異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第292話 別の客

「多分、あいつのことだろうな」

「だよね」

 

 コスモスの前に現れたという、謎のオネーチャン。

 俺たちには、その人物に心当たりがあった。

 というより、そいつの事以外、頭に思い浮かばなかった。

 

「なんかさ、話の流れ的にさ、あんたとコスモスっちの関係とか存在とか、全部知ってそうじゃね?」

「だろうな。コスモスに、アヤセがどうのとか、言ってたみたいだしな」

「でもさ、いつ知ったん? つか、あんたら再会してないんでしょ?」

「ああ。再会してねえ。でも、俺の名前はマッキーの一件で世界に結構知られたからな。あの時の映像だけで俺の正体に気づいたのか? まあ、それならマッキーのことも気づいてると思うけどな」

「か~、あ~いつって、なにやってんのさ。気づいたんなら、会いにくりゃいいのにさ。相変わらず何考えてんのか分かんないってやつ?」

 

 ずっと会いたいと思っていた、ある意味で俺がこの世界で生きようと誓った原点でもある。

 気づけば、本来の目的から遠ざかりまくって、こんなことになっちまったけどな。

 だが、それが探してもいない時に限ってヒントがボロボロ出てくる始末。

 しかし、そのヒントを得ても、結局こうして違う場所に来ている現実。

 色々と複雑な気持ちになろうもんだ。

 でも……

 

「でも、あたしも会いてーよ。あいつとさ」

 

 俺が言おうとした言葉と全く同じことをアルテアは口にした。

 まるで遠くを見るような目で。

 

「あたしはさ……あいつが天然で意味わかんねー能天気なこと言ってさ、あんたがそれにキレてるんだけど顔を赤くして歯切れが悪くなって? それを離れた場所でニヤニヤしながら見るのが好きだったんだ」

「悪趣味なやつだ」

「でも、あのクラスのやつらは大半がそうだったけど? まあ、アルーシャは若干嫉妬気味だったけどさ」

「そうだったんだ……」

「おう、そうだったんだ………なーんか、周りからはお前の気持ちバレバレなのに神乃本人にはバレてない的な? でも、あんたも不器用で……イライラやきもきして……そうだな……、もーさっさと諦めてあたしと付き合っちゃえよとか、思ってたな」 

「いや、その結論は意味不明だぞ」

 

 少しだけ照れくさそうに「ニシシ」と笑うアルテアに、若干反応に困った。

 ただ、こういう会話していても、俺たちはもう前世の名前を使わない。まだ再会していないやつは例外だが。

 それは、過去と決別したという意味ではある。

 しかし、それでも未練がまるでないわけでもない。

 特に俺は神乃については何も解決してねーからな。

 そして、そんな俺に神乃を好きだった俺を見ているのが好きだったと言う、アルテア。

 前も似たようなことを誰かに言われたな。俺が、フォルナと並んでいる姿を見ているのが好きだと、かつての幼馴染たちが。

 

「そうか。それなのに、他の女と子供を作って、他の女を嫁にしようと魔族大陸に乗り込む俺は、お前の目にはどう映る?」

「爆笑でゲスのクズ男♪」

「そーかよ」

「でも、若干ビミョーな気はするかもね」

 

 アルテアは、再び冗談まじりな表情で笑い飛ばしたが、内心は微妙なのかもしれねーな。

 こうやって、俺を取り巻く恋愛事情をいつも茶化してるが、心の奥底では? 何となく、今のやり取りの中で、そんな風に感じた。

 

「がぶうううううううう!」

「うごっ!」

「何の話をしているかわからないぞ!」

 

 仲間はずれに耐え切れなくなったのか、俺の首筋をアマガミしてきた、ユズリハ。

 それを見て、アルテアはまた笑い出し、結局話はウヤムヤに流れた。

 内心、少しだけホッとした…………

 

「いや~、しっかし、だいぶダベッてたけどさ、まだ着かねーの? あたし、腹減ってきたんだけどさ~、もう陽が沈みそうじゃん」

「確かにな。ダンガムでも使えればもうちょい早かったんだけど、まだ何も見えねえな」

「おい、ゴハンは? ゴミ、ゴハンは食べられるか?」

 

 もう一度目を凝らすが、地平線の彼方までまだ砂漠のままだ。

 本当にこれを超えた先に都が存在するのか?

