異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと 作:アニッキーブラッザー
『きゃーーーーー!』
『エルジェラ皇女がケッコン! きゃーッ! 素敵ッ! ケッコンってあれだよね、地上の文化の!』
『そんな、姫様が地上世界の男性と?』
『え~、えー! えー! いいな、いいな~!』
ポカーンとした口調の反応を見せるリガンティナの背後からなのか、物凄い盛り上がってる女たちの反応が雲の巨人の中からよく聞こえた。
「ちょ、え、エルジェラ皇女が、あいつと結婚?」
「待ってくれ、彼はウラ姫と結婚して? さっき、アルーシャ姫とも?」
「はっ、な、えっ? さ、三股っ!」
こういうときは、幼馴染たちの記憶が残っていなくてよかったかもしれない。
物凄い軽蔑の眼差しで見てくるシャウトたちの反応が苦しかった。
「アルーシャだけでなく……ウラだけでなく……エルジェラ皇女まで」
また、こういうときに、般若の形相で嫉妬爆発させて殴って来ないフォルナを寂しく感じたり………
『エルジェラ……お前らしくもない、そのような戯言を』
「戯言ではありません。コスモスはヴェルト様を愛し、ヴェルト様はコスモスを愛してくれます。そんなヴェルト様を私もお慕いしています」
『……お前……何を言っている?』
ん? 妹を諭そうとしている姉の雰囲気とは少し違う。
『エルジェラ……天空族の皇女たるお前が、地上の男と結婚だと? そんな羨ま……そんな軽はずみな言動、どうなるか分って言っているのか? 結婚がどういうものか理解しているのか? 子を持つ母親として、それが何を意味するか分かっているのか』
ゆっくりと立ち上がるクラウドジャイアントから、どこか黒い感情の混じった声が聞こえる。
しかし、そんな中で、ポカンとしたエルジェラは悪気のない一撃をかました。
「そんな……お姉さまは結婚もしていなければ、未だ分裂期が遅くて子供も居ないのに……お姉さまには分かるというのですか?」
『はぐっ!?』
おい、今、物凄い傷ついた声が聞こえたぞ? エルジェラ。お前、天然か? そういや、天然だよ、こいつは。
「パッパはコスモスのパッパ! マッマとパッパで、コスモスのマッマとパッパなの! ティナおばちゃん、わからずや! べーっ!」
『ひぐううっ!』
すごい……なにがすごいって……
「ヴェルト君……」
「言うな、アルーシャ」
俺たちは、あんな女にやられてたわけだ……
タイラーとフォルナに勝ったのに、なんか情けなくなってきた。
だが、これで凹んで潰れててくれれば、ありがたいわけなんだが、流石にそこまでは甘くないか。
『まったく……愚かなる妹と姪だ……それで何だ? その男を守るために、まさか天空世界とは逆側に付き、それどころか、この私と対峙しようというのか?』
「お姉さま! 違います。我々はこの戦いを止めたいだけです! 全ては無意味な結末へと通ずることを、お姉さまたちは知らないのです!」
『真実? ふっ、だからお前は愚かなのだ、エルジェラよ。その様子でお前が何かを知ったことは察しがつく。だが、私が見ている領域までは達していないということも察した』
これは、様子が変わったな。
『人も魔族も亜人も戦争も……全ては小事だ……』
さっきまでの、家族に向けた言葉ではない。
天空族の皇女として、反逆の意思を見せる同族を嘲笑っている態度だ。
エルジェラが気づいていないもの?
『在るのは……同じ時代の天下に、三つの紋章眼が揃ったこと……五百年前の天地友好者と天空族が結ばれ……その血脈が五百年の時を越えて、私に紋章眼を授けたのは、偶然ではない』
「お姉さま? 一体……どういうことですか?」
『神族とは、神にあらず。しかし、この世に本当に神がいるのなら、この奇跡はただの偶然ではない。なればこそ、いつまでも小事に時間を取らず、地上の統一は早めるべきだ。それが、人間だろうとな』
その言葉には、何か、俺も知らなくてはならない『何か』が潜んでいるような気がした。
リガンティナが呟いた言葉の裏には、何かこの世を揺るがすような意味が込められている気がしてならない。
それは一体どういうことなのか?
だが、少なくともその全てをこの場で確かめることはできなかった。
何故なら…………
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアア、コスモスッ!」
未だ話途中のクラウドジャイアントの頭部が一人の魔王のラリアットで爆炎に飲み込まれたのだった。
いや、うん、来るとは思ってたよ。でもタイミングが……
『ッ、何事だ!』
それは、空気読めないことと、幼女を愛することに関しては魔族最強を誇る魔王の所業。
「ベラベラとうるせーんだよババア。売れ残りの行き遅れはすっこんでろ」
颯爽と爆音響かせて登場した、白い表皮の筋肉隆々の漢であり、雄であり、本能の塊であるチーちゃん。
だが、フォルナたちからすれば、それだけじゃねえ。
「あれは! 七大魔王のチロタン! どういうことですの! チロタンは確か、二年も前に行方不明と!」
「そんな、七大魔王がもう一人?」
いや、もう一人居るんだけどそこは黙っとこ。
そう、予想もしていなかった七大魔王の生存と登場は、フォルナたちの予想を大きく狂わせたことだろう。
『チロタンだと? では、貴様か……二年前、我が天空世界の領土の一部を見つけ、襲撃した羽虫は。これはいい。過去の清算をまとめてしてくれる。そこの、ヴェルトとかいう中年と一緒にな』
だが、リガンティナはそれほど取り乱すことはなかった。
強気な態度は変わらず、魔王の名を聞いても、鼻で笑った。
それは、魔王の強さを知らないからか? それとも、それほどの自信があるのか?
