異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと 作:アニッキーブラッザー
タイラーが記憶消去の魔法は既に意味を成さなくなったと言う様に、俺にとっても、前世のことを隠すことはそれほど意味があるものでもない。
「信じられねえかもしれねーけど、俺たちは前世の記憶を持っている。前世ではこの世界とはまるで文化も歴史も世界観も違う世界で育ち、そして死んだ。気づけばこの世界で生まれ変わり、ある日を境にその時の記憶がよみがえった」
こいつ頭大丈夫か? 何わけのわからないことを言ってるんだ? というような顔もしなければ、そんな言葉を誰も言わない。
「俺の前世の名前は朝倉リューマ。人間で、17歳の学生だった。しかし、不幸な事故でクラスメートたちと一緒に死んでしまい、この世界で生まれ変わった。前世の記憶を思い出したのは、8歳の頃だ」
不思議と俺の話を、皆真剣に聞いていた。
「アルーシャ、キシン、バルナンド、アルテア、ジャック、マッキー。そして今は死んだ魔王シャークリュウ。こいつらは実は前世で学生だった頃のクラスメートなんだよ。再会して全員ビックリした」
「な……んだと?」
「正直、みんなが記憶消去の魔法の効果がなかった件について詳しく分からねえけど、多分そこらへんのことが関わってるんじゃねえの?」
包み隠さず言った俺の言葉は真実だが、それはあまりにも非現実的なことだというのは理解している。
「ヴぇ、ヴェルト、お、お前何を……前世の記憶とか……しかも、父上がお前のクラスメートだっただと?」
ウラだって、俺の言葉の内容が分かっても、理解することも受け入れることも難しいだろう。
だが、重要なのは前世の記憶云々じゃない。
今、タイラーに言うべき言葉は、そこじゃない。
「でもな。もう、今の俺たちはそれに振り回されない。今の俺は朝倉リューマではなくて、ヴェルト・ジーハだ。俺は親父とおふくろを本当の両親だと思っているし……俺はこの世界でこれからも生きていく。それだけは覚えていてくれ。だからあんたも……近所の幼馴染の親父で、俺の親父とお袋の親友だ……もう、それでいい……」
記憶が消えなかった種明かしはこれで十分。
だから、これでいい。
「なんつってな。こんな話、信じるか?」
ちょっとだけ冗談交じりに笑ってやった。
すると、今にも事切れそうなタイラーの頬が僅かに緩んだ。
「……ああ……信じるよ……」
タイラーは何の疑いもない瞳で、そう頷いた。
「生まれ変わっても……世界を超えても……器も種族も違ってもまた再会し……結びつく……素敵な話じゃないか……それほど強い運命で結ばれたお前たちは………きっと……」
その瞬間、タイラーが咳き込み、血の塊を吐き出した。
思わず全身の力が入り、俺は傍まで駆けていた。
もういい、もう喋るなと言ってやりたがったが、タイラーはそれを拒んだ。
「ヴォルド殿………最後まで立ち会えず……すまない……」
「………さらばだ」
残りの力を振り絞りながら、最後まで言葉を続ける。
「シャウト………」
「はい」
「今からお前は……全てを思い出し……苦悩するだろうが……でも、すべて私が悪いのだ……お前は前を向いて……ヴェルトの力に……ッ、ごほっ……」
「パパ……ッ、パパッ!」
「そして、かあさ……んを……たのむ」
「パパッ!」
俺は、これまでそれなりに戦争でも戦ってきたから、人が死んでいく光景には徐々に慣れてきたかもしれない。
でも……
「アルナ……ボナパ……お前たちの息子は……ほんとう……に……強く大きく……」
「タイラー!」
「ああ……私も……生まれ変わったら……今度は争いのない世界に……また、アルナとボナパと一緒に―――――」
でも、身近な人間の死に立ち会うと、やはりこみ上げて来るものが色々ある。
