異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第374話 恋をしていない

 真っ白い石のみを削り取って、これだけの世界を作り上げた地底族の歴史、そして文明には圧倒されてしまう。

 これだけのものを血で血を洗う地上の戦場と化した神族大陸の真下の地中奥深くに造り上げていたとはな。

 

「おーい、家帰ったら公園に集合だぞ!」

「早く荷物置いてこいよー!」

 

 幼い子供たちが街中を駆け回り、視線を変えれば買い物帰りと思われる女の地底族たちが荷物を抱えて行き交っている。

 姿形は違っても、ヒトの営み、生活、そして彼らの自然な表情は地上の生命と遜色ない。

 

「すごいですよね~、私も去年初めてこの世界を知って、驚きましたよ。立派な建造物、そして螺旋駆動の力を使った螺旋太陽エネルギーは都市郊外の田畑で農作物の成長を促し、地上の川から地下まで流れ込んだ大きな川の魚や水が生活を支え、その他にもモグラ肉や加工されたミミズとか、貴重なタンパク源になってるんですよ~」

 

 地下世界は薄暗くジメジメしたところ? とんでもない。

 発展しているだけでなく、食生活のサイクルまでうまくできている。

 石造りでできた高層ビルのような町並みばかりに目を奪われる一方で、生活の下地となるものまでしっかりとしている。

 

「確かに、こんなもん見せられると、未だ戦争ばかりの地上の馬鹿どもを、駄作と呼んでも仕方ねえかもな」

「ええ、これは一本取られましたわね」

「お、……おお、大きいな……」

 

 情けねえ。これじゃまるで俺たちが田舎からやってきた、おのぼりさんだよ。

 街に一歩足を踏み入れ、左右から挟まれるように広がる壮観な建造物のジャングルに囲まれた感じで、俺たちはキョロキョロ周りを見渡していた。

 そんな、挙動不審で、ドリルを持たず、おまけに妖精までいる俺たちの組み合わせは、当然一瞬でバレるほど目立つ。

 

「ね、ねえ、あの人たち、なんなの?」

「やだ~、まさかハーフ? でも、ハーフって言っても、螺旋を一つぐらい持っていてもおかしくないのに」

「え、ちょ、なんか怪しいわよ。誰か警務部隊を呼んできてよ」

 

 地底族の女たち、初めて見た。

 男たちが嘴のようなドリルを付けているのに対して、長い髪の毛の毛先がソバージュのようにクルクルになっているが、よく見るとその毛先が全部小さなドリルになっている。

 

「なんだ~、ツインテールドリルじゃあるまいし、地底族の女はどうなってんだ?」

「あはは、驚きますよね~。地底族の女の人は、体の一部のどこかにドリルがあるのは男と同じなんですけど、それ以外、髪の毛の毛先がドリルなんですよ。だから、女性を怒らせたら毛先のドリルが全部回転して絡みついて襲いかかるという恐怖がありましてね~」

 

 そりゃ、恐ろしい。地底族の女には関わらないほうが良さそうだな。

 

「なあ、男の唇がドリルだと、接吻できないぞ?」

 

 ユズリハにしては可愛らしい質問だ。でも、確かに言われてみりゃそうだな。

 だが、そう思ったら妖精はちょっと顔を赤らめながらある方角を差した。

 それは、道の端で壁に寄りかかり、愛し合うように抱きしめ合う地底族の若いカップル。

 その二人はなんと……

 

「あっ、く、嘴の螺旋に……女性が舌を使って、な、舐めていますわ」

 

 なにやってんのあれ? 思わず固まっちまった俺らだが、妖精が恥ずかしがりながら俺たちに耳打ちした。

 

「あれが~、地底族のキッスなんです」

「えっ、アレがそうなんですの?」

「はい。女の人が、男の人の嘴にペロペロ~ってするのが、地底族のキッスであり、愛情表現です」

 

 シュールというか珍妙な光景だな。

 若い女が、先端の尖ったドリルを這うように舐め回し、ねっとりと唾液を付け、あろうことか先端を口の中に吸い込むようにピストン運動を……エ、エロい……

 

「あはは~、……過激ですよね~」

「アレがノーマルなのか……」

「ッ、こ、これも、文化の違いですわね」

 

 前世の外国人が挨拶でハグしたり、頬にキスしたりするようなもんなんだろうが。

 しかし、あのキス、どう見てもその……フェ〇だったり、ディープ・○○ー○にしか見えねえぞ。

 だが、過保護な家でそだったと思われ、情操教育が疎かなユズリハは興味深そうに見て……

 

「そうか、ああいう、チュウもあるのか……おい、ゴミ婿」

「あっ? …………ッ!」

「あむ、ペロ…………」

 

 ――――――――――!

