異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第290話 不公平な天才

「おい、この黒ゴミ…………」

「アルテア?」

 

 そういえば、こいつが何かをやろうとしていること自体を初めて見た。

 うるさいお調子者の黒ギャルエルフ。

 ダークエルフという、ザ・ファンタジーと呼べる存在でありながら、決してそんな雰囲気を感じさせなかった女から初めて、俺はファンタジーな様子を感じ取ることができた。

 そして、アルテアが真顔で唱える。

 

「邪悪魔法・暗黒空間《ダークワールド》!」

 

 快晴、豪雨、雷雨に続き、再び天候が変わった?

 いや、違う。世界そのものが変わった。

 というよりも、世界全体が真っ黒で、何一つ見えない闇の世界。

 

「これ、は、おい、まさか!」

「黒ゴミが……空間魔法? それに、邪悪魔法だと? 神聖魔法の対となる、闇魔法を極めた者がたどり着くものだぞ?」

 

 そうだ、世界そのものが変わった感覚。

 

「空間魔法! おま、こんなのどうやって!」

 

 これは、聖騎士が使っていた空間魔法と同じものだ。

 って、ちょっと待て!

 

「お、お前、こんなもん使えたのか!」

 

 なんか、もっと早く出せるタイミングなかったか? それこそ色々と。

 

「いや、だって、疲れるし、あたし魔法ほとんど使えねーから、どっちにしろあんま戦えねーし」

「はっ? だって、闇魔法を極めたやつができる魔法なんじゃねえの?」

「あっ、そーなの? でも、そーいえば、ママンは、ダークエルフは元々素質でどうとか言ってたような……」

 

 なにそれ。こいつこそ才能を持て余す怠惰の極みじゃねえの?

 

「で、これはどういう魔法なんだ? ただ、暗いだけか?」

「よくわかんねーけど、ママンが言ってたのは、やろうと思えばあたし以外の奴らの感覚? ヘイコー感覚とか狂わせたり、空間そのものがねじ曲がってるから、攻撃がまっすぐ飛ばなかったりとか、ヤバイんだって?」

 

 この説明で、一番怖いのは何か良く分かった。

 それは、空間魔法というある種の極みみたいな魔法を使いながら、その効力を術者本人が良く分かってないというのが、ある意味一番怖い。

 

「つか、声が聞こえてくる方角と、空気の流れから感じる実際にアルテアが居る位置がズレてる……音も乱反射して訳分かんなくなってんだな」

 

 こんな所で無闇に攻撃したら、自滅するか同士討になるな。

 そりゃ、やっぱ使わないでいてくれて正解だったな。

 

「おい、何も見えないぞ! どこに居るんだ! うう、がぶ、がぶ、がぶ、がぶ!」

 

 闇の中からユズリハの声も聞こえてくる。

 多分、攻撃されないように、手当たり次第にそのへんを噛みまくって警戒してたんだろうな。

 本当に何も見えないから、味方の位置を探るのも一苦労だ。

 

「目が見えなくても空気の流れで場所が分かると思っていたのに、空気の流れもメチャクチャになってやがる………」

 

 俺も分からねえ。声が聞こえてくる方向に手を伸ばしても、そこには何も感じない。

 地面の感覚もなく、無重力の世界を漂っているような感覚。

 

「うぐ~~~、がぶうっ!」

「んぐっ!」

「ッッッッッ!」

 

 その時、俺は激痛に襲われた。口全体が鋭い痛みに襲われた。

 

「むむ! あむー! あむー! がむー!」

「んぐ、あぶ、ぬ、ぬぐ、あぐ」

 

 なんだ? 何かが口の周りに! しかも、全身を拘束されたように腕や足のようなものが胴体に絡みつかれているのが分かる。

 

「いや~、でもさ、こっからどうしよ。ママンが言うには、これやると敵も味方も自分も訳わからなくなるから、闇鍋するときとか、エロイベントするとき以外、使うなって言われてたんだよね~」

 

 いや、アルテア、何かが起こってるから、お前がどうにかしてくれよ!

