」

 

 覚えてる。あの日の光景は、今でも覚えている。

 

 

―――ヴェルト……逃げ……て……マ、マが……まも……

 

「俺の、おふくろが……」

 

―――とっとと逃げろって言ってんのが聞こえねえのか! たまには親の言うことぐらい聞けってんだよ、このバカ息子が!

 

「親父がそうだった! こんなデキの悪いクソガキを守るために、命を懸けた! でもな、エルジェラ! お前は、同じことをするんじゃねえ! まだ生まれてきてもいねえガキに、背負わせるんじゃねえ! 一人に……するんじゃねえよ。一度も死んだことのねえ奴が……子供に死ぬ以上に苦しい想いを背負わせるな!」

 

 

 あの日救われた命は、今このためにあるんだ。

 だから、親父、おふくろ、力を貸してくれ!

 

「うっ、ううう、くっ、ううう、ダメ……本当に……これ以上は、ヴェルト様まで……」

「上等だ! さいっこうに本望じゃねえか!」

 

 助ける! 絶対に!

 あの日の後悔は、今この命を救うために続いていたんだ!

 

「はあ、はあ、………ヴェルト様………」

「くそ、くそ! くそ! 諦めるんじゃねえ! 根性見せろ!」

 

 光が弱まっていく……

 エルジェラの呼吸がどんどん薄れていく……

 クソ! クソクソクソクソクソ!

 

「おい、……聞いてるか? どこのどいつか知らねえが……朝倉リューマなんて、なんの価値もねえクソ野郎に第二の人生を与えるなんて意味のねえ奇跡を起こすぐらいなら、……今、この命を救ったらどうだ! どうせならそういう奇跡を起こせよな! この俺が! 朝倉リューマが! ヴェルト・ジーハが! 初めて正しいことをしているんじゃねえかよ!」

 

 もし……本当に神が居るなら……ここが一番天国に近い場所なら……

 

 

「俺に力を貸せええええええええええええええええええええええええ!」

 

 

 俺は生まれて初めて、神に祈った。

 

 

――えっ、……えう……えっ……

 

 

 その時、俺は、新たな命の芽生えを聞いた。

 

 

「ほぎゃー」

 

 

 奇跡を目の当たりにした。

 

「あっ……ああ、あっ! 赤ちゃん……私の、赤ちゃん……」

「ほぎゃー、ほぎゃー、ほぎゃー!」

「ああ、ありがとう! 生まれてきてくれて、ありがとう! 赤ちゃん! 私の赤ちゃん!」

 

 涙を流して子を抱きしめる、エルジェラ。一人の母親がそこにいた。

 そして、俺も思い出した。

 ハナビが生まれたとき、俺もウラも、先生もカミさんも、こうして泣いていた……

 あの時の気持ちを思い出した。

 この子のためなら、俺は命だって懸けてやるって、あの時の気持ちを……はは、さっきまでと矛盾しているが、そう思ったんだ。

 

「ヴェルト様……ありがとうございます、ありがとうございます」

「ほぎゃー、ほぎゃー」

「もう、こんなに元気よく泣いて。こんな、状況も知らずに……さあ、せめて、あなたの恩人に挨拶をしなさい」

 

 エルジェラが抱きしめた赤ん坊を前に出して俺に向けた。

 俺は、そっとその子に手を差し出して、小さな小さな手に、指を乗せた。

 すると、赤ん坊は俺の指をギュッと握った。

 

「はふ~……きゃう、きゃふ……」

 

 そして泣くのをピタリと止めて、笑った。

 

「まあ、この子ったら。ちゃんと分かっているのですね。ヴェルト様が命を救ってくれたことを」

 

 逆に俺が涙が出そうになった。

 

「はは……くはははは…………不思議なもんだ……俺の魔力が半分流れているからか? いや、そんな理屈じゃねえな」

 

 俺がこの子に特別な感情を抱くのは、自分の魔力が流れて生まれた子供というだけじゃないかもしれない。

 でも、理由なんてそもそも、どうでもいいんだ。

 もう、今の俺は、いちいち理由なんて考える必要がないからだ。

 