 

「ん、私も、こっちの方がいいな……♪」

 

 急に俺の袖を引っ張ったと思ったら、ジャンプして俺の唇を舌で一回……

 そして、なんか勝手に納得したように頷き、「♪」とか鼻歌交じりでニコッと笑った。

 

「……ふぁ、わ、お…………」

「………………………………………………………………………………」

 

 ほら、妖精と金色の彗星が固まっちまったじゃねえかよ。

 しかも金色の彗星は両目を見開いて、まるで数日前の暗黒カウントダウンを思わせるかのような陰を感じさせる表情じゃねえかよ。

 

「ユズリハ………………その、おま……な、なんで?」

「んふ~……ゴミは婿だから。婿だからいいんだ~♪」

 

 尻から伸びる尻尾が機嫌良さそうに左右に揺れ、胸張って堂々と街中を闊歩するユズリハは、完全無敵の境地に達しているようだ。

 俺はかける言葉も反応も何もできず、ただ溜息だけ吐いてその後ろを付いていくだけだった。

 

「おい、ゴミ虫」

「………はい? えっ、ちょっと待ってください、ゴミ虫って私のことですか!」

「教えてやる。こいつ、私のゴミ婿だ」

 

 いや、そんな自慢するように何の前触れもなく言っても妖精さん困ってますよ。

 苦笑しながらアハハ~としか言えないようだ。

 だが………

 

 

「私は可愛くて、もう大人だからチュウできるんだ。でも、お前はちっちゃい子供だから、まだまだダメなんだ」

 

「……は、はあ? ちょちょ、ちょっと待ってくださいよ~、そりゃー、私は妖精だから小さいですけど~、歳はたぶんあなたより上ですし~! そ・れ・に、私だってチュウくらいできます~……ま、まだ、寝てる人のホッペですけど……」

 

「私は起きてた時だ。私の勝ちだ」

 

「本人の了承なしじゃないですか! ……いや、私も了承はなしでしたけど……」

 

 

 なんか、負けじと反撃に出る妖精だが、今のユズリハは何を言っても勝てそうになさそうだ。

 その微笑ましいんだかよく分からん平和な光景を、よりにもよって地底族の街中ど真ん中で繰り広げていて、ほんと緊張感がない。

 さっきから街のやつらが怪しい奴らを見ているような視線を向けているというのに。

 

「ヴェルト……その……モテすぎではありませんの?」

 

 前を行くユズリハと妖精のやり取りを見ながら、フォルナは引きつった表情で俺に話しかけた。

 俺はそれを否定することも肯定することもできず、ただ頭を掻くだけだった。

 だが、フォルナは前を見ながら、途端に真剣な声になって、俺に語りかけた。

 

 

「しかし、ヴェルト……あなたは、以前よりも逞しく、大人になり、そして何よりも強くなりましたが……一つ、致命的に変わっていないところがありましたわね」

 

「……はっ? 致命的に変わっていない?」

 

「ええ」

 

 

 一体何のことかと、一瞬わからなかった。俺の変わっていないところ? バカなところか?

 

 

「ヴェルト、あなたは人の愛を受け入れるようになりましたわ。拒まず、いろいろな人の愛を。ウラ、エルジェラ皇女、今のユズリハ姫、そしてドサクサにアルーシャまで……」

 

「まあ、コスモスと再会したあたりから、色々とメチャクチャになったけど、……まあ、そんな俺でもいいっていうなら、別にもう拒まなくてもいいか……そんな気持ちになった」

 

 

 それはつまり、俺も変わったってことじゃねえのか? そう思ったが、フォルナは首を横に振った。

 

 

「ヴェルト、あなたは受け入れた愛の分、みんなを家族として受け入れ、そして大切にしていますわ。エルジェラ皇女やウラの幸せそうな表情を見ていれば分かりますわ。そう、あなたは自分を愛してくれた人を愛していますわ」

 

「なんだよ、ハズいことを……で、それで俺の何が変わっていないって言うんだ?」

 

「ヴェルト……あなたは人を愛することはできても……恋をしていませんわ」

 

 

 ………………………………恋?

 

「みんな、あなたに恋をしていますわ。ですが、あなたは皆を愛していても、恋をしていませんわ」

 

 一瞬、フォルナの言っていることの意味が良く分からなかった。

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