異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第344話 金色との真の再会

 速過ぎて何が起こったか理解できなかった。

 一体何が起こった?

 俺はどうして空を浮いて……

 

「あっ……」

 

 俺は誰かに支えられて空へと逃れていた。

 そしてその誰かは、俺の腰をギュッと抱きしめながら、その顔を俺に向けて上げようとはしない。

 ただ俯いたまま、しかしそれでも俺を離さない。

 

「……おい……どういう風の吹き回しだよ……」

 

 だが、俺には顔なんて見なくても、それが誰なのかはすぐに分かっていた。

 ただ、今のこいつがどうして俺を助けようとするのか、それが分からずに思わずそう聞いてしまった。

 

 

「……たとえあなたに心の底から恨まれ、疎まれ、軽蔑され、嫌悪されようとも……それでも、あなたを失いたくないからですわ……」

 

 

 俺に顔を上げないのは会わせる顔が無いからなのだろう。

 そして、その言葉で全てを理解した。

 しかしどうしてだ? それに、その姿はなんだ?

 

 

「頭から……血ぃ出てるぞ?」

 

 

 あの美しかった金色の髪にまで真っ赤な血が染み込んで、その血が血涙のように頬を伝わっている。

 

 

「一度気を失って目覚めて直後……苦しむ胸と頭を破壊するかのように、雷を脳に流し続け……その時、頭の中にかかっていた靄のようなものが全て消え……そして全てを思い出しましたわ……二年前から今日までの日々も含めて……」

 

 

 その声は、背中は、かつて俺が一度も見たことが無いくらい弱弱しく震え、今にも消え失せそうなぐらい小さかった。

 だがそれでも、こいつはもう俺のことを知っている。

 

 

「フォルナ……」

 

 

 しかし、心の準備が出来ていなかっただけに掛ける言葉が見つからなかった。

 お姫様に掛けられた呪いの魔法は、王子様の力を借りずに、お姫様は自力で破ったのだった。

 

 

「……どうなってるの~?」

 

「……姫様……まさか、そんな……ありえない……我々聖騎士の神聖魔法を、自力で破ったなど……そんなことすれば、下手したら命が……脳に障害が残る恐れだってあったのですよ?」

 

 

 初めて驚愕したように戸惑いながら、俺たちを見上げているマニー。

 そして同じように目を見開き震えているタイラー。

 

「フォルナ……あなた……記憶が……」

 

 俺を支えながらゆっくりと降り立つフォルナに、アルーシャが真っ先に駆け寄り恐る恐る尋ねたら、フォルナは躊躇いがちに、短くうなずいた。

 

 

「ええ……悪夢が目覚め……現実は、悪夢より残酷だったと理解しましたわ……目覚めるまでに死んでしまいそうでしたけど、今はむしろ自分を……」

 

 

 そして、フォルナは俺をアルーシャに渡すように寄りかかり、アルーシャが俺に触れた瞬間、パッと俺から離れて背中を向けた。

 

「フォル――」

「見ないで」

「ッ………」

「あなたに名を呼ばれる資格も……会わせる顔もありませんもの………」

 

 俺には分かってる。こいつが、どれだけ俺を想っていてくれたかなんて、ガキのころから分かっている。

 だからこそ、記憶を失ったことも、俺と対峙したことも、俺にぶつけた言葉の全てを思い返し、それがどれだけ、今こいつの心を苦しめているかを。

 だが………

 

 

「今、そんなことはどうでもいいだろうが、バカ!」

 

「ッ……ヴェル……ト……」

 

「ちょっと、ヴェルト君! 今、フォルナは全てを思い出したのよ? であれば、それがどれほど苦しいことか分かっているはずよ? 少しぐらいその気持ち、分かってあげたらどうなの!」

 

 

 だから、そういうことじゃねえよ、アルーシャ。

 今、もっとやることがあるってことだよ。

 

 

「あのな、親にとっては自分の命より大事な娘が攫われて、フォルナにとっちゃまさに仲間が今も死にまくってる状況だろうが。俺が親で、テメエは勇者なら、今やんなきゃなんねーことは決まってんだよ!」

 

「ヴェルト……」

 

「例え俺のことを忘れていようと、お前はお前で正しくあろうとした。それを、俺を思い出したからって、シュンとしてんじゃねえよ」

 

 

 そう、それどころじゃねーんだよ、俺たちは。

 俺は今、コスモス以外を優先できねえ。

 

「そうだよね~、フォルナちゃん、ショックだよね~」

 

 そんな時、今のフォルナを茶化すように、マニーが笑った。

 

 

「全て思い出したのは凄いけど、思い出さないほうが良かったよね~。正義のため? 世界のため? そのためにヴェルト君を殺そうとしてたんだもんね♪ イエーイ! しかも~、ヴェルト君はとっくにフォルナちゃんのことなんか忘れて他の女の子とラブラブで、子供も居るんだもんね~♪ ぜ~んぶダメになっちゃったね。ねえ? どう? ねえ、今、どんな気持ちかな?」

 

「………ッ……ワタクシは………」

 

「いえ~い、フォルナちゃん、シ・ツ・レ・ン、いえーい、失恋ッ! せっかくマニーが二年前サービスでフォルナちゃんの所にヴェルト君を届けてあげたのに、ぜ~んぶ無駄無駄。フォルナちゃんの恋はメデタシメデタシ~! 全部ダメになっちゃった! ねえ、どう? 今、どんな気持ち?」

 

「ワタクシは………ッ!」

 

 

 その時、金色の彗星が爆発した。

 

 

「自分を殴り殺したくなるような、こんな気持ちですわッ!!」

 