わからない。
だが、俺たちは知る。
この数秒後に、このリガンティナが激しく動揺し、そして、ベールを脱いで本性を出すことを。
「それはさせないよ」
チーちゃんの登場でざわめく戦場の中でもう一人現れた。
俺とチーちゃんを見下ろすクラウドジャイアントの前に立ちふさがり、冷たい目で見上げる。
「そこにどんな正義があったとしても、今この場所が僕の世界。僕にはもうこの世界しかないんだ。たとえ、地獄に落ちてもお兄ちゃんは守る」
あっ、かわいい……
冷たい目をしても、その溢れる暖かさは、思わず後ろから抱きついてしまった。
「ひわ! や、お、お兄ちゃん、びっくりするじゃないか、いきなりどうしたんだい!」
「いや、その、なんだ。うん、弟よ」
「ふふ、まったく、そうやって僕をからかうんだから、困るよ、お兄ちゃん」
俺もお前とコスモスのためなら地獄に落ちてもと思ってしまった。
アルーシャとエルジェラが羨ましそうにジーッと見ても気にしない。
「あー! ラっくん、いいな~、コスモスも!」
守りたい。この二つの笑顔を。
『ちっ、次から次へ……と……ん? ……んん? ……ッ!』
その時、リガンティナが言葉にならぬほどの衝撃を受けているのが、様子だけで分かった。
いや、リガンティナだけじゃない。
「ちょっ、あなたは、ラガイア王子!」
「ッ、フォルナ姫……」
「ば、ばかな……どういうことですの! 魔王チロタンだけでなく……アルーシャ! なぜ、かつて帝国を襲ったラガイア王子がここに! しかも、ヴェルト・ジーハの弟とはどういうことですの!」
そうだ、フォルナとラガイアは二年前に戦ったことがある。
「あいつ……そうだ、あの時の!」
「ガウとシーを殺した……!」
そして、あの日の出来事でかつての幼馴染も死んでいる。
大勢の人間が死んだ。
マッキーに扇動され、襲撃し、一歩間違えればここに居る奴らも死んでいたかもしれない。
そんな魔族の王子が俺とこうしてりゃ、誰だって驚くさ。
『おい、そこの……白髪の少年よ…………』
「僕かい?」
『そうだ……』
そう、誰だって……
『いろいろと聞きたいことが……いや……いい』
そう、誰だって……
「ん?」
「あら?」
その時、クラウドジャイアントの内部から光が漏れた。
雲の隙間から光が伸び、それが強くなるにつれて、俺やアルーシャ、チロタンの攻撃でも崩壊しなかったクラウドジャイアントの頭部が、パカッと僅かに開き、中から一人の女が出てきた。
少しふわっとした、紫のロングヘアーをなびかせて、カツカツと、ヒールのようなものが鳴る音が聞こえた。
「ふう」
エルジェラと同じ天使の翼。だが、その格好はこれまで見てきた天空族の女とはかなり違った。
その服は、どちらかというと地上世界と同じ型式で、色は白の軍服、そして戦闘帽、下はパッツンパッツンのミニスカート。
だが、違いは服だけであり、透き通るような白い肌、スレンダーな体なのにエルジェラと良い勝負の胸の大きさ。
そして何よりも、コスモスと同じ形の目をしている、紋章眼とやら。
そうか、あれが……
「お姉さま」
「何だよ、フツーにメチャクチャ美人な姉ちゃんじゃん。ちょっとトゲがありそうだけど」
二十代って言ってたか? なかなか大人のキリッとした表情で、かなり厳しそうな表情だ。
そんな女が自ら顔を出し、俺が後ろから首に手を回して抱き寄せているラガイアを見下ろした。
「ふむ。なるほどな……」
何がだ?
「いろいろと聞きたいことがあったが、やはり言葉はいらないな」
言葉はいらない? 何だ? 拳で語れってか?
「この先、どんな雑音が響こうと……二人なら乗り越えられる」
………? 一瞬反応が遅れて、手が緩んだのが運の尽きだった。
「えっ、なっ、なにが!」
「しまっ、ラガイア!」
俺の緩んだ手から、ラガイアが引っ張られるようにリガンティナに吸い寄せられていく。
超天能力か? 俺が慌ててラガイアを取り返すべく、ふわふわで引っ張ろうとしたが、その前にリガンティナはラガイアをキャッチ。
そして、ホールドして離さない。
「何をする! 離せ、さもないと、どうなるか分からないよ?」
いきなりこんなことをされては、ラガイアもムッとした当然だ。
だが、次の瞬間、誰もが予想もしないことが起こった。
「ムッとした顔も……可愛いな、我が夫よ」
「……………………えっ?」
「これから末永く宜しくな」
起こったことをありのまま説明すると、なんかお姉さんが赤面して可愛らしく笑った。
「ん」
「………………んんーーーーーっ!」
そして、ラガイアにキスをした………………………………
「ふふ」
「ぷは、な、なにを、何を!」
「お前は今日から、私のものにしてやる」
その瞬間、俺の中で何かがキレた。
「テメェッ! 俺の弟になにしやがる!」
「お姉さま! 私の義理の弟のラガイアさんになんてことを!」
「私の義理の弟に手を出さないでくれるかしら!」
俺たちは、無我夢中でリガンティナに飛びかかっていた。
そして、さらりとアルーシャがラガイアを義弟にしやがった。