異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第329話 限界より先の世界

 どうやら、目が覚めてきたみたいだな、ジャック。

 それが俺やキシンにとって、リューマとミルコの魂にとってどれほど嬉しいことか分かってるか?

 

「なんと、木村くんの記憶が戻ったとはのう! 全く、みんな転んでもただでは起きん!」

「どういうことだい、バルナンド。ジャックやお兄ちゃん達は、一体何にここまで?」

「小生らが知らぬ、過去の記憶とやらか?」

 

 何とも説明しにくいもんだが、ぶっちゃけた話、説明なんて不要。

 俺たちだけがこの喜びと意味を分かってりゃいい。

 

「くははははは、こりゃ、俺もボヤボヤしてられねえな、ロア。こっちはこっちで決着つけるか?」

「一体何が……どうなっているんですか?」

「言っただろ? 素敵なことが起こって、テンションがヤバイ上がってるんだよ!」

 

 俺流魔導兵装のふわふわ世界革命からの光速攻撃。

 大層な眼と経験から、多少の反応ができても、今のロアに全てを受けきることはできねえ。

 

「そらそらそろ!」

「ッ、ぐ、っ、つうう!」

 

 足の動きも鈍い。このまま押し切れる。

 誰の目にも明らかだ。ロアは完全に俺に圧倒されている。

 その、人類にとって悪夢のような光景は紛れもない事実。

 そして、僅かな反撃の隙も与えねえ。

 

「……ロア王子……まさかここまでとは……仕方ありませんね」

 

 ん? ほんの少し、空間に嫌な空気が流れた?

 この感じは、あのクソ女。

 

「新たなる時代を切り開くロア王子を死なせるわけにはいきません。たとえ、史に汚名を残そうとも……」

「宮本剣道・砂山《サザン》十字《クロス》斬り!」

「ッ!?」

 

 だが、俺が察知し、あの女が何かを仕掛けようとしたとき、既にあの女の剣は宙を舞っていた。

 

「無粋な汚名を史に刻むでない。歴史が可哀想じゃよ、微笑みのギャンザ」

「ッ、し、シンセン組、バルナンドッ!」

 

 バルナンド! あいつ、ギャンザが僅かに動き、俺に何かを仕掛け用とした瞬間に既に動いていやがった。

 

「ギャンザ副長!」

「こいつ、シンセン組の!」

「ふざけるな、何故シンセン組が奴らに手を貸す!」

 

 兵たちにとっては、突然バルナンドが奇襲したようにしか見えないだろう。

 バルナンドという亜人の存在を改めて認識して批判の声を上げる。

 だが、バルナンドは動じねえ。

 

「分かりません。仮にも種族の調和を旨とするのがあなたたちシンセン組。種族は違えど、そこには我々と同じ正義があったと思っていました。それが、どうしてこのような世界を揺るがす最悪の大悪党を庇うのです? それとも、貴女方、亜人という野蛮な種は、やはりそういう存在だということですか?」

「ほっほっほっ、お若いのう、ギャンザ殿。そして勘違いされておる。ワシらシンセン組が集うのは、『正義』の旗の下ではない。ワシらが集うのは、『誠』の旗の下じゃ」

「悲しい……本当は誰とも戦いたくないのに、こうして分かり合えぬからこそ戦は終わらない」

「それがどうしたのじゃ。結局剣を取ってしまえば、お互い様じゃ」

「減らず口を……」

 

 これには、ギャンザも氷のような目で睨み返す。

 だが、それでもそれ以上、ギャンザも動かない。いや、動けなかったんだ。

 

「やれやれだゾウ」

「構わないよ。それを防ぐのが僕たちだ。お兄ちゃんには手を出させない」

 

 たとえ、圧倒的な兵力の差があったとしても、今この場には、バルナンド、ラガイア、そしてカー君が居る。

 さらには、まだ姿を見せないネフェルティや、魔王ラクシャサ。

 それを無視できるほど、ギャンザも愚かじゃない。

 ましてや今、ジャック、そしてキシンが敵の大戦力でもあるジャレンガとルシフェルと戦っている。つまり、こいつらから見れば、敵同士で潰し合いをしているのだ。

 ロアが危機とは言え、この戦いを邪魔することで、俺たちが丸々敵の敵は味方理論で敵に回る事の方がまずい。

 それを理解できたからこそ、ギャンザといえど、それ以上手をだすことができないんだ。

 だったら、その隙に俺はケリを付けるしかない。

 

「アークライン流剣術・獅子牙流星斬り!」

 

 まるで流星のように降り注ぐ、幾つもの斬撃を同時に放ってきやがる。

 なるほどな、純粋な剣術のレベルもたけーな。

 だが、光速化し、空気の流れさえ読めば……

 

「全部見切って回避するとは。ですが……」

「けっ、まだまだ! ふわふわ回収!」

 

 斬撃すべてを打ち終わった直後は一瞬だけ体が硬直している。

 その瞬間めがけてロアをレビテーションで引き寄せ、そしてカウンターでKOだ。

 頭の中でその光景をイメージして、俺は警棒握り締めた。

だが、

 

「魔力弾《マジックブリッド》!」

「おっ……弾かれた!」

「たとえ相手の魔法や肉体に干渉しようとも、レビテーションという魔法である限り、あなたの魔力を相手に飛ばす必要があります。それを弾けば、防ぐことはできるはずです!」

 

 器用なことをやりやがる。

 俺がレビテーションを放つために流した魔力そのものを弾きやがった。

 普通はそんなことできるはずがねえが、こいつには良く見ることができる目がある。それが可能にしたわけか。

 

「くはははは、やるじゃねえか!」

「そう簡単に負けられるはずがないじゃないですか!」

 

 十字交差させた警棒で、ロアの斬撃を受け止めて鍔迫り合いのような形で俺たちはそこから押し合うようにしながら足を止めた。

 互いに息がかかるぐらいの距離で相手の目を見ながら、俺たちの言葉は続いた。

 

「粘るじゃねえかよ。勢いに乗せてそのまま飲み込めると思ったんだが」

「当たり前です。たとえあなたが言うように、僕の視野が狭かったとしても、それでも僕には僕で、今日この日まで歩んできた道に、何の疑いもなければ迷いもなく、積み重ねてきた自負があります!」

 

 ん? 剣の質が若干重くなった? いや、気のせいじゃねえ。

 こいつ、徐々にだが……

 

「視野が狭いことで真理を見逃す……」

「あっ?」

 

 動きのキレが上がってきている? 

