異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第341話 悲痛の裏切り

 ママン。そう、ママンだ。

 アルテアの育ての親であり、俺にとっては二年ぶり。

 四獅天亜人の一人でもある、世界最強のオカマ。

 激しい戦闘のあとなのか、夥しい傷を全身に付け、無理やり体を動かしているのが分かるほど全身の神経がむき出しになり、所々血管から血が吹き出している。

 その瞳と表情は無言で、どこか常軌を逸しており、正常ではない。

 それに、アルテアの声にも反応していない。

 

「…………殲滅」

「え…………ママンッ? なに、やってんのって! あたしだよ! あたし! あーたーし!」

「…………殲滅!」

「あっ…………」

 

 その時、ユーバメンシュが再び一歩踏み出し、拳を振りかぶっていた。

 ッ、アブねえ!

 殴る気か? アルテアをッ!

 

「へい、アルテアッ! ストーップ!」

「やめるゾウ、ユーバメンシュッ!」

 

 間一髪、ママンの拳をキシンとカイザー二人がかりで受け止める。

 だが、その表情は苦悶に満ちて、二人の足は砂漠に深く埋まっている。

 これは、冗談なんかじゃねえ。マジだ! ママンは、本気でアルテアを認識せずに殴ろうとしていた?

 

「マ、ママン…………」

 

 ショックで腰を抜かして震えるアルテア。当たり前だ。

 俺ですら、種族や血縁を超えたこの二人の親子関係を目の当たりにしていた。

 そのあり方に胸が打たれるほどだった。

 それを…………

 

「なにが、どうなってやがる! おい、ママンッ! テメエ、何やってやがる! しかも、よりにもよって、アルテア殴ろうとするとか!」

 

 だが、俺の声は届いていない。

 ただ、ママンは苦しそうに鼻息荒くして、興奮状態を抑えきれず、今にも暴れだしそうだ。

 しかし、そこで、一つだけ目に付いたのがあった。

 なんだ? あの、全身に伸びる黒い刺青のような紋章は? あんなの、前はなかったぞ?

 

 

「あは、えへ、えへへへへへへへへへ! 神聖魔法と対をなす、邪悪魔法…………」

 

 

 その時、ママンの傍らに降り立つように、愉快そうに笑うマニーが現れた。

 

「マニーッ! どういことよ、これは!」

「ユーバメンシュに何をした? それに、邪悪魔法など、どういうことだ?」

 

 思わず身構えた俺たちは、ついさっきまでこいつをぶっ殺してコスモスを奪い返すという感情が一瞬頭から抜けた。

 すると、マニーは、クスクスと笑いながら、全身を震わせて興奮しているママンの肩に手を置いて、俺たちに言った。

 

 

「神聖魔法の使い手六人が集まって、全世界から、三人の記憶を消せるように、魔法の中には協力し合うことで、より効力を強く発揮する魔法があるの。邪悪魔法の中の洗脳魔法………協力しあえば、魔王や四獅天亜人すら操ることができるんだよ♪ まあ、戦争で瀕死状態だったから操りやすかったってのもあるみたいだけどね♪」

 

 

 洗脳!

 

「ちょ、じゃ、あたしのママンは!」

「えへへ、ざ~んねん、アルテアちゃん。あなたのママンは~……今日からマニーたちのママンになってもらうね♪」

 

 ぶっ……

 

「ぶっとばすぞテメエッ!」

 

 怪我もクソも関係もねえ。一秒でも早く、俺は本気であいつを殺そうとした。

 俺がこれまで踏み越えなかったボーダーラインを超えてもいいとすら思えるほど、キレてた。

 だが、

 

「おおおおっ、ふわふわレーザーッ!」

「いやん♪ 無効化~♪」

「ッ!?」

 

 レーザーがマニーに着弾した瞬間、かき消された。

 

「えへへ、ムリムリだよ。魔力が源なら、マニーには通用しないよ? そんな血だらけになってまでやる意味ないよ? 大人しくしておいたほうが~、よくない?」

「ッ……だったら、その着ぐるみの下をグッチャグチャにしてやるよっ! 泣いてゲロ吐かせて、ぶっ潰してやる!」

「もう、こわ~いよ、ヴェルト君。そんなに言うなら………やれるものならヤッテミナヨ」

 

 ああ、やってやるよ。俺は震える手で警棒を握り締め、もうマニーしか見てねえ。

 

「キシン、カー君は二人でママンを抑えてくれ! 残りで、あのクソをぶっ潰す!」

「分かったゾウ」

「ふ~……消耗したボディで、さすがにこれはベリーハードだ」

「ルンバはアルテアに付いてやれ。今のまま戦わせるわけにはいかん!」

「バルナンド、あんたも一緒に居たり。ワイらだけで十分や!」

 

 世界同盟も、魔族同盟も、カラクリモンスターだろうが、全てはこの女をぶちのめせば問題ねえ。

 コスモスを取り戻すためなら、容赦しねえ。

 これ以上、何が起ころうとも俺たちが……

 

「グラビディプレスッ!」

 

 だが、ここまでは予想してなかった……

 

「な………」

 

 飛び出そうとした俺たち全員に圧し掛かる、この超重力。

 全く予想もしていなかった魔法での攻撃に、俺たち全員は砂漠の上に押し付けられ、身動き一つ出来なかった。

 

「ちょ、待て待て! どうなっとんのや、この魔法は!」

「そ、んな………どういうこと? こんな時に何をふざけているの!」

「………よりにもよって、こんな状況下で……笑えないよ」

 

 俺たちが何とか動く首を上げると、空からゆっくりと俺たちの目の前に降り立つ一つの影。

 その人物を俺たちは良く知っていた。だが、知ってはいたが、この行動は予想外だ。

 一体何を考えている?

