異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第318話 変態つおい

 一人の女の子が泣いていた。

 弟を穢された怒りだけで頭がいっぱいだった俺にはそれを気にしている余裕は無い……はずだった。

 だけど、目に入っちまった。

 

「どうしてですの? ワタクシの許婚と呼ばれたヴェルト・ジーハは、アルーシャ、ウラ、エルジェラ皇女ばかりか、七大魔王やラガイア王子とまで親密で……分からない……どうなっていますの? ワタクシたちは、一体何と戦っているんですの?」

 

 混乱は仕方ないことだ。

 たとえヴェルト・ジーハの記憶があったところで、この状況を理解できるわけでもない。

 今のフォルナに、それを全て察して受け入れるなんて無理な話。

 そんなフォルナに出来ることは、ただ、その目で見るだけだ。

 

「うるさい中年に、淫乱に妹だ。二人の出会いと旅立ちに祝福する粋な心遣いもないか?」

 

 いや、お前はアレか? ギャンザの天使バージョンか? 思い込んだらそのままか?

 ラガイアがリガンティナに唇を奪われた光景は、俺が十歳の時にギャンザにディープキスされた時を髣髴とさせた。

 あれ、かなりのトラウマになるんだよな。よりにもよって、ラガイアにこんなことしやがって。

 

「ふざけないでくれ!」

 

 だが、俺との違いは、今、捕らえられているのはラガイアであるということだ。

 俺のガキの頃なんかよりも圧倒的な才能と強さを持っているラガイアだ。

 不意に唇は奪われたものの、心も体もそう簡単に好きにはさせねえ。

 

「ダークガトリング!」

「つれないものだな。ムキになった顔もそそる」

 

 ゼロ距離から闇の魔弾。

 だが、瞬間的にラガイアから体を引き離して、高速飛行で回避。

 やるな。だが……

 

「その翼をもぎ取ってやるよ。ふわふわレーザー!」

「その翼を固めてあげるわ。アイスウイング!」

 

 俺とアルーシャの連携魔法。アルーシャがリガンティナの翼を氷付けにして、俺がその翼をレーザーで撃ち抜く。

 

「ほう、やってくれるではないか、中年と淫乱め!」

 

 まっ、本体を撃ち抜くこともできたが、エルジェラの姉だ。殺すまでは避けとかねえとな。

 

「ああ? 淫乱なのはテメエじゃねえかよ。出会って数秒で人の弟を喰おうとしやがって!」

「私が淫乱ですって? 淫乱とは誰彼構わずに体を預ける女のこと。私が預けるのは、輪廻も含めてただ一人よ!」

 

 固めて一部に穴の空いた翼では羽ばたくこともできねえ。

 これで奴の動きも半減して地上に落下……

 

 

「紋章眼。創造の飛行雲!」

 

 

 落下……するほど甘くなかった。

 リガンティナの瞳が発行した瞬間、雲巨人を構成する雲の一部が飛んできた。宙に浮き、リガンティナを受け止めて、まるでリガンティナの意志を反映するかのように自在に動き回った。

 

「んだと? 金斗雲か!」

「この程度で驚くな、中年。やろうと思えば、こんなことも出来るぞ?」

 

 ドヤ顔で俺たちを見るリガンティナは、再び紋章眼の力を解放。

 すると、次の瞬間、戦場を駆け抜ける何千の兵士たちが戸惑いの声を上げる。

 それは、自分たちが敵と戦うために装備していた剣や槍などが、リガンティナの力によって空に集められ、凝縮し、何かの形を造り上げていく。

 俺も似たようなことは出来る。空に武器を集め、それを全部丸めて相手に叩きつける技。

 しかし、リガンティナは、まるで工作するかのように、起用に武器を固めていき、巨人のように巨大な腕を作り上げ、自分の腕に纏った。

 

 

「紋章眼。創造のアームズ!」

 

 

 デカ! まずっ!