 

「えとさ、やっぱどうなってっか気になるから、空間明るくするな? 邪悪魔法・暗黒閃光《ダークライト》」

 

 その瞬間、まるで暗闇の部屋にパッと灯りが灯ったかのように、視界が広がった。

 目の前には俺にコアラのようにしがみついて、唇を「あむあむ」させてるユズリハ………

 

「ッ、ゴミ!」

「ほぐ!」

 

 頭突きをかまされた。いや、何が起こってたのかだいたい想像ついたけど、今のは俺悪くねーだろうが!

 

「ッ、これは、なんだ! どうなった! 黒ゴミ!」

「たたたた、つ、ここは………うおっ!」

 

 傷んだ頭を抑えながら、もう一度世界を見てみると、そこは天井も床も壁も何もないどこまでも続く真っ白な世界に、俺たちは漂っているだけだった。

 

「いやー、やっぱ使いもんにならなかったわ、この魔法。ワリ」

「んー、まあ、でもあいつの魔法は天気を操るわけだから、この空間に閉じ込めちまえば………あ………居た………」

 

 死んでるからこそ慌てる様子も無駄な動きをするわけでもなく、ベルフェゴールは俺たちの真上を椅子に座ったまま漂っていた。

 このネクロマンサーとやらが、どういう風に動くようにプログラムされてるか分からねえが、多分、目の前の敵を殲滅しろとか、攻撃しろとかそういう類だろうな。

 俺たちの姿が見えなかったもんだから攻撃を仕掛けてこなかった。

 だが、こうやって目が合っちまうと、急に敵も機動し始めた。

 

「やばっ! おい、ユズリハ、アルテア」

「ゴミに噛んだゴミに噛んだ、ゴミを噛んだゴミを噛んだゴミを噛んだゴミを噛んだゴミを噛んだゴミを噛んだゴミを噛んだ」

「て、ユズっち、何をショック受けて落ち込んでるし!」

「う~、貴様のせいで私の可愛い唇が犯された!」

「いや、どっちかってーと、犯されたのは俺だろうが!」

 

 敵の動きが早い。だが、こんな異空間で使える天気の魔法とかなんて………

 

――――天候魔法・人工雲《アーティフィシャル・クラウド》

 

「げっ! じ、人工的に雲を作りやがった!」

「うわ、じゃあ、あたしの魔法意味ねーじゃん!」

 

――――天候魔法・落雷《ライティングストライク》

 

 ヤバイ、やられる! 人工的に作り出された雨雲が雷の光を放った瞬間、俺たちを身を縮めて防御しようとした。

 だが………

 

「あれ?」

 

 雷は俺たちを通り抜けた。

 

「ん?」

 

――――天候魔法・落雷《ライティングストライク》

 

 また雷が発生。しかし、俺たちに直撃すると思ったら、また通り抜けた。

 あれ? 

 

「お、おい、どうなってんだ?」

「雷が、私たちをすり抜けているぞ?」

 

 それでもベルフェゴールはお構いなしに攻撃を繰り返すが、通り抜けるだけ。

 一体何が起こってるのか分からず、ただ、首を傾げていたら、今度は………

 

「あっ! 今度はベルフェゴールに雷が!」

「なんだ? おい、何が起こってるんだ? あの死体はボケたのか?」

 

 俺たちに向けて放った雷は俺たちをすり抜けて、そのまま雷を落とした張本人であるベルフェゴールに直撃。

 死体だからこそ驚いた様子は見せねえが、代わりに俺たちが驚いた。

 一体何が起こってるんだと。

 

「あっ、そーいやー」

 

 その時、アルテアが手のひらを拳で叩いた。

 

「ほら、この暗黒世界って、空間とかいろいろねじ曲がってるから、あたしたちをすり抜けた魔法が世界一周してあいつに当たったんじゃね?」

 

 確かに、目の見えない状態で、空気の流れで皆の位置を把握しようとしても、空間が歪んだり空気が乱反射してよく分からなかった。

 なんつう、メチャクチャな理論だ。

 でも、それだけじゃ説明になってねえ。

 

「じゃあ、その前にまず、何で攻撃が俺たちをすり抜けるんだよ」

「あー、それなんだけどさ、多分、あれじゃね? 私の暗黒閃光じゃね?」

 

 暗黒閃光? この世界を目の見える明るい世界にした魔法か?

