異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第320話 秒殺

 正に、地上を地獄へと変える魔王様そのものだな。

 

「ジャレンガ……あのクソ王子が!」

 

 既に姿かたちは人型だったそれの名残もなく、完全なる化け物と変わっても、あの声、そしてあの目だけは変わらない。

 ヴァンパイアとドラゴンという、単体だけでも最強種と恐れられるほどの遺伝子が、二つも合わさった。

 想像しただけでもゾッとする。

 

「まずいな、これは……コスモス、ダンガム乗り捨てろ! んな、デカいもんは危ない! エルジェラ! ラガイア! 急いでこっちに来い!」

 

 こんなのどこからどう手を付ける? いや、とりあえず逃げたほうが?

 あのクソ王子、俺らが巻き込まれようと、マジでどうでもいいと思ってやがる。

 

「ほう、天空の更に上からの使者か。……ふっ、面白い。結婚前の悪魔の試練とでも思えば、安いものだ」

 

 リガンティナ、やる気か! 好戦的な笑みを浮かべて、出現したヴァンパイアドラゴンに目を向けてやがる。

 いや、あの女なら……

 

「ヴェルト君、上よ!」

 

 って、俺も余所見してる場合じゃねえ。次から次へと落ちてくる隕石は、一瞬の油断も出来ず、絶え間なく降り注ぐ。

 気づけば俺の真上にも……

 

「ロッケンロール!」

「森羅万象!」

 

 おお、隕石並みに最強の仲間の登場だった。

 

「キシン! カー君!」

「あせるな、ヴェルト。ユーがムーブすれば、合流しにくくなる」

「ウム、邪魔な礫は小生たちで払う。今は一度集まって、動くのはそれからがいいゾウ」

 

 なんか、降り注ぐ隕石を粉々に砕きながら登場した、キシンとカー君の存在感は別格だった。

 その余裕や落ち着きぶりは、俺も見習わねーとな。

 

「ヴェルト!」

「あんさん!」

「ゴミ!」

 

 そして、俺に動くなといったカー君の言葉の通り、荒れ狂う地獄の中、ウラやアルテアたちも全員、あらゆるものを掻い潜ってここまで辿り着いたようだ。

 まずはホッとしたってか? いや、それでもここが地獄であることには変わりねえ。

 

「ヴェルトー、どうなったっしょ! なに、あれ! 地球滅亡だったり!」

「あの、ヴァンパイアの兄さん……おっそろし存在やと思っとったけど、予想以上やな。ユズリハが怯えて丸まっとる理由が、よう分かった」

「世界最悪の混血。伊達ではないのう」

 

 みんなの言うとおりだ。ここからも結構な距離が離れているというのに、一歩たりとも近づきたくない、死の空間。

 次々とピラミッドの兵どころか、爪の一振りで人間があっという間に肉片となって飛び散っている。

 弓や魔法で遠距離攻撃しても、どうだ? 月光眼の能力である斥力の力で、全てがヴァンパイアドラゴンに届かない。

 どうする? いや、そもそも俺たちはこの状況、どういう立ち位置であるべきか?

 チーちゃんは? ん? マッキーは……

 

「ウラ、あなたまで! それに、あなたは、四獅天亜人のカイザーではありませんの!」

「それだけじゃねえ! 浮浪鬼魔族のキシン!」

「それに、ユーバメンシュ氏の家族の……アルテアさん?」

「シンセン組のバルナンド!」

「おいおいおいおい、どーなってんだよ。何なんだよ、こいつら! この集団は!」

 

 まあ、当然そういう反応になるはな。つっても、今はそんなもの説明している場合じゃねえ。

 

「ふはははははははは、地上の生命にしては、大した存在感だな。アレもコレも、大したものだ」

 

 アレはジャレンガ。

 コレは俺たちってか?

