異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第243話 ママ

 またいつか必ず。そう誓い合って俺たちは立ち去ろうとした。

 だが、その時……

 

 

「てんちょ~~~~~~~!」

 

 

 またもや雰囲気をぶっ壊すような、俺が以前飼ってた可愛い可愛い虎猫が、先生にダイビング土下座しやがった。

 こ、こいつ…………

 

「お、おう、ムサシ、どーしたんでい?」

「う、うううううう、拙者としたことが、……拙者としたことが~~~!」

 

 可愛いツラが台無しになるほどの鼻水ズルズルの顔。まあ、これはこれで可愛いが。

 ムサシに顔を知られている綾瀬やカー君たちも慌ててサングラスと帽子を被りなおす。

 

「さ、皿を、皿を回収しに行ったら、転んで割ってしまったでござるうううううう!」

「…………お、おま……またか…………」

「どうか、どうか何卒! 何卒お許し下さいまする~! どうか、クビだけはどうかお許しを!」

 

 ったく、人の旅立ちをかっこよく締めさせてくれねえ。まあ、ムサシはこれでいいんだけどな。

 綾瀬たちも思わず半笑い。

 二年ぶりに会ったその顔は、少しだけ大人っぽくなったか? と思いたいが、ぶっちゃけあんま変わってなかったりするわけだが。

 

「あ~、もういいよ。お前が皿割るごとにクビにしてたら、次の日にお前は切腹でもしてそうで困る」

「う、ううう、ううう~~」

「ほら、今、大事な客の相手してんだ。さっさと帰って、女房とハナビと一緒に、夕飯でも……いや、手伝うな。断じて手伝うな」

 

 先生も苦労してんだな。まあ、それでも寂しさを感じさせないぐらい、見てて面白いやつだから、先生は先生で悪い気はしないんだろうけどな。

 俺も久しぶりに見て、昔と変わらずウッカリお転婆娘の姿を見れて、少し満足だった。

 だから、俺もウッカリしていた。

 

 

「ん? その方たちは、先ほど店に居た…………」

 

 

 二年前のこと。フォルナのことばかりを思っていたから、忘れていたんだ。

 

 

「ッ! えっ、あっ…………ッ! お、おぬしは! それに、あなた様は!」

 

 

 ムサシが現れた瞬間、咄嗟にサングラスと帽子を変装し直したのは、綾瀬、カー君、ミルコ、加賀美。

 俺とジャックポット、ユズリハは、反応が遅れた。

 

 

「ユズリハ姫……ジャックポット王子? ……な、なぜ……? そ、それに…………」

 

 

 ムサシは俺を見た。そう、俺のヘマ。

 この国の連中は、先生以外、みんな俺の記憶を無くしていると思っていた。

 でも、一部を除いて違う。

 ムサシも、ヴェルト・ジーハと「過ごした日々」を忘れているが、「俺」の顔は覚えていたんだ。

 

 

「おぬしは……に、二年前……そ、そうでござる……魔族、亜人、人類の三種族和平の破壊を企んでいたとのことで……タイラー殿とフォルナ姫の手によって捕まった……ッ! なぜ、おぬしがここにいるでござる!」

 

 

 ああ、さっきまで温かい気持ちだったのに、一気に切なくしてくれる。

 初めてムサシと出会った日。あの日もこいつは、こんな目で俺を見ていた。

 曲がったことは許さない、真っ直ぐに悪を憎むその瞳で。

 

「そっか、そうだったな…………あの日、お前は俺とミルコと、フォルナとタイラーとドラと一緒に……あの場に居たんだよな」

 

 あの日たどり着いた真実。

 まあ、こいつは頭が悪くて説明の意味は分かってなかったが、ただ、フォルナとタイラーが俺を捕まえたことで、俺を敵として認識したんだ。

 

 

「よさねえか、ムサシ!」

 

「おさがり下さい、店長! そなた、何者でござる! なにゆえこの国に! なぜ、ユズリハ姫、ジャックポット王子まで!」

 

 

 先生を守るように、木刀を抜いて構えるムサシ。

 まったく、躾の良すぎた虎猫は、ご主人様の記憶を忘れると、ユズリハ以上にタチが悪いかもしれねえな。

 

「ちょっ、朝倉くん…………私が…………」

「いや、やめろ、綾瀬。世間的には犯罪者の俺とミルコに加賀美までいる状況……ここでお前まで正体バレたら面倒なことになる」

 

 そして最悪の場合、先生にまで取り調べとか面倒をかけることになる。

 それだけは避けないといけねえからな。

 さて、どうしたもんか………………

 

 

「そこで何をしている! ここは死者の眠る墓場。喧嘩など言語道断だぞ!」

 

 

 あっ……

 

「えっ……!」

「ちょっ!」

「ひははは、こりゃパナい」

 

 その時、俺たちの争いに割って入るように声を出したのは、騒ぎを聞きつけた城の兵隊二十人程度に囲まれ、その手には花束を持った、初老の男。

 重厚感漂うマントを纏い、その頭にはこの国の最高権力者の証たる王冠。

 

「こ、国王様!」

「ん? ……そなた……メルマであったな……それと、ウラ姫が連れてきた、ムサシという名の娘だったか?」

 

 エルファーシア国王だ。

 なんでここに? いや、なんでこのタイミングで! 思わず反応が遅れちまった。

 