「エルジェラ。まだ、救ってなんかいねえよ」

「ヴェルト様?」

「この状況を切り抜けてこそ、初めて俺が救ったことになるんだからよ」

 

 そう、まだ終わっていない。

 救うのはこれからだ。

 

 

「なんだ今の光はー! ここか? ここら辺にいるのか! 出てこおおおおおおおおい! 出てこなけりゃ、この辺り一帯をぶっ飛ばすぞおおおお!」

 

 

 来やがったか。

 

「ッ、ヴェルト様、何を!」

「安心しろ! 俺が必ず守ってやるよ」

 

 そう、救う。守る。

 

「まっ、待ってください! 無茶です、ヴェルト様!」

 

 そうでもねえさ。

 無茶で無謀だと分かっていても、亜人から我が子の命を守り抜いた、偉大なる親の息子だからな。

 だから、今度は俺の番だ。

 

「ぶっとばす必要なんかねえよ。今、出てきたやっからよ」

 

 雲海の上へと顔を出し、俺はチロタンと再び対面した。

 

「ぬっ? くくくくく、そこに居たか」

「よう、久しぶり」

 

 不思議なもんだ。

 恐怖で震えが止まらなかったはずが、今はかなり落ち着いている。

 恐怖がなくなっている。

 そして、チロタンはというと、ノコノコ出てきた俺を見て、腹を抱えて笑った。

 

 

「グハハハハハハハハハ、よく見たら、テメエは人間じゃねえかよ! 何でテメエみたいなカス人間が、天空族に肩入れする! 七大魔王に挑むことがどんなことかを理解してねえのか? 覚悟もねえクソガキがァ!」

 

 

 覚悟……なかったよ……だから、俺は戦争からも逃げた。

 明確な理由が無ければ、戦闘も避けた。

 でもな、今は違う。

 今、この瞬間は違う!

 

 

「覚悟なら……今、決めてきた!」

 

 

 あの赤ん坊が俺の手を握った瞬間に、俺の腹は既に決まっている。

 

 

「生まれたばかりの何も分からねえ赤ん坊が……こんな俺に無垢な笑顔を見せてくれたんだ! 守ってやるのが男だろうが! あの命を守れるなら……俺を守って死んだ親父とおふくろに胸を張れる生き方ができるなら、相手が七大魔王でも四獅天亜人でも……世界全部が相手でも戦ってみせる!」

 

 

 だから俺は今、こうしてここに居るんだよ!

 

 

「……ケッ…………チョロチョロチョロチョロ逃げ回ってたクソが……生意気な男じゃねえか。ア?」

 

「お前も子を持てば分かるさ。ガキが居れば、親は嫌でも成長しなくちゃいけないんだよ」

 

「それで、死んで本望か?」

 

 

 死んで本望なはずがねえ。俺は必ず生き残る。生き残ってやる。

 こんな俺を愛してくれる奴らだって居るんだからな。

 

 

「こんな命、何の価値もねえと思っていた。でもな、なんだろうな、この気持ちは……溢れる力はよ……」

 

「あっ?」

 

「打算でもねえ、興味でもねえ、だからって前世の何かが関係しているわけでもねえ。いつだって、自分をクソ野郎だと自覚して生きてきた俺が、生まれて初めて自分を誇らしく思っている。そうだ、朝倉リューマが転生したのが神乃美奈のためだとしたら、ヴェルト・ジーハが生きるのは今この時のためだ」

 

 

 今なら分かる。どうして親父とおふくろが、絶対に勝てないと分かっている亜人に立ち向かえたのか。

 今なら分かる。どうして人類大連合軍に追い詰められた手負いの魔王シャークリュウ……鮫島が、あれほど強かったのか。

 守るためだ。

 自分にとって、何より大切なものを。

 

 

「さあ、かかってきやがれ! 俺にできることなら、なんだってやってやる!」

 

「くくくく……クソガキがのたまいやがって。ところどころ、意味不明なところがあるが、これだけは分かるぜ。テメエは脆弱な人間だが……漢じゃねえか!」

 

 

 俺は生まれて初めて、前世に縛られることなく敵に立ち向かった。

 

 

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