 ふわふわキャストオフ? ダメだ、干渉しようとしても弾かれる。超天能力が掴みづれえ。

 押し潰される? 破壊? 避ける? 俺の選択は……

 

 

「ろけっとぱーーーーーーーーんち!」

 

 

 俺の選択は、愛娘が操るダンガムのロケットパンチだった。

 

 

「ぬっ、コスモス!」

 

「パッパをいじめるのダメって言った! ティナおばちゃん、コスモス、おこなんだからね!」

 

 

 ロケットパンチと巨大アームの衝突は、素材となっていた鉄くずや武器や破片等がバラバラに散らばって砂漠に落下。

 一体、二つ併せて何トンの力を使った?

 末恐ろしい……

 

 

「ガハハハハハハハ! 死ね、売れ残り!」

 

「……あ゛? 白いゴキブリのごとき害虫が、天上の存在に物申すなど無礼と知れ!」

 

 

 間髪いれずに飛び掛るチーちゃんの拳! 対する、若干キレ気味のリガンティナの取った行動は?

 

「創造のゴールドラッシュフィーバー!」

「ッ! グガアアアアアアアアアアア!」

 

 黄金のマシンガンだった。

 

「な、なんだありゃ! チーちゃん!」

 

 それは、予想外の反撃。殴りかかったチーちゃんの鋼の肉体を、手のひらサイズの黄金が無数にチーちゃんの体を痛めつけた。

 黄金? あれだけの量をどうやって?

 

「お姉さま……砂金を!」

「さ……砂金ですって?」

 

 砂金? 砂に混ざってる黄金のことか? だが、そんなのどうやって?

 いや、まさか!

 

「もう少し品質の良い黄金があるかと思ったが、微妙なところだな」

 

 こいつ、この広大な砂漠から砂金を掻き集めて?

 

「黄金だけと思うな? 金も銀も、ダイヤすら、素材さえそろえば私は練成することも可能。こんな風にな!」

 

 それは、どこかで見たことあるような気がした。

 デジャブ? それとも、ヴェルト・ジーハではなく、朝倉リューマの記憶か?

 

 

「創造のゴールデンヴァルキリー!」

 

 

 随分昔に、黄金の鎧と翼を纏った戦士のアニメだかマンガだかが、ダンガムの世代で流行っていたと聞いたことがある。ペガサスなんとか?

 

「な、なんと神々しい……姉さま……」

「金色といえばフォルナをイメージしてたけど、これはまた……」

「……普通にすごいね……、僕に対する行動はアレだけど」

 

 ああ。眩いまでの光。ユニコーン流星拳とかやりそうな勢いだ。

 

「クラウドジャイアントもピラミッドの兵たちも、所詮は私の力の一部。この超魔天空皇リガンティナにとって、この世界そのものが私の武器であり、私自身と知れ」

 

 威風堂々とした、自身に絶対の自信を持っていると手に取るように分かる。

 素直に強い。いや、スゲエ。

 ショタコンである事実を消し去るほどに、圧倒的だ。

 

「強いわね、ヴェルト君。でも、数の質で言えばこっちの方が有利よ」

「ああ。……確かにそうだな……」

 

 確かにそうだった。相手は想像以上に強かった。それは認める。

 だが、今の時点では、まだ負ける気まではしなかった。

 

「確かに、想像以上の力だ。だが、ビビるかどうかは別の話だ」

「ほう」

 

 俺がどれだけヤバイ力と遭遇してきたと思ってやがる?

 負けねえよ。こんなもんじゃな。

 

「その通りだよ、お兄ちゃん。僕も再び封印を解こう! 一つ目族禁断の二つ目の瞳を! 魔眼覚醒!」

 

 ラガイアが眼帯を取る。

 溢れ出し、まとわりつく黒い闇。

 

「ん? 驚いたな、我が夫よ。……闇とはもっと禍々しいと思っていたが……なんだろうな……月夜の美しき夜のような穏やかさを感じるぞ」

 

 確かにそうだった。深い深い闇。しかし、嫌な感じはしない。

 二年前、この力を使ったラガイアは、この世の負を孕んだかのような闇を纏っていた。

 だが、今は違う。深淵の闇の中に見える、どこか温かな世界。

 

「愛だの夫だの、お兄ちゃんの恋愛劇場を連続で見続けた僕に、よく言えたものだね」

 

 渦巻く闇がラガイアを覆っていくが、闇の中から聞こえるラガイアの声は穏やかだった。

 だが、その踏み出しは……

 

「夜光星《やこうせい》!」

「ぬぐっ!」

 

 闇なのに、光が走ったかのような魔弾。

 疾い! リガンティナの黄金の肩当てを弾いた!

