異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第424話 命乞い

 体内に肉食のモンスターを侵入させ、外部からでなく内部から攻撃する。

 確かに、いくらピイトが筋肉モリモリでも、内臓まで硬質なわけがねえ。

 そして、肉体を治癒できるピイトは楽になることもできねえ。ジワジワと腹の中という水槽に凶暴な魚を飼い続けるしかねえ。

 これで俺たちの勝ち。そう思いたかったが、そう甘いもんじゃなかった。

 

「ぐはっ! ガッ、く……やってくれる……ぐっ」

「ダメだよ~、食べすぎは体壊しちゃうんだから。全部食べないと、お姉ちゃん怒っちゃうゾ♪」

 

 想像するだけでもゾッとするような苦痛の中に居るはずのピイトだが、腹を抱え、地べたを這い蹲りながらも顔を上げ、睨みつけるように笑ってきた。

 強がりでもまだ笑えるのか? いや、その顔つきはそれだけじゃないように見えた。

 

「ピイト専務~! うーむ、これはまずい。大人としてまずは落ち着いた対応というものをすべきであるのだが、ここはいかにすべきか? もう、いっそのこと、私の螺旋で腹に穴でも開けたほうが?」

「地底族の女。貴様が落ち着け」

「おのれ、モンスターマスター・クレランッ! やってくれるだわね!」

「さすがは、嬢ちゃんの旦那の仲間ってところか」

「……まずいだっく……」

 

 さすがの敵の大幹部様たちも引き気味で、どう手を施せばいいのか分からない様子だ。

 だが、一人だけ少し様子が違うものが居た。

 

「体内を傷つける……まさか、封印にまで影響ないだっく?」

 

 ブラックダックだ。

 まるで何があってもすぐにその場から飛びのけるように、半歩体を下げた態勢でジッとピイトを見ている。

 封印? どういうことだ? すると、その時、俺たちはようやく気づいた。

 ピイトの山猫の着ぐるみが、とっくに無くなっていた事を。

 

「それが、テメエの素顔……本当の姿か」

 

 黒い布製の長ズボンのみで、上半身裸。

 剥き出しになった筋肉は、予想以上だった。

 筋肉隆々なんて言葉は生易しい。

 ボディービルダーのように膨れた筋肉、余計な脂肪など一切無い。

 だが、その筋肉は、筋トレしたり、戦いの中で自然に作られたというには、明らかに不自然すぎる。

 

「プロテインの飲みすぎというより、ステロイドでもやってんのかってぐらいだな」

 

 この世界ではある意味珍しい。

 戦いをするには、あまりにも不必要に膨らんだ筋肉だ。

 

「……人間が稼動したり戦うために扱う筋肉は限られる。剣を扱うものは剣を扱うものの筋肉。素手で戦うものは、全身の必要な箇所をバランスよく。だが、俺は……自分の意志とは関係なく、壊れた箇所をより強固に修復させてしまう。ゆえに、本来必要の無い筋肉すら膨れ上がった結果、このように異常な体になってしまった」

 

 人のマッチョな体を見て スゲーと思ったり、気持ち悪いと思ったり、反応は様々だ。

 だが、このときばかりは、人間も亜人も魔族も関係なく、俺たちは同じことを思った。

 ……バケモノだと。

 

「ごほっ、ぐ、お、……おぞましいだろう?」

 

 そんな俺たちの気持ちを見透かしたかのように、素顔のピイトは切なそうに笑った。

 ピイトの素顔。なんか、昭和の漫画を見ているかのような男臭漂う濃い顔。

 薄い緑の短髪に、ウッスラと生えている顎鬚。なんか、どっかの世界の覇王で「うぬら」とか言いそうだよ。

 まあ、そんな奴も今は死にかけなんだがな。

 

「それで、テメエはどうするんだ? このまま戦うか?」

「死ぬのは困るが、お前たちがラブ・アンド・ピースを滅ぼすのであれば、それはそれで困るが……」

 

 少し意外な言葉だった。

 

「てっきり、ぶち切れて暴れまわると思ってたんだが、こんだけやってクールなのか?」

 

 イーサムがピイトは本当はもっと凶暴であると言っていた。力を封印していると。

 俺は正直、次の展開として、ピイトが力を解放し、それこそチーちゃんみたいにブチ切れて暴れまわると思っていた。

 だが、実際は違った。

 これだけされても、自分を見失わず、クールなピイト。逆に、そのほうが恐ろしいと思った。

 

「俺はもうチンピラではないが、………くっ、し、仕事で死ぬのも困る」

 

 こいつは、これまで出会い、戦ってきた奴らと少しタイプが違う。

 正義に狂った奴。暴力に狂った奴。国や仲間を守るため。相手を滅ぼすため。支配するため。単純なバトルマニア。色々とあった。

 だが、こいつはそのどれとも当てはまらない気がする。

 本来の自分を押し殺し、正義や己の信念とは、どこか違うもののために戦っているように見える。

 マッキーやマニーに忠誠心があるとも思えない。

 ラブ・アンド・ピースという組織に愛社精神があるようにも見えない。

 どちらかというと……

 

「なんか、家族のために戦うサラリーマン……に見えるな」

 

 前世で俺は会社勤めしたことねえ。だが、働く親父ってのはなんとなくだが分かる。

 

「……サラリーマン……企業戦士とやらのことか……」

 

 その時、妙な引っ掛かりが俺の中にあった。自嘲気味に笑うピイトの一言。俺が単純に皮肉を込めた呟きに反応してるが、『サラリーマン』ってこの世界で通じる言葉だったのか?

