異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第139話 ハッピーバースデー!

 爆音すら掻き消えるほど深く濃い雲海の中へと俺たちは移動した。

 生まれたばかりの子供に危害を加えたくなかったからだ。

 だが、意外なことにチロタンはそれをアッサリ了承した。

 濃い雲が視界をいちいち邪魔する中、俺とチロタンは一対一で向き合っていた。

 

 

「くくくく、いい面構えじゃねえかよ。女を守ろうって男のツラだ。最近の俺様の部下どもはどいつもこいつもブスババア共の色香に騙されてフラフラする糞味噌共だ。骨のある奴はいねえかと思ってた」

 

「偉大なる魔王様にお褒めいただき光栄だな。だが、言っておくが、女は顔じゃねえぜ。覚えておきな」

 

「その通りだ! 女は、か弱さこそ最大の魅力!」

 

「いーや、強い女も捨てたもんじゃないぜ?」

 

「そんな女は捨てていいんだよ!」

 

「俺は捨てねえよ。何故なら女のポイ捨ては人類の敵だからな。全ての男に呪い殺される」

 

 

 不思議なもんだ。

 以前までこうやって強がりのような挑発行為を繰り返して、相手の隙をつくような姑息なやり方しかできなかった。

 だが、今は、頭は異常なほど落ち着いて、なのに心は非常に熱く滾ってやがる。

 闘志が沸いてくる。

 

「最後にひとつ聞かせろ。テメエは人類大連合軍か? それとも、ハンターか?」

「どっちでもねえよ。俺はこの世で最も愚かな生物……そこから抜け出したいと思う、ただの不良だ」

「くく、ガハハハハハハハ! くだらねえ! それでいいのか? 死ぬ前の名乗りがそれで」

「死なねえよ! 子供の名前もまだ聞いてねえからな」

「ガハハハハ、そうかよ……」

 

 会話が途切れた。

 静まり返る雲海の上にて向かい合う俺たちの間に、ほんの僅かな沈黙が流れた。

 そして、次の瞬間、

 

 

「なら、シネエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」

 

 

 チロタンが、爆速で俺に向かって飛んできた。

 魔力を爆発させ、威力とスピードの増加。

 さらに、こいつは、魔法でチマチマ攻撃するタイプじゃねえ。

 溜め込んだ魔力を全部筋力強化に持っていく、脳みそどころか細胞まで筋肉でできているタイプだ。

 

「さーて、パパの力を見せてやろうかね」

 

 触れただけで致命傷だろうな。事実、バキバキに折られた俺の左腕はまったく動かねえ。

 右腕に警棒構えて、もう一本の警棒を宙に浮かせて迎え撃つ。

 正直、今までなら、ふわふわ逃げ回っているところなんだろうが、不思議だ。

 俺の心が前へ行けと言ってやがる。

 

「この、サルがああああああああああああああああああ!」

「ツオラアアアアアアア!」

 

 チロタンの右ストレート。俺は今の俺の筋力で可能な最大限の力をぶつけた。

 火事場の馬鹿力を越えて、食いしばった歯から血が噴き出す。

 血管が爆発しそうだ。

 

「ぬっ、くくくく」

「ウラアアアアアアアアアアア!」

 

 だが、そんな想いだなんだも軽く蹴散らしてこそ魔王様。

 

「軽いぞコラアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 警棒で受け止めようとしたが、全身バラバラになりそうな衝撃が駆け抜けた。

 その衝撃に耐え切れず、俺は遥か後方に飛ばされて雲の上を転がった。

 

「ぐっ、かははは、さっすが、魔王様……とんでもねえ重さだ……」

 

 俺が弱いのは分かってる。だが、それでも分かる。

 こいつもまた、鮫島やイーサムのように激戦の修羅場をくぐり抜けて叩き上げられた本物の怪物だってことがな。

 

 

「ふっ、弱すぎるぞ、軽すぎるぞ、糞味噌野郎が! 男を語るにしても、女みたいにナヨっちいその力で、この俺様をどうにかできると思ったか! それとも、想いが強さに変わるとかウスラ寒いこと言うんじゃねえだろうな! そんなもん、メッタメタだ!」

 

 

 ちっ、痺れがなかなか収まらねえな。

 ほんっとに恐ろしいやつなのに……どーして、俺はアッサリ立っちゃうのかね?

