異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと 作:アニッキーブラッザー
前後左右上下の感覚の掴めない暗黒の世界は、アルテアの魔法を髣髴させた。
あの時、巨大な口のように大きく開いた大地の地割れに飲み込まれ、俺たちはどうなった?
背中に感じる硬さは、土というより、石。岩盤?
しかし背中とは打って変わり、この後頭部に感じる柔らかい感覚は? 何だか落ち着く心地よさは?
特に体に異常も感じないが、俺、寝そべっているのか?
となると、この後頭部に感じる感覚は?
ようやく少し暗闇に慣れてきた俺が体を捩ると、俺の後頭部にビクッと動く何かを感じた。
「ヴェルト、気づきましたの?」
これは、目に見えなくても声さえ聞けばすぐに分かった。
「フォルナか」
「ええ。ちょっと気を失っていたようですわ」
気を失っていたか。ちょっと頭でもぶつけたか? まあ、特に体の痛みも感じないが。
ん? となると、俺は今、フォルナに膝枕をされている訳か。
なんともまあ、ぐっすり眠らせてもらった気がする。
「ふ~……んで、ここはどこだ? 何も見えねえな」
「ええ。ここは……こういうところですわ」
その時、眩い光玉が発生して、思わず目を瞑ってしまった。
ゆっくり目を開けると、フォルナの魔法で簡易的な光を作り出したようだ。
便利なことだ。そう思いながら周りを見渡すと……
「……牢屋?」
そこは、真四角に岩盤をくり抜かれたような部屋。
部屋には窓一つなく、あるのは頑丈そうな扉だけ。
「少しだけ気を失っていたようですわ。ワタクシも目が覚めたのはつい先ほど……ただ、感覚的にそれほど時間は経っていないようですが」
「……捕まってるのか? ………う~わ、情けねえ。別に油断してたわけじゃねえのにな」
全くだ。別に地底族のレベルを低く見ていたわけじゃねえのに、この状況。
まあ、さすがに『あの力』だけは予想外だったけどな。あの時の……
「で、ここは……つうか、みんなは?」
「分かりませんわ。あの地割れに飲み込まれて、バラバラになったのだと思いますが……」
「そうか……つっても、あんま心配する必要もねえけどな」
「……まあ、否定できませんわね」
どーせ皆生きてるに決まってるし、無事に決まってる。あのメンツだしな。
だからとりあえず、今はここがどこなのかを把握して、さっさと合流するか、もしくは先に乗り込むか……
「…………ん?」
その時だった。感じる、僅かな振動。近づいてくる気配。そして掘削音。
もう、いい加減ワンパターンで慣れたぜ。ドリルの音。
丁度いい。向こうから出向いてくれるのなら、かえって好都合……
「ふ~~~、やっと出れた。あ~疲れた。グラウンドの力、全然使いこなせそうにないし」
「も~、ニート君、全然力コントロールできないんですね。おかげで迷子になっちゃって慌てたじゃない……です……か……あれ?」
あれ?
ドリルの音が感じたから、誰かと思って待ち構えていると、頑丈そうな壁が途端に崩れて、その奥からドリルを突き出して、土まみれになっているニートと、あの妖精が顔を出した。
「………あっ、間違えましたんで。すんませ……」
「ふわふわ回収」
「ちょおっ!」
「へい、つれねーじゃねえかよ、逃げることないだろ?」
まるでついさっきまでと同じ状況だな。
「なななな、なんでこんなところに、よりにもよっているんですかー! もう、ニート君のバカ! 掘る位置を考えてくださいよー!」
「日頃の行いはそれほど悪くないのに、何故、今日はついていない……」
来た穴を引き返そうとしたニートを、俺はすかさずとっ捕まえた。
「テメェら……メカクレ野郎と、ウゼエ妖精」
「……ども、ごきげんようす」
「ちょっと、なんなんですか~、ウゼエ妖精って。ウゼエって私のことですか~? 妖精愛護団体に締め上げられちゃいますよ?」
コクリと頷くニートと、その肩で頬を膨らませる妖精。
いや、ちょっと待て。HEY、何でYOUたちがここに居る! とキシンならば言っただろう。
「テメェら、さっきはよくもやってくれたな? つか、ここは? 俺らどうなってんの」
「いや、すんません。あの力を使うと、敵味方関係なく地下世界のどこかに飛んじゃうんで、俺もコントロールできずに知らない地下を彷徨って、ようやく帰ってきたばかりなんで状況分からないんで、だから状況を調べるために、一旦外に出させてくれると助かるんで、どうにかならない…………ですよね、ごめんなさい」
「なに?」
「でも、見たところ、ここは牢屋……いや、空き部屋みたいなもんか? 多分、あんたたち、捕まったんじゃなくて飲み込まれてここに落ちたんだろうな。とりあえず居住区のどこかだと思うんで」
「……居住区?」
「あんたたちには、地底世界って言ったほうがいいのかな? 俺たち地底族ってのは、この世界の至るところの地下奥深くに住んでいるんで。村、街、王都、規模はバラバラだけど、この大陸のこの地は地底世界でもっとも巨大な主要な場所。地底世界王都なんで。まあ、その分、開発進んでないところは迷子になるんで危ないんで、大変なんすけど」
地底世界。まさか、望んでもいないのに二つ目の三大未開世界にたどり着いちまうとはな。
「貴方たちは、ずっとこの世界に? それがどうして地上の戦争に関わろうとしましたの?」
「いや、一般学生ぼっちで強制徴兵された俺に、国の意向や政治は分からないんで。ただ、俺たちは地上と一切関わりなかったっていうわけでもないんで」
