異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第186話 俺がやらなきゃ

 

「土魔法部隊! 奴の足場を奪います!」

「氷魔法部隊! 奴の動きを封じます!」

「風魔法部隊! 奴の視界を奪います!」

「炎魔法部隊! 奴を根絶やしにします!」

「射ええええええええええええええ!」

 

 

 何千もの魔法の一斉砲撃。広大な戦場の視界が塞がり、巨大な爆炎が高らかと上空へと舞い上がる。

 耳が千切れそうなほどの集中砲火。もはや、肉片一つ残っていないだろう。

 だが……

 

 

「くくくくくく、ぐはははははははははははは! ヌルい! 温すぎるぞ人間どもォォォォ!!!!」

 

 

 笑う青鬼。そして、飛び上がり、その手に持つ巨大な金棒を振り下ろす。

 

 

「鬼星!!!!」

 

 

 それは、正に、隕石だった!

 

 

「ま、まずい! ふわふわ壁《ウォール》!」

 

 

 何も意味をなさなかった。

 上空へ舞い上がったゼツキが、金棒を振り下ろした瞬間、広範囲に広がる衝撃波、まるでキノコ雲のような爆煙、そして目を疑う光景。

 

「い、ちちち、く、なああっ!」

「こ、これは、ば、バカな……」

「か、ば、ばけ、もの……」

 

 目を疑うような光景とは何か? 何が広がっているか?

 答えは何もなかった。

 直径百メートルほどの巨大なクレーター。そして、そこに居たであろう大勢の兵たちが消滅していた。

 

「は、はは、あ、あれじゃあ、味方を巻き込んじまうよな……へ、へへ、な、なんだよ、あれ」

 

 完全に腰を抜かしたシップの言葉には、誰も答えられなかった。

 いや、俺もそうだ。

 

「な、なんだよ、あれは!」

 

 腰を抜かしたのはシップだけじゃない。涙を流しながらへたりこむ、サンヌや、呆然として手に持っていた武器を落としたホーク。

 あの威勢のいいバーツですら、絶句している。

 

「は~~~~、もう、色々とアホらしいぜ」

 

 あの破壊力。見たことある。イーサムも似たようなことをやった。

 ゼツキ。その力が七大魔王クラスってのは十分すぎるほど納得できる。

 そして、フォルナたちは、あの巨大な魔王城の頂上で、こいつより強い奴と戦ってる?

 冗談じゃねえぜ。

 

 

「くそ、ビビんな! ロア王子やアルーシャ姫は、更なる強敵と戦ってんだ! 共に戦う俺たちがビビってんじゃねえ!」

 

「そうだ、負けるわけにはいかない! たとえこの身が滅びようとも!」

 

 

 ドレミファとソラシドが声を張り上げる。

 それに従い、呆然としていた人類大連合軍たちもまだ声が上がる。

 しかし、今ので大半が戦意を喪失している。

 このままじゃ、本当に一人で全滅させられちまう。

 

「かかれェ!」

「うおおおおおおお!」

「負けるかよォ!」

 

 死を覚悟して、正に特攻していく人類大連合軍。

 クレーターの底で金棒担いで、ゼツキは吠える。

 

 

「その勇敢さ、見事! 冥土で誇るが良い!」

 

 

 一振りで二十人近くが一瞬で肉片に変わった。

 

 

「ガハハハハハハ! そうれえええ!」

 

 

 二振りで更に二十人消し飛んだ。

 

 

「どうしたどうした! 吾輩に傷ひとつぐらい負わせられぬか!」

 

 

 三振り目、四振り目、五振り目、これで百人消し飛んだ。

 僅かな間に、人類大陸から選ばれた屈強な人類大連合軍の戦士たちが、たった数秒で身元確認不可能なほどに弾かれた。

 百人だ。

 

「くそ、くそったれがああああ!」

「我々も行きます!」

 

 あれは無理だろ。次元の桁が違いすぎる。

 

「ッ、待て! ドレミファ! ソラシド!」

「くっ、俺たちも行くぞ、シャウト!」

 

