異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第348話 人類の最終兵器

 ここで決まる。天空皇女リガンティナと復活したフォルナ。

 そして今、この状況下で更なる大物が現れた。

 にしても……

 

「ご、560歳ッ! そんなのがこの世に存在すんのかよっ!」

 

 つーか、大丈夫なのか? 人間というよりも、もはや妖怪にしか見えねえ。

 いや、仮に生きてたとしてもこのババアをこんな所に連れてきて、どうしようってんだ?

 

「はむはむ……ふぉっふぉ、すまんのう。みっともないところを見せたかえ」

 

 その時、入れ歯をはめて、カイレという婆さんはニッコリと笑った。

 すると、さっきまで神経張りまくっていた俺たちの心音が一気に落ち着きを取り戻した。

 

「お~、にしても、ヴェン坊にユーちゃん、それにキー坊までおるとは、なかなか豪華な顔ぶれじゃないかえ?」

 

 カイレはまるで縁側で茶でも啜っているかのような、ほのぼのとした空気を醸し出す。

 なんだ、これは? 初めて会った、こんな妖怪ババアなのに、どこか安心して警戒できねえ。

 

「あれが聖母カイレ……まさか、人類大陸の生ける伝説を目の当たりにするとはのう。人類大陸最東端に位置する、『ロルバン帝国』の開国時から軍総指令として存命し、数々の偉業を成し遂げたお方が……」

 

 バルナンドも普通に驚いている。そりゃそうだ。同じ老人とはいえ、560歳がもし本当なら、バルナンドの何倍生きてるんだって、話だよ。

 すると、バルナンドを見て、カイレが何かに気づいたように顎に手を置いた。

 

「ほお、おぬし………ほっほ、なんじゃ、『アルマニ坊や』か? 随分と老けたかえ?」

「…………あの……アルマニは、ワシの、曾爺さんの名前じゃが……」

「なに? そうか、あれから百年ぐらいたっておれば、そうなるかえ?」

 

 マジかよ! 既に老人のバルナンドの、ひいじいさんを坊や呼ばわりできるって、なんだそれは。

 つか、バルナンドもどうリアクションすりゃいいのか分かんねーってツラで固まってるよ。

 

「さて、色々と話をしたいことがあるが………まずは、マニーへのお仕置きが先かえ?」

 

 車椅子から上空を見上げるカイレ。この状況下でも一切殺気が感じられねえ。普通に俺でも勝てるんじゃねえのか?

 だが、それでもこいつは人類最強と呼ばれた一人。

 だからこそ、全く警戒も出来ない、この落ち着いた雰囲気が逆に恐い。

 

「えへ、カイレおばーちゃん………起きて大丈夫なの?」

「仕方あるまいて。おいたが過ぎるようじゃからの~。やはり、ラブではお前の拠り所にはならんかったかえ……のう、ラブ? ……ん?」

 

 マッキーとも顔見知りか? しかし、マッキーの表情を見た瞬間、カイレは何かに気づいたような表情を見せた。

 

 

「ほほ、ラブ……お前、やけに良い出会いをしたのではないかえ?」

 

「ッ!」

 

「以前まで、あたしゃお前に二つの魂を感じておった。やさぐれた悪意に満ちた魂と、迷子になって泣いている魂を。しかし、今のお前は違う。敵として対峙しているようで、その心は、明日をしっかり見据えて生きようとする意志に満ちておる。良き友達でもできたのかえ?」

 

 

 マッキーはその言葉に何も答えない。

 いつものマッキーなら「パナイ」とか言って誤魔化してふざけるところ、絶句して言葉を失っている。

 その時、一瞬だけラブが俺を見たような気がした。すると、カイレはその一瞬を見逃さず、俺を見て笑った。

 

 

「ほっほ、彼かえ? ………ふむ……ほほ……」

 

「なんだよ……バーさん……人を見てニコニコ笑って……」

 

