異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第177話 次元違いの強大な敵

 寸止めで若干悶々としたまま、ハウの報告を受けたフォルナと綾瀬の顔つきが、正に戦場にふさわしい顔つきを見せた。

 

「状況の報告を」

「はい、魔鏡を使った通信を本陣に。数時間以内に捕虜の処刑を宣言しています」

「ついに来たわね。兄さんの容態は? あと、残存兵についての整理はついたかしら?」

 

 兵力ではなく、残存兵力? それだけで状況が何となくわかる。

 追いつめられているわけか。

 

「ほにゃららしている場合じゃねえじゃねえかよ」

 

 まったくだった。

 いや、それともああでもしないと心を保てないほど、疲弊しきっていたか。

 

「で、ヴェルト。あんたどうして神族大陸に?」

「用事はなかったけど、色々とな。つか、ハウ。テメエも何でだ? バーツやシャウトはまだしも、お前ら新兵がいきなり派遣されるもんなのか?」

「そうでもない。もう、みんな卒業して初陣も乗り越えたんだ。後方支援とか姫様の雑務の手伝いではあるけど、私らはもう兵士として戦場に送られているのさ」

 

 僅かな間でそんなことがあったのか。

 帝国での戦いでは、色んな奴らが怯えたり泣いたりしていたが、今ではもう立派な兵隊さんか。

 

「そいつは、色々としんどいな」

「ああ、そうさ。私らはあんたみたいに好き勝手生きて、性欲溜まったら女を抱くような、自由気ままには生きられないのさ」

「ああ、そ~かよ。でも、新聞じゃフォルナたちは参戦してなかったらしいけど」

「そうだよ。でも、敵の掃討軍がすさまじすぎて、援軍を派遣することになって私たちが。まあ、それでも敵の数の方が多い。今、私たちは残存兵をできるだけ集めて、拠点を死守して、機会を伺ってるのさ」

 

 ギロッと侮蔑のこもった目で睨まれる。

 うわ~、昔からこいつは苦手なんだよな。

 っていうか、それほど話したこともないんだけど、昔から人を見下して腹の中で呆れているような目で、俺を睨んでいる。

 まあ、こいつは他の奴らにもそんな感じだったけどな。

 

「ハウ。無駄口叩いている暇はありませんわ」

「いくわよ」

 

 いそいそと衣類を着ていく二人。

 なんか、白のレースの下着を堂々と目の前で穿かれると、事後みたいで微妙な気分だ。

 そして、人類大連合軍の証である希望の太陽の紋章が刻まれたマントを纏った、フォルナと綾瀬。

 その風格とたたずまいは、思わず敬礼したくなるぐらい、凛としていた。

 

「ヴェルト」

「お、おう」

「ここに来てしまった以上、あなたの身は守りますわ。一緒に来てくださいな」

 

 それだけを言って、森の奥へと進むフォルナ。

 今まで見たことのなかったフォルナの一面を、こんな形で見れるとは思わなかった。

 

「でも、最悪の場合は自分の身は自分で守ってもらうわよ。もし、私たちに何があっても……絶対にあなたは生き延びなさい」

 

 綾瀬までそうだ。こいつらにとっちゃ、俺の方がお姫様か。

 まあ、こいつらはそれだけの力と場数を乗り越えてきたわけだから、そうなんだろうけどな。

 

「安心しろ。邪魔はしないように静かにしてるよ」

 

 俺はそのあとを黙って追いかけた。

 森の奥を進んで数分、そこには森の木々を伐採して地面をならして整地された、広々な場所に天幕が数多く存在し、そしてそのエリアには大勢の武装した甲冑兵や魔法使いがウロついていた。

 数は百や二百じゃ済まないな。

 

「お、おお、こんなとこに?」

 

 数千? いや、もっと多勢だ。だが、そんな人数の鍛えられた兵士たちも、フォルナと綾瀬を見た瞬間にビシッと気をつけをして、左右に分かれて道をあけた。

 

「状況を報告しなさい」

「はっ! 突如本陣に、魔鏡が敵軍より送られ、そこに文字が浮かび上がりました」

 

 魔鏡? フォルナの後に続いていくと、拠点の真ん中らへんの少し開けた場所に、二階建ての建物ぐらいの巨大な四角い鏡が置かれていた。

 鏡の上部は角の生えた髑髏という、いかにも魔族的なデザインで、更にその鏡には血のような赤い色で文字が描かれていた。

 

 

 

「ジーゴク魔王国軍 魔王 キシン・ジーゴクより、人類大連合軍へ告ぐ。

 

我らは魔族大陸の盟主として、この歴史に刻まれる戦を開戦した。

 

次の戦にて、人類大連合軍並びに、人類という種はこの世界から滅びる。

 

もはや、交渉も慈悲も一切ない。

 

何百年の歴史と共に繰り広げられた、我らと人類の戦を終幕とする。

 

なお、最後の壮大な戦の幕開けの狼煙として、光の十勇者の『流星弓ガジェ』をはじめとする、捕らえた将を全て、公開処刑を行う。

 

諸君らの滅びは正に天命として、この神族大陸及び世界の土となり眠るが良い」

 

 

 

 フォルナと綾瀬が読み上げてくれたが、正直、何だこりゃ?

