異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第368話 ドリルと妖精

 これまで俺も色々な奴と出会ってきたが、こういうタイプは意外と初めてかもしれない。

 人としての本能。「だるい」「死ぬの嫌だから戦争行きたくない」「暑苦しいの、心の底からめんどくせえ」とか。

 こういうのはアレだ。集団で何かを目標に頑張ろうとする中で、一人だけ空気読めない発言して空気を悪くする奴だ。

 だが、もっとも……

 

 

「だったら、俺の娘を返せば、半殺しで許してやる」

 

 

 容赦はしねえ。

 俺は、ニートという男の頭を掴み上げ、恫喝に近い形で睨んだ。

 

「いや、はい。娘さんすね? よく分からないんで、うん、とりあえず俺一人じゃ判断できないんで、一回持ち帰らせてもらっていいすか?」

「おいおい、ベタな営業マンみたいな発言するなよな? 出来るか出来ないかで答えろ。出来なきゃ今、ふわふわフルコースをかます!」

「いや、待った。この世に『絶対』は存在せず、むしろ『絶対』という言葉を付ける事により信頼度が薄れるというのが俺の持論なんで、ここは全力を尽くすに変えて欲しいんだが、どうだろうか」

「安心しろ。別にテメエに全力尽くしてもらわなくても、敵を全員皆殺しにするという手段もある」

 

 俺に脅されて、かなり早口になるニートだが、俺は頭を掴みながら、この男にどこか違和感を感じていた。

 

「……ん?」

 

 この男、戦いたくないのは多分本当だろう。

 そして、「戦争くだらねえ」発言も、本当だろう。

 でも、この男に触れて伝わる何かに、俺は思わず反応しちまった。

 これまで、世界最強連中と出会い、戦い、乗り越えてきたからこそ感じる、勘みたいなものか?

 こいつ……結構……強くないか?

 

 

「ちょっと、ニート君、さっきから黙ってれば何を情けないこと言ってるんですかー!」

 

 

 油断? 俺が一瞬間を空けた瞬間、ニートの胸元が光った!

 魔法? 攻撃? って、何でこのニートまで驚いた顔してるんだ!

 いや、今の声は何だ? 女の声がどこからか……

 

「ヴェルト、どうしましたの!」

「ヴェルト君ッ!」

「ゴミ婿! ……あ、婿って……でも、いいか♥」

 

 思わず飛び退いて俺は距離を開けた。

 俺から解放されたニートは、ゆっくりと服の襟元を引っ張って中をのぞき見た。

 すると、ニートの胸元で光った光玉がユラユラと動き、そのまま服の外へと飛び出した。

 それは……

 

 

「ニート君、ほんっと、やる気出してください! ぶっちゃけ、ニート君は強いじゃないですか! それなのに、レディを胸元に忍ばせて土下座とか何考えてるんですか!」

 

 

 な、に?

 

「えっ! あ、……あれは!」

「えっ、こ、小人……?」

 

 小人? ニートの服の中から飛び出してきたのは、手のひらサイズの小さな女の子?

 緑色のヒラヒラの衣装。赤とピンクの混ざった色の髪に、クリクリの瞳。

 そして、背中に見える昆虫のような羽……

 

「ヴェルト、あれは……妖精ですわ!」

「うそ……私も初めて見たわ。なんて幻想的な……」

 

 ……だよな……妖精だよ。よく、御伽噺に出てきそうな、妖精だよ!

 確か、噂では幻獣人族に分類されていたような……でも、何で妖精が?

 しかも、妖精なんて幻想的な存在のクセに、やけに人間くさく、頬を膨らませて怒っている。

 

 

「おま、また俺の服に忍び込んでいたのか……」

 

「え~、気づいてたでしょ? ほんとは気づいてたでしょ? こんな、かわゆいレディを持ち運べて、チョーラッキーじゃないですか?」

 

「いや、ほんと、マジ、今は勘弁なんで。あ、すんません。このハエが邪魔しましたけど、ほんと許してください」

 

「ハエじゃなくって、妖精です! っていうか、ニートくん強いんですから、ここらへんで私の好感度上げるようなチョーカッコいいとこ見せる大チャンスじゃないですか! むしろ、うっかり私が好きになっちゃっても仕方ないってぐらいの見せてくださいよ!」

 

「バッカ、お前。命は大切にしましょうって知らねえのか? 俺はいかにドラマチックな場面であろうとも、たかが女の好感度上げるために人生を投げ出す気はないんで」

 

「たかがってなんですか、たかがって! いいですか? ニートくんが、私に好きになってもらえるかもしれない大チャンスなんですよ? ニートくんみたいなネクラには二度と無いチャンスですよ? 吊橋チャンスですよ?」

 

「何言ってる。吊橋チャンスは、渡り終わったら意外と冷められて、『なんか思ってたよりつまんない』とか言われて、普通にフラれるよりショックなんで」

 

 

 そして、何で俺たちはこんな痴話喧嘩みたいなの見せられてんだ?