「おぬしには、調和の取れた二つの魂を感じるのう。二つの魂は重なり合い、一つになっているようで、それでも二つに分かれている。そして、その二つの魂をどちらも大切にしているようだ」

 

「………何を言って…………」

 

「随分と、やんちゃもののようじゃが、おぬしにはその器に納まりきらぬほど、たくさんの愛情を貰っているのう。人の愛情や命を大切にし、そして自らも誰かを愛する心を大切にする……口や頭は悪そうじゃが、情には脆いそうだえ」

 

 

 何なんだ? 初対面でいきなりプロファイリングか? そうツッコンでやろうかと思ったが、不思議だった。俺は反論できなかった。言われた言葉は全て素直に俺の心に染み渡っていた。

 

「兵士には向かないタイプじゃ。学校の先生なんて良いかもしれんぞ? 勉強以外の大切なことを教えてくれる良い先生になりそうじゃ」

「……バーさん……」

 

 何で俺は、こんな初対面のバーさんに全てを見透かされたように語られ、それでいてなお、俺は心が温かくなってんだ?

 

「ラブの友のようじゃが、名は?」

「……ヴェルト・ジーハだよ……」

「なぬ?」

 

 俺が名を告げると、カイレは少し驚いた表情を見せ、車椅子をゆっくりと俺に近づけてきた。

 

「そうか、おぬしが……ヴェルト君かえ……そうか……」

 

 ああ、あれか。

 俺に僅かでも申し訳なさでも持っているのか? 

 俺に今更謝罪でもする気か? だが、そんなこと今更されても困る……という俺の心すら見抜いたのか、カイレはもう一度微笑んで頷いた。

 

「ほほ……半端な同情や謝罪は望んではおらんという目じゃ。むしろ、タイラーやエルファーシア国王の一世一代の決断すら、おぬしにとって小さな傷として決着し、既におぬしは今と明日と、未来を見据えている……強いな……ヴェルト君や」

 

 見抜いている。いや、というより、俺のことを理解している? 

 それは初めての感覚だった。

 まだまともに会話すらしていないのに、このバーさんは俺の心を優しい風のように包み込み、そして俺を理解している。

 理解した気になっているんじゃない。理解しているんだ。

 

「そんなおぬしに謝ることが許されんとなると、出来ることは手を貸してやることぐらいかえ? ……これまで、立場上は出来んかったが……今のこの状況であればそれも可能じゃ。のう? ラブ……マニー……ヴェン坊? ユーちゃん?」

 

 カイレは車椅子の車輪をゆっくりとコロコロ回しながら前へと出る。

 その頭上には難しい顔したマッキーに、不動のマニー。

 だが、次の瞬間、かなりイラついたように声を荒げながら、マニーは動いた。

 

「やっちゃえ! ヴェンバイ~!」

 

 その声に瞳を光らせた、弩級魔王が拳を振りかぶり、そして振り下ろしてきた。

 

「危ない!」

「下がれ、巻き添えを食らうぞ!」

 

 ただの拳。されど、十メートル級の魔王から振り下ろされる規格外の拳だ。

 カイレ目掛けて容赦なく降ろされる拳は、たとえ相手が強靭な肉体でも耐え切れるはずがねえ!

 すると……

 

「ふ~~、ほんぎゅあああ!」

 

 …………え?

 

 

「……………………………………………………えっ?」

 

 

 聖騎士とはいえ、あまりにも高齢過ぎるバーさん。

 まともな戦闘能力があるとは思えない。となると、よほどスゲー魔法でもあるのかと思っていた。

 だが、今起こっている状況は、スゲー魔法よりもスゲーことだった。

 

「うそ………だろう?」

 

 体術のエキスパートであるウラだからこそ、この状況がいかにありえないことか分かっている。

 しかし、そうじゃない。

 

「ほほ、少しは体が大きくなったではないかえ? ヴェン坊」

 

 車椅子に乗ったまま、右腕を軽く上げた瞬間、枯れ枝のように細かった右腕が急激に血液と筋肉が通ったかのようにぶっとくなり、カイレはヴェンバイの拳を受け止めやがった! 