 

 

「ん?」

 

 

 だがその時、ようやく何かがようやく見えてきた気がした。

 

「地平線の彼方に何かが見え始めたな」

 

 眼を凝らしてようやく見える程度の、黒い盛り上がりの影。

 

「ふ~ん、じゃ、敵の本拠地ってやつ?」

 

 良かった。真夜中になる前に着いてよかった。

 この距離なら、夕方には着きそうだ。

 結婚式は明日って話だし、大丈夫だろう。

 

「しっかしさ、この国の王都ってどういうところだろうな? お風呂は入れるかな~? マジ、肌がヤバイしさ」

「あんま期待できねーんじゃねえか? だって、魔王国家最弱って話しだし、鎖国的な国みたいだから、それほど発展もしてねーんじゃねえのか?」

「ゴミ、ふかふかベッドはあると思うか?」

 

 そういえば、俺もこいつらも魔族大陸で都に行くのは初めてだったな。

 まあ、アークライン帝国やジェーケー都市のようなものまでは期待してねーけど、最低限のものぐらいはあって欲しいなと思っていた……んだが……

 

「へー」

「ほ~」

「………」

 

 王都というよりも、城砦に見える。

 岩山の地形を利用して、四角い赤褐色の家が階段状にいくつも見え、その頂上には高原のような広い岩山のスペースを使い、真四角の外壁は土や岩のブロックを積み上げてできたもの。

 中はこの距離からは伺うことはできないが、あれが恐らく、魔王の城だろう。

 

「一応、城だな」

「まー、砂漠の国らしいっちゃ、らしいね」

 

 派手さはない質素な光景だ。だが、土地の周りには僅かな緑や、大きいオアシスも見える。

 発展はそれほどしていない国ではあるが、それほど貧困な国にも見えないな。

 まあ、アンデットを使えば、労働力はタダで手に入る国だからな

 

「あたしらが一番乗りかな? 他の連中、どうしてっかな?」

「街が静かだから、まだなんじゃねえのか?」

「おい、いいから早く行こう。ご飯とベッドが欲しい」

 

 いや、だが、ここで簡単に乗り込んでもいいものかは、微妙なところだ。

 襲われたら、今の俺たちは三人だけだし、微妙なところだな。

 いや、でも、こうやってもたついてる間に、ウラがネフェルティにツマミ食いされたらムカつくし……

 

「ん?」

 

 その時だった。俺たちの視界に、何かが映った。

 

「ありゃ?」

「……なんだ、あれは……アンデットか?」

 

 それは、砂漠の蜃気楼が見せる幻か? それとも、肉体を具現化されたアンデットか?

 

「魔人族か?」

 

 誰かが、いや、誰かなんて人数ではない。

 あれは、千を遥かに超える人数。すなわち、軍だ

 黒甲冑を身に包んだ、一列に長い数千ほどの武装した兵たち。

 馬や歩兵も交えた行軍。ここからでは離れて容貌まで詳しく伺えないが、人間型の人型サイズ。

 魔人族か?

 その軍が、俺たちの斜め前方から砦を目指して進んでいた。

 ヤーミ魔王国の正規軍か? そう思ったとき、ユズリハの目は、進む軍隊が掲げている旗に目を向けていた。

 

 

「あれは。黄金の円? 丸? いや、月の紋章?」

 

 

 そう呟くユズリハ。月の紋章? 何も心当たりがねえな。

 

「なんだ、そりゃ?」

「月? だからなんなん? つーか、よくこっから見えるね、ユズっち」

 

 数キロは離れてるぞ? 旗なんか小さくて模様までは見えねえ。

 この時、俺は「竜って眼がいいんだ」ぐらいにしか感じていなかった。

 

「………………………………ッ!」

 

 俺に体を預けていたユズリハの体がビクッと跳ね上がり、別の方角を指差すまでは……

 

「………………な………………なんだ、あれは…………」

 

 ユズリハ? 一体何……って!