 

「ウザイな、このゴミ共。殺すか?」

「いやいや、ユズリハ、お前何をサラっと言ってんだよ……と言いたい所だが……」

 

 とりあえず、一思いにぶっとばせばよかったものの、下手に間を空けたことで、何か変なのに会っちまったな。

 いかんいかん。空気に流されるな。

 

 

「ふわふわレーザー!」

 

「えっ……ひゃいっ!」

 

「うおっと! ……お、おお……スゲー、なにこれ?」

 

 

 当てるつもりは無い。真横を通り過ぎるだけ。しかし、脅しにはこれで十分。

 俺の腕から放たれたレーザーは、いちゃつく二人の顔の真横を通り過ぎた。

 

 

「ハエも妖精も、価値で言えばコスモスと比べるまでもねえ。黙って、俺の言うこと聞くか、マジで地獄を見るか、テメエらで選べ」

 

 

 さすがの妖精も少しビビッたのか、ゴクリと息を飲み込んでニートの影に隠れた。

 

「ちょ、ニート君。娘ってなんのことですか? 誰か、あの人の娘さんを誘拐しちゃったんですか?」

「みたいだな。きっと、数日前の作戦の時にやったんじゃないの?」

「えええええ、そんなことしたんですか。ちょっと、本気でドン引きですよ。っていうか、むしろどうにかならないんですか?」

「いや、俺に言われても困るんで。むしろ、ここは、ほら、あいつだ。あの能天気な痛い奴、マニーに聞いた方がよくないか?」

 

 マニー! その名前を聞いた瞬間、気づけば俺はニートの胸倉掴んでいた。

 

「テメエ、マニーと話が出来る立場なのか?」

「ちょ、いや、ある機会があって話したことあるだけで、別に友達じゃないんで。むしろ俺に友達はいないんで。友達でなければ、赤の他人ということでもあり……」

「殺されたいのか?」

「いや、マジで、なんとか話してみるんで、今は助けて欲しいんですけど」

 

 そう、地底族を皆殺しにしようとも、それがラブ・アンド・ピースに繋がらなければ意味がねえ。

 重要なことは、マニーまでたどり着き、コスモスを取り返すこと。

 偶然目に入っただけだった地底族の口から出たマニーの言葉に、俺の腕に力が入るのがわかる。

 

「おい、ゴミ婿、何をベチャクチャ喋ってる。イライラする。そんなまどろっこしいことしないで、皆殺しにすればいい」

「ユズリハ……今は冗談抜きで、ちょっと黙ってろ」

「ひぐっ! う、な、なんだ、またお尻か? ……うう~~……そんな目でイジメるな……婿なのに……」

 

 拗ねるな拗ねるな。

 正直、今になって思うが、ユズリハの短絡的な性格も、躾がどうのというより、オヤジがアレだから仕方ないのかもしれないと、何となく思った。

 すると、そんな俺たちのやり取りを見て、妖精とニートはハッとした。

 

 

「婿……えっ、亜人と人間のカップル? いやーーー、なんて素敵なんですか、異種族婚とか、チョーロマンチックファンタジーじゃないですか! これこそ、世界の醍醐味ですよ! そう思いませんか? ニート君! 異種族婚、むしろ万歳ですよ!」

 

「えっ、なんか小さくて、しかも亜人って……なにそれ、ロリ獣姦?」

 

「ニート君、さいってー! なんでそんなこと言っちゃいますかねー? 愛さえあれば、国境も種族も知ったこっちゃねーですよ! そう、あのお兄さんは少し恐い顔してますけど、あの子との間に出来た子供のために、こうして………」

 

 

 ん? なんか若干ハイになってる妖精の言葉だが、ある部分でユズリハはシレッとツッコミ入れた。

 

「攫われたのは、私が生んだ子じゃないぞ」

「…………えっ? あれ……えっ、なに? あの、ひょっとして再婚とか……」

 

 なんか、硬い笑顔のまま固まった妖精だが、そんな状況下でタイミング悪く……

 

「おい、ヴェルト! お前たちはさっきから何をしている。周りはあらかた終わっているぞ?」

「ウラ……」

「全く、一人でこんなところでサボって、妻にばかり働かせるとは、感心しないぞ?」

 

 ウラの言うとおり、俺たちがくだらないやり取りしている間に、周りの地底族は何だかんだでほとんどやられている。

 倒れているのも居れば、捕獲されているのも居て、もう形勢は動かないだろう。

 一仕事終えたウラが、冗談交じりで俺の胸をノックすると、そのやりとりに妖精さんがまた反応。

 

「えっ……妻? えっ? だって、その子が、あれ? えっ、だって、婿って……それじゃあ、攫われたのは、あなたが生んだ子供?」

「いや、あのさ、お前さ、状況見ようよ。いや、あの怖い人間が複雑な家庭作ってるのは驚きだけど、今はそれどころじゃないんで。いや、マジで。なんか、みんな倒れてるんで」

「ん? おい、ヴェルト、何だこいつら……妖精? なぜ、地底族と? しかもなんだ? 生んだって? 攫われた……コスモスのことを言ってるのか? ……いや、私が生んだわけではないが……」

 

