異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第349話 最後の絶望

「月光眼!」

「弾けよ光玉! 神聖魔法・太陽閃光《サンライト》」

 

 月光眼。俺たちが何度も阻まれた鉄壁の瞳。

 このとき、発動されるのが、斥力だったのか引力だったのかは分からない。

 なぜなら、ヴェンバイが月光眼を発動させようとした瞬間、カイレが魔法を発動させた。

 それは、目が痛いと感じるほどの閃光。いや、太陽のような光。

 

「つおおおお、め、目が!」

「くっ、な、なんという光!」

「ひゃあああああ、眩しい!」

 

 目が潰されたかのように、俺は声を上げた。

 状況から察するに、俺以外の奴らも同じだろう。

 

「ほほ。例え操られておっても、生物の構造上瞳孔が耐え切れまい。目を潰せば月光眼も発動できん。操られていなければ、おぬしもそれぐらい分かっていたはずじゃがな」

 

 それはあまりにも単純すぎる攻略法。

 俺たちがフォルナを追い込んでようやく破った月光眼。攻撃が届かなければ、光を飛ばして目を潰すか。

 少しずつ目が慣れ初めてきたところ、薄目を開けてみるとヴェンバイとママンが両目を押さえて苦しんでいる。

 

「そして、ここで一段落じゃ」

 

 カイレはどうする気だ? 月光眼を破り千載一遇のチャンス。攻撃しかけないのか?

 だが、そんな考えは杞憂だった。

 

「ワシがただ、鬼ごっこしていただけと思ったかえ?」

 

 その時、俺たちはようやく気づいた。

 ヴェンバイとママンの足元。そこには、カイレの車椅子の車輪で、砂漠の上に紋様が描かれていた。

 車椅子の二つの車輪で二重に描かれた、紋様。そして、紋様に光が走った瞬間、二重に描かれたペンタゴンの星の頂点から五つの柱が地中から伸びた。

 

 

「二十五芒星の魔法陣で威力を更に昇華させた……神炎・神氷・神雷・神土・神風! 一極合成神聖魔法・神罰・ゴッドデスペナルティ!!!!」

 

 

 俺たちは、一つの空間の中だけで起こった天変地異を目の当たりにした。

 

「なんて魔法なの!」

「これが、聖騎士カイレ様の魔法ですの?」

「ヒュー、全盛期を考えるとゾッとする」

「ヴェンバイとユーバメンシュ相手にこれほどとは……恐れ入るゾウ」

「伝説に違わぬ強さじゃな」

 

 灼熱に燃え上がり、絶対零度の極寒に包まれ、もうそっから何が起こってんのかとにかくワケ分からん。

 

「マ……ママンッ!」

 

 って、ヤベーよ! あれ、死んだんじゃねえだろうな!

 別にヴェンバイはどうでもいいが、ママンはアルテアの家族だ! それはマジイ!

 しかし、アルテアの悲鳴のような叫びに対して、カイレは間髪入れずに返した。

 

「ほほ、ユーチャンもヴェンちゃんもこの程度では死んだりせんよ」

「えっ………?」

「それに……ユーちゃんの自慢のかわいい娘の前で、殺したりなどせんよ」

 

 まるで、泣きじゃくる孫をあやすように、カイレは言った。

 

「見る限り、二人は邪悪魔法の一種で操られておる。これを破るには一つとしてショック療法があるのでな……フォルナ姫のようにの。まあ、普通は死んでしまうが、この二人であれば………」

 

 なるほどな。フォルナが自力で記憶消去魔法を破ったように、脳に強烈な刺激を与えてるってわけか。

 フォルナの話を聞く限り、下手したら死んでいたであろうほどの力を与えなければダメだったみたいだが、確かにこの二人なら耐え切れるか?

 

「魔法無効化!」

「ぬぬっ?」

 

 だが、耐える耐えない以前に、あれだけ猛威を発生させた魔法が、ガラスのように一瞬で粉々に砕け散った。

 マニーだ。あの野郎、あんな魔法まで無効化できんのかよ! 

 

「は~~~、おばーちゃん、頑張りすぎ~。ケーワイすぎて、マニーはカンカンだよ?」

 

 両手を腰に当てて拗ねたようにソッポ向くマニーに対し、会心の魔法を消されたカイレの表情は驚きか? いや、違う。

 どこか切なそうな表情をしていた。

 

 

「うまくいかぬもんじゃな、マニー。これだけ長生きしても、完全なる答えが見つからぬ………聖王様、そして、ヴォルドとワシから全て始まった嘘の積み重ねが、世界を救うどころか混乱を導いた……」

 

「……おばーちゃん、そうだよ? 初めからズレてるんだよ? 世界を救うために犠牲にしようとしたマニー……でもね、マニー自身が守る気なんてないんだから。こんな世界、滅んじゃえばいいの。マニーが、マニーの手で滅ぼしちゃうんだから! ハルマゲドンが起こる前に、マニーが滅ぼすんだから!」

 

 

 マニーが再び距離を取るかのように上空へ浮く。

 その時、この僅かに稼がれた時間の中で、ヴェンバイの目が力強く開かれる。

 

「むっ! まずい、全員伏せんしゃい!」

 

 カイレが叫んだと同時に、肌に空気が弾ける感覚がビリビリと響いた。

 これは? 大地も地響きのように揺れている。

 何か来る? 地中から? 違う、上空からだ!