 

 

「ちげーよ、俺はただ、……体が勝手に動くんだよ。俺の中の本能って奴がな!」

 

 

 なんで、向かっちゃうのかねえ!

 

「あっ? クソガキ……ぬっ!」

 

 俺の持てる最速浮遊移動。

 その速度で正面衝突と見せて、直前で方向転換。

 普通、相手の動きは僅かな筋肉の動きとかで予想するんだろうが、俺は違う。

 筋肉の動きや反射は関係ない。頭の中に思い描いた動きをそのまま実行できる。

 当然、予想とは違う動きをした俺に、チロタンは一瞬だけ固まった。

 そこに……

 

「ほごっ!」

 

 時間差で、宙に浮かせていた警棒の先端で喉仏を突く。

 動きがさらに止まり、隙が出来た。

 

「ツアアアアアアアア!」

 

 もう一発、こいつの脳天に警棒で一撃!

 ここまで来たら、喧嘩だ殺しだなんだと言ってる余裕はねえ!

 脳みそグッチャグチャにしてでも、ぶっ倒す。

 

「ウルアアアア!」

 

 少し浮いて、チロタンの頭部にローキック! サッカーボールキック! 

 向う脛が、つま先が折れようと、何発だってぶつけてやる。

 たとえ、ぶっ殺してでも!

 

「無駄だ……」

「ッ!」

「こんなもんで俺を………ぶっ殺せるかあああああああああああああああああああああああ!」

 

 蹴りが頭部に接触した瞬間に、弾かれた。

 溜め込んで、高めてやがる! 体内にある魔力を極限まで!

 

「教えてやるぜ、人間! ぶっ殺すってのは、こういうことだあああああ!」

 

 何をするために? 決まってる。あのキノコ雲を生み出したような、大爆発だ!

 

「ちっ、させるかああああ!」

 

 させねえ! だが、どうする? 俺のふわふわ技はこいつには通用しねえ。

 打撃技も致命傷を与えられねえ。

 あと数秒後に起こる爆発を防ぐには?

 

「死ねええええええええええええええええええええええええええええええええ!」

 

 それは、ただの光だった。

 

「……はっ?」

 

 チロタンは全てを開放するかのように体を大の字にして広げたまま、固まっていた。

 

「……ッ! 死ね! 死ね! 死ねえええ!」

 

 魔力の発光で光の柱ができる……かと思ったが、世界は静まり返ったまま。

 爆発は、これっぽっちも起こらなかった。

 

 

「……な、なんでだ! なんで爆発しねえええええええ!」

 

 

 まさか、俺もこんなことになるとは思わなかった。

 いや、むしろ、こんなことが出来るとは思わなかった。

 

「ッ、テメエか! テメエか、小僧! 俺に、俺に何をしたああああああああああああ!」

 

 耳が痛くなるほど叫ぶチロタンだが、その気持ちはよく分かる。

 だって、俺だって驚いているからだ。

 

 

「溜め込んだ魔力を一気に放出させるのがお前の爆発なら…………その魔力をどっかにやっちまえばいい……そう思った」

 

「あっ?」

 

 

 おお、何だか、ようやく俺も緊張してきたのか、足がガクガク震えてやがる。

 いや、違うな。これはむしろ、興奮だ。

 今、俺が実現させたことに、自分自身で驚きを隠せないからだ。

 

「上」

「はっ?」

 

 その瞬間、地上から遥か何万メートルもの高度を誇るこの雲海よりも更に上空で大爆発が起こった。

 それは、本来はこの場で起こるはずだった爆発だ。

 

「な、なぜ……何故だ!」

「簡単だ。テメェから放出された魔力を全部、俺の浮遊《レビテーション》で遥か上空に飛ばしたからだ」

「………な……はっ?」

 

 当然、キョトン顔だ。まあ、俺も、正直無我夢中だったから、今起こった現象が、本当に俺自身の考えと一致しているかは、まだ検証していないんだけどな。

 

 