 

「あ………………………………えっ?」

 

 それは、黒い甲冑兵たちとは真逆の方向から、もう一つ同じ規模の軍が、城砦へ向かっていたということだった。

 ただ、そいつらは、魔人族じゃない。人間よりもかなり大きいぞ? それに、頭の形が……なんだありゃ?

 

「黒山羊の頭に………角? 五芒星の旗だ………」

 

 ユズリハが目を凝らして呟いた。黒山羊の頭に角?

 旗を聞いても知らねえな。

 

「なあ、ユズっち、黒山羊って、それって『バフォメット』のことじゃね?」

「バフォメット?」

「私は知らん」

 

 バフォメット? あんま聞いたことねえな。どういう悪魔だっけ?

 

「いやさ、あたしの街でもさ、ちょっと影響受けてるやついるんだよ。なんかさ、黒ミサ? なんかそういうのにかこつけて悪さする奴がいるんだけどさ、そいつらが掲げてる旗にその魔族の顔と五芒星がシンボルになってんだよ。ママンが言うには、それがバフォメットっていう魔族らしいんだけどさ」

 

 黒ミサ? それってサバト的な奴のことか?

 

「つーか、何でそんなのが居るんだよ。アンデット……?」

 

 ひょっとしたら、ネフェルティが王都の守りを固めるためにアンデット兵を集めたのか?

 いや、つーか、アレ………

 

「あれ、普通の生きている魔族か?」

「ん? 動きが止まった…………て、マジで! オアシスの周りで、なんかテント張り出してんじゃん!」

「キャンプ?」

 

 さすがにアンデットがキャンプしねえだろうな。

 普通に生きている魔族だ。

 でも、それはおかしい話だ。ヤーミ魔王国は魔人族に近い魔族って話だろ?

 だったら、少なくともバフォメットは違うだろ? ってことは、他国か?

 何で他国の魔族がここに?

 

「まさか、ウラの結婚式の招待とかじゃねーよな?」

 

 俺は引きつった笑みを浮かべてそう呟いたが、すぐに知ることになる。

 事態は、そんな笑えない笑い話ではないということを。

 そして、それはユズリハの反応で分かることになった。

 

「ひっ!」

 

 突如、短い悲鳴を上げた、ユズリハ。

 

「う、そだ………な、なんだ………なんなんだ、あいつは」

 

 何があった?

 

「おい、ユズリハ、どうしたんだよ!」

「ユズっち、スゲー顔色悪いじゃん! 急にどうしたん?」

 

 だが、俺たちの問いかけに一切反応せず、顔を蒼白させたユズリハは、額から滝のような汗を流して怯えている。

 

 

「バ……バケモノだ……バケモノが……一人……あの、月の旗を掲げた奴らの中に」

 

 

 バケモノ? なんだ? あの黒甲冑兵の行軍の中に、何かが居るのか?

 

「ッ、おい、急いで降りろ。どこか岩陰に隠れるぞ!」

「はっ?」

「いいから降りろ! 気づかれる!」

 

 気づかれる? あの軍にか? どんだけ離れてると思って…………

 

「ッ、目が合った!」

「はっ?」

 

 ゾクッと来た。俺はソッコーでアルテアを掴んで着地。近場にあった岩陰に隠れて様子を伺った。

 

「お、おい、ユズリハ?」

「なあなあ、ユズっち、マジビビらせんなって。ギャグっしょ?」

 

 俺のお仕置きなどでビビっていたユズリハとは違う。

 これは、そういう類の恐怖で怯えているわけじゃない。

 ユズリハは俺の胸に顔を埋めて、カタカタ震えて顔を上げない。

 

「は、初めて見た………あ、あんな………」

「おい」

「やだ、こ、こわい。やだ」

 

 こりゃ、落ち着くまで待ってないとあれだが…………

 

「おいおい、ユズリハでもビビるやつが、あの国には居るってことか?」

 

 問答無用で、キシンやカー君相手に辛辣な言葉をぶつけるユズリハが?

 まあ、あの二人は性格が穏やかで、普段は殺気をむき出しにしていないが、それでもだ。

 

「ったく、一体なんだってんだ?」

「わっかんねーな。あれなん? ヤーミ魔王国のやつなん?」

「…………うう、ううううう…………」

 

 まるで小動物のような怯えぶり。一体何があるってんだ?

 

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