異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと 作:アニッキーブラッザー
「パパッ! そんな、聖騎士のパパが!」
「信じられねえ……くそ、くそ! 俺たちが!」
シャウト、バーツ、みんな。
俺に対して敵意を向けるものの、なかなか飛び込んでは来ねえ。
今、こうしてタイラーの装甲を砕いたっていうのに、未だに原因不明な涙に戸惑っている。
「許しませんわ、ヴェルト・ジーハ! たとえ、命に代えてもあなたを止めてみせますわ!」
それなのに、フォルナだけが俺の魔力の拘束をぶち破り、再び戦闘の態勢を見せた。
俺はただ、情けない自分のツラを見られないように、精一杯凶暴な笑みを浮かべてやった。
「疾風迅雷!」
「ふわふわ―――」
だが、向かってきたフォルナを撃ち落とそうとした瞬間、俺たち二人の間に割って入った影。
その影が、フォルナの拳を受け止めた。
「もう、やめなさい、フォルナ」
「あ、アルーシャ!」
「今のあなたでは、いくらやっても勝てないわ。彼にも、私にもね」
氷の刃と雷の拳を交えて力をぶつけ合い、押し合う二人。
俺たちとフォルナの間に立つように、アルーシャがフォルナにそう言い放った。
「アルーシャ……どういうことですの?」
「言葉の通りよ。今のあなたでは、絶対に勝てないわ。彼にも、そして私にも。絶対によ」
「このワタクシを、侮辱しますの? かつてのあなたとワタクシの戦績を、もう忘れましたの? 士官学校でも模擬戦でも、ワタクシのほうが勝率が良かったはずですわ!」
そうだったのか? それは知らなかった。
だが、それでもアルーシャの余裕は崩れない。
「……ええ……そうね。あの時のあなたは最強だったもの。でも……それでも勝てないわ。いえ、今のあなたは尚更勝てないわ。絶対にね」
絶対に勝てない。そう強調したアルーシャは、小さく微笑みを浮かべて空を見上げた。
「ねえ、フォルナ。かつて私には最高のライバルが居たの。その子はね、ほんとーに色ボケしてて、なのに強かった。ことあるごとに『自分には恋人がいる』とか、『キスを何回したことある』とか自慢してたから。でもね、それなのにその子は最強だった。いつも輝いて、世界で一番何が大切なものなのかをハッキリ分かっていたあの子は、本当に強かったわ」
「ッ、それがどうしたと言うんですの! ワタクシには何の関係もないことですわ! ワタクシたちは、戦争をしていると理解していますの? 自分の心を押し殺してでも、成すべきことをなす! それがワタクシたちの使命だと忘れましたの?」
「……忘れたのは、あなたの方よ……フォルナッ!」
本来、攻撃力だけで言えば、フォルナの方が強かった。
身体能力そのものを格段に向上させているフォルナの方が、接近戦でも圧倒的に強かった。
だが、そのフォルナを、アルーシャは押し切った。
「くっ、……そんな、この力は、どこから……」
「教えてあげるわ! 恋を知らない……いいえ、恋を忘れたあなたには絶対に負けないわ!」
力も、体も、そして心すらも、押し切る。
フォルナも負けじと手を出すが、ここに来てアルーシャの動きが格段と上がった。
本来、フォルナが誰よりも知っているアルーシャが、自分の知らない強さで押してくる。
フォルナの動揺が、そしてそんな光景を目の当たりにする人類大連合軍の揺らぎは一瞬で分かる。
「そんな、フォルナ姫が!」
「強い……アルーシャ姫……いつの間にあんなに」
「ロアーッ! まずいわ、フォルナが! 見て、あそこよ!」
二つのエネルギーが竜巻となって天まで達しようとしている。
流石にそれほどの大規模な力の発生は、思わず戦場のあちこちに散らばる戦士たちの手や足を止め、振り向かずにはいられない。
「一体、何が起こっている! タイラー将軍は? まさか、敗れたのか?」
「ねえ、どうするの? このまま、私たちは進んでいいの?」
「しかし、僕たちの役目は……ッ……」
きっと、この場から前へと進み、この戦場のどこかに居るであろうロアたちも、この状況を把握したかもしれない。
強烈な力の渦の発生と、その中心で戦う二人の勇者。フォルナとアルーシャ。
そして、その力の均衡が破れ、フォルナが飲み込まれようとしているのを。
そんな、誰もが注目する戦場の中、大気を伝わって、二人がぶつかり合いながら語らう言葉が、頭の中に響いて聞こえるような気がした。
「フォルナッ!」
「アルーシャ!」
押し切られる寸前になりながらも、ギリギリまで堪えるフォルナ。
だが、限界だ。もう、あとひと押しで……
「何が、ワタクシは恋を知らない……ですの、アルーシャ! そんなものと強さが何の関係がありますの! そんな生ぬるいことを持ち込んで、戦を愚弄するのも大概にしなさい!」
「人生を愚弄するのも大概にしなさい、フォルナ! 己の恋と正義を両立させた、私の憧れた子のように、私もそうやって生きていくわ!」
二つの闘気のぶつかり合いの渦は、容赦なく二人の肌に傷をつけていく。
しかし、そんな過酷な状況下、アルーシャは不敵に笑った。
「フォルナ。なら、教えてあげるわ。恋がどれだけ力を与えてくれるかを! 世界の滅亡の中ですら希望を見い出せるエネルギーがあるのよ?」
「ッ、ど、どういう、ことですの?」
「恋が生ぬるい? なによそれ。恋は戦い、恋は戦争、それを思い知りなさい!」
ん? あら?