 

「そして、時には無駄な寄り道がかけがえのないものに変わる……あなたの考えですね。でも、残念ですが僕には無駄な時を過ごすことなんて許されないんです」

 

 変わった? さっきまで、俺の言葉や攻撃の一挙手一投足にリアクションを見せていたのに、その目が徐々に落ち着き、どこか真っ直ぐと何かを見据えたようになっている。

 

「あなたの言うとおり、確かに世界は正しいことと悪いことの二つだけで色分けできるほど単純なものではないでしょう。でも、だからと言って、今この瞬間をそれで流せるほど僕たちの想いは軽くありません」

 

 迷いが消えている?

 

「はああああああああああああああっ!」

「ぐおっ!」

 

 威力は俺の方が上だが、段々と警棒から伝わってくる衝撃が……

 何だ? 急に、この手に伝わる痺れは! こいつ、飲み込まれるどころか盛り返してきやがった!

 押し返されるどころか、弾き返され、俺が体ごと後方に飛ばされた。

 

「やっ、やったぞ! ロア王子が盛り返した!」

「そうだ、ロア王子が、あんな奴に負けてなるものか!」

「ロア王子万歳! ロア王子万歳! ロア王子! ロア王子!」

 

 こいつら、劣勢からの奇跡の大逆転を期待しているのか、願いにも似た後押しの声を上げる。

 だが、これはこれで馬鹿にできねえ。この後押しは、必ず力になる。

 吹っ飛ばされ、手に残る感触がそれを実感させた。

 ちっ、俺が飲まれるんじゃねえ! 反撃だ。

 

「やろうっ!」 

 

 にしてもこいつ、一体どこにこんな力が?

 キレもどんどん増してやがる!

 

「僕は十歳で初陣を飾り、数え切れない戦場で、敵も味方も問わずに数十万を超える命の輝きを目の当たりにしてきました」

「あ゛?」

 

 そのとき、俺との打ち合いの最中で徐々に速度を増して行ったロアの剣に皮膚が削られ始めていくさなか、飛び散り始めた俺の血液を浴びて、ロアは真っ直ぐな目で俺に言った。

 

「その多くの命を糧にして、そして想いを受け継ぎ、僕がたどり着いたのはその全てを背負い戦い続ける責務と……勇気を冠する偉大なる称号……限りない夢想に立ち向かい、全ての命と想いを双肩に宿し、世界の先頭に立って戦う存在……それが、勇者と呼ばれた僕たちの生きる道!」

 

 ちっ、なるほどね……死んだ仲間の想いが力になるか。

 背負いこんだ全てのものを宿したというだけあって、ダテじゃねえ

 兵士じゃねえ俺にはあまり良く分からねえが、実際にそういうもんが存在するってのはよく聞く。まあ、中には愛の力とやらで最強になる奴も居るしな。

 

 

「光の十勇者・真勇者ロア。その名に込められた想いも命も一つではありません」

 

 

 この時、俺はどうしてだか、ある男のことを思い出していた。

 あれは、二年前。俺が生まれて初めて世界最強に触れた時だった。

 

 

―――まさか、まさか、おぬしたちは…………腕の一本程度を斬り落とす程度の覚悟と策略で……たかがワシの頭蓋を少し割った程度の手応えで……どうにかなるとでも……よもや、一瞬でもこのワシに、広大な亜人大陸の頂点に君臨する四獅天亜人の一人であるこのワシに、一瞬でも勝てるとでも思ったわけではあるまいな!

 

 

 あの時ほどの押しつぶすような威圧感はない。

 心臓を鷲掴みにされ、今すぐにでも握りつぶされそうな恐怖もない。

 しかし、今のロアは、どうしてか、あいつとダブって彷彿とさせた。

 

 

―――よいか、おぬしら! 四獅天亜人、光の十勇者、そして七大魔王! 熱き思いを胸に秘めた全世界の天才・異才・怪物・超人・英雄たちが! 万の魂と血肉を喰らい、それこそ死力と魂を振り絞り戦い抜いた者だけが辿り着く境地に至ったこのワシに! 一瞬でも勝てるとでも思ったか!

 

 

 ああ、そうか。こいつは、その世界の住人。

 

 

―――ワシを侮りすぎだぞ、未熟者どもめ!

 

「彼らの魂を背負いし勇者の名を、簡単に崩せるなどと思い上がらないでください!」

 

 

 武神イーサムたちと同じ領域に住む連中だからこそ言える言葉、纏えるオーラ、そして重み。

 それが俺を遥かなる高みから見下ろしている。

 でも………

 

 

「けっ、知ったことか! 人間大なり小なり、何かしらのもんを抱えて生きてるんだよ。俺からすりゃ、顔も見たこともねえ奴らの死んだ想いより、今この場で、パッパ頑張ってと愛娘に一言言われた方が、何百倍にも力になるぜ」

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