 まあ、この状況下で笑ってられる、リガンティナはやっぱ大物なんだろうな。

 

「リガンティナ様、どうされます?」

「このままでは我々も危険です。あの怪物……次元が違います」

 

 リガンティナの部下と思われる天空族たちが顔色を伺うように尋ねるが、リガンティナがどうしたものかと俺たちを見比べている。

 ジャレンガに行くか、それともこの場にとどまるか。

 まあ、どっちにしろ、俺たちと違って、天空族や人類大連合軍の選択肢は一つしかないのは分かっていた。

 

 

「さすがに、現在進行形でのこの殺戮は止めねばなるまい。こいつらも、巻き添えを食らっている以上は、今は戦う気もないだろうしな」

 

 

 まあ、それは当然の選択だ。

 今、こうしている間に逃げ惑う人類大連合軍たちの断末魔が鳴り止まない中で、俺たちを相手にするのは明らかに間違っている。

 

「援護するっす、リガンティナ皇女」

「ヴェルト・ジーハ……正直、君たちを放置するわけにはいかないが、今はアレが優先だ。ここは、行かせてもらうよ」

「姫様、少し場を空けます。どうか、ご無事で」

 

 バーツ、シャウト、ガルバ。まあ、そうだよな。

 お前らは、逃げるわけにはいかねーよな。

 

「お、お待ちなさい、あなたたち! ワタクシも行きますわ!」

 

 ああ、お前もそう言うよな。そうだよな。分かってたよ。

 

「姫様、ダメです! まだ、お体が!」

「いいえ、怪我そのものは大したことありませんわ。それに、今、あの怪物を前に逃げるわけにはいきませんわ。リガンティナ皇女。我々も」

「ほう、頼もしいな、金色の彗星」

 

 俺とフォルナの立ち位置は、既にハッキリと割れている。

 二年前までなら、何の迷いも躊躇いも無く、フォルナが戦うならと、俺も戦えた。

 でも、今の俺はこいつの敵。ジャレンガの味方ってわけでもねえ。

 俺はどうすべきか? 追い払うという手段が難しい以上、ジャレンガと一緒に人類大連合軍を? 

 それとも……せめて……フォルナだけでも……

 

「って、フォルナ、上だバカ!」

「えっ?」

 

 と思ったら、丁度フォルナの真上に隕石が一つ。

 やべえ! 間に合……

 

 

「アイアンクルセイド!」

 

 

 それは、風のように現れて襲い来る隕石を粉砕した。

 

「ヒヒ~~~~ン」

「おお、どうどう。興奮するな、ルドルフよ。すぐに、あの化け物に駆け抜けさせてやる」

 

 一瞬で分かる「戦」の匂いを全身から発し、漂うオーラが尋常ならざる「威」を纏っていた。

 そして、一人じゃない。

 馬だ。普通の馬の三倍近くデカイ、筋肉質な馬。その馬体を鎧で纏わせ、いかにも素早くなさそうだが、もし直線に駆け抜けた場合の突進力や破壊力を考えると、ゾッとする。

 

「やれやれ、まだこのような所で戯れておられましたか、フォルナ姫、リガンティナ皇女」

 

 それは、仙人のように長く黒い口ひげを生やした男。

 だが、かなりの高齢に見えるのに、肉体や表情は若々しい。

 まるでイーサムのように、生涯を武に捧げた匂いを感じる。

 全身を通常の兵士と比べて何倍も巨大で重厚な装備で固めた重装戦士。

 その姿を見て、フォルナたちは声を上げる。

 

「あなたは、『ガゼルグ』! あなたまで!」

「既に場は総力戦。我らも後方で待機している場合ではないと判断し、参上した」

 

 ニヤリと好戦的な笑みを浮かべては、俺たちを見ては露骨に睨みつける、筋肉ジジイ?

 誰だ? ただものじゃねーみたいだが……

 すると、その名を聞いたカー君がハッとした表情を見せた。

 

「ガゼルグ! その名は確か………」

「ほほう、おぬしが四獅天亜人のカイザーか。ワシがまだ人類大連合軍に所属していた頃からその名は聞いていたが、一度も刃を交えたことがなかったからな」

 

 まだ、所属していた頃? 今は違うのか?

 じゃあ、人類大連合軍じゃなければ、こいつは?

