異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと 作:アニッキーブラッザー
片方は熱気に満ち、呪文のように戦士たちは叫び続けていた。
「世界同盟に栄光あれ!」
「世界同盟に栄光あれ!」
「世界同盟に栄光あれ!」
「世界同盟に栄光あれ!」
「世界同盟に栄光あれ!」
戦争で言えば、イレ込すぎは返って冷静な判断ができない場合が多く、逆に熱さもない軍団は失敗が少ないものの爆発力がない……って聞いたことあるようなないような。
「オラオラオラ! いくぜ、噂のアンデット共をもっぺん土に帰してやる!」
「出すぎるな、気持ちが高ぶるのは分かるが、足元を救われるぞ!」
「まあ、無理もないさ。これが最後の戦いになるかもしれんのだからな」
「敵も味方も無く人が死んでいく世界……しかし、その歴史を我らが終止符を討つのだ!」
「魔王たちの元へ、十勇者様と聖騎士様を届けるのだ!」
「天空騎士たちも頼もしすぎるぜ、これが、世界同盟の力!」
結局のところどちらの方が常識的に正しいというのは、俺には分からない。
だが、少なくとも現時点では…………
「ったく、どいつもこいつも自分に酔いやがって。ちょっと、全員黙ってろ!」
今は、水を差す。
「ふわふわ世界《ヴェルト》!」
この時、熱気に冷水を浴びせられたかのように、兵たちの中に衝撃が走った。
「な、なんだ!」
「どうなってんだ、ぶ、武器が!」
「誰だ? 何が起こってるんだ! 武器が勝手に、手から……空へ!」
この戦場に散らばる何千何万の凶器全てを奪い取り、まるで太陽のように上空で丸めて凶気を押さえ込む。
「これは……まさか、君が!」
「ヴェルト・ジーハ! あなたの仕業ですの?」
さすがに勇者たちは、手に力を込めて、俺が魔法で奪い取ろうとする聖剣や武具を掴んで離さねえ。
だが、少なくともこれで少しは収まるだろう。
「さーて、んで、どうやらのんびりできねえ状況だけど、どうする?」
「そうね、のんびりする気もないわ」
俺たちは、人類大連合軍からすれば敵だった。
俺も、マッキーも、キシンも、カー君も、他の皆も、敵かどうかは別にして異なる種族。
ウラもエルジェラも、人類大連合軍からすれば100パーセント信じられる存在かと言えば、そうでもないだろう。
だが、こいつは違う。
「おい、あれ……あそこに居るのは!」
「なんてことだ、姫様! 良かった、ご無事で……いや、しかし、何でここに!」
先に声を上げたのは、アルーシャの部下であり、戦友であったイエローイェーガーズ。
グリフォンに跨り、空中で待機している黄色い狩人たち。その中には、あのクソ女も居るが、まあ、今はいいだろう。
仲間たちの声に、一度だけ微笑んで頷くアルーシャ。しかしその瞳はすぐに目の前の兄と親友に向けられていた。
「あら、素敵な顔が台無しよ、フォルナ。それに兄さん」
「アルーシャ……あなた、無事でしたの? ドレミファたちからあなたが行方不明と……ッ、それならどうしてすぐに……いえ、なぜ、ヴェルト・ジーハと共に居るんですの!」
「フォルナ、私がかつてあなたに、『ヴェルト・ジーハ』について知っているかどうかを問いかけた時、あなたは時期が来れば全て話すと言ったわね。それがこれかしら?」
何度こいつらと共に日々を、死線を、運命を共にしてきたことだろうか。
戦友として、親友として、家族として、もしくは心の底から仕えるべき主として。
「どうしてなんだ、アルーシャ! なぜ、お前が……そして彼は……何者なんだ、どうなっているんだ……」
ウラと世界規模で結婚式を披露し、挙句の果てにタイラーを何故かぶん殴った人間。それが、俺。
何も知らないロアに理解しろというには、あまりにも難しすぎる複雑な俺たちの関係。
