異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第419話 カオスの時間……もうそんなもん、知ったことかよ!

「全員疲れが見えるな。いかんぞ~、若者。恋愛結構。恋愛こそが人生の意味。しかし、それを成すための力も必要なのだよ」

 

 まるで、お節介な姉貴分が弟妹たちをからかうかのような態度。

 それでいて、いつでもお前たちは倒せる。自分が負けるわけが無いというどこか揺ぎ無い自信。

 地底族最強のメイル元帥………

 

「クソミソがアアアアアアアアアアアアアアア!」

「ッッッッッッ!」

 

 巨大な爆発音。両拳でガードしながらも、チーちゃんの強烈な拳に押され、ピイトが吹っ飛んでる!

 

「人間風情が、この俺様と肉弾戦だ~? チョーシこいてんじゃねえぞ、ゴラアッ!」

「ぐっ、ぬっ、ぐぐ、ぐっ!」

「おら、どうした! こんなんで、もう声も出ねえか? テメエのクソミソ断末魔でも聞かせてみせろォ!」

 

 小細工一切無し。並みの人間なら一撃食らうだけでミンチだぞ! 

 右と左を交互に休む間もなく繰り出す爆発拳! これなら、ピイトも………

 

「なるほど……荒ぶる魔人の爆発……堪能した。外での戦争。ユーバメンシュとの戦い。既に消耗した身でこれほどの力。見事だ」

「あ゛?」

「だが……荒ぶるがゆえに……荒い!」

 

 青い血飛沫が飛び散………

 

「ッガ………テ、テメエ………」

 

 爆発が鳴り止む。爆煙の中から出てきたのは、血まみれの両腕をダランとさせてチーちゃん……

 

「チーちゃんッ!」

「バカな、何があったんだ、チロタン!」

 

 俺とウラは、思わず声を上げた。

 爆炎の中、何か魔法が発動された気配等何も無かった。

 なら、なぜ、攻撃を繰り返していたチーちゃんが怪我してんだ?

 すると………

 

「さすがは魔王。上質な肉だ………」

 

 チーちゃんの目の前で、着ぐるみの一部が裂かれ、露出した肌はケロイド状に黒ずんで、火傷と怪我で明らかに重症に見えるのに、何事も無かったかのように立ち尽くすピイトが両手を前にやり、その閉じた拳を開くと、べちゃりと青い液体に染まった何かの塊が出てきた。

 

「テメエ……まさか、あの一瞬で?」

「そうだ。お前の三角筋を毟り取らせてもらった。これでお前はもう、拳は上げられまい」

「ッ!」

 

 チーちゃんの肉体を素手で?

 

「バカな、ただの人間がチロタンの強靭な肉体を? そんなはずあるか! だが……魔力で強化した気配は……」

 

 確かにウラの言うとおり、普通ならありえねえ。生身の人間の力なんか限界がある。

 だからこそ、魔道兵装なんかで肉体強化をして、差を埋める。

 でも、ピイトは、イーサムにも正面から力負けせずに、肉体のみでやりあった。

 やつなら、やる。やつならありえる。

 

「ざ……ざけんな、クソミソがッ! テメエだって死にかけてんだろうが!」

「ああ。感謝しよう。ここまで肉体を損傷させてくれたおかげで………俺は更に強くなる」

「ッ! な………」

 

 激しく損傷していたはずのピイトの肉体。だが、次の瞬間、ピイトの体が徐々に修復されていくのが分かる。

 そうだ、あれもあいつの能力……

 

「破壊された筋肉は、修復と同時にその反動でより強力になる。超回復………」

「ふざっけ――――」

「握魔力拳ッ!」

 

 チーちゃんの爆発に比べ、まるで鈍器で果物でも潰したかのような、音。中の実が潰されて、液体が飛び散るようなもの。

 そんなゾッとするような音が、今正に目の前で響いた。

 

