異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第298話 潔くない男

「どれ、少し難易度を上げてやろう。余に、そして世界に見せてみろ。お前の男気をな」

 

 ネフェルティが何かを呟いた瞬間、目の前のシャークリュウに異変が起こった。

 俺が破損させた傷が修復されていき、それどころか体内から全身を包むようにドス黒い暗黒の瘴気がまとわりついていく。

 あれと似たような力、ウラも使ってた。フォルナも使えたよな。

 

「へ~、使っちゃう? 出し惜しみはやめる系?」

「さすがに、器のスペックは見事なものだ。状況が違えば、俺が戦ってみたかったよ」

 

 ジャレンガやルシフェルの言葉に、いつもなら「じゃあ代わってやるよ」と言ってたかもしれねえが、さすがにここは譲れねえからな。

 俺はただ、世界と一体化するような落ち着いた精神を保っていた。

 

「あれは……父上の魔導兵装!」

 

 ウラは、少しエロい暗黒戦乙女みたいな格好だった。

 フォルナは黄金戦士。

 そして、シャークリュウは…………

 

「ありゃ? つうか、マッキー……アレって?」

「ひははははは、ああ、アルテアちゃん。アレは間違いないね。いや~、これは不意打ちだ。既に鮫島くんの魂はないと思っていたのに、こんな所に鮫島くんの想いは残ってたわけね」

 

 集中しなきゃいけないのに、俺もマッキー同様に少し笑っちまった。

 だってそうだろ?

 魔王と恐れられたシャークリュウの本気モードの格好が、魔力で型どられた、黒色の空手道着姿なんだから。

 

「ったく、戦いの最中に、少し切なく―――――ッ!」

 

 一瞬早く察知する、俺の感覚。

 シャークリュウの力強い踏み込み、バネのように溜め込まれた力を一気に開放しようという前兆。

 

「あぶっ!」

 

 気づけば、中段突きをしたシャークリュウが俺の真横を通り過ぎていた。

 あと数コンマ遅ければ…………

 

 

――――魔導兵装・暗黒闘神・阿修羅

 

 

 黒い空手着。そして侵食されていくように全身に伸びていく、黒い炎のような刺青。

 なるほど。魔王ッポイ、力の解放だな 

 だが、最初からそうだが、そんな呑気な評価をしている場合じゃない。

 

「「「うっ、うわあああああああああああああああ!」」」

 

 げっ!

 

「いいっ?」

「ちょっ、パナ!」

 

 シャークリュウの繰り出した拳の直線上の金網がぶち破られ、その先にあった観客席までぶっ飛び、爆発を起こした。

 

「あらら? ねえ、魔王ネフェルティ、ボクの軍にまで被害が及んだら、壊しちゃうよ?」

「それはないだろう、ジャレンガ氏。むしろ君が率先して仲間を守りたまえ。その上で、ネフェルティ氏も攻撃を考慮して欲しい」

「分かっている。少し力を解放しすぎてコントロールがうまくいかんかっただけだ。今度は、外さん」

 

 なんとも素晴らしい心遣いだこと。

 こいつら、俺を試す試さんは別にして、殺すことには躊躇ねえわけね。

 まあ、死なねえけどな。

 

「ボサッとするな、ヴェルト・ジーハ!」

 

 ウラの叫びの瞬間、拳を振り抜いた状態のシャークリュウの真横に回避したはずなのに、俺には稲妻のような感覚が神経を駆け抜けた。

 何かが来る! 大雑把で曖昧でも、しかし確実な予知として俺の全身に伝わった。

 

「避けろ、クソガキッ!」

 

 珍しく俺を気遣うようなチーちゃんの叫びを聞いた瞬間、俺は全身を馬車に跳ね飛ばされたような衝撃と、全身の力がブッ飛ぶ感覚。

 痛みを超越して、何かを貫通しながら突き進む体。そして最後に感じる背中への痛み。

 

「がっ………ちっ………………」

 

 避けれたはず。予測できたはず。しかし突如、予測する前に起こったこの現実。

 何があった? 避けたはずの拳が俺に飛んできた?

 一体何があった? そう思って見上げたその先に、俺はようやく状況を理解出来た。

 

「ッ、なんだそりゃ」

 

 それは予測できな………いや、阿修羅って言ってたら、イメージはできたはずかもしれねえな。

 

「うわお………マッキー………なにアレ? ヤバくね?」

「な~るほどね。闘神阿修羅とはよく言ったもんだね。アルテアちゃん………見てみ、闇の衣が形を変え………四本の腕を作り出してるっしょ。パナ」

 

 それはまさに、修羅像。たった一本の拳一つで兵器と呼べる威力の持った腕が、六本になってら。

 ちょっと、マジーな。怖くねえと言いながらも、少しだけ背中に汗が流れてるぜ。 

 だが、アンデットは容赦ねえ。

 

 

―――魔極神空手・水平線三十突き!

 

「ちょわああああああ!」

 

 

 予測もクソもねえ。広範囲で全てを吹き飛ばす正拳突きの同時撃ち。

 いつもなら範囲を予測して避けるところ、俺はとにかく遠くへと体を浮かせて逃げ飛んだ。

 って、これじゃあこの闘技場そのものが消滅しちまうぞ!

