異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第380話 まだ本気を出していないだけ

 ニートはかなりイラついた表情でドリルを回し、そして左手をポケットに入れて何かを取り出し、それを足元にばら蒔いた。

 

「オリジナル螺旋術・花丸畑!」

 

 なんだ? 足元にばらまかれたのは、種?

 しかも、ただの種じゃねえ。その種は一瞬のうちに芽が出て、それどころか一瞬で花が咲き、数メートルの高さまで成長。

 

「あれは、うずまき花です! 地底族が地底の環境に耐えられるように改良を重ねた花です!」

「一瞬であんなに大きく、それどころか、命まで!」

 

 まるで向日葵のようなデカイ花に、感情豊かな顔が出現。

 それは当然、紋章眼の力ってわけか。

 

「ご主人様」

「親方様」

「マスター」

 

 これまた、妙ちくりんな能力なことだ。

 出現した花たちは、まるでニートの配下のような表情を見せてへりくだり、それどころか俺に敵意を向けている。

 

「じゃあ、あの兄さん倒してよ。花戦士たち」

「「「御意」」」

 

 だが、俺はこの時、もうニートの力がどうのこうのは、あまり考えてなかった。

 

「ふわふわランダムレーザー」

「ッ、は、はあ? レ、レーザーが、唐突に! 何もない空間から? 花戦士を一瞬で!」

 

 別に余裕や油断ってわけじゃないが、ニートの強い弱いは、特に思うところはなかった。

 俺が気にするのは、まだ、こいつの腹の底まで暴いてねえってことだ。

 その話題を出そうとすると、意地になって俺に襲いかかってくるぐらいだ。

 だから、もう一息だ。

 そう思った時だった。

 

「なあ、ニート……これは、ある学校での、一人の生徒を例に出そう」

「はっ?」

「テメエがこの世の不公平の生徒の例を出したように、今度は俺が教えてやるよ」

 

 何だか俺の口は自然と動いていた。

 

「俺は……じゃなくて、その生徒は喧嘩が人生の全てだと思い込んで、いつも好き放題にバカやっていた不良さ。最強とか社会に出たら何の意味もねえことを目指していたバカさ。友人とツルんで好き放題していた。でもな、その友人には不良と違って夢中になれるもんがあった。夢も持っていた。だから、そいつらに比べて何もねえ不良は、毎日をハシャイでいたのに、いつもイラだってたし、どこか虚しかった」

 

 フォルナは気づいただろうか。これは、ヴェルト・ジーハの物語ではない。

 

「そんな時、不良はある女に出会った。そいつは無類のバカで、とにかくバカで、そして眩しかった。顔もずば抜けて美人なわけでもない。運動も得意なわけでもない。何か人より秀でたものがあるわけでもねえ。だが、何事にも懸命で、へこたれず、誰とでも素の自分をさらけ出すその女は友達が多く、いつしか不良も女のペースに巻き込まれていた。おかげで不良も気づけば学校に行くようになり、今まで芽生えたことのない感情まで芽生え、不良は日々が充実していくように感じた」

 

 昔、何もできずに死んだ一人のバカの物語。

 

「その不良も、慣れねえことをやったもんさ。普通の生徒がやるであろうことをガラにもなくやって、失笑されることもしばしば。人の視線が恥ずかしくて、ウザったいと思ったし、腑抜けた自分が嫌になることもあった。でもな、その女との出会いから、その女を中心にして広がっていく世界に、ガラにもなく悪くないとも思っている自分もいた」

「なんで、そんな話を俺に? ただ、不良がまともになって、リア充になった話にしか聞こえないんで」

「そうじゃねえ。そうやって、悶えるテメエは、何だかその不良に似てるところがあるってことだ」

 

 それは、ヴェルト・ジーハではなく、朝倉リューマの。そして、ヴェルト・ジーハが未だに恋をしていないというのなら、これは朝倉リューマの青春時代。

 朝倉リューマの恋物語。

 

 

「不良が全然タイプの違う女に惚れる。しかも相手は学校生活大好きのムードメーカー。対して不良は意地張って、素直になれず、照れたり、つい怒声を飛ばしたり、だけど気になるから学校には通うようになり、遠目で見て、目線が合ったら慌てて視線を逸らしたり、………クラスの行事に誘われても、本当は参加したいんだが不良という立場の自分が日和ったとか、キャラじゃないとか思われるのが恥ずかしくて意地張って断ったり、めんどくせーとか言ってみたり、でも無理やり誘われて仕方なくとか言い訳しながら渋々参加するフリをしたり………」

 

「めんどくさ」

 

「ああ、正に今のテメエがメンドくさい男そのものじゃねえか」

 

 

 それは、俺だから分かる。というより、かつて、そうだったから分かる。

 すると、何やら複雑そうな表情を浮かべながら、ニートが問いかけてきた。

 

「それで? 色々あって、結ばれた? 告白成功した? そういう結末すか? あの何人かの嫁の中の誰か? 全員ずば抜けた美人すけど……」

「……いや」

「……いや、だって、あんなに嫁さん……」

「………あの中にその女はいねーよ………いや、そうじゃなくて、今のは一人の不良を例に出しただけで………」

 

 いや、そこで固まるな。妖精も、『ゲスい』とかショック受けた顔で固まるなよな。

 俺も相当変なこと言ってる自覚はあるが、事実なんだから仕方ねえよ。

 

「とにかく結局、あの女が不良をどう思っていたのか確かめることもできず、告白することもできず、色々あってその女とはもう会うことができなくなった。それっきりだ………」

「………あっ、え、そ、それで終わり? えっ、あんた、失恋したんすか?」

 

 いや、だからコクッてはいねーけど、別にフラレたわけじゃねえんだよ。つか、ただ不戦敗ってだけで………いや、問題はそこじゃねえ!