「チーちゃんッ!」

 

 チーちゃんが拳骨のように殴られ、地面に勢いよく叩きつけられた。

 ピクリともしねえ。身動き一つしねえ。ただ、頭が地面に陥没するほど埋まり、中から夥しい大量の血が地面を染めていった。

 

「ば、ばかな……こいつら、私たちが消耗していることとは別に……強いッ!」

「分かっただっく、ウラ姫。今のお前たちでは、この陣形は絶対に崩せないだっく」

 

 あっという間に崩壊させられた俺たちの陣形。

 なんてことだよ。まるで負ける気が起きなかったのに、あまりにもあっけなく、一瞬で形勢を変えられちまった。

 

「勝負ありだわね。アルテア姫……ユズリハ姫……仲間の命が惜しければ、大人しくするだわね」

「みんなっ! くそ」

「ガウウウウウウっ!」

 

 アルテアとユズリハも反抗的な目をするものの、分かってるんだ。

 さすがにこの状況、俺たちのコンディション、そして敵戦力を。

 

「不意打ち……たったこれだけのことが世界を変えただっく。この世は強いものが勝つわけではないだっく」

「悪く思うな。俺も、チロタンとイーサムとまともに戦うことにも興味あるが、こちらにも生活があるのでな」

「これも仕事。大人の事情。悲しいな~、いつまでも子供じゃいられない自分が、あ~、悲しい」

「これでサイクロプスが、魔族の頂点か。達成感もないものだな………」

「イーサムとエロスヴィッチがバカじゃなければ、私たちが滅んでいただわね」

 

 これが現実だといわんばかりに、俺とウラを取り囲む、ブラックダック、ピイト、メイル、ノッペラ、そしてデイヂ。

 

「まあ、カラクリモンスターたちとの度重なる戦闘による疲労。卑怯な俺たちの不意打ち。チロタンも魔族大陸での傷がまだ完全に癒えていなかったのだろう? お前たちも動きが鈍かった。だから、悲観することは無い。この結果はお前たちの強さを穢すものではない。ただ、卑怯で運があったのが、今日は我々のほうだったというだけだ」

 

 ピイトの清々しいまでのフォローは、返ってより俺たちの敗北を色濃くさせる。

 

「ぐっ、ヴェ、ヴェルト君………」

「ヴェルトから離れなさいッ!」

 

 既に動けぬ状態で倒れているアルーシャやフォルナたち。

 まさか、こんな結果になるとは思わなかった。

 

 

「さあ、ヴェルト・ジーハ、そしてニート・ドロップは来るだっく」

 

 

 抗うことはもうできねえ。反抗ぐらいはできても、この状況をひっくり返す力は今の俺にはねえ。

 まだ、体力というか、色々と回復してねえしな。

 でも、ここで俺が完全に敵の手に落ちれば、俺たちは負ける?

 ニートも敵の手に落ち、紋章眼を全て揃えられる?

 ああ……くそ………

 

 

「できるかよ、クソやろう!」

 

「……別に、お前は五体無事である必要はないだっく。それこそ、多少痛めつけても………」

 

 

 分かってたのに、ほんとアホらしい。

 これが、俺たちの敗北に………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すると、その時だった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アストラル・ボルテックス!」

 

 

 

―――――――――――――――ッ!

 

 

「ッ!」

 

 

 突如目の前を通り過ぎる、巨大な渦。

 その瞬間、ブラックダックたちは一瞬で四散し、それを回避。

 

 

「な……どういうことだっく?」

 

 

 ブラックダックやピイトたちの反応が変わる。

 荒げるように言ったブラックダックの口ぶりから、これは想定外だったんだろう。

 そして………

 

 

「何者だっく? 何をするだっく!」

 

 

 これは俺たちにとっても想定外。嬉しい誤算。

 

 

「何をする? テメエこそ何してやがる、クソアヒル」

 

 

