異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと 作:アニッキーブラッザー
いかん。連続的に何か色々ありすぎて、それに今は文字通り精根尽き果てている状態だから、ほんと今、何が起こってんのか誰か教えてくれよ。
「卑怯とは言うまい。戦争とはいえ、我々は正義の味方でもなければ、素行が良いわけでもないのだから」
「いやいや、待ちたまえピイト君。育ちが悪いイコール悪いことをしてもいいは、同義語ではないんだよ。なあ? ニート」
「私も含め、魔王も堕ちたものだ……国と世界が、こんな形で委ねられるとは……」
「だが、ついていることには変わりないだっく。武神イーサムに続き、淫獣女帝まで解放されていたら、どうなっていたか分からなかっただっく」
俺たちの間抜けすぎる展開と、ついに動いちまったと思われる敵の姿。
ハッキリ言って、全員別格だ。
「ピイト専務、地底族のメイル元帥、……無眼魔王ノッペラ……ブラックダック本部長……」
「危なかっただっくね、デイヂ。まあ、おかげで一番の脅威を消すことが出来たから、大金星だっく」
味方の援軍に危うく救われたデイヂが安堵するのとは反対に、俺らはこの衝撃を未だ理解できていないで居た。
「ニート、君は随分とありふれた表情になっているな」
「メイル元帥……」
「これまでの君は、拒絶、無関心、絶望、あらゆる負を纏っていたのに、今では人並みの輝きを感じる。だが、それでいい。最後に立ち上がりさえすれば、若者は大いに悩み、間違えればいい」
なんだか、状況と態度がマッチしていないというか、何だか想像していた印象とはかなり違う様子のメイルという女。
そして……
「父上……どうして……なぜ、ラブ・アンド・ピースにッ!」
「………大人の事情だ、ラガイア………」
「なにを! それに、そもそも父上はラブ・アンド・ピースに襲撃され、行方不明だったはずでは?」
「いかにも。ただ、その後、マッキーと交渉してな……マーカイ魔王国としては、こちら側の方が有益と判断した」
「そんなっ……ッ!」
「そう、二年前も……お前が帝国襲撃に失敗さえしなければ、元々ここまで面倒なことにならなかった……そして今もこうしてお前は私の対極に居る……この、出来損ないめ」
そして、ついに現れたか。ついに現れやがったな!
精根尽き果てて、頭もパーになっている今の俺でも、それでもここだけは引くわけにはいかねえ。
「出来損ない出来損ないウルサイんだよ、このノッペラ坊が! 他人が人の弟に口出しするんじゃねえよ!」
「同盟がジャマして行動を起こせなかったが丁度いい。無眼魔王ノッペラ……あなたは昔から殺したいと思っていた」
おや? 俺と同時にノッペラとかいうクソやろうにぶち切れるキロロ。まっ、いっか。
「お兄ちゃん……」
背中から聞こえてくるラガイアの震えた声。
だが、安心しろ。これだけはずっと前から言ってやるつもりだったんだ。
「他人? 弟? おかしなことを言う。リモコンのヴェルトよ、そのクズはかつて――――」
「だからテメエ黙れよ。ラガイアと血が繋がってるだけの他人が、俺たち家族に口出すんなよ」
「ほう……」
ラガイアの人生の全ての元凶。こいつだけはいつかぶっ飛ばしてやろうと思っていた。
丁度いい。
「全く、騒がしいだっくね」
「荒ぶる闘争本能は見事。世界の名だたる英雄が……マッキーたちが一目おくだけはある。ヴェルト・ジーハ」
「ほうほう、彼か……ニートに壁と天井をぶち破らせたのは……」
今の俺に何が出来る? 体力は回復してるか? 魔力は?
だが、その余裕ぶったテメエらに、負けてられねえ。
まずは、あのノッペラをぶん殴る。そこから先は、殴った後に考える。
「全く、みっともない話ですわ」
「私も反省だな……欲望に負けてしまった」
「これで負けたら本当に私たち、世紀の大マヌケよ」
「コスモスに会わせる顔が無いです」
「こいつら……よくもゴミ父を……噛み殺す!」
「つうか、そうじゃないと、パワーアップしたはずのあたしがかわいそ過ぎるしな」
言い訳なんて出来る状況じゃない。肉体的な痛みに堪えながら、フォルナたちも立ち上がる。
こんな訳も分からぬ間抜けな状況下で、負けてられるかよッ!
「やれやれだっく……なら、少し遊ぶだっく!」
その瞬間、俺たちは散開した。
「いくぞ、コラァ!」
「ヴェルト兄さん、私も奴を殺す!」
「お兄ちゃん……フッ! いくよっ!」
「同じ魔族として、力を貸すぞ、ラガイア!」
俺、キロロ、ラガイア、そしてウラの四人は一斉に駆け、目指すは魔王ノッペラ!
