異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第376話 恋を信じない男

「………何をしている……ヴェルト・ジーハ……」

 

 軍服姿の地底人たちが、低い声で俺を睨みつけ、それと同時に山猫の着ぐるみ野郎が言葉を発した。

 

「ピイト専務。あの地上人を知っているのか?」

「……地上では名の通った者だ」

 

 おお、可愛らしい着ぐるみからは想像できない怖い声。筋肉質な強面の男を連想させるような声だ。

 それと、俺を知っているのか?

 まあ、俺はそんなの無視して、ただ真っ直ぐ突き進んだ。

 

「おい、ここをどこだと思っている、薄汚い駄作め!」

「それ以上動いてみろ、貴様を穴あきにする!」

「おい、とまれ! 動くなと言っているのが分からんのか!」

 

 衛兵と思わしき連中が慌てて俺の前に立ちはだかろうとするが、それはもう一匹の着ぐるみが制した。

 

 

「いんや~、待った~。君たちじゃ~、相手にならね~よ~」

 

 

 長身の犬の着ぐるみ着た奴。こいつも男みたいだが、随分と軽いノリの声だな。

 その人物は、地底族の衛兵たちをゆっくりどかして、俺に真っ直ぐ近づいてくる。

 

「その兄さんは、今、地上でも超売り出し中のホープ。幾多の勇者や魔王に、亜人たちが一目置いている。ぶっちゃけ、俺でも勝てね~し~、地底族も螺旋五槍の『メイル元帥』ぐらいっしょ。彼と戦えそうなのは」

 

 言葉は軽いが、その軽い言葉に地底族たちは一気に動揺が広がったのが分かる。

 

「おうい、グーファー常務。ずういぶうんと、我ら螺旋五槍を軽視すうる発言だなあ。いかあに、ラブ・アンド・ピースの幹部とはいえ、ゆるうさないぞう」

 

 青い軍服着た箒のように頭がツンツンした男が不機嫌そうに前へ出てきた。すげ、ツンツン頭の毛先が小さいドリルだよ。

 

「まあまあ、螺旋五槍『ツケヤキ中将』。そんな怒らないでって。とりあえず、そう簡単に駄作駄作って言って攻撃しちゃダメ♪ それに後ろには、金色の彗星まで居るし~、あとはちっちゃい子は知らないし…………ん? あっ……ごほんっ。とりあえず、待ってよ」

 

 実に軽口で地底族幹部を嗜める、グーファは、俺とフォルナ、ユズリハ、そしてフィアリを見て少し何か反応していたように見えたが、着ぐるみだから表情まで分からねえ。だが、それを誤魔化しながら、グーファは俺にフレンドリーに近づいてきた。

 

「いやいやいや、初めまして、ヴェルト・ジーハくん。君のことは知ってるよ~。っていうか俺、ファンだし。聖騎士の所為で忘れてたけどさ、思い出せて良かったよ。いや~、君が社長を帝国でぶん殴って倒したのはスカッとしたな~。あっ、ここだけの話、俺、社長はあんまり好きじゃないから。俺はもっとカッコイイ着ぐるみが良かったのに、あの人はこんなの着せるんだから」

 

 どっちにしろ着ぐるみは着る予定だったのかよ。と思いながらも、グーファとやらは馴れ馴れしく俺に接しようとしてきたが、無視だ。

 

「それにしても、ヴェルトく~ん、迷子になっちゃったの? ついてないね~。まっ、どうせランドに来ようと思ってるんでしょ? なんだったら、ここでの用事終わったら一緒に来るかい?」

 

 その提案は後で受けるが、今は無視。

 

「どけよ」

「うわっと」

 

 俺はグーファを押しのけ、そのまままっすぐ進む。

 その先にいるのは、この状況下でも振り返らずに座っている、ニート。

 

「おい」

「……随分早い再会みたいで……」

 

 別に、こいつがこの世界で忌み嫌われようと、石をぶつけられようと、俺にはどうでもいい。

 ただ、一言だけは何かを言いたい気分だった。

 だから、それだけを言う。

 

 

「お前は、どう生きたかったんだ?」

 

 

 何もかもを諦めたように受け入れ、自分が傷つこうともどうでもいいと投げやりなこいつの姿に、何となくムカついた。

 

 

「まっ、俺にはどうでもいいか。そのまま野垂れ死んだ方が楽なら、そうすればいいよ」

 

 

 俺は言いたいだけ言って、それで終わりにした。

 こいつ曰く、俺は恵まれた人間だ。恵まれた奴が言う言葉ほど、説得力ないものはない。

 どうせ、俺の言葉は届かないと思った。

 だが…………

 

 

「答えを……自分で探せとか……それは無しにして……俺はただ教えてほしい。そう思ったんだ」

 

 

 口を開いたニートの言葉。俺はそれがどういう意味か全く分からなかった。

 

 

「あんたの娘はどうでもよかった。あんたがこういうとき、どういう答えを出すか知りたくて、ここに誘い込んだんだ」

 

 

 しかし、ニートは続ける。

 

 

「ぼっちで、信じる奴も信じてくれるやつもいなくて、だから俺にはどうすればいいか分からないもんなんで。信じるとか、裏切るとか、恋とか、マジでほんと分からないんで」

 

 

