異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第322話 全てが規格外であり、溢れる死

 謎の黒頭巾が消え、モヤモヤとした気持ちだけが残った。

 キシンの魔法障壁で安全とはいえ、この降り注ぐ隕石の中で、少し無防備に呆然としていたかもしれない。

 だが、その心配はするまでもなかった。

 

「パッパ、パッパ、花火が終わっちゃったよ?」

 

 俺のズボンの裾を引っ張り、コスモスがノンキに言う。

 花火なんて美しいものでもなければ、ハナビのように可愛らしいものでもねえが、まあ、コスモスが無事なら構わねえか。

 とりあえず、頭だけ撫でて辺りを見渡した。

 すると、確かに間髪いれずに降り注いでいた隕石が止んだ。

 

「えっとさ、もう無事なん? なあ、キシン、どう思う? あたしら、助かったん?」

「ん~、これは、プリンス・ジャレンガがパワーをストップしたか、もしくはこれを使っているようなシチュエーションじゃなくなったかだな」

「月光眼も、噂ではかなりの力の消耗だと聞くゾウ。それを温存しようということは、つまりそういうことだゾウ」

「しかし、隕石止まったんやったら、好都合や。今のうちに、チーちゃん探しにいかんとな。あと、マッキーも」

 

 ジャレンガが攻撃をやめて、温存に入った。

 それが一体何を意味するのかは、さっきの黒頭巾の話を聞いていれば理解は早い。

 

「ジャレンガ王子が戦闘態勢……つまり、兄さんが……」

「そうじゃのう、アルーシャさん。恐らく、君の兄さんと、あの怪物が対峙したのかもしれんのう」

 

 アルーシャだけじゃない、フォルナたちも状況を理解して表情を顰めた。

 人類大連合軍が、そして人類の誇る真勇者ロア。やつが、ジャレンガの前に立ちはだかったのだろう。

 

「ウラ姫様……どうされるでありますか? ラブ・アンド・ピースとして動くか……それとも静観するか……シャークリュウ様の仇であるあの者を……指示が欲しいであります」

「ルンバか……いや、正直、私にはもう……ロア殿やギャンザに対しては複雑なところだが、今更そんなものを持ち出す気はない。それに、今は私より、むしろアルーシャ姫はどう思う?」

「……ええ……そうね……」

 

 ウラの言葉で、アルーシャに視線が注がれる。それは、フォルナたちも同じ。

 今、この戦いの行く末を左右させる戦いの渦中で、世界最悪の化物と対峙しているのは、アルーシャの実の兄でもあり、人類の希望。

 正直、さっきまでは色々と興奮状態なテンションで戦っていたものの、こうして間を空けて考えさせられると、アルーシャにも色々と戸惑いもあるんだろうな。

 ただ、それはそれとして、俺自身、気になることがあった。

 

「カー君。キシン。この中でまともに真勇者ロアと戦ったことがあるのは、二人だけだ。ぶっちゃけ、ジャレンガと戦って、あいつは勝てんのか?」

 

 単純な疑問だ。ロアの周りには、この場にいる連中以外のギャンザとかの十勇者も居るんだろうが、それと力を合わせて、あのヴァンパイアドラゴンに対抗できるのかどうか。

 ぶっちゃけ、キシンを相手に十勇者は束になっても手も足も出なかった。

 しかし一方で、ロアはシャークリュウやカー君といった魔王や四獅天亜人にも勝っている以上、力の判断が難しい。

 それにあの黒頭巾も、二年前あんなズタボロだったのに、あのままやっていればロアはキシンといい勝負できてたっぽい言いぶりだった。

 そんなこと信じられないものの、だからと言って知らん顔出来ないような話だった。

 

「ん~、ミーはジャレンガが勝つと思うが……ミーはネオヒーローとは二度戦ったが、ミーの敵ではなかった」

「……本来であれば難しいゾウ。ただし……怒りの源になる死が、悲しみが、今は溢れている……」

 

 まあ、キシンはそうだろうな。

 だが、カー君は実に難しそうな顔をして言葉を濁らせていた。

 

「テメェら、さっきから何をブツブツ言ってやがる。アルーシャ姫様も、どうしたんすか! ロア王子が勝つに決まってる! ロア王子こそ、俺たち人類の希望なんだから!」

 

 その時、俺たちの傍観的な言葉にバーツが噛み付いた。

 自分たちが信じ、託したものが勝利すると疑わぬ瞳で。

 そして、言うだけじゃない。バーツたちはさっき自分たちが言ったとおり、その瞳を少し離れた場所で仁王立ちするヴァンパイアドラゴンに向けた。

 

 

