異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第264話 俺だけ入れた

 ジャックポットは拳ではなく、一つのサイコロを取り出した。

 

「なあ、ステロイはんやったか? ワイとゲームをせえへんか?」

「なんだと?」

 

 あれ? こいつらソッコーで殴りあうと思ったらなにやってんだ。

 

「簡単や。サイコロを振って、出した目の数だけ相手を殴ることが出来る。殴り終わったら今度は相手がサイコロを振り、自分が殴られる。相手のパンチはよけたらあかん。先に降参するか、続行不可能になったほうが負けや。どや?」

 

 なんとも野蛮すぎるゲームだ。そんなもんに何の意味があるんだ?

 しかも、相手は相撲取りみたいに、見てくれからも分かるほどのゴリゴリのパワータイプ。そんな奴の攻撃を無防備で受ける?

 

「男気サイコロや! どや?」

 

 おい、一応お前はまだ前世の記憶は戻ってねーんだよな? だが、少なくともステロイからすれば、人生初の体験と提案だ。

 そして、意外にもステロイは乗り気なのか、ジャックポットの提案に対して好戦的な笑みを浮かべた。

 

「くく、ふはははははははは! 殴りあうだと? この私とか?」

「どや? まあ、ビビッたんならやめてもええで?」

 

 ステロイは見かけどおり、なんか単細胞系のようだ。簡単な挑発だが、武人として、王族として、そして男としてのプライドか、その安い誘いにアッサリと頷いた。

 

「くくくく、面白い! この私と正面から殴りあうなど、そんな酔狂なバカは魔族大陸には存在せんぞ?」

「なははははは、バカは褒め言葉やで? ワイはお行儀の良い戦いが苦手なだけや」

「ふん。良いではないか、貴様、気に入ったぞ。私も今のこの世界の戦いに憂いを感じていた」

 

 ステロイが無駄なポーシングで、その筋肉をよりアピールしながら笑った。

 

 

「どいつもこいつも、能力だ魔法だ、剣だと嘆かわしい。我らの真の強さを測るのは、父と母より戴き、そして育まれたこの肉体のみ! 良いだろ、その男気サイコロ、受けてたとう!」

 

「ええノリや。兄貴としては失格やが、バカ正直っちゅうところは及第点や! ほな、初心者やから、オドレが先攻でええで? 掛け声は、サイコロ振りながら、男気サイコロ、いち、にっ、さん、や!」

 

「ほう。迷いなく私に先制攻撃させるとは、ますますバカだが、気に入った!」

 

 

 ジャックポットがサイコロを放り投げ、そしてステロイが受け取った。ステロイはサイコロを二~三回手の中で転がし、そして叫ぶ。

 

「男気サイコロ、いち、に、さん!」

 

 多分、この世界創生以来、初めてサイクロプスがこんな掛け声をしただろう。

 何だか少しだけこのサイクロプスが憎めなくなってきた気がしたが、なんとステロイが出した目は、「六」だ。

 

「くくくく、はーっはっはっはっは! 運も我にあり! では、覚悟せよ、竜人!」

 

 その瞬間、「はっけよい、のこった」のようなぶちかましからの、つっぱりを、ステロイは放った。

 

「どっせい!」

「ぶおっ!」

「ん~、どっせい!」

「ぎゅおっ!」

 

 張り手が爆発したみてーな音がしたぞ! つか、ジャックポットの野郎、本当に避けてねえ!

 

「くくく、まだまだ~そらそらそら!」

「ぶおっぐはう!」

 

 って、

 

「おおおおおおい! おま、アホか! これで死んだらマジでどーすんだよ!」

 

 シャレにならんぐらいの威力だ。あんなもん、生身の体で受けたら速攻でミンチだぞ!

 いくら竜の頑丈な肉体とはいえ、あんなのくらったらヤバイだろ? 