「ここには、我が親友が眠っている。何事ごとかは知らないが争いは………………むっ!」

 

 そして、とうとう俺と目が合った。

 

「………………な…………そ、ん…………お前は…………」

 

 その表情が、驚きと戸惑いと、そして悲しみに満ちているのが手に取るように分かった。

 そして、俺は確信した。

 

「国王様…………俺のことを…………覚えてるんだな」

「…………ヴェ………………ヴェル…………ト…………」

 

 部下の前、民の前だというのに、俺を見た瞬間、国王はただ全身を震わせ、そしてこぼれ落ちそうな程の涙を目尻に溜めていた。

 

「そうか…………報告で、お前が逃げたとの知らせを数日前に受けたが…………そうか…………」

 

 覚えているだけじゃねえ。国王は知ってるんだ。

 俺に何があったか。

 なぜ、俺が閉じ込められていたのか。

 

「ヴェルト…………すまぬ…………本当に…………」

 

 国王の態度、そして言葉に、兵士たちも動揺している。

 

「よせよ、タイラーにまで何度もそれやられて、国王様にまでそれやられたら、事情の知らない奴らに、俺はぶっ殺されるかもしれねえしよ」

「…………すまぬ…………すまぬ! お前にも……フォルナにも……ウラ姫にも……すまん…………本当に…………」

 

 だから、やめてくれよ。もう、あんたたちが苦しんだのは十分わかってんだよ。

 それでも、あんたたちが妥協しようとした点すら俺は飲み込まずに反逆したんだ。

 俺も分かってるから、だから謝らないで欲しい。俺も苦しくなる。

 だが、国王の涙で動揺した空気が流れた、その時だった。

 

 

「おやおや、なんだい? これは一体、何を騒いでるんだい?」

 

 

 眩いほどの光が俺たちの目を覆った。

 

「な、なんや!」

「眩し!」

「ッ、こ、この空気……まさか!」

「ワオ。これは…………カリスマの光!」

 

 兵たちが突然二手に分かれて、ど真ん中に道が出来た。

 その真ん中をゆっくりと闊歩するのは、超ド派手なピカピカなドレスを着た女。

 全身を輝く紫色の羽の毛皮で包み、その頭は孔雀が羽広げたみたいな被り物している。

 

「なんか、前世の紅白歌合戦に出てた大御所みたいで、パナイ派手……」

「な、なんやねん、このオバはん。キレーやけど、ド派手や」

「眩しい……」

「こ、この、女……確か…………」

 

 そう思うだろ? 俺も昔はそう思ったことがある。

 だが、口の聞き方には気をつけたほうがいい。

 まだ、三十代なんだから。

 だって、この人は…………

 

「八年ぶりに帰った故郷…………ずっと会いに来れなかった親友にようやく挨拶にと来てみたら……」

 

 その瞬間、閃光が走った!

 

「なッ!」

「なんや!」

「ッ!」

「ムムっ!」

「ワオッ!」

 

 音速を超えた衝撃波が生み出す乾いた音が響いた瞬間、その衝撃音と共に、ムサシ、ジャックポット、ユズリハ、カー君、ミルコの五人が防御の態勢をしたまま、わずかに後退していた。

 何かに攻撃をされて、防御したかのように。

 

 

「くくくっ………………私の親友を殺した奴らと同じ獣臭い亜人と、蛆虫臭い魔族が、二人の墓の前でうろついてんじゃないよ、ビチグソどもが」

 

 

 ものっそい暴言を一切の迷いも見られずに吐き捨てる。そしてこの、女でありながら見せるプレッシャー。

 権威に包まれながらも感じる、歴戦を積み重ねた者にのみ出せる風格。

 

「何をしている、ファンレッド! ムサシという娘は、正式に我が国で受け入れた娘だぞ!」

「ふふ……ああ……愚娘とオカマ怪人たちの間でやっている、あのクソ友好同盟かい? だからって、何でもかんでも許容はできないだろう? 立ち入り禁止の場所ぐらい作って、躾でもしないとねェ」

 

 その女の名は、ファンレッド・エルファーシア。

 

「マッ…………マッ」

 

 それは、『女王大将軍』という世界に轟く二つ名を持つ、光の十勇者にも選ばれた英雄。

 

 

「これまで死ぬほど戦争を繰り返してきた亜人と魔族。大勢の同胞を殺してきた亜人と魔族。そして、戦争とは無縁だった……アルナとボナパの二人を殺したのも亜人だって話じゃないかい? そんな連中にこの場をうろつかれるなんて…………肥溜めのクソを鼻から食らった方が百倍マシってもんだよ」

 

 

 慈愛に満ちたエルファーシア王国の……女王様……つか、フォルナの母ちゃんなわけで……俺がこう、自然と縮こまって気をつけしたくなるぐらい、ある意味ではギャンザに近いぐらい苦手な存在でもある。

 ちっ、なんてこった……まさか……「ママ」が来るとはな。

 

 

「ふっ、それにしてもこの感じ……おい、そこの二人。デカイ亜人……そして、青髪の女。かぶってるもの、目につけてるもの、全部外してみな」

 

 

 その目は厳しく鋭く、カー君と、そして綾瀬に、帽子とサングラスを外せと命令した。

 

「なんだ? この口の悪いババアは」

 

 決めた。ユズリハはちゃんと躾よう。

 将来、コレになられたら、マジで嫌だから。

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