異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第412話 カオスの時間⑨

「シューティングスターッ!」

「ッ、……アイスドームっ!」

 

 芸のねえ……そう思って返り討ちにしてやろうと思ったが、次の瞬間俺たちの真上をドーム状で覆う氷が、降り注がれる矢を弾いた。

 アルーシャだ。

 

「がははは……やるか? 嬢ちゃん?」

「ガジェッ!」

 

 それは人の名前だったのか? 聞いたことのある名前。多分、かなりの有名人だったと思う。

 

「そうか……あの弓。『流星弓』じゃったか……」

「それは、気づかなかったのだ」

 

 イーサムとエロスヴィッチも何かに気づいたのか、ジッと上空を見上げる。

 有名人で、フォルナやアルーシャにも関わりがあって、イーサムやエロスヴィッチも知っている。

 流星弓……ああ、そういうことか。

 なんでか知らねえけど、そりゃ、二人にはつらいもんだな。どうしてそうなったのか…………

 

「まっ、どうしてこうなったのか分からぬが、それよりも、こっちの方が厄介じゃの~」

「ふん。確かにそうなのだ」

 

 すると、イーサムとエロスヴィッチはロービン・フードへ向けていた視線を、すぐに逸らして、そして、笑顔なのだが、どこか怒りを感じさせる表情を浮かべて、ママンを、そしてデイヂを見た。

 

「古き戦友を好き勝手しおって……おぬし、ただではすまさんぞ?」

「ガバガバになるまで犯して、わらわの部下たちの慰み者にしてくれるのだ」

 

 それは、まさに四獅天亜人二人による世界最強殺気のコラボ。

 全ての熱が消え、凍えるような寒気が場を支配していく。

 その圧倒的な威圧は、やはりロービン・フードたちが放つ空気とは桁外れだ。

 フィアリとニートなんて、腰抜かしそうにビビってやがるしな。

 だが…………

 

 

「ふっ、オープン前のランド……あまり壊したくないのだわね。場所を変えさせてもらうだわね」

 

 

 問題なのは、デイヂからはまるで二人の殺気にビビる様子もないことだ。

 すると次の瞬間、デイヂが手のひらを広げ、そこに黒い球体が渦巻いた。

 

「来るぞッ!」

 

 魔法? 闇? 何かの能力か? 

 すぐに動けるように全員が身構えた。

 しかし、次の瞬間、

 

 

「邪悪魔法・暗黒空間《ダークワールド》!」

 

 

 それはついこの間、アルテアが使用したものと全く同じのもの。

 

「じゃ、邪悪魔法ッ!」

「げっ、こ、こいつっ!」

 

 全員が気づいた瞬間にはもう遅い。いや、気づいても、発動された後ではどうしようもねえ。

 わずか一瞬で、俺たち全員が世界全体が真っ黒で、何一つ見えない闇の世界に覆われた。

 

「ちっ、邪悪魔法の使い手だったのかよ」

 

 既に周りは何も見えない。仲間も見えない。

 そりゃそうだ。上下左右も良く分からねえ。

 確か、この真っ暗な空間、平衡感覚も狂えば、空間を捻じ曲げたりすることも出来たって話だ。

 そして、空気の流れなどで感知する俺の力もこの中じゃ無意味か………

 

「邪悪魔法・暗黒閃光《ダークライト》」

「邪悪魔法・閃光遮断《ライトカット》」

「ッ、はっ?」

「……無駄だわね、アルテア。お前の邪悪魔法は私とは練度も違えば、深さも違う。汚れの知らぬお姫様の邪悪魔法は全て私が相殺するだわね」

 

 

 一瞬、世界が光ったように見えたが、すぐに暗く戻った。

 アルテアが何かしようとしたようだが、かき消されたか………

 

 

「この光のない世界、お前たちは仲間も私たちの存在も把握できないだわね。さあ、そんな世界の中で、闇の中から迫り来る狩人と狂獣怪人を相手できるかどうか、見せてほしいだわね」

 

 

 うわお、それは確かに恐ろしい。こいつが余裕の態度だったのは、そういうわけか。

 

「さあ、俺は遠慮なくいくぜ! シューティングスターッ!」

 