「……おつかれさん、タイラー……来世でまた会おうぜ」
俺はその瞬間には背を向けていた。
背後から聞こえてくるのは、幼馴染たちの、そしてテントの外から聞こえてくるのはその現実を堪えきれずに涙を流す多くの人類。
「パパ……うっ、ああああああああああああああああああああああっ!」
「タイラー将軍ッ! ………くッ、そォッ!」
「…………ッ……」
この日、人類は一人の英雄を失った。
エルファーシア王国の将軍にして人類の誇る聖騎士の一人。
聖騎士将軍タイラーの名を世界と歴史に刻んだ男が、今、その生涯を終えた。
そして、その死と引き換えに……
「「「「「――――――――――――――――――――ッ!」」」」」
涙を流しながら、誰もがハッとしたように顔を上げ、その瞳を俺に向けていた。
「えっ………あれ? ………どうして……僕は……ヴェルト?」
「……ヴェルト……な、なんで……」
「ッ! な、ぜ……私は何を……ッ、ヴェルト君!」
シャウトやバーツ、ガルバたちを始め、タイラーの死に涙を流しながら、俺のかつての幼馴染たちはみんな俺の名前を呟いた。
しかし、だから今、どうこうってわけじゃねえ。
フォルナにも言ったように、失われた記憶が戻るってのは、もっとドラマチックでテンションが上がる場面のはずだ。
でも、今はそんな気分でも状況でもない。
「いいよ、シャウト。思い出したもんはいつでも振り返ることができる。今は……俺たちのガキの頃からの英雄様を労い、弔ってやれよ……」
そう、今はそれでいい。
記憶がどうとか、自分は今何をやってただとか、話題の中心を今俺に持ってくる必要はない。
その代わり……
「ウラ……エルジェラ……お前らは来いよ。エルジェラももう歩けるだろ?」
二人の名前だけを呼んで、俺は外に出て、タイラーの死に多くの兵たちが跪いて涙を流す中、逆走する様にその場を後にした。
そんな俺の後ろから駆けるように追いかけてくる二つの足音。
「ヴェルトッ!」
「ヴェルト様ッ!」
それは、呼び方そのものは今までと変わらない。
しかし、振り返って見る二人は、少し混乱して戸惑ったような表情をしているが、どこか懐かしさを感じた。
「おい、ヴェルト……お前……いや、私は……なんで……今まで何を……なんで二年も私はお前を……」
「ヴェルト様……これは一体……私は……」
そりゃそうなるか。
ウラもエルジェラも、失われた記憶、そして俺の居ない日々、再会するまでのこと、全てが頭の中をグルグルに駆け回っている状況だ。
「ヴェルト……私は……なんてことを……っ、す、すまない! 謝っても許されないかもしれないが、でも、わ、私はお前に……」
「ッ、ヴェルト様………私は……よりにもよって……あなたのことを……忘れるなど……私は……わ、私は……」
でも、俺はもうそこから先の言葉を聞く気はなかった。
「もういいよ。何だかんだで再婚できたんだ。今更夫婦仲が悪くなる話題を持ち出しても、仕方ねえしな」
そう、もういいんだ。
例え記憶を失っても、こいつらはもう一度俺を愛してくれたし、家族になれた。
なら、俺がイジワルしないで引っ込めば、丸く収まるんだ。例え、こいつらが自分を許せず、納得できなくてもだ。
「今は、俺たちの娘を取り返すことだけを考えようぜ。父親と母親のゴチャゴチャで、子供に迷惑をかけることだけはやめようぜ」
そうだ。泣き言を聞いたり励ましたり、そんなものは取るに足らない小事だ。
俺たちがただの高校生だったり、それこそガキだったらそれでもいいのかもしれねえ。
でも、俺たちはもう、人の親だから。
「今の俺たちに、コスモス以上大事なことがあるか?」
だからこそ、二人もどれだけ話したいことがあろうとも、己の心にムチを打ち、涙を流しながらも頷き返してくれた。
「ああ、その通りだとも」
「はい、分かっています」
なら、もう動く時だ。