 

「なははは、やるやないか……ステロイはん。歯が何本か折れたで?」

 

 かなり足に来ているし、こいつは本格的なアホか? しかし、何とか耐え抜いたジャックポットは、決して倒れることなく、血みどろの顔面の中で不気味に笑った。

 

「ぬ、な、わ、私の張り手をこれだけ受けて……耐え抜いただと?」

 

 ジャックポットの不気味なタフネスさにかなり驚いたのか、ステロイもうろたえた表情を見せている。

 

「でも、まだやな。これじゃ、ワイはぶっ壊れんで?」

 

 足を若干引きずりながら、ジャックポットはゆっくりと歩き出し、そして転がっているサイコロを拾い上げた。

 

「ワイの番や……ふ~……男気サイコロ、いち、にっ、さん!」

 

 目を見開いてサイコロを転がすジャックポット。そして、足場の安定しないゴミの中を転がるサイコロが出した目は、なんと「一」だった。

 

「く、ふは、ふはははははは、ざ、残念だったな竜人よ! 貴様は一度しか俺を殴れん。まあ、運も実力の内ということだ!」

 

 出た目が一ということで、安心したのかホッと胸を撫で下ろす、ステロイ。

 だが、ジャックポットに悔しがる様子はない。むしろ、余計に気合が入ったとばかりに、拳に力を込めている。

 

「なはははは、ステロイはん。教えたるで」

「なんだ?」

「真に強い奴は、チャンスが多く与えられる奴やない。たった一回のチャンスをモノにできるかどうかや!」

「なっ!」

「いっくでー! ワイの必殺パンチ! ウルトラグレートボンバースペシャルギャラクティックハイパーパワーバースト―――」

 

 もう、アホらしいから、俺はそれ以上は見ないことにした。

 とりあえず、俺にはそんなもんを気にするよりも、やらなきゃいけないことがあるからだ。

 この、空にな。

 

「ひ、ひ~~~~、た、助けてくれ~!」

「た、高すぎる! こ、こんな高さから落ちたら、ひとたまりもないぞ!」

「誰かー! コスモス様を宥めろー!」

 

 十隻の軍艦がプカプカ空を浮くどころか、なんか不規則にアップダウンしてやがる。

 その異様過ぎる光景に、周りを旋回している天空族たちもどうしたらいいか分からず、ハラハラした様子。

 その中で唯一平気な船が、天空族の船、そして、ラブ・アンド・ピースの船だ。

 

「ラブ・アンド・ピースの船だな」

 

 状況から考えて、コスモスは恐らくウラたちと一緒にラブ・アンド・ピースの船に乗っていたんだろうな。

 

「ヴェルトくん!」

「おお、アルーシャ。お前も対戦相手にあぶれたのか?」

「そんな落ち着いていないで、あれコスモスちゃんでしょ?」

「ああ、みたいだな。つか、とんでもねーな」

「ッ、……君の魔法でどうにかできないの?」

「船を一隻なら持ち上げたことはあるが、十隻は論外だ。用途は同じでも、俺の魔法と根本的に原理が違う」

 

 天空族は魔力ではなく、超天能力とかいうのを使っていた。

 それは、物質を浮かせる俺のふわふわ技と違って、超能力みたいに生物だって浮かせたり、ぶっ飛ばしたりできていた。

 恐らくその力の一種だろうな。なんつーか、末恐ろしい。

 

「エルジェラとウラが言ってたろ? コスモスを宥めるしかねえ」

「なら、この場はエルジェラ皇女とウラ姫に任せるということなの?」

 

 大好きなお母さんと、大好きなお姉ちゃんの二人なら、あるいは……

 そう思って空を見上げると、丁度ラブ・アンド・ピースの船に向かって飛んでいる、エルジェラ。そして手を引かれて一緒に向かっている、ウラ。

 

「やめなさい、コスモス!」

「おい、コスモス! 私たちだ! もう怒らないでくれ! あとで、高い高いしてやるし、ケーキだって食べさせてやる!」

 

 船へと向かいながら大声で叫ぶ、エルジェラとウラ。

 だが、次の瞬間だった。

 

「なっ!」

「つあ!」

 

 なんと、二人が見えない壁に阻まれて弾かれたのだ。

 