 だが………

 

「漆黒の世界が、世界を覆いしとき、暗黒物質が全ての光をとりこまん! 邪悪魔法・効果吸収《アブソープション》」

「ぬっ?」

 

 次の瞬間、世界が再び光に満ち、真っ白で何もない異空間に漂う俺たち、そして仲間たちの姿、配置が視界に入った。

 そして、それぞれに目掛けて飛んでくる無数の矢。

 

「ふわふわ乱気流!」

「ダークウイング!」

「……ムダ……私への物理攻撃は全て通過する」

「雷迎撃!」

 

 見えさえすれば、当たることもねえ。

 まあ、見えなくてもここに居る連中は全員、何かしらの防御方法で身を守っただろうが、しかしそれでも無傷で回避したのは、あいつの功績だな。

 

 

「へん! あたしの邪悪魔法を相殺する? だったら、相殺したその魔法を吸収したろーじゃんっ!」

 

 

 アルテアだ。

 

「アルテアさん!」

「あいつ、あんなことできたんか!」

「今のうちです、みなさん、集まって!」

 

 おお! アルテアのやつ、珍しくシリアスモードじゃねえか。

 強い口調で啖呵切り、一歩も敵に対して引かねえ姿は、これまで見たこともねえ。

 そんな気持ちになりながら、俺たちは今この瞬間を逃すなと一箇所に固まった。

 

「ほほう。やるのう、ユーバメンシュの娘。まあ、あのまま戦っても、ワシは問題なかったがのう」

「まあ、これはこれで良いのだ。一人の女が、本物になるかどうかの瀬戸際に立っているかもしれないのだ」

 

 どこか、親が子を見るような眼差しでアルテアを見る、イーサムとエロスヴィッチ。まあ、二人からすれば、戦友の娘ってことで、何かしら思うところあるのかもしれねえな。

 ただ、余裕でどうにかできるんなら早くどうにかして欲しいって気持ちもあるが……

 

「吸収が使えるとは思わなかっただわね。まともな訓練を受けていなくても、やはり素質はあるはずだわね」

 

 少し意外だったのか、それとも納得できるものなのか、素直にアルテアを褒めるデイヂだが、アルテアは図に乗らねえ。

 変わらず真剣モードを通し続けた。

 

「邪悪魔法、あんたも使えるみたいだけど……じゃあ、あんたがママンをこんな目にあわせたの?」

「……ああ……そうだわね。重症を追ったユーバメンシュ、ヴェンバイ、そしてロアは、私が洗脳しただわね」

 

 そうか、こいつか……

 だが、これは考えようによっては、好都合かもしれねえな。

 

「だったら、あんたを倒せば、ママンは元に戻るわけだね?」

 

 そういうことだ。

 つまり、こいつをぶっ倒せば、ママン、ヴェンバイ、そしてロアも元に戻る?

 アルテアらしからぬ鋭い指摘に、俄然、アルーシャたちの表情も鋭く強くなっている。

 

「……ならば、早急に倒させてもらわないとね……ガジェ……邪魔をするなら、当然あなたもね」

「ワタクシも、もう何のために生き、何のために戦うのかは決めていますの」

「おやおや、怖いね~、嬢ちゃんたち」

 

 敵は三人だ。ママンも居るから楽ではないが、それでも三人だ。

 なら、このメンツなら……

 

「確かに私を倒せばそうなるんだわね。だけど、それは簡単にできないと思うだわね。四獅天亜人や七大魔王を引き連れていることが、そんな余裕を生み出しているのなら……計算違いだわね」

「はあ? んなの関係ねーし! つか、計算なんて苦手なあたしが、んなことしねーっての! とにかく、あんたマヂあれだから!」

 

 アルテアが再び動く。手のひらに、カマイタチのようなものを発生させ、一気に解き放つ。

 だが、

 

「邪悪魔法・暗黒刃!」

「ふっ……邪悪魔法・暗黒粉砕!」

「ッ……砕かれた……」

 

 デイヂが手を前に差し出した瞬間、黒いカマイタチがデイヂに触れた瞬間、粉々に砕かれた。

 相手も同じ邪悪魔法使い。そう簡単にはいかないのは分かっている。

 しかし、それだけじゃなかった。

 