 

 その爆発は、目に見えないほどの一瞬の輝き。しかし、爆発したことだけは理解した。

 そして、その爆発と同時に飛び出したフォルナの拳が、マニーをぶっとばしやがった。

 

「なっ………」

「はやっ!」

「マニーちゃんッ!」

 

 誰も反応できなかった。

 拳を突き出したまま、怒りに打ち震え、握った拳、歯軋りが聞こえるほどかみ締めた音、全身の沸騰した血がポンプされ流動しているのが分かる。

 

「いっつ………ッ………フォルナちゃん……マニーを殴ったの……マニーを殴ったの!」

 

 雷を纏ったフォルナの拳は、雷そのものはマニーに触れた瞬間に消滅した。

 しかし、雷を纏ったことによって、加速した速度と拳の重さそのものまでは消せない。

 肉弾戦の苦手なマニーを殴り飛ばすには十分すぎるほどの威力。

 

「マニーに八つ当たりしないでよ! フォルナちゃんがそんなことになったのは、タイラーたちの所為なんだから! それに、その程度で悲劇をひけらかすの本当にキライ! ちっちゃいちっちゃい、ちっちゃいんだから!」

 

 マニーが声を震わせて荒げる。

 

「もー、やっちゃえ、カラクリファミリーイケイケゴーゴー!」

 

 何すんだよと、怒りに任せて手を上げて、その瞬間、戦場に散らばっていたカラクリモンスターたちが四体、フォルナを取り囲んで……

 

 

「……うるさいですわ」

 

 

 ……取り囲んで……フォルナが雷を四方に走らせた瞬間、カラクリモンスターたちは内部から破裂するような音を出し、そのままプスプスと煙を上げて停止した。

 

「……なっ!」

「なんやて! しゅ、瞬殺しおった! なんやねん、あの姉ちゃん!」

「あのカラクリモンスターを一瞬で……フォルナ、一体何を……まさか、あのカラクリモンスターは雷に弱いと!?」

 

 あまりの出来事に、俺たちは呆然。

 

「なんだ、この駄作は!」

「人類大連合軍? 駄作の分際で見苦しくも抗いおって!」

「我らの螺旋で貫いてくれようっ!」

 

 動揺しながらも、フォルナを串刺しにしようと動き出す地底族は……

 

 

「……地雷爆雷」

 

「「「「ぐぎゃあああああああああああああああああ!」」」」

 

「おだまりなさいと言っているのが聞こえませんの?」

 

 

 地面を伝わり放出された雷に全員包まれたのだった。

 

「…………えっ………あれ?」

 

 俺たちは全員絶句。横たわる地底族たちにマニーも動揺を隠しきれていない。

 一体、何をした?

 

 

「マニーラビット……八つ当たり……その通りですわ。これは全て八つ当たり。ワタクシがこの世でもっと憎み、恨み、殺したいのは……ワタクシ自身ですわ」

 

 

 いや、それよりも、このあまりにも静かすぎる空気から醸し出される、この嵐の前の静けさは?

 

 

「正義と人類と平和のため……そうやって、一番大切だった世界を忘れ……罵倒し、傷つけ、ただ無様な姿を見せ……」

 

 

 フォルナはただ静かに、一言一言を口にし……

 

 

「愛していましたのに……これほど愛していますのに……ずっと傍にいたいのに……記憶をなくした程度で……たったそれだけで自分の一番大切な世界を壊そうとする自分を殺したくて仕方ありませんわ!」

 

 

 そして徐々に、静かだった空気がゆっくりと大きな波となって……

 

 

「言い訳などしませんわ。許してもらおうなど、ワタクシ自身が許しませんわ。ただ、それでも……ワタクシは……フォルナ・エルファーシア……」

 

「だからなに? だからなんなの? それがどうしたの!」

 

「勇者として、正義と人類と平和のために……そして、それは……ッ! ワタクシの愛する人の住む世界を守るためッ! それがフォルナ・エルファーシアですわ! たとえ、もうワタクシがその世界に住むことができなくても……もう二度と!」

 

 

 そしてその波は、とても澄んだ光となって、フォルナの存在そのものを包み込むように爆発した。

 

 

「もう二度と! ヴェルトの家族を誰にも奪わせませんわ! そのために、ワタクシは今を戦いますわ! ワタクシの愛する人の……愛する家族を返しなさい!」

 

 

 フォルナの口から出たのは、自分への怒りを抱えたまま、今を戦うという決意。

 それは、さっきまでの正義や人類を口にしてた頃よりも、よっぽど個人的な理由であり、勇者としても姫としても相応しくない気持ちかもしれない。

 だが、それがフォルナだ。

 あのどこまでも個人的な気持ちを最優先に戦っていたあいつだからこそ、皆があいつに微笑み、そしてあいつは無敵の強さを誇った。

 全てのわだかまりは、そう簡単には流せないだろう。フォルナ自身がそれを許さないだろう。

 でも俺は、ようやくフォルナと再会できた。

 

「フォルナ……」

「ッ!」

 

 そんな俺がフォルナに真っ先にかける言葉は一つだけ。

 労いの言葉でもない。許しの言葉でも、罵倒する言葉でもない。

 たった一つだけだ。

 俺に名前を呼ばれ、恐れからか全身を震わせているフォルナの背に、言ってやる言葉は決まっている。

 王国で先生と再会したとき、先生が俺に言ってくれた、最も嬉しかった言葉。

 

 

「久しぶりだな、フォルナ……おかえり」

 

「……ッ……ええ……」

 

 

 次の瞬間、涙とともに、金色の彗星が戦場を駆け抜けた。

 

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