「ヴェルト君! 君に……伝えたい言葉があるの!」
なんか、アルーシャ、俺に向かって叫んでる?
「私も本当は君から言葉をもらいたいし、ウラ姫の時のように追いかけてもらいたいけど、先手をかけることにしたわ! 私の口から言うから!」
なになに?
「君は既に知っているけど、それでも改めて言うわ。わた……ゴホン……綾瀬《あやせ》華雪《かゆき》は、朝倉リューマくんのことが好きです!」
ああ……それは知ってるけど、何で前世の話を今……
「そして、アルーシャ・アークラインはヴェルト・ジーハくんのことが好きです!」
おい……いや、……なぜこの状況でそれを言う?
全員まとめて硬直してんじゃねえかよ。
多分、ネフェルティも驚いてるのか、アンデットまで全部機動停止してやがるし!
「つまりね、そういうこと! 『私』は生まれる前からずっと、『君』が好き!」
……………………お…………おお…………
「だからこの世界で、今を、そしてこれからも、ずっと君のそばで一生一緒に生きていくからね!」
いや、ちょっと待て。いや、告白なのは分かった。
まあ、気持ちは知ってたよ。
でも、これってアレになるのか? 俺って、告白されたというより、プロポーズされてねえか?
しかも、俺って、今日結婚したんだよ? ウラと。ほら、この場にいるやつら全員知ってるよ?
結婚式当日に? 嫁も聴いてるのに? それを知ってるやつら全員集合の前で? しかもフォルナの前でそれを言う?
「えぐい…………」
しかも、一番エグイのは、俺に返事をさせない聞き方だった。
最後は「~いくからね」と来た。
これは、「ごめんなさい」とか「えっ、ゴメン、聞こえなかった」とかも言えない言い方。
お前の兄貴とかお前の部下とか、泣いてんじゃねえのか?
だが、そんな俺の目に一番最初に映った泣いてる奴は……
「え……なんで、ワタクシ……」
フォルナの涙だった。
「ッ!」
閃光が弾け、渦の外へと押し出されたフォルナはそのまま砂漠の上へと落下する。
怪我はそれほど無さそうだ。だが、もう、その表情には力がない。
「フォルナ姫!」
「姫様!」
駆け寄る仲間たちに支えられながら身を起こすフォルナ。
その時、起き上がったフォルナの弱々しい瞳と、俺の目が合った、
ただ、俺をジッと見て、より一層苦しそうな表情を見せた。
「ッ、なぜ……アサクラリューマ……その名前、どこかで……」
「あ?」
「どうして、ワタクシの心がこれほど! ッ、なんなんですの! なんなんですの、あなたは! どうしてワタクシの前に現れましたの! 今、世界が、人類が、存亡の瀬戸際だというのに、なぜ! なぜ、今、現れましたの? ヴェルト・ジーハ!」
フォルナ自身も、もう訳がわからないと頭を抱えて身を捩った。
駆け寄るサンヌやガルバたちが体を支えようとするも、もう、ギリギリのところだ。
鋭く睨んだ瞳が、一瞬で幼い少女のように弱々しい姿だ。
「フォルナ……」
ああ、これはあれだな。
初めて出会った時のフォルナ。
城を飛び出したものの迷子になって、孤独に押しつぶされそうにそうになって、泣いていたあの時の。
「ここまでやっても素直になれないなら……」
その時、ゆっくりと地上へ降り立ったアルーシャが、今のフォルナを見下ろしながら、ついに背を向けた。
「ここまでやっても素直になれないなら、もうあなたは私のライバルでも何でもないわ、フォルナ。空っぽの正義を抱えて生きればいいわ。そんなあなたに、ただでさえ独占時間の少ないヴェルトくんを渡したりなんかしないわ」
フォルナとの決別すらも含ませるアルーシャの厳しい言葉。
それは、今の弱りきったフォルナには何よりも強い一撃となり、フォルナの戦意をもぎ取ったのだった。
「フォルナ…………」
そんな今のこいつに、俺が何を言えるか?