 

「ニート……不公平なスタートで、そして運の悪い出会いには同情するぜ。だがな……真実を、気持ちを、言葉を、全部を聞けるうちに、話せるうちに、どうにかできるかもしれない状況下でひねくれた意地を通し続けると……トラウマなんかと比べ物にならねえ、大事なものを無くすことになるぞ! いま死んでも、来世でも後悔し続けるぞ!」

 

 俺は、ニートに歩み寄り、胸ぐら掴み上げ、乱暴に、だが思ったことをそのまま叫んだ。

 前世の思い残しがあるからこそ、俺には分かる。

 たとえどんな結果になろうとも、妖精と決着をつけなければ、死んでも後悔すると。

 

「ッ、や………もう………もう、全部無理なんで!」

 

 だが、今更どのツラ下げてと、ニートは俺の腕を引き剥がした。

 

「もう、俺は……何にも分かんないから……やり方も分からなくて……だからヒントをあんたに……」

「ならば教えてやるよ。体でな。その代わり、かなり荒々しいから気をつけな! もし死んだら、来世で活かせよ!」

 

 だから、俺はこの体で痛みと共に教えてやる。

 意味のない意地で、前世でも現世でも何度も後悔し続けた先駆者としてな。

 

 

「………ふひ………………」

 

 

 すると、ニートがどこか呆れたように笑みを浮かべていた。

 

「ったく、これだから不良ってのは……クラス内ピラミッド、アウトローなランク外」

「……なんだそりゃ?」

「俺みたいのがクラス内のピラミッドの最下層。イケメンとか美人なクラスの中心どもがクラスの最上位。そんで、あんたみたいのは、最下層にもなれれば最上位にもなれる、気分次第でどれにでもなれるやつらってことだ」

 

 くは! 人の見方もほんと根暗だな。

 だが、言葉は根暗でも、その表情はどこか晴れやかだ。

 そして、

 

「ま、あんたも気をつけたほうがいいんで」

「ほう、どういうことだ?」

「あんま自信過剰に振る舞って、負けたら結構恥ずかしいと思うんで」

 

 さっきまで、俺との戦いはどこか「観念」して「仕方なく」行っていたところがあったが、もう違う。

 コイツは言いやがった「俺を負かす」と。

 

 

「俺はまだ本気を出していないだけなんで」

 

 

 やる気を出してくれたようだ。。

 

 

「くははは。なら、後悔しないように、全力全開でやってみたらどうだ? 一度くらい、テメェも本気を出してみたらどうだ?」

 

「そこに異論はないんで。ほんと不本意すけど」

 

 

 その意志を受けて俺も笑い返してやった。

 まともな面構えになったようだな。

 ようやく俺も、こいつという存在の心の奥底に触れた気がした。

 そして、こいつも開放する。

 

「んじゃあ、いくんで」

 

 そのとき、こいつは予想もしない行動に出た。

 鋭く回転したドリル。それを、なんと自分自身に突き刺しやがった。

 

「はっ?」

「ちょっ!」

「なにをしているのだ、あの男は!」

「ニート君ッ!」

 

 突然何をした? 狂ったか? だが、誰もがそう思いかけたとき、俺たちは驚いた。

 ニートが自分自身にドリルを突き刺しても、血等は一切飛び散らず、代わりに突き刺したドリルから暖かい光が漏れ、その光がニートを包み込んでいく。

 

「これは………」

「地底族の螺旋の力は、全て自身の肉体の一部である螺旋に凝縮されているんで、そのエネルギーを単純に肉体全てに流す技………」

 

 それは、どこか魔力の使い方にも似通うところ。だが、地底族にとっては一般的でないのか、地底族の幹部たちには動揺が走っている。

 

「自分に螺旋を突き刺し、螺旋のエネルギーを全身に送るだと?」

「バカな、そんな使い方知らないぞ! いや、下手したら死んでしまうぞ!」

 

 しかし、そんな力の使い方を、ニートは自分のアイディアでたどり着いたのか?

 

 

「以前、自殺しようと思ったらビビって浅く刺さって、そしたら偶然編み出したんで」

 

 

 あまりにも泣けてくる理由過ぎて、もう呆れるしかなかった。

 

「このバカ、命は大切にじゃなかったのかよ」

「あいにく、俺は『死ぬ』ってことについてはよく分かってるつもりなんで」

「……はっ?」

「まあ、あんたには関係ないことなんで!」

 

 だが、始まりは哀れでも、今、発生しようとしている力は非常に力強い。

 

 

「オリジナル螺旋術・ネオニート!」

 

 

 ニートの全身を纏う光は、やがて渦を巻き、その勢いは天にまで達しようとしている。

 くはははは、いいじゃねえか。いかにも熱くなってきた様子じゃねえか。

 

 

「ふわふわ世界《ヴェルト》革命《レヴォルツィオーン》!」

 

 

 俺もそれに呼応するかのように、力を解放。

 魔道兵装という衣を纏い、心は裸になって応える。

 さあ、裸になった想いを、力の限りぶつけ合おうじゃねえか。

 

 

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