 

「お兄ちゃん、ここは僕に任せてくれ! お兄ちゃんは、フォルナ姫たちを!」

「はは、はは、はははははは! いいぞ、見事な才だ、我が夫よ!」

 

 不屈の闘志を燃やし、ラガイアが飛ぶ。それを受けてリガンティナはむしろ目を輝かせてラガイアを迎え入れようとしている。

 

「創造のゴールデンアームズ!」

「ディープブラックカーテン!」

 

 巨大な黄金の爪を闇の衣で包み込むラガイア。

 同時に、黄金の弾丸が放たれるが、それすらもラガイアは闇の衣で包み込む。

 強烈な閃光と闇が交互に視界に広がり、世界がチカチカしやがる。

 

「いくよ、ダークネスインパクト!」

「創造のゴールドウォール!」

 

 成長している。それが、俺たちのラガイアに対する素直な感想だった。

 二年の歳月と有り余る才能を考えれば当然とも言えるが、どこか吹っ切れたように戦うラガイアには、頼もしさがあった。

 その強さに、リガンティナは顔を顰めるどころか、嬉しそうに笑った。

 

 

「おお、おお! いいぞ……いいぞ、我が夫、ラガイアよ!こんな素晴らしいことがあるか! これは必要な夫婦喧嘩、お互いを知り合うのに、これ以上のことはない! お前を寝室に連れ込んで肌を重ねることしか考えていなかったが、これはこれで最高だ!」

 

「その余裕がどこまで続くかな? その金メッキ、剥がしてあげるよ」

 

「ああ、剥がせ! 私が自ら服を脱ぐのではなく、お前の力で私を脱がせられるというのであれば、もうそれは運命だ!」

 

 

 リガンティナの笑が怪しく歪む。アブない空気がプンプンするぜ。

 とてもじゃねえが、弟を任せることは出来そうにねえな。

 だが、それはそれとして、そのアブない女と勇敢にも正面からまともにやり合うラガイアも、スゲエ。

 

「バカな、ラガイア王子があれほどの強さを……ワタクシと戦った時よりも遥かに強くなっていますわ!」

 

 フォルナ……そりゃそうだ。いや、ある意味では、成長してなくちゃダメなんだよ。俺たちは……

 だが、俺もまだ見くびっていたかもしれねえ。

 ラガイアの成長イコール、相手より強いってわけじゃねえってのに。

 

「魔法とやらのキレ、及び単純な格闘戦は見事なものだな」

 

 それは、リガンティナの余裕の笑み。

 よく見ると、ラガイアの向上した格闘術や、魔法を、涼しい顔していなしている。

 黄金の翼で舞い、黄金の鎧で弾き、黄金の篭手でいなす。

 噛み付こうとしている猛獣をひらりと回避し、頭を撫でているようにも見える。

 

「ダークツイスター!」

「闇の突風か。いいぞ……私は夜間飛行も好きなのでな。ロマンチックで良いではないか」

 

 黒い竜巻が渦巻き、リガンティナを包む。だが、どれだけ風速と威力が上がろうとも、竜巻の渦の中、平然としていた。

 

「ッ……僕の魔法を……」

「我々天空族はそれほど魔法というものに詳しいわけではないが、原理や力はおよそ理解している。地上よりも遥かに過酷な環境下、凍てつくような突風が吹き荒れる世界すら平然と飛行する私たちだ。地上の異常気象程度が、武器になるとでも思ったか?」

 

 遥かなる高みから微笑む黄金天使は、闇を拡散させ、ラガイアに掌打。

 金色打撃がラガイアに深々と突き刺さる攻撃は、見ているだけで悶絶ものだ。

 

 こいつ……確かに強いな……変態なのに。

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