 

 

「月光眼・メテオディープインパクト」

 

 

 空を覆い尽くす巨大な影。

 それは………って!

 

「また、隕石かよっ!」

「ちょっ、大きすぎるわ!」

 

 ジャレンガが降らせた隕石の雨とは違い、降り注ぐ隕石は一つ。

 しかし、そのたった一つが、この戦場をドームのように覆い尽くすほど、デカく、常識外れだ!

 

「まったく、おなごに石を投げるのは、子供でもやってはならぬことだえ、ヴェン坊や!」

 

 その時だった。

 カイレが車椅子から立ち上がった。そして、ふらふらと浮遊し、降り注ぐ隕石へと真っ直ぐ突き進み………

 

 

「神聖変化魔法・巨神《ジャイアンント》!」

 

 

 ………デカくなっちゃった………隕石と同じぐらい……

 

 

「ふぐぐぐぐぎゅぐぐぐぐぐぐぐぐぐにょわああああああ!」

 

 

 デカくなってどうする? 簡単だ。小細工もクソもなく、正面から隕石を力ずくで受け止めやがった! 

 その威力に押されて両足の向こう脛が砂漠に深く埋まりながらも、ババアとは思えねえ歯軋りと雄叫びを上げながらも、カイレは隕石をキャッチング。

 

「ふい~………あたたたた、腰にくるわい……おっと、早めにこれをどこかに置かんとの。なんせ、巨神化は十秒しか持たないからの~」

 

 そして、一息つきながらゆっくりと、丸い巨大な隕石を砂漠の上に置いた……

 

「「「って……腰どころじゃねーだろっ!」」」」

 

 これにはもう、ツッコミを入れざるを得ないというか、入れないと申し訳ないというか、あらゆることがアホらしくなるぐらいメチャクチャ過ぎる光景だった。

 つか、サッカーのゴールキーパじゃねーんだぞ? 茶碗すら持てなそうな細い腕で、何でいきなりマッチョな巨人になって、隕石をキャッチしてんだよ。

 

「正に、神話の戦いね………」

「ああ。これが世界の頂上決戦か……」

 

 多少なりとも俺も最強に近づいたと思っていた。

 だが、こんな世界が存在したのか……

 

「ヒュ~……ミーも戦ったことはなかったが……アメージングだな」

 

 つか、キシンってやっぱスゲーんだな。こいつらと肩を並べる領域だったんだ……

 

「さて、まだ続けるかえ? マニーや」

 

 巨大な姿が解除されて元の小さなバーさんへと戻ったカイレは、上空からゆっくりと下降し、何事もなかったかのように車椅子に降り立った。

 洗脳されたママンもヴェンバイも、やけに静かで動きを止めている。

 一瞬静まり返り、戦場の視線がマニーに注がれた。

 すると、マニーは………

 

「ふふ……ああ………成功したみたいだね♪」

 

 愉快そうな声でそう言った。

 

「え………あれ?」

 

 この期に及んで何の強がりだ? そう思ったとき、アルーシャが何かに気づいた。

 

「マニーラビット!」

「ん~? どうしたの~? アルーシャちゃん

「………兄さんはどこ?」

 

 その時、俺たちはハッとなった。

 カラクリモンスターに囲まれて、捕獲されていたロア。

 さっきまで、マニーの傍らに居たカラクリドラゴンの口に咥えられていたはずなのに、いつの間にか姿を消していた。

 それは、カイレも気づいていなかったのか、僅かに目じりが動いた。

 

 

「あのね~、みんな。マニーはね、ピンチになったら逃げるなんて一瞬なんだよ? テレポート使えるんだし。だからね、ちょびっと形勢が悪くなったらスグにバイバイできるんだよ? でも、しないのは何で?」

 

「マニー! 答えなさい、兄さんはどこ!」

 

「それはね~………いっぱいいっぱい、い~っぱい絶望を与えたいからだよ♪」

 

 

 その時、マニーが一瞬だけ消え、スグに戻ってきた。

 だが、戻ってきたマニーは一人じゃない。

 その傍らには……

 

「兄さん………」

 

 ママンやヴェンバイと同じ、黒い紋様のようなものが全身に行き渡り、虚ろな紋章眼で俺たちを見下ろしていた。

 

「ロア王子……マニーや………おぬし……」

 

 まさかもクソもねえ。やりやがった……

 

「ッ、マニーッ! なんてことを! 兄さんを……兄さんをッ!」

「アハハハハハハハハ! これで~、紋章眼二つ手に入っちゃったー!」

 

 ロアを洗脳しやがった! コスモスを攫い、ママンとヴェンバイを洗脳し、そしてついにはロアまで!