その時、フォルナは何かを思い出したかのように、ハッとした表情を見せた。
「そうでしたわね、アルーシャ。あなたはどういうわけか、『世界から忘却されているヴェルト・ジーハ』を覚えていましたわね。当時は、そのことを誤魔化すことに必死で追及しませんでしたが、あなた方はどういう関係ですの?」
あんまり、俺を他人扱いして追及するなよな、フォルナ。
泣きたくなっちまうから……
「フォルナ、逆にあなたはどうなの? ヴェルト君について、あなたはどこまで知っているの?」
アルーシャの逆質問に、フォルナは少し難しい顔をした。
「………ワタクシの許婚……そう聞いていますわ」
「あら」
「……全てが変わった世界まで彼を軟禁し、その後、彼と共にエルファーシア王国の王権を引き継ぐ……それが、タイラーやお父様に教えてもらった、ヴェルト・ジーハですわ」
「……自分の許婚……記憶が無くても、それを認識しておいて、あなたは何とも思わないのかしら?」
「何を……王族の身に生まれた以上、婚約や許婚の存在等、政略以外の何ものでもありませんし、結婚相手を選べないワタクシに、そこまで興味はありませんわ」
ウラやエルジェラの時以上に、頑なに俺に対する想いを封じ込めているフォルナ。
「人類を裏切り、人類の滅亡の危機を知りながらも、反逆する……そんな彼にワタクシがどのような想いを抱いていたかは今となっては分かりませんが、どちらにせよ、彼をこのまま見過ごすわけにはいきませんわ」
俺はそれに対して、仕方ないと思った。
だが、アルーシャは「許さない」と、その表情が語っていた。
「なるほどね。……真実を知ってしまった今となっては、改めて今のあなたを見るとハッキリと分かる……随分とつまらない女になったわね、フォルナ」
「アルーシャ!?」
「でも、あなたが勝手にリタイアしてくれるのであれば、それで構わないわ。そして、私たちの見据える未来と向かい合うというのであれば、容赦はしないわ」
フォルナを哀れみ、そして今一度自分の立ち位置をハッキリさせるかのように、アルーシャは身構える。
「兄さん、フォルナ、タイラー将軍。引いてはもらえないかしら?」
その所作は、戸惑う人類大連合軍たちに「もう自分はそちら側ではない」という意思表示をしているように見えた。
「アルーシャ姫!」
「姫様!」
イエローイェーガーズ。
「なんで、姫様が!」
「くそ、何がどうなってんだよ!」
シャウトやバーツたち、アルーシャとは国は違えど同じ人類としてこれまで戦ってきた者たちも。
「アルーシャ……お前……なぜこんなことを! 僕たちの進めるサミット開催の計画の裏で、秘密裏にヤヴァイ魔王国、ヤーミ魔王国、クライ魔王国の三国が秘密裏に同盟を結び、世界同盟の絆を破壊しようという動きがあったのを知って、こんなことをしているのか?」
「ええ、そうね。でも、それが本当だとしても、結局こちらから攻め込んでる以上は、どちらが正義も何もあったものではないわ」
「お前は敵が攻め入り、今を平和に過ごす者たちが悲劇に合ってから戦えば良かったとでも言うのか? それでは遅いんだ! 例え……歴史上からは悪の行いだと罵られても、僕たちの信じる正義のために!」
「そんな顔をしないで、兄さん。別に私が言ったのは、ただの嫌味で、どっちが正しい正しくないの問答をする気はないわ。兄さんたちの想いは分かっているもの。ただ、私もまた、自分で決めたこと。誰かに言いくるめられたからでもなく、誑かされた訳でもなく、全てを知り、これまでの自分と向き合って出した答えよ」
だから、申し訳ないと一言だけ呟いたアルーシャは手を伸ばす。
「私たちは、私たちのやり方で世界を変えさせてもらうわ!」
するとその腕の周囲には冷気が漂い、みるみると透明の剣が出来上がった。
やる気か。