異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと 作:アニッキーブラッザー
そう、思い出した。こいつは紛れもなく紋章眼を使った。そして、状況からして使ったのは、物質に生命を与えるとかいう眼だろう。
だが、俺が重要視してるのは、こいつが紋章眼を持っていることではなく、どうやって手に入れたかだ。
「あっ、紋章眼知ってるんだ。まあ、でも俺はパチモンなんで」
「パチモン?」
「そう。数日前に現れたリア充代表みたいなイケメンと、メッチャニコニコして思わず自分が幼女趣味なのかと疑ってしまうぐらい可愛い女の子が、俺にこの眼を覚醒させたんで」
リア充代表……ああ、ロアか……
メチャクチャニコニコして可愛い子。そんなのこの世にコスモスしか存在しねえ!
「なんかさ、リア充代表が俺の目と体を光る目で見て、何か指差したツボみたいな場所を、ちっちゃい子が押していってたな。それで、なんかパチモン特殊眼が覚醒という俺にも何が何だかな展開に」
「ちょっと待て! その小さい子供は、泣いてたんじゃねえのか? ニコニコして、そんなことしたのか?」
「ああ。つか、自分が何をしているのか良く分かってなかったみたいなんで。ただ、一緒にその女の子と手をつないでた、クマとデッカイ犬の着ぐるみと楽しそうにしてたぞ? なんか、パッパとマッマが迎えに来るまで、ランドで遊んで待ってるとかなんとか……」
コスモスェ~~~~、やっぱ楽しそうにしちゃってたか……あまりにもその光景をリアルに想像出来るだけに、俺は頭が痛くなった。
「……ま、まあ……無事でなによりでしたわね、ヴェルト」
「いや、まあ、そうなんだけどな……」
なんか気の毒そうな顔で俺の肩を叩いて苦笑するフォルナに、俺は力なく頷くだけだった。
「ん? ………ああっ! そういえば、お兄さん、自分の娘さんが攫われたって………攫われたのってまさか………」
「ああ、そのメチャクチャニコニコしてこの世に生けるすべての生命の中でも比較対象が居ないほど可愛い子とお前らが言ってた、そいつのことだよ」
「いや、そこまでは言って、まあ、可愛かったのは認めますけど……ええ~~~、あの子、お兄さんの子供だったんですか?」
何だよ、似てねえとかでも言いたいのか? 妖精もニートもやけに驚いているな。
「えっと、ちなみにお母さんは?」
「胸のでかい天使」
「ああ、あの人……って、子供に比べて奥さんの方はやけに簡単な表現ですね」
何でだ? 分かりやすいだろうが。
まあ、それはどうでもいいとして、問題なのはコスモスだ。
「他の奴らは大丈夫だ。ほっておいても無事に決まってる。だが、コスモスは別だ。一秒でも早く迎えにいかねえとな」
「そうですわね……これ以上、無垢なあの子を利用されるわけにはいきませんもの」
「そうだ。だから、俺らはさっさとここから出させてもらう。だから、邪魔すんなよな? 邪魔するなら、俺は今なら世界まるごとぶち壊すからな」
俺はゆっくりと立ち上がり、この部屋唯一の扉に向かった。
どんだけ頑丈そうであっても、問題ねえ。そんな俺に、フォルナも頷いて後に続こうとした。
すると、そんな時だった。
「う~~~~~わ~~~~~」
なんか、バカにしたようなニートの声が後ろから聞こえた。
「おい、なんだ?」
「いや、別に。なんかこ~、かっこよくて、自信満々で、それでいて恵まれてるから何か不平等だな~と」
「……………………はあ?」
「きっと、あんたはここから抜け出して、相手が誰だろうと倒し、本当に娘を助け出せるんだろうなと……あ~やだやだ、こういう不平等で不公平なほど成功人生歩む不良」
喧嘩売ってんのか? かなりイラっとするような言い方だったんで、俺は思わず足が止まった。
「何でテメエにそんなこと言われる必要がある? なんだよ、不良に恨みでもあんのか?」
「別に……まあ、ただの独り言であり、八つ当たりなんで」
言っている意味がまるで分からなかった。俺がもう一度振り返ってニートを睨むと、ニートは足を崩して足を大の字に広げて天井を見上げた。
「俺、不良が嫌いなんで。この世は不平等ではある。その最もたるのが不良なんで」
「どうしてだ? そういうのは金持ちとかツラがいいとか、そういうことを言うんじゃないのか?」
「違うな。金持ちも、ツラがいいやつも、それはそれで苦労することはあるだろう。でも、不良は違う。苦労も努力もせずに利益を得られるから嫌いなんだ」
……いや、そんなことねえだろ……こいつ、何言ってんだ?