「そして、俺たちは負けねえ。負けられねえ。少しでもロア王子の援護ができれば、少しでも役に立てれば…………」

 

「その通りだ、バーツ。あそこには、ロア王子、ヒューレ、レヴィラルさん、ギャンザさん、ドレミファ、五人の十勇者。そして、今この場には、僕、バーツ、そしてフォルナ姫、八人の十勇者が存在している。勇者の力を結集させれば、いくら世界最悪の混血といえ………勝てる! アルーシャ姫! 姫様も加わってくだされば、尚更!」

 

 

 揃い揃った勇者に、さらには天空族。バーツやシャウトたちがイチイチ説明せんでも、メンツが揃っているのは十分わかった。

 それに、ガルバや他の聖騎士、リガンティナたちだって居るんだ。

 そうやって、「自分たちは勝てるんだ」と言い聞かせたい気持ちは分からんでもない。

 

「ええ、そうですわ。ヤヴァイ魔王国、クライ魔王国、ヤーミ魔王国は……今日、滅びますわ。それが世界の宿命……人類を守るため……人類の存続のため……邪魔させるわけにはいきませんわ」

 

 しかし、フォルナの言葉だけは、バーツたちのような純粋なものと少し違う気がした。

 いや、きっと違う。迷いや、どこか後ろめたさがあるんだろうな。

 だが、そんな時だった。

 

「ん? っ、伏せろ!」

 

 一直線上に亀裂が走った。

 大地が抉り取られたかのように、何百の人間が肉片と化した。

 抉れた大地の果てでは、一人の男が血まみれに倒れている。

 その姿は、数十分前には強烈な輝きを見せて宣戦布告をしていた、勇者の痛々しい姿だった。

 

「に……兄さんッ!」

「ロア王子!」

 

 家族や仲間だけではない。今まさに、人類全体に激震が走った。

 いや、敵があらゆるものを超越した化け物だというのは分かっていた。

 だが、それでも人類が縋った英雄がこのような姿を見せては、誰もが現実を受け入れたくないのは、無理も無かった。

 

 

「あはは、あらら、もろいんじゃない?」

 

 

 まるで猫がネズミをいたぶるかのように、余裕な笑いを浮かべるのは、ヴァンパイアドラゴン。

 

「くそ、よくも勇者様を!」

「ロア様を守れ! 絶対に手出しさせないぞ!」

「撃てーっ!」

 

 絶望。しかし、それでも希望を守れと、立ち上がる。

 魔法を、矢を、投擲を、中には命を捨ててでも飛び掛る奴らも居た。

 だが、それも全ては無駄。

 

「月光眼!」

 

 ジャレンガの周囲から発せられる斥力の力が、あらゆる攻撃を弾き返す。

 届かぬ攻撃を前に、ジャレンガは一歩一歩足を前へ踏み出し、次々と命を潰し、なぎ払い、刈り取っていく。

 もう、戦いにすらなっていない。ただの、災厄だ。人間じゃ抗えねえ、異常気象だ。

 

「まったく、困るよね? セコセコと人をハメてくれたみたいだけどさ、ツメが甘すぎない? ボクがその気になれば、人類大連合軍なんて瞬殺だよ~?」

 

 ゾッとする。俺がゾッとしている間に、人間が何人死んだ?

 マーカイ魔王国との時、ジーゴク魔王国との戦争の時、曲がりなりにも戦争を経験したが、これは違う。

 

「い……一方的過ぎるな。別に人類大連合軍の味方ってわけじゃねえのに、さすがにこれだけの差は気の毒というか、なんというか……」

 

 思わず俺はそう呟いた。

 サイクロプスや鬼との戦いも、確かに悲惨な光景はあったが、抗えたし、戦えた。人間でも十分に対抗できた。

 だが、これは違うだろう。

 

 

「フルムーンブレス!」

 

 

 ドラゴンの咆哮は、肉片どころか、人間の骨も魂すらも消滅させる。

 もう、誰が何人死んだのか、それとも生きているのか、分からねえ。

 そして、仮に死体が整って残ったとしても、そこはネフェルティのネクロマンサーで、手駒に変わって同士討ち。

 エグ過ぎる。

 

「ロアを絶対に死なせない!」

「闇に堕ちたこの身がここまで来れたのは、ロアが居たからこそ。そのロアを守るのなら、この命、惜しくは無い」

「帝国の将として、必ずや」

「俺たちの大将であり、希望であり、夢だ! アルーシャ姫のためにも、通さねえ」

 