「ニート君、今は戦うんですよ! ここは、なんとかしないと!」
「うわ……ちょ……メイル元帥と戦うとかマジで……」
「ボヤボヤしない、恵那! 土海くん! ここを必ず乗り越えるわ!」
「行きますわよ!」
ニート、フィアリ、アルーシャ、フォルナが、メイル元帥に。
「ウガアアアアアアアアアアアアアア! 人間の癖に、随分と調子こいてんじゃねえか、グラアア!」
チーちゃんが、サシでピイトに。
「あたしは……ッ今のうちにママンを、んで、デイヂもぶっ倒す! ユズっち!」
「まとめて殺す!」
「及ばずながら、力になります」
アルテアとユズリハとエルジェラは、デイヂとママンを。
別に誰が誰を倒すと示し合わせたわけではないが、俺たちは自然と分断されてそれぞれに挑む。
「ふん。リモコンのヴェルト。そして、キロロ姫、ウラ姫、そして出来損ないか……やれやれ……」
「いいな~、若いな、少年少女たちよ。君たちの青春は輝いているよ。それを見せてみたまえ」
「ほう。武神に狙われた後は、魔王か。血が騒ぐな……」
たとえ手負いとはいえ、複数がかりで向かってくる俺たちに対し、自信を漲らせて迎え撃つこいつら……
だが、引けるかよ!
「いくぜ、ふわふわ警棒!」
「……くだらん」
警棒勢いよくぶん投げて、まあ当然避けられたわけなんだが、こいつ、目が見えなくてもこの程度の芸当は楽勝ってか?
まあ、魔王なんだからそれぐらいはな!
「父上……いや、魔王ノッペラ!」
「むっ……」
「どうしてあなたがそちら側につくか、もう僕には関係ない。今はただ、僕がようやく手にしたこの繋がりを守るッ!」
ああ、それでいい。ラガイアの震えが止まっている。もう、迷いもなさそうだ。
「当然」
「私の義理の弟に、過去酷い仕打ちをしたようだな、魔王ノッペラ!」
「……まさか、ラガイアが愛され、私のほうが同じ魔族に嫌われるとは……やはり、早く殺しておくべきだったな、クズが」
ラガイア、そしてウラが間合いを詰める。屋根の上で左右からノッペラを挟み、拳と蹴りのラッシュで追い詰める。
だが………
「無駄だ。私の心眼は……全てを見通す」
反射で回避し? いや、違う。まるで攻撃される前に感知しているかのように、そして柳のように軽やかに最小限の動きで二人の攻撃を回避してやがる。俺と同じような力?
あのガタイでパワー系かと思いきや、技術もあるのか?
「触れさえすれば問題ない」
その時、左右に挟まれているノッペラの背後からキロロが舞った。
「ガアアアアアアアアアアアッ!」
瞬間的に後ろに振り返り、ノッペラはなんと口から魔力光線みたいなのを放ちやがった。
だが……
「無駄」
魔力光線はキロロの体を通過している。
「そうか……分解と透過か………」
「私に物理攻撃は当たらない。そして、これで終わり」
キロロが手を伸ばし、ノッペラに触れようとする。キロロの能力は透明人間的な技と、触れたものを分解する反則技。
つまり、相手に触れさえすれば………
「なら、金縛りはどうか?」
「ッ!」
しかし、寸前でキロロの動きが停止した!
「か、体が………」
「所詮は魔法だ。発動さえさせなければ、恐れるものではない」
「がん、りき………」
「覚えておけ。心眼力の力を……」
まずい! ノッペラが豪腕振りかぶってキロロを! 透明になれなければ、キロロはただの細身のガキだ! 死ぬぞ!
「キロロ姫ッ!」
「……えっ……」
だが、寸前でラガイアが身を挺してキロロの前に入り、ノッペラの拳をそのまま受けた。
「ぐっ、がはっ!」
「脆い骨だ。いとも簡単に粉砕できたぞ。この、出来損ないが!」
そのまま拳を振り切り、ラガイアはキロロごと殴り飛ばされる! くそ、あの野郎!
「貴様アッ!」
「ぶち殺す!」
俺も屋根まで飛んで、そのまま真っ直ぐ小細工無しに走った。まあ、小細工やるほどの体力残ってなかったんだが……
「人間と魔族の夫婦か……見せてもらったぞ、二人の祝言を。全く………身も毛もよだつ!」
ッ! か、体が、う、
「動、か、ねえ」
「な、ぐっ、こ、これは………ッ!」
金縛り! だが、こんなアッサリと?