「だいたい、あんたも不良なんだろ? それなのに、あんな美人で選り取りみどりの女を全員嫁にして、あろうことかあんな可愛い子供いるとか、不平等の極みだろ」
否定できねえ………
「ま、まあ、確かにヴェルトは異常な恋愛模様を繰り広げていますが……それでもみんな、ヴェルトには本当に恋していますわ」
「ふっ、甘いな。あんたはこういう言葉を知らないのか? いいか? 不良は恵まれた不公平代表であり、恋とは人生の偽りなんだ」
そして、ついにはよく分からん格言まで飛び出して、それでも収まらないのか……
「これは、ある学校での、一人の生徒を例にだそう」
「学校って、地底世界にも学校はあるのか」
「まあ、そこは普通に……いや、まあその話は置いておいてだ、今はこの世の不平等の話だ。たとえ話だ」
隣で妖精が深い溜息を吐く中で、ニートは急に語りだした。
「俺は……じゃなくて、その生徒は友達も居なくて教室ではいつも一人だったが、その孤独にはずっと耐えたし、学校だってサボらずに毎日通った。変わらない毎日をただ過ごすだけの日々に逃げずに立ち向かった。そんなある日、クラスのイベントで班分けをすることになった。当初はクラスの一存で好きな人同士で集まって班を作る方向性だったが、クラスの代表でもあった女子生徒がそれを却下した。いつも集まっている同士で集まっても意味がない。いつもと違う人たちと集まってこそ、新しい発見があるのだと。そう言って、クラスの班分けは自分に任せて欲しいと言った。それを聞いて俺は心の底から安堵した。何故なら好きな人同士で集まって班を作るとなると、友達居ない俺はあぶれるからだ。それを避けられたのは非常にありがたかった。そしてクラスもその女生徒の意見を飲んだ。何故なら彼女は頭も良く、友達も多く、誰にでも優しく、学校の誰もが憧れる美人でもあり、それを鼻にかけない人気者だったし、信頼も厚かったからだ」
……それと不良が何の関係があるのかと疑問に思ったが、ニートの話は続いた。
「そして、彼女はクラスメートの誰もがハブったり無視したり、班を組むのを嫌がる俺を自分の班に入れてくれたのだ。そう、爆弾処理をする犠牲者に自らがなったのだ。他の班員が誰かはどうでもよかった。ただ、彼女が俺に笑顔で『よろしくね』と言ってくれた言葉で俺は恋に落ちたと言っても過言でもない」
「……いい話ではありませんの」
「いや~、問題はここからなんで。実は、俺が入った班の中に、不良が一人混じってたんだ。まあ、そいつはあまり学校にも来なかったから俺もあんま見たことなかったし、喋ったこともなかった。それに、俺はそんなことがどうでも良くなるぐらい恋に浮かれてハイテンションだったからな。次の日から学校に行くのが楽しみになった。しかし、ある日の朝……機嫌よく教室の扉を開けたその時……事件は起きていた!」
やけに溜め込んで、もったいぶって、核心を話そうとしているニートは、口元にニヤリと笑みを浮かべていた。
それは、初めて見たニートの笑い。しかしそれは笑顔ではなく、自嘲した笑みだ。
「次の日、クラスのバカが一人、その女生徒の生徒手帳を拾ったと言ってクラス中にそれを見せびらかしていた。本来は最低な行為ではあったんだが、クラスの誰もそれを止めなかった……いや、止めれなかった。その中身があまりにも衝撃過ぎて。……何故なら、その手帳の中に………その女生徒と不良のツーショットしゃし……絵が………」
うおっ、びっくりした! 急に闇を纏ったかのように、ニートがおもくそ沈み込んだ。
「そう、その女生徒は、その不良が好きだったんだ。だからきっと、その女生徒はクラス代表の特権を使い、不良と同じ班になるために工作したのだ。いつもと違う人同士で集まってこその新しい発見云々はウソだった。ただ単に、好きな人同士で集まるとクラス一の人気者だったその女生徒は男女問わずに争奪戦になり、女生徒の望む不良と同じ班になれないと考えたからこそ、そういうとんでもない工作をしたのだ。俺は単なる人数合わせだったんだ。別に俺は自分の恋が成就するなどという愚かな夢は見なかったが、毎日学校にも来ないで好き放題しているだけの不良が全てを手に入れ、しかも何故かその不良はちゃっかり良いとこどりをたまにすることで意外とクラスの中でもウケが良かったりするという不公平ぶりだ。どうだ? 不平等と恋の残酷さを少しは分かったろ?」
………それはあまりにも………
「ひ……ひでー話だな」
「……さ、さすがに、ワタクシも………不憫ですわ」
俺もフォルナもドン引きしてしまった。そんな不遇があったのかと………
「まあ、確かにその不良もムカつくな。不良のくせにクラスに馴染むとか、不良にあるまじきだな。その女もドス黒いな」
「その……不良がどうのというのはワタクシには分かりませんが……その、でも、良かったのではないですか? そんな女性を想い続けるようなことにならなくて」
「ああ……その瞬間、俺は世界の不平等を理解し、恋というものを二度と信じないようになったんで」
「ちょーっと! 何を分かり合ってるんですか! ニート君、一体いつまでそんなの引きずってるんですかー! ニート君だって、恋のこと何にも分かってないです! 恋っていうのは、本物であればあるほど、もう周りも自分の評価もどうでも良くなっちゃうんですー! 恋しちゃえば、女の子は、相手が不良だろうと、根暗なぼっちだろうとも夢中になっちゃうもんなんですよ!」
そして、俺たちはこんなところで何の話をしているのだ? と気づくまでにはもう少し時間がかかったのだった。
だが、そんな空気もすぐに破られることになる。
それは、いつも唐突に現れる地底族にも負けないぐらい唐突に、そして地面と部屋を揺らし、部屋の天井にまで達するほど床をぶち抜いて………
「ん?」
「なんですの?」
「ドリルの音じゃない?」
「ひゃああああああああ、なななななななな、なんですかこれは! 何の揺れ、って、床が!」
床をブチ抜いて巨大なドラゴンが顔を出した。
「ぷはっ………あっ………えへ、ヴェルト見つけた~……ッ、じゃない、ゴミヴェルト! ゴミ婿! うん、ゴミ婿!」
一瞬嬉しそうに顔を綻ばせたが、すぐに首をブンブン振って言い直すドラゴンに、俺は思った。
その言い直し方はどうかと思うけど、まず、ちゃんとドアから入ろうよと。イーサムはそんな教育すらしなかったのか?
とりあえず、今は種族を忘れて俺たち四人は同じ顔で固まってしまった。