 立ちはだかるのは、一度や二度会話した程度だが、確か十勇者の、元気よさそうな女のヒューレと、クールな黒騎士のレヴィラル。

 そして、ギャンザとドレミファ。

 十勇者四人のガードか。豪勢だな。そんな豪勢なメンバーなのに、悪い未来しか想像できないのは気のせいじゃねえ。

 

「燃え尽きなさい! バーストクロスフレイム!」

「暗黒鳳凰剣!」

「神聖魔法・神炎!」

「時空断裂斬!」

 

 俺は、勇者たちの戦いは、新聞程度でしか知らない。

 こいつらの力だって、それほど知っているわけじゃねえ。

 ただ、武勇だけが世界に広まり讃えられた。

 しかし、それでもこいつらが人類最強戦力だっていうのは知っているし、そこまで軽んじているわけでもねえ。

 まあ、キシンとか規格外の連中と比べるのは可哀想だがな。

 だが、今回もまた、キシンの時と同様に、規格外。ただ、それだけのことだ。

 

 

「月光眼があるから届かないってことを忘れたの?」

 

 

 届かない。

 見えない壁が、力が、一切の物理攻撃を遮断した。

 

 

「ほらほら? どうしたの? そんなんじゃ、死んじゃうよ? 殺しちゃうよ? っていうか、死んで欲しいんだけどね?」

 

 

 巨大な質量に、刃先、魔法の欠片一つたりとも届かない。

 

「くっ、この……こんなの、どうやって攻撃すればいいってのよ!」

 

 飛び掛ったはずの十勇者たちが、自分たちの意志とは関係無しに、見えない力の壁に押し返されて砂漠を転がった。

 

「あはははは、ダメじゃない? 偽りの友情ゴッコで遊んでいれば良かったのに、粋がるからね? 勇者なんて、ただ紋章眼を育てるためにチヤホヤされてただけだっていうのにね?」

 

 力の差は明白だ。根性云々じゃなく、あいつらじゃ勝てねえ。

 少なくとも、正面から戦うんじゃなくて、やり方を変えねえとな。

 だが、心から慕う者を嘲笑されて黙っていられるほど、十勇者も大人じゃねえ。

 

 

「っざけんじゃないわよ、この変人野郎! あんたらみたいに、人並みはずれた力を間違ったことに使い、悲しみしか生み出さないバカな奴らがいるから、戦ってるんじゃない!」

 

「…………え? なになに? ボクのこと変人って言ったの? なになに? 殺すどころか、ムシャムシャ食べちゃうよ?」

 

「今の世界を平和に生き、力の無い人たちでも安心して未来に希望を抱ける世界を手にするまで、私たちは負けられないんだから!」

 

 

 ん? 砂漠の温度が上がった? 

 熱気が、急に場に広がった?

 

 

「だから、私たちは負けない! 正義は勝つ!」

 

 

 全身に炎を纏い、ヒューレ自身が炎と化している。それは、どこか透き通った青色の炎。

 フォルナの雷化と同様の力なんだろうし、大したエネルギー量なんだろうが、ジャレンガは余裕の顔。

 

 

「へえ、青色の炎? 不完全燃焼によって赤く見える炎よりも、高温だね? でさ、それがなに? 火なんて届かないよ?」

 

「届けてやるんだから! 私たちは、どんな絶望の状況でも、手の届かない存在と対峙しても、必ず最後は掴み取ってきた! 今回だって、負けない!」

 

 

 青く輝く炎が、形を変える。あれは、翼の生えた炎の精霊?

 その、輝きと共に、ヒューレは跳んだ。

 

 

「スピリット・オブ・フレイム!」

 

「あーあ……っていうかさ、なに? 今日初めて会ったボクを、間違ってるとか、よくボロクソ言えるね? ボクたちの何を知ってるの? そんなに自分たちが正しいと思ってるの? ……なんかさ……不愉快じゃない?」

 

 

 熱量なんて関係ねえ。ジュレンガが月光眼を発動させるだけで、全てが届かないんだから。

 

「月光眼」

「ッ!」

 

 だが、今回ばかりはジャレンガは真逆のことをした。

 それは、斥力で相手を遠ざけるんじゃない。向かってくる相手を、引力で引き寄せた。

 

「や、やべえ!」

「やめろ、ジャレンガ!」

「ヒューレ! ……ヒュ……ヒューーーーーーーーーーレ!」

 

 三日月のように邪悪な笑みを浮かべるジャレンガ。

 引き寄せられるヒューレの向かう先には、鋭く尖った、ヴァンパイアドラゴンの爪。

 それを理解した時、フォルナやアルーシャたちもハッとしたが、既に遅かった。

 

 

「がっ……………あ…………」

 

 

 光の十勇者ヒューレの胴体を、ジャレンガの巨大な爪が貫いていた。

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