異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと 作:アニッキーブラッザー
敵も味方も、そして俺自身も想定外な大誤算。
まあ、これまで色々な想定外はたくさん体験してきたが、これほど嬉しい想定外は滅多にねえ。
嬉しさと、興奮で高鳴る胸が熱く滾ってきた。
「兄様……良かった……来てくださったのですね?」
「いや、誰なんであの人ら?」
「何だか……味方なんでしょうけど……朝倉くんは、どれだけ交友関係あるんですか?」
知っている者、知らない者、本来なら俺たちの関係性を説明したいところなんだろうが、今はまだ勘弁してくれ。
みんなの登場で、俺達から敵たちが間合いの外まで後退したことにより、俺たちも金縛りから解けた。
その瞬間、俺は迷いなく立ち上がり、そして皆のもとへ……
「ファルガ………」
「……愚弟……」
俺が脱獄して直後、温泉街で再会したこいつは、既に俺のことを覚えていなかった。
あの時ほど、俺が切なかったことはない。
こいつに……ファルガに迷いなく攻撃を仕掛けられた瞬間ほど。
「ファルガ……どうして……ここに?」
理由なんてわかってるのに、ただ俺自身も頭がグルグル回って、ちゃんとした言葉を言えずに、ありきたりなことを聞いてしまった。
するとファルガは、真っ直ぐ力強い瞳で俺を見て、迷うことなく答えてくれた。
「決まっている。俺たちは……お前と共に戦いに来た。愚弟」
ああ、そうだよな。俺たちは……
「ファルガ……マッキーが裏切って……コスモスが攫われて………スゲエドリームチーム組んで乗り込んだのに、大ピンチになったけど……でも、俺たちはまだ……」
俺の唇は震えていた。嬉しいはずなのに、ちゃんとしなきゃいけないのに、まだ戦いの最中だというのに俺は今、完全に無防備だった。
だが、そんな俺にファルガは腕を伸ばし、俺を引き寄せ、俺の顔をファルガの肩に埋めるように抱きしめてきた。
そんなこと、これまでされたこともなかった。本当は兄馬鹿のくせに、態度や口調だけは不器用なのがコイツだったはずなのに。
だか、俺抱きしめながら、ファルガは耳元で言った。
「愚弟……よく頑張った……」
「ッ!」
「そして……すまなかった……」
その瞬間、俺の底から全身の水分が一瞬で俺の瞳に集まったような感覚に襲われた。
ヤバイ……な、涙……ッ!
「ば、ばか、ばかやろうだな、ったく、テメエは、このくそ!」
慌ててファルガから離れた俺は勢いよく目を拭った。くそ、情けねえ、とまれとまれ!
だが、どれだけ擦っても、俺の目は乾いてはくれなかった。
「あ~~~~もう! とにかくだ、ほんと大変だったんだぞ、バカ兄貴が! てめえ、落ち着いたら一発ぶん殴らせろよな!」
畜生、反則だろ。そんな風に思いながら、俺は意地になってそんな言葉をいうが、ファルガはまた……
「一発だと? ふざけるな。俺が……俺たちがお前に何千発殴られたいと思ってやがる……」
ほんと、反則だった……
「弟くん」
「うわあああああんん、にいいいいいいさああああああああん!」
そんな俺に飛び込んでくるのは、クレラン、そしてドラ。
「うおい、うっとおしい! ええい、分かった分かった!」
「弟くん……ごめんね、ほんとうに……ごめんね」
「にいさん、にいさん、にいさん、オイラオイラ、オイラァ~~~~~~、うわ~~~~ん、ずっと会いたかったっすよ~!」
俺に何度も何度も頬ずりしながら、涙を擦りつけ、しかし決して離れずに謝ることをやめない、クレランとドラ。
まったく、二人とも懐かしいな……
「いいよ、もう分かったからさ。クレランも仕方なかったし……まあ、ドラの登場には正直たまげたけどな」
だが、それでも来てくれた。
ここしかないというタイミングで、来てくれた。
もう、俺にはそれだけでいい。
だというのに………
「んで、そんな所で、ずっと片膝ついて頭を下げて……なにやってんだ? ムサシ」
「殿……」
ファルガが、クレランがドラが、再会の抱擁をしてくれたというのに、一人だけ輪に入らず、ただ片膝ついて俺に深々と頭を下げたまま動かないムサシ。
その表情、その雰囲気は、随分と深刻なもんだった。
するとムサシは……
「殿、まずはともかく……ご無事でなによりでござる……」
顔を上げるムサシ。その表情は固く、そして真剣で、鉄仮面を被ってるようであった。
そして、ムサシは語る。
「殿……ここに居る拙者は、既に死人にございまする」
「……はっ?」