 

 

「マッキー! テメエ、今までどこに! つか、何しやがる! まさか、テメエも洗脳されてんのか!」

 

 

 洗脳されているのか? その問いかけに対し、マッキーはどこか切なそうに笑った。

 

 

「ごめんよ、ヴェルトくん……みんな……パナイゴメン……」

 

 

 それは俺たちが一度も見たことのないマッキーの表情。

 儚げで、申し訳なさに満ち、苦渋の末に答えをだしたかのような表情。

 だがそれは、マッキーがママンのように洗脳されていないことをも意味していた。

 

 

「マッキー君……何を考えているのよ……こんな時に、何を考えているのよ、マッキー君!」

 

「……マッキー……そうさ、アルーシャちゃん、俺は……マッキーであり……そして、ラブだ」

 

「はあ? どういうことよ、ちゃんと説明しなさい!」

 

「なあ、みんな。スモーキーアイランドで、俺たちは前世と決別し、この世界でこの世界に生まれた者として生きていくことを決めた……そうだ……だから……俺はこうするしかなかった」

 

「こうするしかないって……ねえ、何を……何を言っているのか分からないわ!」

 

「……加賀美として生きてきた俺にはどうでも良かったかもしれなかったが……マッキーとして、ラブとして生きていくのであれば……俺には、降ろすに降ろせねえ責任ってものが出来ちゃったんだよ……みんな……」

 

 

 マッキーが一体何に苦しんでいるのか、何を言いたいのかは分からない。

 だが、それでもこれだけは分かる。

 マッキーは……

 

 

「マッキー……テメエッ!」

 

「パナイメンゴね、ヴェルト君。俺……マニーちゃんと一緒に行くわ」

 

「ッ! マッキー、テメエ、裏切りやがったのかッ!」

 

 

 マッキーは俺たちと決別し、俺たちとはまるで違う生き方をし、そして、敵として対峙すると決めた。

 だが、そんなもん、受け入れられるか!

 

「どういうことじゃ、マッキー君!」

「ざけんな、おどれ自分が何言うとんのか、分かっとんのかッ!」

「もう……まぢ、なんなんだよ! ママンがこんなんになるし、マッキーも……まぢでどうなってんだよ!」

「ふざけないで……ふざけないでよ、マッキー君! 私たち、……ようやく前に進めたんじゃない! それなのに、どうして!」

 

 演技なんかじゃねえ。

 

 

「本気なのか……テメエ……」

 

「ヴェルト君……全部……ダメになっちゃたよ……でも、こうするしかできない。……俺を恨んでいいよ……でも、もうこうするしかない。コスモスちゃんと君の……親子の姿を見せられて……俺は……」

 

 

 本心だと確信できる、マッキーの離別の言葉。

 

「じゃあ、バイバイ、みんな。先生には、もう俺のことは見放してくれって言っておいてよ……」

 

 それは、俺たちの感情的な怒りや説得等、全て理解しながらも、それでも俺たちと一緒に居ることができないという、覚悟と決意を感じさせられた。

 

 

「あははははははははははははははは! あははははははは、ヴェルト君のバーカバーカ! 順番が狂ったのは、ヴェルト君の所為なんだよ~! でもね、驚いたの。マニーが『事情』を説明してもマッキーは知らん顔すると思ってたのに、今のマッキーは凄い真剣に考えてくれたの! これは、ヴェルト君のおかげみたい! だからね、ヴェルト君には感謝感謝!」

 

 

 マニーはこれでもかと機嫌よく笑う。マニーの事情? それは、マッキーが裏切った理由ってことか?

 そしてそれは、以前までのマッキーならシカトできたのに、俺と行動したことがきっかけで、悩み、そして裏切ったってことか? 

 

 

「マッキー。何があった……加賀美だったお前では選択しなかったことって、どういうことだ?」

 

「ヴェルト君……コスモスちゃんは、ちゃんと無事に返すから安心して。俺の命に誓って」

 

「……できるかよ……ざけんなよ……なぜ……俺たちに打ち明けねえ……あの日、アウリーガのことを知って、弱音と本心をむき出しにしたお前は何だったんだよ」

 

「あれは、加賀美の弱音と本心だ。そして今は、違う。それだけだよ……ヴェルト君……」

 

 

 本気だ。マッキーは本気で決別どころか、既に俺たちと戦い、殺しあう覚悟も出来ている。

 そしてそれは、ゲスイこいつからは想像もできねえような、悲痛を感じさせる表情。

 そしてその理由を打ち明ける気はないようだ……

 

「はあ……マッキー……最後に言い残すことはねえか?」

「パナイ」

「そうか……分かったよ。でもな、こっちもコスモスを引き合いに出されりゃ、黙ってるわけにもいかねえ。……いいんだな?」

「……ああ」

 

 アルテアの言うとおりだ。

 さっきまではウラと結婚し、そしてこれからの未来に決意を固めたというのに、どうしてこんなことになったんだよ?

 

 訳わかんないことが、ただ悔しくて、俺の目から水が僅かにこぼれた。

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