 

 

「カー君?」

 

「こやつもかつて、タイラー、ファンレッド、と肩を並べ、人類の勇者の一人として数えられた男だゾウ。その後、聖騎士の一人に選ばれたと聞いたが……ついに出てきたか、……当時、帝国より遠く離れた辺境の国であったがゆえに、つねに魔獣や盗族、亜人などの襲撃に晒されて滅亡の危機にあったチェーンマイル王国を救いし騎士……『猛聖獣ガゼルグ』だゾウ!」

 

 

 聖騎士!

 

「チェーンマイル王国の武将……ガゼルグ殿……」

「おお。お久しぶりですな、アルーシャ姫。大きくなられましたな」

 

 聖騎士か。まさかこのカオスな状況下で更に出てくるとは思わなかったな。

 しかも、聖騎士ってことはアレだろ? 俺やキシンのことも……

 

 

「さて、まさかこんな形で出てくるとは思わなかったぞ。ヴェルト、そして、キシン」

 

 

 まあ、当然知っているわけか。

 

「テメエ………」

「やはり、こうなるのなら、お前たちを殺しておくべきだった。タイラー……こうなったのは全て貴様の甘さが原因だ……」

 

 横たわるタイラーを睨みながら吐き捨てるガゼルグの言葉は、明らかな侮蔑が込められていた。

 

「そうか。Youが三人目の聖騎士か」

「お前がジーゴク魔王国のキシンか。なるほど、確かに只者ではないというのは、一目で分かるな。理屈ではない。当時はジーゴク魔王国の鬼と戦の経験はあったが、貴様までたどり着かなかったからな。こうして会うとは皮肉なものよ」

 

 これは、俺とキシンと一部の奴らにしか分からない会話。

 当然、フォルナたちにも分かるはずもない。ただ、俺たちのただ事ではない会話に首を傾げるだけだ。

 だが、いつまでもノンビリ会話している場合でもない。

 

「フォルナ姫。リガンティナ皇女。ガルバ、バーツ、シャウト。ここは、ワシが相手をしよう。急いで、ロア殿の援護を」

 

 そんな状況下で、何とこのジジイが口にした言葉は、あまりにも大胆すぎる言葉だった。

 

「ッ、ガゼルグ殿、この者たちを見くびってはなりませんわ! ワタクシやタイラーすら……それに、この人数……」

 

 当然だ。実際に俺たちと戦ったフォルナなら、このジジイがどれだけ無謀なことを口にしたかを理解している。

 しかし、ガゼルグは、笑みを止めない。

 

「ハッハッハ。お二人を退けたヴェルト、さらには四獅天亜人、そして噂のキシン。これを侮るワシではありますまい。しかし、……ワシの歴史も伊達ではない!」

 

 その想いは、慢心などではない。確固たる自信があるのだと言わんばかりの表情だ。

 確かに、見るからにいくつもの戦場を駆け抜けてきたって面構えだ。

 

 

「なあ、キシンよ。そんな冷めた目で見ているが、お前とてワシのことは知っているであろう?」

 

「………………」

 

「鬼も獣も問わず、かつては人類を甘く見た愚か者どもをいくつも退けてきた。聖騎士最強『カイレ』様と共に、人類の尊厳を守り続けてきたこのワシもまた………再び怪物となろうではないか! 戦場の猛戦士、角のない鬼、至境の戦士、あらゆる異名を欲しいままにした、あの頃のようにな!」

 

 

 殺気がまるで突風のように駆け抜ける。

 降り注ぐ隕石が、この空間に近づくものの、落下の直前に消滅している。

 なんつう、パワフルな……

 

 

「ヴェルト・ジーハよ。お前はタイラーを倒したことで、聖騎士の力量が分かったと思っているかもしれんが、それは勘違いも甚だしいぞ?」

 

「あ?」

 

「聖騎士はあくまで、選ばれし騎士を意味する。騎士とは騎乗してこそ、初めて全ての力を解放できる! 騎獣も持たず、騎乗もせず、まして甘さも捨てられぬタイラーと、このワシを一緒にしないことだ!」

 

 

 その時、解放された殺気と共に、ガゼルグが跨る巨大馬の全身にユラユラと光が溢れ出す。

 

 

「あれは、『魔道兵装・騎獣一体』!」

 

「聞いたことある。自身だけじゃなく、騎獣とも一体となる魔道兵装! は、初めて見た……」

 

 

 確かに、この溢れるオーラは、同じ空間に立っているだけで破壊力が想像できる。

 降り注ぐ小粒な隕石よりも、もしこんなので突進されたら?