「殿の懐刀、右腕になると志し、あなた様にお仕えしておきながらこの有様。たかが魔道の力程度で殿を忘れるのみならず、殿が故郷に立ち寄られた際に拙者は不審者として身構え……この愚者、本来であれば今すぐ腹を切って、死をもって償うところでござる」
ムサシは言う。もう、自分は既に死んでいるのだと。生きる価値などない存在なのだと主張する。
「しかしっ! しかし、今は……殿の宝であるお嬢様が敵の手の中とのこと! なればこそ、拙者を如何様にもお使いください! 盾でも囮でも、この世の全てを敵に回してでも戦ってみせるでござる! そして、腹を切る前に、僅かながらの償いだけでもさせていただきたく! どうかっ!」
そして、再び深々と頭を下げるムサシ。その言葉、振る舞い、そして瞳には既に覚悟があった。
だからこそ、わかる。
多分、俺が今すぐこの場で「死ね」と言ったら、ムサシは「なんで?」と聞かずに、躊躇いなく死ぬだろう。
それほどまでに、自分を追い詰め、そしてこれがムサシという奴なんだと、実感した。
だからこそ、俺は……
「そうだな、ムサシ。テメェには罰が必要だな」
「はいっ! なんなりと……」
ムサシは震えてすらいない。もはや、何をされようとも、自分は揺るがず、どんな罰をも受け入れようとしている。
だからこそ、俺は思った。
これじゃ、つまらん!
この瞬間、俺の目は、キランと光ったと思う。
「ムサシ、一歩も動くな……」
「はい。この場で首を切り落とすことを望まれるようでしたら、どうぞ、御心のままに……」
俺はムサシに近づき、そして手を伸ばした。
―――ナデナデナデナデ
「……はっ?」
―――ナデナデナデナデ
「……とっ、殿?」
―――ナデナデナデナデ
「お、お戯れが過ぎます……殿……」
少しビックリしたのか、肩を震わせるが、すぐに咳払いして元の真剣な顔と態度に戻るムサシ。
さあ、どれだけ保つかな?
―――ナデナデナデナデ
「……とっ、殿……」
―――ナデナデナデナデ
「と、とにょ……」
その瞬間、俺はニタリと笑みを浮かべた。
微動だにせずに真剣な顔で片膝ついているはずのムサシ。しかし、その表情が、今では真っ赤になっている。
尻尾と耳が、異常なほど激しくピコピコパタパタ動いている。
―――ナデナデナデナデ
「と、とにょ、はふう、はにゃ、お、おたわむれがすぎますにゃ……で、ござる」
―――ナデナデナデナデ
「と、とのォ……にゃ、にゃにをされますでごじゃる…………」
気づけばその表情、またたびでも嗅いで酔っ払ってる猫みたいに、ふにゃ~んとした顔になったムサシ。
「ムサシッ!」
「は、はうっ! は、はいいいっ!」
それを見計らって、俺は大きな声でムサシの名前を呼び、するとムサシが急にビクッとして背筋を伸ばした。
ったく、メンドクセーな、ムサシ。
お前はさ、シリアスキャラは似合わねーんだから、やっぱお前は…………
「お前の力がこれからも必要だ」
「ッ!」
「二年間サボってたぶん、しっかりと取り返せよなッ!」
すると、ムサシはもう、完全に顔面崩壊というか、一瞬でブワっと両目から涙が飛び出し、そして……
「ふにゃああああああああああああああああああああああああああ!」
「うおっと」
「とのおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! とにょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! とのうおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ついに陥落して、俺にコアラのように抱きついて、ワンワン泣いた。猫科なのに。
「ううううう、うわああああああああああんん、とのおおおお、とのおおおおお、とのおおおお、うわああああああああああん!」
「ああ。よしよし……」
そうだよ、お前はこれぐらいがお前なんだよ。
「むっ、な、なんだ、あのメス猫は! 泥棒だぞ! 婿にナデナデしてもらってる!」
「ふふ、いいのですわ、ユズリハ姫。ここは大目に見て差し上げましょう。アルーシャもそう思いません?」
「ええそうね。それにしても、ほんと、ああいう特別枠っていうのも、羨ましいわね」
シリアスなんて似合わねえ。そういうのぶっ壊してこそお前なのに……あれっ? なんでだろ。笑いを狙ってたのに、何だか俺までもらい泣きというか、ちょっと潤んじまった。
それもこれも、こいつらがあまりにもグッドタイミングすぎるから。