 魔法? 違う、あれは生身だ! 何の小細工もなしに力ずくで受け止めた!

 しかも、ヴェンバイの拳を受け止めたまま……

 

「ほいっさあああ!」

 

 …………持ち上げて、ぶんなげやがった…………

 

 

「ぶぶぶぶぶぶ、ぶん投げやがった!」

 

 

 柔よく剛を制す? と言うにはあまりにも豪快すぎる。

 

 

「殲滅殲滅殲滅よん」

 

 

 だが、操られているママンたちに動揺はない。

 カイレを瞬間的に敵と判断したのか、急な加速でカイレの車椅子の背後に回りこむ。

 だが、カイレの瞳がキラリと光る。するとどうだ? 両手を車椅子の車輪に置き……

 

「ひょっひょっひょ! 鬼ごっこかえ? ユーちゃんや」

 

 爆発的な加速と共に車椅子が走り出し、駆け抜けた。

 速い!

 

「殲滅よん」

「ほっほ、オカマちゃんこっちじゃ、手の鳴る方へ」

「ッ、追跡!」

「ふぉふぉっ!」

 

 前世でパラリンピックとか、それほど見たことはねえ。

 だが、その速度は車椅子バスケやら陸上やらを髣髴させる車椅子の動きに加え、フィギュアスケートのようなスピンやらターンやら、縦横無尽。

 

「ひゅ~、アンビリバボー……あれが、三世紀ほど前にミセス・カイレが開発したオリジナル。車椅子という器具を自在に操る……『魔導兵装・騎器一体』だ」

「もう、ここまで来ると何でもありだな……」

 

 キシンのシリアスなんだかギャグなのかも分からない言葉に呆れながら、輝くスーパー婆さんにこの場の空気を全て持っていかれていた。

 

「ほほう。ある意味、地上の人間の極みだな。ロア王子やフォルナ姫らが地上の人間の最高位と思ったが、まだこんな人間が居たか」

「驚かれるのも無理ありませんわ、リガンティナ皇女。あのお方は別格。ワタクシたちの常識を超越したお方ですわ」

 

 フォルナの言うとおりだ。強いだけなら幾らでも居る。

 問題なのはこの異常性。

 これだけ化け物的な強さを持ちながら、心の底から安心できてしまう温かさ。

 

「おい、アルーシャ、あのババア、あんなにツエーのに、何でこれまで参戦しなかったんだ? 二年前のジーゴク魔王国との戦いとか」

 

 当然の疑問だ。いくらババアとはいえ、これだけ強ければ、もっと人類大連合軍も楽が出来たはずだ。

 それなのに、どうしてこれまで?

 

「聖騎士カイレ様は、確かに大昔から神族大陸の戦争に参戦されていたわ。でも、頻繁に戦えない理由があったの」

「戦えない理由?」

「カイレ様は超高齢のため、全力の戦闘時間が限られているのよ。全力で戦えるのは十分。それを越えると、一年間は戦うことが出来ないの」

「はあっ?」

「五分の戦いでも半年の充電期間が必要。さらに一度戦えば、一週間は寝たきりになってしまうのよ」

「それは、不便というべきか、五百歳も生きている奴と考えれば、当然とも言うべきリスクなのか?」

「二年前のジーゴク魔王国との戦争は、その半年前に四獅天亜人のエロスヴィッチの軍と戦闘で、カイレ様も寝たきりだったのよ」

 

 それは仕方ねえなと思いながら、やはり温存すべき存在であるというのは理解できた。

 そして、同時にそれはこの現状がどういうことかも理解できた。

 

「なら、そのバーさんが今、参戦してるってことは?」

「ええ。文字通り、ここで全ての決着をつけるつもりよ。聖騎士たちは」

 

 正に総力戦。そして、俺自身もこの場で全ての決着をつけることに異論はねえ。

 マニーは、ここで倒さなくちゃならねーんだ。

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