 それは、とても粗野で乱暴で威圧的な口調で、

 

 

「このクソゴッチャリした世界の果てで、テメエは………」

 

 

 だけど、どこまでも頼もしい………

 

 

「俺の大事な愚弟と愚妹に何してやがる」

 

 

 圧倒的な存在感とオーラを身に纏わせた。

 味方ならこれ以上頼もしい奴はいない、自称未来の俺の義兄。

 いや、もう『自称』なんかじゃねえか。

 

「ッ! き………貴様はっ!」

「ほう!」

「おやおや、何者かね?」

「奴は確か……」

「これは予想外だわね」

 

 あいつが現れた! そのことが、ブラックダックたちの空気を一瞬で変えた。

 そして……

 

 

「その通りでござる、ブラックダック」

 

「ッ!」

 

 

 次の瞬間、ブラックダックが勢いよく薙ぎ払われた。

 

 

「貴様は……度重なる拙者らへの侵略だけでなく……我が殿に何をしているでござるッ!」

 

 

 そこに居たのは、剣気を身に纏い、野生の怒りを全身から放ちながらも、その洗練された身に纏う雰囲気、そして携えた二本の木刀が何よりも自然に、まるで肉体の一部にでもなっているかのような、侍。

 

「侵入者だと?」

「それはありえないだわね! 地下から進入したヴェルト・ジーハなどはともかく、地上は四方をカラクリモンスターたちが厳重に固めているだわね! 現に、地上の戦では、まだ敵に抜かれていないだわね!」

 

 ありえない。こいつらはどこから侵入した? そんなデイヂたちの疑問は、空から答えられた。

 

 

「雲の上~~~からなら、守りは無かったからね」

 

「そうっすよ! オイラが飛べば、ひとっとびっすよ! 天空世界まで行ったオイラっすよ? こんなの朝飯前っす!」

 

 

 はは……あいつら……やべ、なんか……涙が出そう……

 

「奴は、確かハンターの……」

「待つだわね! なぜ、カラクリモンスターが居るだわね! しかも、喋ってるだわね」

 

 今度は、向こうが驚く番だった。ラブ・アンド・ピースが動揺している。

 だが、それは俺も同じ。

 俺たちも同じ。

 ただ、この動揺も驚きも、全部嬉しい誤算。

 

 

「へへ~ん、居てもたってもいられるはずないでしょ?」

 

「そうっすよ! コスモスちゃん攫われたってルシフェル兄さんに聞いて我慢できなくて、ご主人様に黙って抜け出して、そして皆を連れて来たんすから! ご主人様に怒られても、これだけはもう我慢できなかったっす!」

 

 

 ご主人様に怒られても? 何言ってやがる。お前の兄貴分は、心の底からお前に感動してんだよ!

 

 

「次から次へと……何者なんだ?」

 

 

 この中で、唯一地上の情報に疎いメイルが、代表して問うた。お前たちは何者かと。

 すると……

 

 

「俺は……愚弟を傷つけた……この世で最も愚かな……愚兄だ」

 

「拙者は、殿の右腕を名乗りながらもその役目を果たせなかった、愚かなナマクラ刀でござる」

 

「私は、肝心な時に何も役に立たない、食い意地だけのお姉ちゃん」

 

「どんなことあろうと、オイラは兄さんの子分っすーーーーーー!」

 

 

 自分で自分を許せない。そんな感情を滲ませながら、自分が何者かを語る四人。

 だが、それでも俺は今、歓喜に打ち震えていた。

 なんかもう、この僅かな間で色々あった。

 エロスヴィッチとキロロの登場。

 嫁全員大集合。

 ヤバそうな敵が現れた。

 嫁全員と何故か大合戦してしまった。

 メチャクチャヤバイ敵が現れた。

 でも、もうそうんなもんどうでもいいや。

 

 

 

 カオス? もうそんなもん、知ったことかよ!

 

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