 ドレミファ、ソラシドが飛び出し、続いてシャウトとバーツも飛び出した。

 

「ちっ、あいつら………」

 

 向かったのは四人だけ。完全に戦意喪失したシップ、ホーク、サンヌ、ペットは泣きながら、シャウトたちに「行くな」とだけ呟いていた。

 

「ヴェルト様、どうされるでありますか?」

 

 ルンバたちは俺の判断を待っているようだ。

 当たり前だ。せっかくウラに会えるかもしれないのに、ここでアホみたいに特攻したって、無駄に死ぬだけだ。

 

 

「おい……こうして会話している間に、更に百人死んだ」

 

 

 どうする? どうできるんだよ。

 何年もこの天井知らずな化物たちの戦争の世界で、常に勝ち続けた最強の鬼だぞ?

 俺が動いてどうできる?

 

「くそ、シャウト! バーツ!」

 

 何で立ち向かえるんだよ、お前らは!

 

 

「ふははははは、どうした! どうしたァ! 弱すぎるは貴様ら! この程度で、この程度でジーゴク魔王国と戦って、希望を抱くなど笑止千万!」

 

 

 悲鳴を上げる間もなく散っていく人間たち。

 その速度と熱量は、飛び散るはずの血すら蒸発しているように見える。

 

「調子乗ってんじゃねえよ、ゼツキ!」

「我らが止める!」

 

 ドレミファ、ソラシドが駆け抜けた。

 

「超異次元発動!」

「ん? ほう、空間が歪んで視界がブレおる。そうか、貴様が帝国の若武者の一人。異次元剣士のドレミファか」

「そうだ! この空間内全ての感覚がブレさせる。テメエがどんなに最強でも、感覚そのものを狂わされちゃ正常じゃいられねえ! 普段からこの力を使ってる俺以外はな!」

 

 歪んだ空間の中で長剣を頭上めがけて振り下ろす。

 だが、

 

「吾輩の感覚を、人間の感覚で語るな! そんな考えをする時点で、感覚が狂っておるわ!」

「ごふッッ!?」

 

 剣が粉々に砕け散り、全身を真っ赤に染めたドレミファが宙を舞った。

 

「ドレミファァァァァァ! おのれ……くたばりなさい、鬼め! 爆炎の魔法! エクスプロージョン!」

「ほお、噂の天才魔道士のソラシドか」

 

 その影から間髪いれずに飛び出したソラシドが、本来長いはずの詠唱を省略して、ゼツキの足元から爆発を起こした。

 だが、

 

「才能が足りても、火力が足りんわァ!」

「ッ!」

 

 手を翳しただけで、気合のようなものが放出され、ソラシドは何十メートルも飛ばされ地面を転がった。

 

「くくくくく、吾輩の一撃を食らって肉片が残り、更にまだ息があるだけ大したものだ。あと四~五年すれば、吾輩の攻撃を三回くらいは持ちこたえられたかな?」

 

 ドレミファ。ソラシド。恐らくは人類大連合軍では知らないものは居ないであろう。

 それは、何とか持ち直したはずの、人類大連合軍の戦意を再びへし折るのに十分すぎるほどの威力。

 

「うおおおお、エレメントソード・サイクロンセイバー!」

「おりゃああ、エレメントソード・フレイムセイバー!」

 

 や、やめ……

 

 

「やめろおおおお! シャウト、バーツ!」

 

 

 空気を読まなくても分かる。

 全然ッ相手にならねえ。

 

 

「ほほう、これもまた才気溢れる者たちよ。情けない……若武者以外に立ち向かうものはおらんのかああああああ!」

 

 

 同じ結果だった。シャウトもバーツも、剣そのものがへし折られ、血だらけになって地面を転がった。

 息は……している……でも、これで決定的だった。

 

「あ、う、なんでだよ……なんなんだよ、あいつは」

「いやああああ、バーツ! いやあああ!」

「シャウトが……シャウトが……」

 

 誰ももう、立ち向かおうとすらしない。いや、できない。

 心がへし折れるどころじゃねえ。粉々に砕け散ってやがる。

 

 