 戦争ってもっと陰鬱なもんだと思ってたけど、いや、空気は暗いけど、こんなバカ正直に宣言するもんなのか?

 

「助けに行きましょう! 姫様!」

「そうです! 姫様たちが援軍に来て下さり、間もなく残存兵を回収に向かったイエローイェーガーズ、そしてギャンザ様も帰還されます」

「今一度、勇者様とともに、フォルナ姫、アルーシャ姫、ギャンザ様、『レヴィラル』様、『ヒューレ』様と共に、我らを導いてください!」

「そうです! 奴らは我らが既に半壊状態だと思って、侮っているはずです!」

 

 だが、絶望を与えるためにしては、逆に人類大連合軍の士気が上がっている。

 

「勿論、敵の罠であることは間違いないわ。でも、それでも行くしかないわね。どちらにせよ、何もしなければ滅ぶのなら、こちらの総力を挙げて」

「御意! 全軍既に準備は整っております!」

「分かったわ。そのためには、改めて全軍の結束を高める必要があるわ! 兄さんが目を覚ましたら。皆に号令をかけてもらいましょ!」

「おお、それは名案ですな! あの方こそ人類の希望! 皆も戦意を高めるでしょう!」

 

 始まるのか。終わりにしないための戦いが。

 特に、仲間の処刑らしき文章が入っていることで、誰もが「俺も」と立ち上がり、鼓舞し始めている。

 

 

「なあ、ハウ。ちなみにさ、前回はどうんなふうに負けたんだ?」

 

「あんたは、サラッとそういうことを聞くね。どうもこうも、完敗だよ。軍も総崩れで、敵軍を代表する六人の将軍、『六鬼《ろっき》大魔将軍』と交戦した光の十勇者も二名死亡で、一人捕虜。さらに、肝心の勇者様は魔王キシンと戦ったものの、ボロ負けしたらしいしね」

 

「はあ? おいおい、勇者ってあれだろ? あの、少年勇者って呼ばれてた。よく知らねーけどさ。でも、ガキの頃に四獅天亜人の一人や、鮫島……魔王シャークリュウも倒したんだろ?」

 

「そう、今では『真勇者』と呼ばれる人類最大の希望。でも、それでも魔王キシンの強さは桁外れだったみたいだ。意識不明の重体で運ばれたよ。まあ、命は繋いだみたいだけどね」

 

 

 新聞には、死んだ光の十勇者の名前と、とりあえず人類が負けたことしか書いてなかった。

 つか、『真勇者』って異名もダセエな。

 あっ、リモコンよりはマシか……

 それにしても、そうか、人類はどうやら本格的に追い詰められてるんだな。

 タイラーたちが時間がないって言ってたのも、なんか分かる気がしてきた。

 

「ついでだ、ついてきな」

「あん?」

「私たちが、何と戦ってるのか見せてやるよ」

 

 そう言って、ハウは俺を連れて、人ごみから抜けるように間をぬっていった。

 そーいや、ハウと二人でこんなに話したのは初めてかもな。

 つーか、こいつがここまで饒舌に話しているところを見るのも初めてだな。

 

「そこの崖からなら、よく見える。そして、全てを理解できるよ」

 

 崖? 

 奥へと突き進むハウの後をとりあえずついていくと、俺は目を奪われた。

 いくつものテントや兵を通り過ぎてたどり着いた場所には断崖があり、そこから見える壮大な山脈、暗黒の空に輝く星空、あまりにもスケールの大きく美しい大自然が広がっていた。

 だが、

 

「って、うおおおおおおお、な、なんだありゃ!」

 

 俺の目は、スケールの大きな大自然よりも、美しい星空よりも、ここから何キロか離れた先に見える、山よりも大きく、雲をも突き抜ける巨大な石造りの建造物に目を奪われた。

 いや、建造物? なんか、人型に見えるんだけど。

 

「ジーゴク魔王国軍、『移動型魔王城・ハンニャーラ』だ。見ての通り、魔族大陸から持ってきたそうだ。あの中には、何万もの兵と数多くの巨大オーガが居て、城自体も防衛として魔導砲撃したりするのさ」

 

 デカイとか、そんなレベルじゃねえ。

 麓の山が、膝上の高さぐらいにしか見えない。

 岩石のようなもので全身を固めながらも、二本の巨大な両足で立ち、両腕を組み、そしてその頭部はかつて前世で見た般若を思わせるものだった。

 

「あっ、あれと戦って負けて、あれにもう一度挑もうってのか?」

「わかったかい? 私たちや姫様たちが戦っている世界を」

 

 世界が違いすぎると思わざるを得ない。

 あんなもん、大砲で撃ったって、小さなカサブタが出来るぐらいのダメージしか与えられねえだろう。

 さらに、ただでさえ強力な鬼魔族を何万も?

 ハハ……フォルナ……そりゃー、オメエが、あんな場所ででも処女を捨てたくなった気持ちが、分からなくもねえな。

 

「は、はは、何か、一発で理解しちまったよ。しんどいとかいうレベルじゃねえな」

 

 俺は足取りをフラフラさせながら、もう見ないことにした。

 あまりにもさっきまで居た世界と違いすぎて、場違い感が凄すぎて、すぐにでもこの場から離れたかった。

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