 

「お前たちは知っているだわね? 生命は、普段の活動や戦闘においても、自身の力で自身を破壊せぬようリミッターがかけられている……まあ、中にはピイトのような例外もいるだわね」

 

 

 デイヂの余裕。それは、デイヂは相手の力を計算して戦いを挑んでいたことにあった。

 

 

「洗脳は、ただ操っているだけだと思っていたら大きな間違いだわね。脳や肉体を支配して、強制的にそのリミッターを解除することも可能だわね。その数値、実に五倍だわね!」

 

 

 その瞬間、その言葉に込められた意味を何人理解していたかは、分からない。

 だが、どちらにせよすぐ全員知ることになる。

 

 

「グワゴワガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 

 その瞬間、これまでずっと無言だったママンの全身に血管が浮き上がり、激しい奇声を上げた。

 

「ママンッ!」

「ちょ、ちょっと待って? ユーバメンシュのリミッターを解除する? それって………」

「単純に、ユーバメンシュが力を完全開放するということですの?」

「ちょっ、あんな強そうなカバさんが大暴れするってことですか?」

「なるほどね………少し面倒だね」

「ちっ、腹立たしいことを………」

 

 確かに聞いたことがある。人間は普段二割の力しか使っていないと。時に火事場の馬鹿力的なものを発揮するのは、そのリミッターを一時的に解除することを意味する。

 つまり、ママンが全ての制限を解除して力の限り暴れまわってくる………?

 

「ほほ~……ほほうっ! それはそれは、少し滾ってきたぞい」

「ふん。面倒くさいが、まあ、上等なのだ」

「けっ、関係あるか、ブチ殺す!」

 

 しかし、それでもまるで揺るぎなく、むしろ好戦的な笑みを浮かべるイーサムたち。

 そうだ、例え相手が誰だろうと、俺たちは………

 

 

 

「う~~~~~~ううう~~~~~~ううううううううううううううううううう! か……カワイイオトコノコタチネン」

 

 

 

 ………………………………………………………………………………えっ?

 幻聴か? 俺たちはママンから漏れた奇声の中に混じった言葉に耳を疑った。

 だが、次の瞬間俺たちは見てしまった。

 

 

「そうリミッター解除により、戦闘力五倍! 本能を解放し、性欲も五倍ッ!」

 

 

 ママンの……アレが、イーサムに負けないほど恐ろしくデカく……

 

「………ッ!」

「えっ? ちょっ、キロロ姫! 何をするんだい、は、離したまえ!」

 

 次の瞬間、何も言わずに、ラガイアの袖を引っ張って、その場からキロロがラガイア連れて逃亡した。

 この空間で逃げると言ってもどこへという気もするが、だが、何故逃げたのか?

 キロロの反応、そして更に続く、興奮しまくったママンの言葉が、この場にいた全員の戦意をへし折るほどの恐怖が詰まっていたからだ。

 

 

「ハアハアハアハアハアハアハアハアハア……ダキシメタイ……オイシソウ……」

 

 

 ……………うん………

 

 

「後は任せました! ニート君、逃げます、逃げます、逃げてください、走ってください! もう、地平線の果てまで逃げます!」

 

 

 次の瞬間、体格差なんて関係なく、それこそ火事場の馬鹿力を発揮して、フィアリがニートを引っ張って逃走。

 

「それだけはぜえええええええええええええええったいにダメッ!」

「ヴェルトを守りますわああああああああああああああああ!」

「ぜええええええええええったいにさせるものかあああああああ!」

「ヴェルト様は! ヴェルト様は! ヴェルト様は絶対に渡しません!」

「がううううううううう、婿は私のだもんっ!」

 

 俺も逃げ出しそうになったが、逃げる必要はなかった。

 なぜなら、俺が行動する前に、アルーシャ、フォルナ、ウラ、エルジェラ、ユズリハが、俺を神輿のように担いでその場から全速力で逃亡したからだ。

 

 

「マ……ママン、そりゃないって……」

 

 

 一瞬で遠く離れた後方で、アルテアがガックリと肩を落とし、両膝をついて項垂れているのだけは確認できた。

 

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