「こ、これは!」

「そんな! これは……バリヤー!」

 

 うそ~

 

「バ、バリヤ? コスモスちゃん、あんなことまで!」

「末恐ろしいどころじゃねえぞ?」

 

 なんと、船の周りに球体上のエネルギー障壁のようなものが発生し、エルジェラとウラは一歩も中に入れない。

 

「く、これは……破壊するしか……」

「いえ、お待ちください、ウラさん! ウラさんや私の力で無理やりバリヤーを破っても、その衝撃で中の皆さんや、コスモスが!」

「ッ、そ、そうか……」

 

 バリヤーは通れない。

 仮に力ずくで破ろうにも、破ったらその衝撃で船は大破してしまうかもしれない。

 そうなれば乗員やコスモスの命は?

 なら、どうするか?

 

「ったく~」

「ヴェルト君、気をつけて!」

 

 俺もとりあえず飛んだ。

 飛んで、ウラとエルジェラの元へ。

 

「ん? お、おい、なぜお前まで!」

「あなたは……何か御用ですか?」

 

 この身内のゴタゴタの最中に「敵」である俺の接近に、二人は表情を強張らせる。

 なによりも、ここには仲間も、そして娘まで居るのだ。

 正直、俺のことなんて相手にしている場合じゃないだろう。

 

「待て。今……お前の相手をしている場合ではない……頼む、待ってくれ……」

「お願いします。今はどうか……どうか待ってください! 子供が……」

 

 二人は悲痛な表情を見せて、俺に懇願した。「今は戦えない」と。

 二人のそんな表情を見せられると、何とも俺も切ない気持ちになった。

 

 

「大変だな。ダメな夫を持った、シングルマザーは」

 

「えっ………?」

 

「だが、たとえ俺とお前らの間が敵と味方で分かれても、こいつだけは別だ。こいつには何も罪はねえ。だから安心しろ」

 

 

 俺がそう言うと、二人は不思議そうな顔をして固まった。

 

「ッ、なんなんだ……なんなんだ、お前は! お前を見てると……胸がざわめいて……涙が……」

「あなたは……どうして……あなたは? 私もあなたを見ていると……苦しく……」

 

 二人の切ない表情に、俺は何も答えられない。悪いけどな。

 俺はそれを見てから、今度はバリヤーで包まれている、ラブ・アンド・ピースの甲板を見た。

 すると甲板には助けを求めるウラの部下たち。

 

「だ、ダメです、エルジェラ皇女! ウラ姫様! コスモス様が一歩も部屋から出てきません! 部屋に入ろうとすると、衝撃波のようなものでふっとばされて……手のつけようがありません!」

 

 だが、ウラとエルジェラにはどうすることも出来ない。せめてここから声を出してコスモスを宥めるだけ。

 当然俺も、ここまでは来たものの、出来ることなんて……と思いながらバリヤーに何となく手を伸ばしたら……

 

「ん?」

 

 なんと、急にバリヤーが解除された。

 

「えっ?」

「あら?」

「なに?」

 

 呆ける俺たち三人は不思議そうに首を傾げた次の瞬間、バリヤーがまた発動。

 

「え、え、あれ?」

「な、なんだと!」

「どういうことです、これは!」

 

 バリヤーが、少し範囲を広げて再び発動。

 どの程度の範囲か。それは、俺がバリヤーの内側に入り、エルジェラとウラが丁度バリヤーの外に分かれる程度の距離だ。

 

「は、入っちゃった」

 

 これは偶然か? なんか、俺だけバリヤーの内側に入っちゃったぞ?

 エルジェラとウラが一瞬だけわけが分からずに呆然としたが、すぐに慌ててバリヤーを叩く。

 

「ッ、ま、待て! お前、一歩も動くな!」

「コスモス! コスモス! 急いでバリヤーを解除しなさい! コスモス!」

 

 何で二人が慌てているか? それは簡単だ。二人の手の出せぬバリヤーの内側に「敵」が入り込んだからだ。

 

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