 

 

「さあさあ、マッキー! サークルミラーで放映しちゃって! 人類最大の希望、真勇者ロアが~、ロア様が~、希望じゃなくて絶望になっちゃったー!」

 

「ひはははは、いや~、エグイくらいパナイね~、マニーちゃん」

 

「どうどうどう? 褒めてくれる? マニー、すごいでしょ、マッキー! えへへへへ!」

 

 

 ああ、なるほど。マニーはコレをやりたかったのか。

 コスモスとロアを攫う。しかし、ただ攫うだけじゃない。

 世界を憎み、その復讐のためにここまでやるとはな。ただ、滅ぼすだけじゃねえ。絶望を与えるだけ与えて滅ぼす。

 マッキーのアイテムにより、太陽に、いや、世界中に映し出されるこの光景は、フォルナの復活で立ち上がり始めた人類大連合軍の心を根こそぎへし折るほどの強烈なショックとなって戦場を駆け抜ける。

 

「マニーラビット! 今すぐ、ロア王子を解放なさい!」

「まったく、ゲスの極みめ!」

「それは見過ごせぬぞい、マニーっ!」

「兄さんを返しなさい!」

 

 この戦場の最強の女たち。フォルナ、リガンティナ、カイレ、そしてアルーシャが同時に飛んだ。

 ロアを救うためか、それともマニーを倒すためか分からない。

 だが……

 

「リバースジャスティスフラッシュ」

 

 今のロアは、さっきのジャレンガの戦いでブチキレていたときのように、魔の深淵に精神を沈めたような表情。

 誰の声も届かない、真理の果てに辿り着いた姿。

 

 

「ぬぐっ! 神聖魔法バリヤ!」

 

 

 カイレが初めて慌てたように前へ出て、ロアから発せられた閃光をかき消した。

 しかし、その表情には一筋の汗が流れていた。

 

「ッ……申し訳ありませんわ、カイレ様」

「ちい、嫁入り前の女に容赦なく攻撃してくるとは……」

「兄さん………ッ、なんてことを……」

 

 攻撃は防いだものの、これで決定的だった。

 そして、これは人類だけの問題じゃねえ。

 人類最大の希望、真勇者ロア。

 魔族大陸最強魔王、弩級魔王ヴェンバイ。

 四獅天亜人、狂獣怪人ユーバメンシュ。

 世界の三種族の頂点に位置する存在が、敵に回った。

 これがどれほどのことか……

 

「マニー……おぬし、最初からロアが目当てかえ?」

「本当は~ロア王子とリガンティナ皇女……まあ、色々問題あったけど、これで大きく前進したね。ラブも戻ってきたし~、これでマニーはハッピーハッピーだよー!」

 

 カイレが引きつった笑みを浮かべる。

 それは、カイレ自身も全てを理解しているからに他ならない。

 

「マニー………随分とかき乱してくれたな」

「ん~? えへへ、どう? 驚いた? どう? ヴォルド~」

 

 すると……

 

「マニーよ。神族を復活させて、何のために使う? 『ハルマゲドン』はどうするつもりだ?」

 

 その時、これまで静観していたヴォルドがゆっくりと宙へと浮かび、マニーに向けて尋ねた。

 

 

「そんなのカンケーないよ。別にどうする気もないし、マニーは地上さえ滅ぼせれば後は、地底でも深海でも、ラブと『ピースちゃん』と一緒に家族三人で暮らすだけだも~ん」

 

「随分甘いな。地底や深海が安全である保証などないのだぞ?」

 

「だからって、どうにかする必要も理由もマニーにはないもん。世界が滅べば、マニーはただの女の子として幸せに暮らすんだもん。だから、聖王様に言っておいてね? バ~~~~カってね♪」

 

 

 くそ、まるで何がどうなっているのかサッパリだ。

 でも、このままじゃ、何かヤバくなる。

 取り返しのつかないヤバイことに……

 

 

「んなことはどーでもいいんだよ、マニー! コスモスを返せってんだよ、コラッ!」

 

 

 だから、何としてもその前にコスモスを……

 

 

「むふふ、バイバイ、ヴェルト君。コスモスちゃんは可愛がってあげるからね♪ ピースちゃんの初めてのお友達になってくれるかも」

 

 

 だがその時、全てのやるべきことを終えたのか、満足気なマニーが手を上げると、その上空から再びカラクリモンスターの大群が現れた。

 

「くそがっ、しつけー!」

「どっちにしろ、皆殺しや!」

「コスモスちゃんを、兄さんを、返しなさいッ!」

 

 それでも俺たちまで折れるわけにはいかねえ。

 たとえ、どれだけ邪魔が入ろうと……

 

「ワタクシが行きますわ! あのモンスターは雷に有効ですもの!」

 

 全てなぎ払ってでもこいつらを倒す。

 そう叫ぼうとした。

 だが、その時、カラクリモンスターたちの様子が変なことに俺たちは気づいた。

 それは、まるで戦闘をする様子じゃない。

 まるで、特攻…………

 

 

「あーッはっはっはっはっはっはっはっ! …………一斉自爆♪」

 

 

 

 その瞬間、眩い光と共に俺の意識が完全に飛んだ。

 爆風に煽られて吹き飛ばされる感覚だけを感じながら。

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