 

「少しやりすぎだな。ジャレンガ氏。頼めるか?」

「うわ、ボクだけ? メンドくない? まあ、死にたくないから? やるけども?」

「ああ、君の魔瞳で、皆を守ってあげて欲しいな」

「それじゃあ、アレなの? 月光眼・発動しちゃうね?」

 

 ただ、俺は周りの被害状況を気にしている場合じゃなかったので、とにかく必死だった。

 一応、その直線上にいたVIP席のジャレンガが、瞳を光らせてなんかやろうとしていたみたいだが。

 

「うわっ、パナ! あれが、ヴァンパイアの王族のみに遺伝される、紋章眼と同じ特殊魔眼の一つ………」

「おいおい、どーなんてんのさ? あの男の目、月みたいな形で光って……って、ユズっち?」

「ブルブルガタガタ……」

 

 あれ? 何かあったのか? てっきり爆発が起きて地下崩落とか思ったけど、なんか無音だ?

 って、チラッとよそ見しただけで、もう目の前にはシャークリュウが!

 

「こいつ、スピードまで格段に上がってやがる!」

 

 二本の腕と二本の足の動きなんて、早かろうが遅かろうが、人体の構造的に可動の限界があるから、予期さえできれば、確実に回避できた。

 だが、今度は違う!

 

 

―――魔極神空手・陽炎追尾

 

 

 どこに行っても、どこに避けても見られている。

 右も左も正面も、次に何が来るのか、予想ができねえ。

 仮に予想できても、俺の反応速度や身体能力では完全回避ができねえ。

 

「やっべ、急にピンチじゃん! ヴェルト、まぢヤバくね!」

「パナイヤバイね。ヴェルトくんはこれまで能力の応用と喧嘩で培った感覚的なところで戦ってたから、真正面の喧嘩は強いが、ああいう人外的能力は弱い!」

 

 その通りだよ。気流の壁を纏って攻撃の角度を逸らしたり軽減したりはしても、この拳はチーちゃんのような大雑把なパンチじゃない。大雑把なパンチは周りへの破壊力もデカイが、威力が分散される。だが、シャークリュウの空手の拳は、威力が凝縮されて芯に響いてくる!

 

「~のやろう………喧嘩で腕増やしやがって。空手家の武器は母から授かった五体だけじゃねえのかよ。ったく、上等だよ。だったら何でもアリのアルティメットなバーリトゥードといこうじゃねえか」

 

 どんなに言葉を積み重ねとも、今じゃ独り言で、変わらず相手に反応なし。

 押し切られて、破られる!

 

「っ、そっ、つう!」

 

 まるで削岩機のように、俺の表皮が次々と削られていく。

 直撃は避けても飛ばされる皮膚の量だけ、俺の全身が鮮血に染まってく。

 

「い、いかん! もう、それまでにしろ、ネフェルティ! ヴェルト・ジーハもそれまでだ、殺されるぞ!」

 

 その時、見るに耐えないと思ったのか、ウラの悲痛の叫びが響き渡った。

 

 

「もういい! もういいから! 分かった! お前は変な男だし女たらしだが……命をかけるほど本気だというのはわかったから! もう十分だから、やめろ!」

 

 

 見るに耐えないと思ったのは、ウラだけじゃないかもしれない。

 静まり返った観客。そして……

 

「まっ、頑張った方じゃない? 敢闘賞?」

「いや、まあ、勇敢だったよ」

 

 上から見下ろすような賞賛までする始末。

 ジャレンガ、ルシフェル、そして…………

 

「ふむ。もう少し、余は見ていたい気もするがな…………」

 

 ネフェルティもだ。

 もう、誰もが見切りをつけ始めている。「よく頑張ったが、これぐらいだろうな」と。

 屈辱…………

 でもな…………

 

「クソガキ、何やってやがる……」

「ヴェルト君」

「ヴェルト」

「ゴミ…………」

 

 怒りをぶちまけそうなチーちゃん。そりゃそうか。この俺に負けてるわけだからな。

 だから、このまま終わるのはチーちゃんにとっても屈辱だろう。

 でもな、安心しろよ。

 

 

「終わらせる、わけねーだろうが」

 

 

 潔の悪いのが、俺なんだからよ。

 

「お、おい! ヴェルト・ジーハ!」

「言ったじゃねえか、ウラ。お前が俺にすがれるようになるには、俺は証明しなくちゃいけないってよ」

「だから、っ、だから、もう十分だと言ってるではないか!」

「俺が勝たなきゃ、お前は死人に取り憑かれたままだって言ってんだよ」

「なん……だと?」

 

 傷、消えねえかもな。皮膚がべっとりと抉り取られてる。

 いつの間にか真っ赤に染まっちまった。

 でもな、これはこれで俺らしい。

 

「たとえ、俺が人間だとか魔族だとかに興味なくても……お前が気にする以上、俺も証明しなくちゃいけねえだろうが……人間でも、不良でも、やるときゃやるってことをな……そうでもしねーと、お前は俺に心からすがれねえだろうし……あいつも成仏できねえだろうからな」

 

 楽な道じゃねえのは分かってる。だが、血まみれだろうと泥だらけになろうと、ラーメン屋の油まみれになろうとも、そうやって掴むもんだからこそ、意味があるんだよ。

 そして、最後は必ず掴む。

 

 

―――魔極神空手・阿修羅破壊拳

 

「だから、テメエは棺桶の中に戻ってろ!」

 

 

 何を掴む? 全てだ。あの感覚をより深く、より大きく、より強く!

 

 

「ウルアアアアアアアア!」

 

 

 そう思って、俺は何かを放っていた。

 何か? いや、何かは良く分からない。

 ただ、「何か」としか言い様がなかった。

 だが、それは一瞬眩い閃光放ち、シャークリュウの全身を勢いよく吹っ飛ばしていた。

 

「………………………………あれ?」

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