 

「なんだっけな? ママンが言うには、よくわかんねーけど、これで光って、目が見えるようになっても、それは正確じゃねえとか、なんだっけ? ほら、光が折れ曲がってるとか?」

 

 ……光の屈折って言いたいのか? いや、だからって俺にも良く分からねえけど。

 

「あー、よくわかんねーけど、俺たちがこうして真上に見えているベルフェゴールは実際に真上に居るとは限らず、それはベルフェゴールも同じで、錯覚で見えてる俺たちを攻撃しては自爆してるってことか?」

 

 ただ、よく分からない中で、これだけは分かった。

 

「お前、ちっとは自分の使える魔法の効果を理解しとけよな!」

 

 なんて恐ろしいやつだ。高位の魔法を効果もよく知らずに使いやがるとは。

 自分に落雷が落ちるのに気にせず、機械のように繰り返しで、落雷してはダメージ受けてるベルフェゴールを哀れに感じた。

 

「しかし、どうするんだ、黒ゴミ。このままでは、永遠にあれを繰り返されるだけだぞ?」

「だよな。それこそ死体が消滅するまでやり続けるぞ? 相当時間がかかる。それに、だからって攻撃しようにも、真上に居るあれは、光のなんたらで見せる幻みてーなもんだろ? 本物はどうやって倒す?」

「私の鼻でもよく嗅ぎとれないぞ」

 

 ここまで来たら、もうお前がどうにかしろよと、俺とユズリハはアルテアに声かける。

 つか、ユズリハは偶然にも噛まれたから近くにいるんだろうが、アルテアはこうして傍で会話しているように見えても、実際に近くにいるかどうかは分からねえけど。

 

「う~、マジかよ~、あ~、どうしよっかな~」

 

 すると、アルテアは困ったように頭を抱えた。

 だが、数秒うなっただけで、何かを思いついたように「あっ」と声が漏れた。

 

「そーだ、いざって時に財布の中に、え~っと………あった」

 

 アルテアはスカートから何やら色々キーホルダーとかストラップがゴッチャりついたピンクの財布を取り出して、中から一枚の小さい紙を手に持った。

 

「これこれ。ママンが困ったときにこれ唱えろってさ。えっと、効果はよくわかんねーけど、テキトーに。あ~、しっこくのせかいが、世界を覆いしとき、暗黒物質が全ての光をとりこまん? 邪悪魔法・効果吸収《アブソープション》」

 

 これは、なんつうマヌケな絵ヅラだ。

 あんちょこ読んで魔法を唱えてやがる。さすがに、俺もユズリハもツッコミきれねえ。

 だが、それだけなのに、変化が起こった。

 なんと、ベルフェゴールの放った雷が、軌道を変えて、それをアルテアが今度は本当に喰らい、それを身に纏った闇が飲み込んでいく。

 

「おお、できた。なんかママンが言うには攻撃魔法をこれで吸収しなさいって、んで、それに自分の魔力をプラスさせて、えっと、こうかな? 今、雷が飛んできた方角に打てばいいんだろ? 解放・暗黒《ダーク》落雷《ライティングストライク》!」

 

 アルテアが食らった雷が、闇を纏った黒い雷へと変化し、ねじ曲がった空間の中で見事に敵に的中させやがった。

 闇の雷はベルフェゴールにまとわりついたまま、消えることはなく、徐々にベルフェゴールに纏った皮膚が黒ずんでいく。

 

「おお、できた! 魔法吸収倍返し! やられたらー、やりかえせじゃん! 倍返しっしょ!」

 

 いや、できたのは分かった。

 お前がなんつーか、不公平な才能の持ち主だというのは分かった。

 でも、それでも言わせてくれ。

 

 

「最初にそれを使えよおおおおおお!」

 

 

 俺もユズリハも思った。

 なぜ、神はこんなアホに勿体無すぎる才能を与えたのかと。

 

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