 

「ラブ・アンド・ピースに雇われた後、『ケヴィン』に一度だけ会って、同じことを言われたよ……俺を……面白味のないサラリーマン……小さくまとまったものだとな」

 

 いや、小さくって………

 

「しかし、お前たちは取り返しの付かないことをした……だからっ!」

 

 その瞬間、ピイトの顔面に多くの血管と神経が浮かび上がり、今にも破裂しそうなほどの異常な姿になった。

 

「ぐっ、ヴェル……ジーハ……」

 

 そして、ついに観念したのか、激痛に堪えながら俺の名を呼ぶピイト。すると…………

 

 

「取引をしないか? ……負けを認めてやる……だから、命を見逃して欲しい……」

 

 

 それは、聞き間違いかと疑いたくなるような言葉。

 

「ハッ?」

「このクソ筋肉、なにを言ってやがる?」

「えっと、あれ?」

「どういうことでござる?」

 

 俺だけじゃねえ。皆も同じように耳を疑った。

 ピイトは今、なにを言った? いや、自分の命の危機に、敵に命乞いすることは全くないとは言えない。

 しかし、それをコイツが言うか? イーサムやチーちゃんと堂々と渡り合った怪物が? 命惜しさに、俺に?

 普通、この手の最強クラスは、敵に命乞いするぐらいなら、死を選ぶようなタイプばかりだと思っていた。

 

「なっ……なにを勝手なこと言ってんだよ、コラァ! テメェ、さんざん好き放題やらかし、挙げ句の果てにコスモス攫っておいて、なにをふざけたことヌかしてんだよ!」

 

 俺は人を殺したことがねえ。だから、殺しにこだわる気もねえ。

 だけど、これはねえだろ?

 

「こんだけのことをやらかして、都合が悪くなったら助けてくれは、あんまりだろうが!」

「俺が……俺がラブ・アンド・ピースに入ったのは……給料が良かっただけだ……札付きのワルだった俺では……人類大連合軍にも入れず……生活のためには……」

 

 気づけば俺は苦しみ喘ぐピイトの頭を勢いよく踏みつけていた。

 

「ッ、て、し……知るかーッ、そんなもん! 何で、テメェなんかがそんなことをやるんだよ! ふざけんじゃねえ!」

 

 頭部を地面にめり込ませるほど勢いよく踏みつけてやった。

 普通であれば、こんなもん誰もが引くような仕打ちかもしれねえ。だが、今だけは周りも俺の行為を咎めなかった。

 それほどまでに、ピイトの発言が驚きで、身勝手だったからだ。

 

「ヴェルト・ジーハ……魚が……心臓に達している……ゴガアッ! 俺の、封印を解除すれば……『クールダウン』するまで手が付けられなくなる……俺を助けたければ……俺の心臓に噛み付いている、魚を取れ……噛み付いて離れず、治癒もできず……ぐうっ、がっ、ふ、封印式が欠けている……」

 

 ハッキリ言う。俺は、このピイトという男に、若干嫉妬していた。

 魔法も使わず。小賢しい手も使わず。イーサムやチーちゃん相手に素手で渡り合ったコイツに。

 そんなコイツが、どうしてこんな情けないことをやる。小物みたいなベタな言い訳をする。

 それが、許せなかった。

 だが………… 

 

「暴れないで居られるのは……僅か五分……しかし、今の俺が全力で無意識に暴れれば……この場にいる全員が……俺も含めて……死ぬぞ?」

「アッ?」

「五分だァァァァ!」

 

 次の瞬間、俺たちは信じられないものを目の当たりにした。

 

「ひいっ!」

「いっ!」

 

 ピイトの全身の皮膚が爆発した。

 

「ちょ、おいおい、何が?」

「殿、危険でござる! 拙者の後ろに?」

「ちょっと、何が、何が?」

 

 何が起こっている? 敵も味方も現状を理解できぬまま、ピイトの肉体に変化が訪れた。

 それは、皮膚を突き破った筋肉が、みるみる内に肥大しているのだ。

 

「で……でかくなってない?」

「おい、クソ女。テメェ、なにをやらかした?」

「ちょっ、わ、私の所為? そんなこと言われても分からないわよ!」

 

 確かに、分からねえ。クレランが生み出したエグい魚が、なにをやらかしたんだ?

 ってか、……それより……

 

「ちょおおお、どうなっているんですか!」

「う、う、うそでしょ?」

「筋肉の膨張が……止まりませんわッ!」

「って、こっちに来るじゃん! どーなってんだよっ!」

 

 そう、何がどうなってんだ? 筋肉が膨張なんてレベルじゃねえ。

 肉がモリモリとその密度を増し、やがては巨大な肉の塊が徐々にピイトを跡形もなく飲み込んで、肉の壁になって徐々に広がってきてやがる。

 

 

「超異常筋肉だっく」

 

 

 その時、全ての事情を知っていると思われるブラックダックが口を開いた。

 

 

「ピイト専務に施された封印式……それは、過剰に膨張し続ける筋肉を抑えるためのものだっく……」

 

 

 ハッ? お……抑える?

 

 

「ゆえに、ピイト専務は超回復の能力も必要最小限に止められ、筋肉の総量もコンパクトにできていただっく。モンスターマスター・クレランの内部攻撃により、封印式が乱れているだっく」

 

 

 コンパクト……あの、ボディビルダー真っ青な筋肉が、小さく抑えられていたものだって?

 

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