「魔法学校中退の俺でも知っている。生物は、魔力を体内に留め、戦闘になりそれを放出する。その放出する魔力に、炎やら雷やらの力を付加させるわけなんだが…………どうやら俺は、体内から放出されて『空気中』に出た『魔力』を浮遊の応用で自在に操れるみたいだな」

 

「ッ、バ、バカな! そんなのありえるはずがねえ! 浮遊なんて、ガキでも出来る基礎中の基礎魔法で、そんなことが出来るはずがねえ! そもそも、その魔法は生物には通用しねえ! 魔力も一緒だ! ましてや、俺に触れてもいねえ離れた場所から、魔力だけを操作するなんて出来るはずがねえ!」

 

「そうだな。俺もそうだと思ってたよ。でもな、今にして思うと疑問だった。俺はガキの頃、浮遊の大前提で、触れたもの以外は浮かせられない、生物には通用しねえって思っていた。だが、それなのに俺は今では離れた場所にある物を浮かせたり、川の水や地面だって浮かせることができる。今ようやく全てが分かった」

 

 

 そう、俺は触っていないものを浮かせられるようになったわけじゃない。 

 触っていたんだ。

 

 

「俺は、間接的に触れてさえいれば、それを浮かせることができる」

 

「ああ? あの打撃で俺に触ってたって言いたいのか? だが、それと俺の魔力を自在に動かせるのは、別の話だろうが!」

 

「違う。俺は……空気を通して、お前の魔力に触れていた」

 

「…………なっ………」

 

「そう、生物を服ごと浮かせることで動かせるように、俺は空気に触れているものを空気ごと浮かせることで動かすことができる」

 

 

 浮かせたのは、魔力ではない。

 空気だ。

 

「テ、テメェ、まさか…………」

「そうだ。俺は…………俺が存在する空間の空気を操作することができるらしい」

 

 チロタン、安心しろ。俺だって自分で解説してて、何を言っているのかがよく分からない。

 だが、そうとしか考えられないから困っている。

 小難しい意味不明な言葉を並べるより、結論を言ったほうが早い。

 俺は空気を操ることができる。

 俺は、空気に触れているものなら、魔力だろうと操ることができる。

 

「そんなことありえるかあああああああ!」

 

 そして、空気に触れているものを操ることができるなら……

 

「ふわふわパニック!」

「ご、ごおおおおお!」

 

 もう、衣類にレビテーションをかける必要もねえ。

 たとえ、全裸の奴がいても、空気の存在する場所なら空気を、仮に海の中に居るなら海水を操れば、俺は実質、強制的に生物に対してレビテーションをかけることができるわけだ。

 

「ッ、どりゃあああ!」

「くははは、あれだけ魔力を放出したのに、スゲーパワーだな。筋力だけで俺の戒めをぶち破りやがって」

「この! このクソガキが! クソガキが! クソガキガアアアア!」

 

 怒りによって魔力が益々放出されて全身に行き渡らせるチロタン。だが、ぼやぼやしていたら、それは今の俺からすれば弱点になる。

 

「ぬっ、お、おお……お、俺の魔力が、俺から離れて、膨大に外に飛んでっちまう!」

「くはははは、ボヤボヤして垂れ流していると、俺が根こそぎ掴み取るぞ?」

 

 空気に触れて放出された魔力のエネルギーを、無理やり浮遊でチロタンから引き離す。

 あれだけ、大気を揺るがすほどの魔力を溢れ出していたのに、チロタンはガス欠したかのように静かになった。

 

「こ、こんなことが……」

「そうだ。試してみたら、こんなこともできたりしてな」

「ッ!」

 

 そして俺は、更に先を行く。

 チロタンから切り離した膨大な魔力を俺は上空で分散させずに、塊のまま空気で押し固めて、右手に構える警棒に纏わせた。

 

 

「なっ!」

 

「魔道兵装なんて、高等なもんじゃねえ。だが、原始的だが効果は同じだ。魔力で肉体を包み込むことにより、全身を強化する。まあ、この場合は警棒だけどな」

 

 

 空気を使って魔力を自在に操作できるなら、留めることもできる。

 今まで感じたこともないほどのエネルギーを纏った警棒。

 

「ドタマ……カチ割れろ!」

「ッッ! ガア、ッ! あ、たまが、くそ!」

 

 これ以上ない衝撃と手応え。

 半分白目になったチロタンの頭部が、僅かに変形している。

 常人なら一発で死んでただろうな。

 

「の……ウガアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 スグに意識を取り戻し、尚且つ反撃に飛びかかってくる。

 しぶとい。

 そして、手負いの魔王ほど恐ろしいものはねえ。

 なのに、俺は……ドSなのか?