 なんだ? さっきのトラウマ話をしているのか? 随分と大げさに引きずる奴だなとは思ったが、俺はこの数秒後に、その考えは見当違いだったと分かった。

 

 

「ちょっとー、ニート君、何やってるんですか! このままだったら、ペナルティですよ! 怒られてお仕置きされちゃいますよ!」

 

 

 何を言ってるか分からないニートを真剣に心配しているフィアリはかなり怒った様子だ。

 そのフィアリを見て、地底族の幹部たちが表情を変える。

 

「な、なんだ、この羽虫は!」

「どうして、こんな珍妙な生物がこの世界に!」

「おい、ニート・ドロップ。この羽虫は貴様の知り合いか? 貴様が持ち込んだのか!」

 

 どうやら、地底族の連中は妖精のことを知らなかった様子。ニートの知り合いの何人かにはバレたみたいなことを言ってたが、どうやら軍の幹部は知らなかった様子。

 そんな慌てた連中を相手に、フィアリはニートを庇うように飛び、そして頭を下げた。

 

 

「お願いします、ニート君を許してあげてください。ニート君は本当にすごい素質を持っているんです。勝手に紋章眼使っちゃったのも、命の危機から逃れるためなんです。それに、ニート君の言うとおり、地上の人たちは強かったです! 現に、そこにいるお兄さんたちは、遭遇した十指の螺子とかも一瞬で倒しちゃうぐらい強いんです。そんな人たちに敗れたのを、全部ニート君の責任とか、あんまりです!」

 

 

 必死な、そして精一杯の弁護。フィアリがニートを心から思うからこその真剣な声。

 もちろん、それだけで心動かされる地底族とは思えないが、そこに意外な後押しがあった。

 

 

「地底族の皆さん、そこの妖精さんが言うように、今回は相手が悪すぎですよ~。情報によれば四獅天亜人のイーサムも居た。そいつは、全世界最強とまで言われる桁違いの生物なんで、さすがにその敗北の責任を、そこの根暗くんに押し付けるのは強引すぎですよ~」

 

 

 それは、グーファだった。まさかの弁護の援護に、さすがの地底族たちも顔を見合って相談し合っている。

 

 

「みなさん~、それに、そこの根暗くんはようやく試作とはいえ紋章眼を得た。これを罰するのは、大きな損失だと思いますよ~?」

 

 

 地底族全体がニートを罰する方向で勧め用とした中で、フィアリの必死の声が状況を変えようとしている。

 フィアリは涙ながら、ニートの頬に体を寄せて、必死にしがみついてる。

 だが、その時だった。

 

 

 

「いや、…………マジでほんと……そういうのやめてくれ」

 

 

 

 耳を疑うような言葉を発したのは、ニート本人だった。

 

「……ちょ、ニート君! こんな時に、何を言ってるんですか!」

「だから……もう、そういう演技いいからさ……素直に利用価値があるから生かしましょうでいいと俺は思うんで」

 

 こいつは何を言ってるんだ? 俺同様に、フォルナもニートの言葉に表情を変えた。

 そして、フィアリはあまりにもひねくれて、気持ちを無下にするニートの発言にショックを受けた様子で狼狽えている。

 

 

「ニート君……どうして、そんなことを……『ドカイくん』……なんで」

 

「だからさ、……やめろよ……『ナルカミ』……」

 

 

 …………? ドカイ? ナルカミ? どっかで聞いたことがあるような。

 

 

「再会したのは偶然だろうと運命だろうと……俺はやっぱり死んでも変わらないから……俺が女なら俺を好きにならない。だからこんな俺に好意を寄せる奴が居ると疑っちまう。だから、隠れて調べた。いつも付き纏うお前の目を盗んで地上に飛び出して、情報集めて、そして、その裏が何なのかを知ってしまったから……もう、どうしていいか分からなくなるんだ……だから、こんな状況下で……そんなツラして、演技するのはやめてくれ」

 

 

 演技? 何言ってんだ? どう考えても、フィアリは本心で……

 

 

「本当はもっと前から分かってたんだ。フィアリ……いや……ラブ・アンド・ピースの最高幹部……『トゥインクル・ベル』……」

 

 

 俺たちの表情どころか、時が止まったかのように感じた。

 

 

「えっ………………」

 

「お前が地底族の情報を得るために、俺にベッタリだったのも……本当は分かってるんで……」

 

「……ちが……ニート君……ドカ、くん、ちが、……ちがうの……嘘なの、本当だけど……で、も、ちが、……最初は……だけど、あなたの正体を知って、私、本当にあなたのこと!」

 

「一年半前。妖精族の森を保護する条件に、ラブ・アンド・ピースに入社。色々と鍛え抜かれた俺じゃなければ、うっかり騙されるところだった。近づいたの俺がハーフで紋章眼の可能性があったからか?」

 

「ちが、おねが、おねがいだから、話を……お願い、話を、きいて……」

 

 

 涙ながらに必死に懇願するフィアリに一切反応を見せない、ニート。

 その時、全てに絶望したような闇を纏ったニートがゆっくり立ち上がり、あまりにも切なそうな笑みを浮かべていた。

 

 

「なあ、ヴェルトだっけ? あんたなら……こんな嘘っぱちの、恋とか友情とか……どうするんだ?」

 

 

 その笑みが、あまりにも哀れで、そして悲しかった。

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