 さっきの巨大隕石ほどじゃねえが、一たまりもねえな。

 

「おお、まじかい、どないするんや?」

「おいおい、勘弁しろってーの。なあ、ヴェルト、マジでみんなで囲んでボコるとかできねーの?」

 

 まあ、アルテアの言うとおり、何も一対一でこんなの相手にする必要もねえ。

 ここは全員で……

 

 

「遅い! 動きも覚悟も後悔もな!」

 

 

 そんな俺たちの動きを「遅い」と言い、暴風のごとくガゼルグは暴れ馬と共につっこんで来た。

 すると……

 

 

「ユーのセリフ、ブーメランでリターン」

 

 

 キシン! 俺たちを庇うように、フラッと俺たちの前に立ち、ガゼルグの突進を正面から!?

 

 

「お、おい! 避けろ、キシン!」

 

 

 まずい! こんなのキシンでも正面から食らったら……

 

 

「フハハハハハハ! まずは貴様か! よかろう、この場で最強のお前を葬ることで、一気に形勢を逆転させる」 

 

「ふむ……ユーは……演歌か……ミーとはジャンルが合わないな」

 

「なんじゃ、その余裕は! 貴様が『世界最強の五人』と恐れられたのは、ワシと戦わなかったからこそ! あの時代に刃を交えていれば、二年前の全面戦争にワシが参戦していれば、貴様は滅んでいた!」

 

 

 キシンが鬼の手を右手だけ突き出す。まるで、壁を作るかのように。

 おいおい、片手で? ん? 魔力障壁? 

 キシンはまるで軽く壁に寄りかかるかのように、障壁を広げた。

 だが、ガゼルグも当然気づいている。しかし、構わず突っ込んでくる。

 

 

「ふん、人類に越えられぬ壁など存在せぬ! 人間の極みを侮るな!」

 

 

 次の瞬間には大クラッシュの激しい衝撃音。

 全てを粉々に打ち砕くかのごとく、破壊音! ……のはずが……

 

「ぬっ! なんじゃと!?」

 

 何も破壊されていない。

 片手を突き出したままキシンの障壁は破壊されず、ガゼルグと馬の突進は、障壁に阻まれて一歩を踏み出せないでいた。

 

 

「ほう……やりおるな……じゃが、ワシの力はまだまだ――」

 

「……ふっ……ネバーエンディングが大嫌い? 世界を知らねえガキどもは、ミーに老害あって一利なしって唾捨てる♪ だからその度にミーは言うのさ、世の中そんなに甘くねえ! 渡る世界は鬼ばかりだぜってよ♪」

 

「ッ、ぬ、ぐ、な………ぐっ、うぐ、な、なんじゃと………」

 

「黙ってミーを、いや、俺を生きらせろ! 俺は終わらない歌を叫んでやるのさ」

 

「ぐ、ち、違う……こ、こやつ……ぬ、な、なんじゃ、こ、これは! ……ッ、ま、待て!」

 

 

 そして、破壊された。

 

 

「俺の歌で、魂の芯まで震えさせてやる!」

 

 

 ガゼルグと馬が纏った鎧が、粉々になるまで粉砕された。

 

 

「……超音波振動……だゾウ……キシン……お前、そんな力まで?」

 

「ふふ、思い出しただけだ。こんなパワー使わなくても、ミーは負けなかったが……あの、ルシフェルにさっきの一幕で似たような技を使われそうになって、久々ユースしてみた」

 

 

 カー君の解説なんて、もはや誰の頭にも入らなかった。

 俺たちの頭に共通して過ぎった言葉はただ一つ。

 

 

「「「「びょ、びょ! 秒殺ッ!」」」」

 

「ノット、デッドだ。まあ、ボディは丈夫だからね。気絶してるだけだ」

 

 

 とまあ、涼しい顔で振り返るキシンに、俺たちももう、目玉飛び出しそうになって、絶句しちまった。

 

 なんか、聖騎士の一人をアッサリ倒しちまった……

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