「仮に、一斉に飛びかかっても、先に飛びかかる千人ぐらいは一瞬で消し飛ぶ。そんなのわかってて誰が飛び込むよ」

 

 

 誰かが言った。勇敢と無謀を履き違えるなと。

 今が正にそれだ。

 圧倒的な人数が、たった一人でへし折れる。

 

「くっ、正に、怪物ってやつだぜ」

 

 つくづく、来るんじゃなかったぜ。

 そう思っている間にも、ゼツキはまたあの隕石のような技を繰り出して、遠く離れた場所にもう一つキノコ雲とクレーターが出現。

 あとはもう、大惨事だ。

 何万も居るはずの人類大連合軍が各所で大混乱と悲鳴を上げて、既に収集がつかなくなっている。

 俺はそれを見ているだけしか出来なかった。

 

「……ドレミファ、ソラシド、あいつらがやられる直前、俺はゼツキから金棒を奪うか方向を変えようとして、ふわふわ技を使ったが、弾かれた」

「ヴェルト様?」

「距離が離れてることもあるんだろうが、あいつの肉体的な強さ、そしてその身を包むフォルナのような魔道兵装が、俺の魔力をアッサリ破って弾き飛ばしやがった」

 

 つまり、離れた場所であの鬼をどうにかするのは不可能。

 それこそ、天空世界でチロタンと戦った時ぐらいに接近するしかねえ。

 

「って、俺……戦い方を考えてんのか?」

 

 そう、接近して戦うしかない。

 あの時のように命懸けのことを……俺が……何のために?

 

「無理だ。ここは逃げたほうがいいよ」

「ッ、ハウ!」

 

 その時、俺の迷いを打ち切るように、ハウが言った。

 

「あんたは死んだらまずい。だから逃げたほうがいい」

「おい、急にどうしたよ、ここに来てよくしゃべるじゃねえかよ」

「別に。ただ、あんたが死んだらまずいっていうのは分かったからね。ゼツキは光の十勇者よりも強い。明らかだ」

 

 要するに戦えば死ぬと分かってるってことだ。

 そうだよな。

 そんなの分かりきってるよ。俺みたいなチッポケな不良じゃどうしようもねえってことをな。

 

 

「ああ、お前の言うとおりだ。ここで死んだら、ウラたちにも会えねえしな。どうにか上にいるフォルナを回収してトンズラすんのが賢い選択だな」

 

 

 じゃあ、何で俺は、フラつく足で前へ進んでるんだ?

 

「ッ、ヴェルト!」

「ヴェルト様!」

 

 馬鹿だな。そんなの分かってるだろうが。

 

 

「そうだな。ウラたちに会えねえ。でも、ここで何も動かなければ、俺は顔向けできねえ」

 

「できない? 誰にだい?」

 

「誰かにだよ!」

 

 

 誰か? そんなもん一人しかいねえ。

 

 

「夫が好き勝手生きているあいだに、俺と結婚するなんてほざいてたマセガキは、あんな化けもんと常に隣り合わせの世界で戦ってるんだ。自分が期待されてるってのも分かってるから、逃げずに、文句も吐かずに、ただ………ただ、戦っていた! 誰のために? 俺たちのためにな!」

 

 

 フォルナは……10歳の時からこの世界に足を踏み入れていた。

 

 

「あいつに惚れられている俺が、興味だとか関係だとかゴチャゴチャ言って引き下がれるかよ!」

 

「ヴェルト……」

 

「俺がやらなきゃ、誰がやるってんだ!」

 

 

 だったら、動かねえわけにはいかねえよな。

 

「ふ、ふふふふふ、ヴェルト様、配下を連れずにどちらへ行かれるでありますか?」

「我らはヴェルト様に付き従う兵なり」

「王の向かう所なら、どのような死地にもお供するでしょうが!」

 

 はは、だったら動くだけじゃなく、なおさら死ねねえな。

 こいつらとウラを再会させるためにもな。

 

 

「しゃあ、いくぞコラァァァァァァ!!!」

 

「「「オオオッッ!!!」」」

 

 

 不良と魔人で、鬼退治だ!

 

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