「七大魔王が半壊し、ジーゴク魔王国とヤヴァイ魔王国も王政崩壊寸前の今……次に魔族を率いるのは誰になるか……誰からも明らかだ」
「テメエ……ッ!」
「魔王ネフェルティや魔王ラクシャサなら、この私でもどうにかなりそうだ。魔族大陸全土を統一する王……鬼でもヴァンパイアでもなく、我らサイクロプスが統べる。その好機を逃すわけにいかん」
あまりにもありきたりすぎて王道的な小物のセリフ。しかしこれまでの魔王やら四獅天亜人やらが変態すぎて、逆に新鮮過ぎる。
「けっ、人の弟を……クズ呼ばわりするわりには、テメエも小物じゃねえか……漁夫の利狙いやがって」
「そう言うな。魔王という地位に着いたものの責務だ」
くそ、動かねえな! こいつは、正直、キシンやヴェンバイよりも遥かに弱い。
チーちゃんや鮫島にだって勝てねえだろう。
多分、魔王の中では下から数えたほうが早いレベル。
だからこそ、歯がゆい! 本調子ならぶっ倒せる! 本調子じゃない理由を聞かれると、やはり俺がマヌケなのは変わりねえが………
「リモコンのヴェルト。そしてウラ姫。大人しくするだっく」
「ッ、ブラックダック!」
「ここまで余裕の快進撃でバカなことをした報いだっく」
金縛りで身動き取れない俺たちに近づいてきたブラックダック。くそ、言い訳もできねえ。
「ヴェルトッ! ウラッ! 二人に何をしますのっ!」
「おっと、金髪娘よ何処に行く?」
「ッ! おどきなさい、地底族!」
「はは~、恐い恐い。しかし、そうもいかないな。君だろう? 魔族大陸に襲撃した地底族を倒しまくったのは」
俺たちに向けて飛ぼうとしたフォルナの行く手を阻むのは、地底族最強と呼ばれた存在。
その飄々とした態度が余計にフォルナの神経を逆撫でする。
「ならば、押し通るまでですわ! 雷を纏いし特攻を、止められるものなら止めてみなさい!」
「ほうほう………」
「雷激走ッ!」
雷の速度の猛ダッシュ。そんなの止められるはずはない。本来であれば。
しかし……
「キレがない。動きもぎこちない。闘志のわりに、体は随分と疲れているじゃないか」
「ッ!」
本調子ではない。その理由は恥ずかしくて死んでもいえないし、いい訳にもならねえ。
だが、それでもそんな状態で簡単に越えられる相手じゃねえ。
「螺旋網打尽!」
まるで、フォルナを待ち構えてたかのように、メイルのポニーテイルが四方に分かれ、巨大な網のように広がってフォルナを包み込んだ。
「フォルナッ! くっ……いくわよ、土海くん!」
「ほんと、ついてないんで。てか、綾瀬と初めて協力し合って何かをするのに、全然嬉しくない」
アルーシャが吹雪の魔法を放ち、メイルの動きを封じることを試みる。
相手が凍りついたなら、ニートのドリルで粉々に打ち砕く。
そのイメージが二人の中にはあっただろう。
だが………
「体内螺旋駆オーバーロードッ!」
メイルの体から熱い蒸気の様なものが発生。
次の瞬間、一瞬の瞬発、キレ、機動力が変化した。
超高速の風が駆け抜けたかのように、ニートとアルーシャの間をすり抜けて背後に回り、二人が振り返った瞬間、メイルが両腕を掲げ、するとその両腕が巨大なドリルへと変化。
「早いッ!」
「でかいっ!」
ちょっと待て、どういうことだ? 地底族のドリルは、嘴と肉体のどこかの一部。女は髪。そういう生態じゃなかったのか?
「ニート。君が不浄のハーフなら、私は原因不明のミュータント。私はね、自分の肉体をどこだろうと自由にドリルへと変えることが出来る」
「ちょ、ちょっと、待っ――――――」
「自分の肉体をドリルの高速回転で、ギアを上げた私の速度は、なんか色々とヤバイのだよっ!」
叩き潰されるッ! まずい!
「わ……私の友達と彼氏に何するんですかーッ!」
「おおっ……ふふ」
「いっ!」
質量の差。力の差。妖精みたいな小さいのがまともに戦おうとしても無謀なのは目に見えている。
なのに、フィアリは飛んだ。勇ましく特攻し、そして、一瞬で空振りした。
だめだ、あんなの本調子じゃねえ状態で戦う相手じゃねえ。
まるで全力を出していない。完全に遊んでいる。