「それは、あなた方の螺旋の力を使えば地上に出れると?」
「まあ、それもあるし、地上のとある国と物資の交換、建築工事の人材派遣とかで関わりがあったりしたみたいなんで。と言っても、俺がガキの頃にその国は滅んだみたいなんで、もうそういうの無くなったみたいなんだけど」
「地上の国と関わりが? そんな話聞いたことありませんわ! どこの国ですの?」
「え~っと、ボル~なんとか……」
その時、俺とフォルナは無言で顔を見合い、一つの国を思い出した。
ボルバルディエ王国。
「……マニーが地底世界と手を組めたのも、そういう過去の経緯があったのかもな」
「マニー? ああ、そうそう。なんかあいつ、そのボルなんとかの元お姫様とかみたいなんで、地底王とか大臣がコソコソしてるみたいだったね」
もし、このニートの言ってることが本当であれば、ボルバルディエ王国の姫だったマニーが、地底族と協力関係になれたのも分からなくもねえ。
マニー姫という存在を、聖騎士たちの魔法により世界が忘れていたのに、どうやって信頼を得たかは謎ではあるがな。
「ニートく~ん、そんなベラベラ喋っちゃっていいんですか~? この人たち、敵なんでしょ~?」
すると、俺たちに何の躊躇いもなく地底世界について語るニートを少し心配したのか、妖精がニートの耳を両手で引っ張った。
しかし、ニートは煩わしそうに「しっしっ」と妖精を無下に追い払っている。
「はあ? ばっかだな~、お前。俺に喋って不都合になることはないんで。何故なら、俺には味方がいないから。俺が死んで悲しむ友達が居ないように、俺には死なれても悲しむやつ一人もいないんで」
「うわ……ちょっとそれ、いい加減怒っちゃいますよ? ニート君の傍に、い~~~~っつもベッタリで想ってくれている女神さまに失礼でしょうが。ねっ♪ えへっ♪」
「あ~はいはい、ウザトイ」
「ちょっ、ウザトイ? 私のどこがウザトイって言うんですか! ウザくもなければ、あざとくもありません! これは、私の素なんです~。むむ~っ」
「は? 素? つまり天然と言いたいのか? お前、バカ? お前のは天然じゃなくて養殖丸出しだろ。美食家じゃなくても初見で見抜くぞ? 大体、むむ~って声に出しながら頬を膨らませる動作は、九割の男子は可愛いと思うかもしれないが、一割の男子と十割の女子は冷めた目で『死ねよ』と思うからやめようね」
「えっ、九割の男子が可愛いと思えば十分じゃないですか! つまり、ほとんどの男子は可愛いと思ってくれるんですね? じゃあ、ニート君も当然可愛いと思ってくれているんじゃないですか!」
「………九割の男子ということは、世にいう一般的な男子はということ…………俺が世の中にいる一般男子と同じ価値観を持って生きていけているなら、もっと友達が居てもいいと思うんだが」
なんともまあ……こいつら、今の瞬間は二人だけの世界で、俺たちのことを完全に忘れてないか?
地底族と妖精のカップル……なんか変な組み合わせだな……
「あの、随分と仲がよろしいみたいですが、どうして地底世界に妖精が?」
うん、それは俺も思った。
「えへへ~、仲がいい? 私たち仲が良いお似合いだと見えるようですよ~、ニート君。良かったですね~、ニートくんのような底辺男子が私のように最上位ガールとお似合いに見られるなんて、一つのステータスですよ~? これはもう、勇気をもらったということで、私にコクっちゃうくらいの後押しじゃないですかね~? あっ、ちなみに、私は女からコクるのは嫌なんで、どうしても私と付き合いたいって言うなら、試しにニート君の方からお願いします。ほら、女からコクるとか、付き合ったあとのイニシアティブが取れないじゃないですか? あ~、でもでも~、だからって私がコクられたからって~、根暗なニート君が私と付き合える可能性は万に一つかもしれないですよ~、でも~、その万に一つが一回目でいきなり来ちゃう可能性だって十分あるわけなのですから、言ってみるのもいいと思うんですよ~」
と、早口言葉で顔を真っ赤にさせながら、妖精は「カモーン」とニートに告らせようとしている。これは計算ではなくて、素で照れているのだと感じ取れ、確かに可愛いと言えば可愛い。ひねたニートも若干照れたのか、顔を逸らして、話を誤魔化そうとする。
「このハエは去年、俺が興味本位でコッソリ地上に出て、近くの森の泉で見つけて、そこからまとわりつかれたんで。ハエだから、クソみたいな俺の周りを飛ぶのかもしれない」
「も~、な~に言っちゃってるんですかね~、それ以来~、よく~、他の地底族とかに私が見つかってチョッカイ出されそうになっても~、守ってくれるし~、私にラブラブなのバレバレなんですから。でも~、あれが~、やっぱ運命の出会いといえば出会いというか『再会』ですよね~」
「偶然なんで」
「いやいやいやいや、私たちのような数奇な運命と人生を送っているのは居ないですから。どう考えても運命でしょ」
どーでもいいわ……少し気になっただけで聞いてみたフォルナも、この漫才みたいな二人に呆れ……って、お前は何で切なそうに見て、チラチラ横目で俺を見てんだよ。なんだ? 仲いいのが羨ましいのか? 残念だけど、まだイジメキャンペーン中だからダメだ。
全く、俺はこんなところで何をやってんだか。
だが、そんな溜息を吐こうとした瞬間、大事なことを思い出した。
「そうだ、テメェ、紋章眼を持っていたな」