 まあ、そりゃそうなるよな。

 なんか勘違いして混乱中の妖精さん。すると……

 

「ヴェルト様っ! もう、こんな所にいらしたのですか! 私を一人にしないでください……」

 

 ちょっと頬を膨らませて俺の腕にしがみついて来たエルジェラの頭を、俺は半ばヤケクソ気味に撫でてやった。妖精の痛い視線を感じながら。

 

「いやいやいやいや、ニート君、これもですか? これも気にしちゃダメなんですか?」

「いや、もうさ、地上はそういう文化なのかもしれないと考えれば? それよりさ、俺たちの状況見ないと。ってか、俺、ほんと逃げるんで」

「えっ、あの、地上っていうより、『この世界』ではソレが普通なんですか? 奥さんいっぱいいるとか、どこのお代官様ですか?」

 

 なんだ? なんで俺は今日会ったばかりの妖精にドン引きされてるんだ?

 いや、イーサムの所為で感覚が狂うけど、確かに俺も大概なんだけど、今はそれ関係ねえだろうが。

 

 

「ぐわははははははは、なんじゃ~? そんな所でサボって何を童貞と処女臭い話をしているのじゃ、ヴェルトよ」

 

 

 今の今まで地底族たちと一戦やらかしたとは思えねえほど生気溢れる表情で、イーサムが酒瓶片手に近づいてきた。

 

「よう……お疲れ」

「なーに、疲れとらんわい。ワシはあんまり動いとらんしの。せーぜい、百人ぐらいバカを斬ったぐらいじゃ」

 

 ひゃ、百人って……ほら、妖精さんとニート君がテメエを見た瞬間に硬直して震えてんじゃねえか。

 

「少し邪魔が入ったが、捕らえた捕虜に地底族、地底世界、ラブ・アンド・ピースのこともある程度吐かせる。とりあえず、増援だけは警戒して、お前らもさっさと寝るんじゃな」

 

 周りを見ると、縄で手足を縛られた地底族たちが、悔しさを露わにしながら噛み付かんとする勢いで抵抗している。

 まあ、捕まったこいつらが最後どうなるかは知らねえし、知りたくもねえが、特に同情する気はねえ。

 フォルナたちもどこか慣れた目でその様子を眺めている。

 

「それで? その妖精と地底族はなんじゃ? 流石に妖精は小さすぎてワシと交尾できなそうじゃが」

「ひゃあああああああああああああああ! ななななな、なんなんですかこのライオンさんは! ちょ、初対面にいきなりそれですか! ニート君っ!」

 

 さすがイーサム。妖精相手にいきなりセクハラとは恐れ入る。

 妖精も顔を真っ赤にしてギャーギャー喚いているよ。

 だが、それに対してニートという男は静かに俯いたまま。

 その様子は、いかにこの状況をどうにかできないかを考えているように見える。

 しかし、今のパニクった妖精は、ニートのそんな様子を一切気にせず…………

 

「ニート君、ほんともう、戦ってくださいよ! 助けてくださいよ、私、ニート君以外の人とは絶対……じゃなくって、頑張って私の好感度だだ上がりさせてくださいよ! ニート君のドリルの力、そしてマニーちゃんたちが試作品として与えてくれた、『試作品・紋章眼』の力を発揮する絶好のチャンスじゃないですか!」

 

 …………………………!

 

「ばっかおまえ!」

「……あ……これ……内緒なんでしたっけ? あっ、え~~~~~~と…………今のはオフレコですよ?」

 

 …………おせーよ……

 そして俺たちはテンパった妖精の放った言葉に、全員が言葉を失って固まっていた。

 この妖精、今、なんて言った?

 すると、ニートは乱暴に頭を掻きながら……

 

 

「あ~~~~~~~もう、ほんとちょっと逃げるために使うだけなんで、多分殺さないんで、あんま怒んないでくれよ!」

 

 

 ニートはもうヤケクソとばかりには前髪を上げた。

 

 

「この瞳使っちゃうと、ぶっちゃけ俺もどうなるか分からないんで」

 

 

 その瞬間、眩い閃光が辺り一面に広がり…………

 

 

「…………なんじゃ? ………………」

 

 

 大地が激しく揺れた。思わずバランスを崩してしまうほどの大地震。

 俺たちは思わずよろけて、近くにいた奴に体を預け合った。

 大地が、木々が、空が揺れ、そんな世界が文字通り震撼している。

 そして、次の瞬間…………

 

 

「あ~、お前の名前は……よし、『グラウンド』にしよう。こいつらとりあえず、飲み込んじゃってくれる?」

 

 

 ニート! てめえ一体何を……

 

 

「かしこまりました、ご主人様」

 

 

 ―――――――――――――――――ッ!!!!!!!!!!

 

 

 どこからか、従順そうな声が聞こえた。

 次の瞬間、大地がまるで意思でも持っているかのように、巨大な口のような地割れを起し、気づけば俺たちは一瞬でその中に落とされ、飲み込まれていた。

 慌てて上を見上げるも、落とされた地割れたはいつのまにか閉じられて、ただ、真っ暗な世界がいつまでも続いていた。

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