異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第394話 贖罪

「おいおいおいおい、どうなってんだよ、これは! 起きてるよな? それとも寝てんのか? どっちなんだよ!」

 

 フォルナは起きている? いや、起きているようで起きていない。まるで幻に取り付かれて精神が壊れている。

 

「こ……これは……妄想が精神を凌駕しています……」

 

 ようやくこの事態に何か気づいたのか、フィアリが慌てた表情でフォルナの頬まで飛んで手を当てた。

 

「おい、どういうことだよ」

「言いましたよね? これは、本人の望む妄想を現実のように見せる幻術だと。気分はハッキリ言って、麻薬中毒みたいになっちゃうんですよ」

「麻薬中毒だと?」

「もちろん、時間がたてば妄想と幻術が薄れてくるんで元に戻りますが……その妄想の世界があまりにも……妄想と幻術と知りながらも、彼女の精神が戻ってくることを拒否したとしたら……」

 

 えっ、なに? あの歌って、そんな危険すぎるヤバイもんだったのか?

 

「私だって、起きたくなかったぞ! いつも意地悪な婿が甘えて……私が赤ちゃんにオッパイあげてるのを嫉妬して、反対側を婿もチューチュー……だけど、婿が叩くし、痛いから思わず起きた……」

「ほほう。そうなるとじゃ。フォルナ姫は今見ているであろう妄想を現実とし、本当の現実の世界に戻ることを拒否しているということかのう?」

「多分……私も、あの歌は滅多に歌いませんけど、一族に伝わる話では、そういう事例も稀にあったと……」

 

 ユズリハは無視。聞こえない。

 ってか、ちょっと待て。となるとそれは笑い事じゃねえぞ? 本当に耳を塞いでないとヤバイ代物だったんじゃねえか。

 つまり、もしフォルナが強靭な意志で現実に戻ることを拒否したとなると?

 フォルナはずっとこのまま……

 

「その、よく分からないですけど、この人……よほど精神的に追い込まれていたんですかね?」

 

 フィアリの言葉に俺は思わず顔を上げてしまった。

 

「いえ……なんとなく……だからこそ……」

「どういうことだよ」

「ほら、これは自分の理想とする、自分が心から望むことを見せる幻術。現状と理想にあまりにも乖離がありすぎると、妄想の世界のほうが……っていうこともありえるわけでして……」

 

 フォルナが追い込まれていた? 精神的に?

 そんなバカな……と思う反面、フォルナ自身が弱々しく言っていた言葉が頭に過ぎった。

 自分もギリギリだ……と。その言葉が。

 

「俺の嫌がらせとフォルナ自身の罪悪感。それが原因とでも言うのかよ……」

「罪悪感? あの、朝倉君。一体、この人と何があったんですか?」

 

 何があった……。正直、何があったかまでは分かる。

 だが、正直なところ、コスモスのことばかり考えていて、フォルナがどこまで精神的に追い詰められていたかを、深くは考えていなかった。

 だからこそ、さっきニートに言われた言葉が胸に突き刺さる。

 

――あんな妄想抱いている以上、何だかんだであんたも、ちゃんとやってないってことだと思うんで、あんたには女のこととか言われたくないんで

 

 正にその通りだよ。女に対してちゃんとやっていなかったな。

 いや、待て、やってなかったわけじゃねえ。ちゃんとそれなりにやってきた。

 エルジェラとコスモスと家族になった。

 ウラを嫁にした。

 アルーシャの位置づけがよく分からんが、置いておく。

 単純に、次はフォルナの番だって話だろ。

 

「簡単に許さないで、少し嫌がらせして、ほとぼりが冷めたら昔みたいに……それじゃ甘かったな。俺はこいつの感情を全て正面から聞いてやってなかったから」

 

 ニートとの戦いでも分かっていた。フォルナに対する思いやりが欠けていた。

 

「俺がフォルナを連れ戻す。なんか、いい方法はねえか?」

「連れ戻す……ですか……そうですね~……意識をシンクロさせて夢の中に入るとかだったら……」

「ほう、いかにもファンタジーな方法じゃねえか。それでいい。俺をフォルナの中に入れてくれ」

 

 だからこそ、欠けた部分を補ってやるしかねえ。

 もう少し先の話にと考えてたが、俺は今、フォルナの感情と向き合ってやることにした。

 すると、そんな俺にフィアリもニートも不思議そうな顔をしていた。

 

「なんだよ……」

「いえ……あの、ツン倉くんが、意外と女の子に対してそれなりに考えていることが不思議で……」

「っせーな……モテる男はつらいんだよ」

「あはははは。だそうですよ、ニート君。ハーレムなんかいいことないんですから、案外不平等の勝利者じゃないかもしれませんよ? むしろ、オンリーワンの女の子を大切にする人ほど勝利者と言えるかも知れません。ので、ニート君はマネしちゃダメですよ~」

 

 若干の冷やかしを受けながら、俺はフィアリに手を取られ、そのままフォルナの額に手を置かされた。

 フィアリを始点として流れてくる魔力が俺の体と意識に干渉し、真っ暗な底のない世界へと呼び込まれた。

 

 

「寒い……」

 

 

 ニートの意識に触れたとき以上の、冷たさと暗さを感じる。

 

 

「フォルナ、お前は俺と再会してから、ずっとこんな暗闇の中に居たってのか?」

 

 

 俺がイジワルしたり、他の女とイチャついているのを耐え、本当は………

 

 

「わ………わん!」

 

 

 ………………?