 高揚してやがる。

 

「空気の流れを変え、高速で乱回転させて、俺の足の周りにまとわりつかせる」

「ちょ、待て、テメェ、それじゃあ乱気流じゃねえか!」

「ふわふわミドル乱気ック!」

 

 人工的に作り出した乱気流を纏ったミドルキックをチロタンの脇腹に叩き込む。

 それは、破壊力というよりも衝撃力を増幅させ、強靭な肉体を誇るチロタンをぶっ飛ばした。

 

「が、アアアアアアアア、ガ、アガガアアアアア、な、内蔵が、………ご、ごぼっ! どこが、ふわふわだ! メキョメキョ俺の体を破壊しやがって!」

 

 今まで、警棒やふわふわ技で誤魔化してきたが、いつだって圧倒的に足りなかった俺の攻撃力。

 それが……

 

「ふわふわロー乱気ック!」

「ッお!」

「ソラソラソラソラソラ!」

「ぐあ、いて、いでえええ、ご、うがああああ!」

 

 今、俺の掴んだ力が、魔族の中でも最強クラスの魔王を相手に証明できた。

 

「ちっ、クソガアアア!」

 

 接近戦はまずいと思ったのか、チロタンが俺から距離を取るように離れた。

 魔王が俺から後退する? なんとも信じられねえ光景だ。

 でもな、俺に距離は関係ねえ。

 それにもう………

 

 

「ふざけるな! そんな、そんなインチキみてえなフザけた魔法で、俺を倒せると思ってんじゃねえだろうな! 俺の放出する魔力を操る? 空気を操る? だったら、操れねえぐらいの超絶パワーで全部消滅させてやらァ!」

 

「くははははは……無理だ」

 

「ッ、調子にのりやがって! だったら、証明してやる! この、チロタン・ポポポの激烈超絶ハイパーな最強技を、くらえええええええええええええええ!」

 

 

 だから……無理なんだよ、もう。

 

「……なっ? ま、魔力が……」

「あんだけ爆発しまくって、いつまでも火薬が残ってるなんて思うなよな? 俺は浮かせようと思ったものの量や重さは、空気を伝わって大体分かる。テメエがあとどれだけ魔力持ってるかなんて、すぐに分かるぜ」

「……ま、まさか……まさか……まさか!」

「ワリーな。魔王の誇りも重要なんだろうが…………父親は子供の前じゃ、スーパーヒーローじゃなけりゃいけないんだ」

「俺様の魔力が、切れただとおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「アバヨ、魔王様!」

「ッ、て、テメエは……何が、ヒーローだ! テメエは、悪魔だあああああああああああ!」

 

 もう、抗う力なんてこいつにはない。

 

 

「ふわふわパニック!」

 

 

 俺の縛りをブチ破る事すら出来ないほど消耗したチロタンの脳を激しく揺さぶった。

 崩れ落ちる魔王が、雲の地面に落ちた。

 完全に意識を断ち切られ、俺の目の前に横たわる魔王の姿を見下ろしながら、俺は拳をグッと握り締めた。

 新たに、『何か』を掴めたような気がした。

 そして……

 

 

「おお、綺麗な夕日だぜ」

 

 

 チロタンの爆発で乱れていた濃い雲がようやく晴れだし、目の前には海の彼方へ沈むオレンジ色の美しい夕焼けがあった。

 

 

「そう言えば、まだ言ってなかったな…………」

 

 

 ようやく、終わった。そんな気がして俺は不意に呟いていた。

 

 

「ハッピーバースデイ、新しい天使様」

 

 

 そして俺は、拳を天に突き上げてガッツポーズしていた。

 

 

 見ていてくれたか?

 

 

 親父……おふくろ……

 

 

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