何もないかもしれない。でも、同情でも哀れみでも、それでも俺はこいつに…………
『何をくだらぬ茶番に己を見失っている、フォルナ姫!』
その時、一人の女の怒号が響き渡った。
どこだ? どこから聞こえ…………………………はっ?
『闘争こそが生命の歴史! 野心こそ心! そこに男との愛など一切不要! そんなもの、ただの交尾したいだけの翼のないブタザル共の思考と知れ!』
ものすっごい、怖い声と共に、俺たちの頭上には……
「ちょっ、これは何!」
「な、なんと、雲の大巨人!」
「あれは……!」
俺たちの周囲に居た兵たちが一斉に散らばるように逃げ出した。
それは視界に入りきらぬほどの怪物。
全身を雲のようにモクモクとした体で作られ、真っ白い姿の二足二腕の怪物。
ダンガムの倍以上の大きさだぞ、これは!
「雲を素材に創造されし、怪物。クラウド・ジャイアント! ………『リガンティナ皇女』………」
見上げたフォルナの呟いた言葉に、俺はもう「はは」と笑うしかなかった。
巨大な質量が何の前触れもなく、正に俺の眼前に着陸。
それは、今の戦闘のやり取りを全て吹き飛ばすかのようなインパクト。
そこに人の姿は見えない。だが、その雲のバケモノの中から、先ほどの乱暴な女の声が聞こえた。
『フォルナ姫、貴様は何一つ間違ってはいない! 間違っているのは、アルーシャ姫だ! 男も恋も、我ら生命には不要! そのようなものなど無くとも世界の歴史が続くことは、我ら天空族が証明し続けている! そんな発情したメス犬と墜ちた淫乱姫の言う、豚のエサにもならぬ助言に一切耳を貸すな!』
ただ、乱暴なだけじゃねえ。威圧を感じる。まだ姿も見せていないその女の言葉の圧力。
不意にママを思い出しそうになって、俺は思わずケツを抑えちまった。
戦場に現れし、この皇女様は一体……
『大体、その男は気に食わん! なんだ、結婚とか、ふざけるな! そんなものに何の意味がある! 男とは身勝手すぎる生き物だ! 地上の男どもは常に性欲を持て余し、美人には目がないサカリのついたサルだと聞いて、ガラにもなく緊張して街を歩いていても、ちっともこの私には声をかけん! 気が強すぎて怖い? オーラがありすぎて近寄りがたい? ただの草食動物ではないか! ならば、広い心で、みっともなくも私の方から動いてやろうとしたらどうだ? 私の好みの男を見つけて声をかけたら、男の母親に、『まだこの子は子供ですから』などと言われたぞ! ふざけるな、どこまで乳離れできないのだ! 大体、恋とは戦争だと? なにを言うか! 無理やり連れ去ろうとしたら、誘拐犯だと言われたぞ! だから、男は身勝手だ! それなのに、男と女の恋だと? そんなものはまやかしだ!』
…………とにかく、一つ……分かったことがある……
『リガンディナ皇女、落ち着いてください。これ、全部外に聞こえちゃってますから』
『地上の男が声かけられなかったのは、姫様が美しすぎたのと、あと姫様が声をかけたり連れ去ろうとしたのは、まだ小さい子供だったんですから』
『そうです、歳の差だってありましたし……』
『大体、地上に初めて行った時は、天空族の身でありながら結婚できるかも! ってウキウキしてたじゃないですか!』
『この間、お酒を飲みながら、結婚したいよ~、てグチ言ってましたし』
雲の怪物の中で、恐らく部下の天空族たちが宥めているのだろうが、この皇女……
『貴様ら、何をくだらぬことを言っている! 歳の差? 私はまだ二十二だ! せいぜい、十歳ぐらいしか離れていなかったであろう! だいたい、この私から声をかけるというのに、どうして加齢臭ただよう肥えた中年に声をかける必要がある! 男は十五が限界! しかもチンチンに毛が生え揃ったらアウトだ! それ以外は全員中年だ! まあ、見たことないがな、チンチンは』
この皇女は、変態だ! 多分、チーちゃんと気が合うかもしれん! そして、俺は17歳だから良かったぁ~