 

「わ、わん! わん、わん! ワタクシはヴェルトの忠実な犬ですわん! 家畜以下のメス犬ですわん!」

 

 いきなり景色が変わった。

 そして何があったかというと、なんか黒色ボンテージに身を包んだフォルナが目隠しされて、両手を背中で縛られて、正座した状態で俺の前に居た。

 そして、俺は全裸でムチを持っていた……

 

「な……なんじゃこりゃあああああああああああああああ!」

 

 フォルナの妄想はあまりにもカオス過ぎた!

 

「フォルナーーーーーッ! お、おま、なんしょっ、なにしとんじゃい!」

 

 俺も何語を話しているのかもよく分からない状況だった。

 だが、場面はまた一瞬で変わり、俺の目の前からフォルナが消えた……と思ったら……

 

「……あれ?」

 

 俺は、四つんばいになっているフォルナの背中に座って足組んでた。

 

「ちょっとまてえええええええええええ!」

 

 そして、世界はドンドン変わっていく。

 

「ヴぇ、ヴェルト……もう、は、入りませんわ……」

 

 俺の意思とは関係無しに、気がつけば俺は蝋燭持ってたり、十字架に縛られたフォルナに色々とアブノーマルなことをやってたり……

 

「国民の皆様……ここに居るワタクシは、もう姫ではありませんわ。最低最悪の蛆虫ですわ……」

 

 さらには故郷のエルファーシア王国で首輪を鎖でつないで犬のように歩かせたり……

 そんな状況の中、カオスは更に発展する。

 

「パッパ~!」

「お母さ~ん!」

「母上~!」

「ッ、ゴミ母! 年増が父に手を出すな! 父、抱っこしろ!」

 

 コスモス……と、そして誰だよこの娘たちは。この、ミニチュア版のアルーシャ、ウラ、ユズリハは……

 

「ねえ、パッパ、何でフォルナちゃんがここに居るの~? フォルナちゃんはココに居たら、メッ、だよ? だってここに居ていいのは、パッパの家族だけだもん。フォルナちゃんは他人だもん!」

 

 おい、コスモスはこんなことは言わねえ! 言わねえから! 

 次から次へと……

 だから……

 

「だから、もうやめろ! フォルナッ! お前に一体何があった、フォルナ!」

 

 まずいまずいまずい! これは、もはや罰というよりもただの変態プレイじゃねえかよ!

 つうか、フォルナの奴一体………

 

 

「………えっ?」

 

 

 と思ったら、次の瞬間俺の目の前に飛び込んできたのは、俺に背中を向けて両手を広げて立つフォルナ。

 彼女の体には、大量の剣や槍、弓が突き刺さり、夥しい血を流していた……

 

「ど、どうなってんだよ……これは……なんだよこれは!」

 

 幻だと頭の中で何度も繰り返しても、それでも一瞬勘違いしてしまうほどのリアルな光景。

 あまりにも予想できない光景の連続に、何と声を上げればいいのか分からない。

 だが、そんな時だった。

 

 

「色々と試してみましたの……」

 

 

 再び世界は真っ暗な世界へと移った。

 辺りには天井も壁も無い虚無の世界。そこには俺と、ポツンと両足を抱えて蹲ったフォルナが居た。

 

 

「ワタクシの望みは、あらゆる罪や罰を受けてあなたに償うこと………ですが、あらゆる辱めや罰を受けても……この命を犠牲にしてあなたを守ろうとしても……あらゆる状況を見ても……それでもワタクシは……ワタクシ自身を許せませんの」

 

「フォルナ……お前……」

 

「それなのに、幻のあなたはワタクシを簡単に許して……気づけば仲睦まじく……子供まで……そんな妄想にたどり着いてしまう自分が浅ましくて耐えられませんわ」

 

 

 なに? あれって罰だったの? ただのドM変態プレイをしてだだけじゃねえの? とツッコミを入れるべきだろうか……

 

「ヴェルト。ワタクシはあなたに許されるべきではないですわ。あなたもワタクシを許すべきではありませんわ。でも……でも……あなたに償いはしたい……」

 

 その時、俯いていたフォルナがようやく顔を上げた。

 

「ヴェルト、ワタクシはどうすればよいのです? この世界で思いつく限りのことはやりましたわ! でも、何をやっても全然自分で納得しませんの! ワタクシはどうすれば……あなたに償うことが出来るのか……教えて……ヴェルト」

 

 涙で瞳を腫らし、まるで迷子になった子供のように弱々しく、情けない表情。

 

「ふ……ふふふ……情けない。あなたを忘れ、底の浅い薄っぺらな正義を掲げていた時のワタクシが、まさかあなたを思い出したことでこれほど惨めになるとは思いませんでしたわ………。なのに、あなたは突き放したワタクシをこうして迎えに来る………もう……自分でもどうすればいいのか分かりませんわ……」

 

 

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