異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第425話 マッスルヒストリー

「ぐわはははは。なるほどのう……際限なく膨れ上がる肉。傷つければ、自己修復し、前より更にでかく強固になる……規格外じゃのう」

「ごほっ……恐るべしなのだ」

「おお、生きておったか、ヴィッチちゃん」

「当然なのだ。しかし……あやつ本当に人間なのだ?」

 

 四獅天亜人の二人すら驚愕するピイトの異常体質。突然変異だけで片付けられるものなのか?

 とにかく分かってるのは………

 

「まずいだっく。ああなれば、肉体に対して脳が非常に小さくなり、肉体を制御する意識も弱くなり……手を付けられなくなるだっく」

 

 その瞬間、行動はそれぞれだった。

 急いでその場から飛び退く奴。身動き取れない奴。

 もしくは、俺たちのように立ち向かうか!

 

「ざけんな! だったら、消滅させてやらァ! ふわふわ極大レーザー!」

 

 体力も少しは回復した。体力さえあれば、俺は無尽蔵に魔法を使える。大気中の魔力をかき集めて、俺は肥大化するピイト目掛けて極太の一撃を放ってやった。

 

「ほう……愚弟、テメエいつの間に!」

「とのおおおおおおおおおおおお! い、いつの間に、そこまでご立派になられ……拙者、実に感動しているでござる!」

「兄さん、うらやましいっす! オイラもレーザー使いたいっす! やりたいっす!」

 

 手ごたえア………レ?

 

 

「無駄だっく」

 

 

 俺がレーザーで抉り取れたのは、ピイトの肉体のほんの一部だけ。ピイトそのものを消滅させるには、俺の極太レーザーはあまりにも細すぎた。

 

「しかも、抉り取ったところが……」

「そうだっく。傷ついた筋肉は、再び元に、そしてより強固になるだっく」

 

 これはまた、ある意味で無敵というか、不死身?

 しかも、グーファのようにただ再生するだけじゃねえ。傷ついた箇所をより強固に再生する。

 

「ど、どう、どうやって倒せってんだよ!」

 

 っていうのか、倒せるのか? みるみる内に肉が増殖し、やがて通路の両脇に立てられている建造物をも破壊し倒している。

 

「うぷ、婿~、気持ち悪い」

「だよね~、ユズッちも肉食系だけど、アレはやっぱ無理っしょ?」

 

 つうか、そんなのん気な話じゃねえ。マジでどうする? 

 

「待てよ? これ、さっき無意識に暴れるとか言ってなかったか?」

 

 おいおいおいおい、この巨大な質量の肉が、暴れまわるって……

 

「始末するしかねえな、愚弟」

「あ~、ごめんね~、なんか、お姉ちゃんやらかしちゃった?」

「まあ、誰も予想できなかったしな」

 

 言うとおりに、もう、ヤルしかねえ。

 だが、どうやって殺す? 更に巨大に魔力を溜め込んでレーザーを撃つか?

 

「ちょっと、熱いわ!」

「この肉、体温が徐々に上がってますわ!」

「ちょっ、まずいじゃん! どーすんだよ!」

 

 考えてるヒマはねえか。

 

「ちょっ、肉の触手が来てますよ!」

「やっぱ、地底世界に帰るべきだったし……」

「いやっすーっ! オイラ、もう、気持ち悪くてゴハン食べられないっす!」

 

 新旧の仲間含めて動揺が包み込む中、その時、俺は目の前に迫ってきた肉の壁を、イラつきの意味も込めてぶん殴ってやった。

 すると………

 

―――――ヴェルト・ジーハ……五分だ……

 

 肉に触れた瞬間、脳内にピイトの意識が流れ込んできた。

 この野郎。五分間堪えるから、その間に助けろとか、まだ寝ぼけたこと言ってんのか? だから、ふざけんじゃねえ!

 

「ああ、五分でテメエをぶち殺してやるよッ! 言い訳太郎は、閻魔にでもするんだな!」

 

 俺には関係ねえ。そう突き放す意味で、今度は警棒握り締めて、熱の篭った肉を殴りつけた。

 すると……

 

「ん?」

 

 俺の意識が引っ張られるような気がした。

 

「なんだ?」

 

 徐々に景色が変わり、自分の意識だけが宙に漂うような感覚。これは、ロアと戦っている時に感じた、意識のみの世界?

 いや、今回はそれよりも更に深く感じた。

 

「これは?」 

 

 原理は分からない。俺の大気中の魔力を集める性質が、無意識にこいつの意識の奥底まで触れたのか。それともこいつが心を開放して俺を呼び込んだのかは分からない。

 だが、それでも吸い込まれた意識の世界の中で、俺は辺りを見渡した。

 

「どこだよ、ここは」

 

 これは、幻? 幻術? いや、それにしては、やけにリアルな描写だ。

 薄汚いボロキレの人間が通りを歩けば、汚らしいチンピラたちが肉と酒を喰らい、通りの街角では女たちが扇情的な表情で男を誘っている。

 この暗黒街にも似たような箇所はシロムを少し思い出させた。

 

『た、の、たのむよ、俺たちが悪かったよ! ゆる、ゆるじてください!』

 

 見かけどおりの荒れた街中では、人通りの往来にも関わらず二十人以上のガラの悪い男たちが、たった一人の男の手により地べたを這いずり回っていた。

 あれは………

 

『本番厳禁のサービス……それを破るものには制裁を。見せしめにはいいものだ』

 

 強靭な筋肉を搭載し、大勢のチンピラたちに恐怖の目で見られる男。ピイトだ。今より若干若いぞ?

 

『拭い切れないほど圧倒的な暴力の見せしめがあって、初めて人は心を入れ替える。お前たちにはその生贄になってもらおうか』

 

 浴びた返り血の下で凶悪な笑みを浮かべるピイトは、まさに暴力の化身のようにゾッとする形相。今、俺たちが戦っていた男がどれだけ紳士的なのかと思わせるほどの。

 すると、そんな時だった。

 

『いいね~、流石は俺っちたちのガーディアン、バスティスタ!』

 

 誰かが現れた。

 

 

『……オーナー……』

 

『でも、やりすぎでしょ。まあ、シスターたちも寸止めで助かったんだし、ここらで勘弁してあげなって。たとえルールと分かっていても、エロは止められねえ。俺っちにはよく分かってることだ』

 

 

 その時、ピイトを止めるように現れたオーナーと呼ばれた男。これまた怪しさ全開の男。

 ボーズ頭の若い男。年齢は二十代後半? 肌の上に直接毛皮のコートを羽織り、その首からは装飾された十字架のアクセサリーをぶら下げて、その両脇には、教会のシスター……? シスターといえば、清楚な礼服をイメージさせるが、このシスター、なんかノースリーブにミニスカートという改造服というか、なんかエロイコスプレしているかのような………

 

『つうわけで、おじさんたち、次からはオイタしちゃダメダメだぜ? それさえ守ってくれれば、凄腕シスターたちのテクニックで、天にも昇る気分を味合わせてあげるのだよ。そう、これからも、『出張デリバリーシスター・アーメン』をご贔屓してちょーだい♪』

 

 謎の怪しい男の出現で一命を取り留めたチンピラたちは、そのまま走って立ち去っていく。その背中を見ながら、ピイトは呆れたように溜息をついた。

 

『なぜ殺さん。ああいう手合いは皆殺しにし、頭蓋を握り潰してやるぐらいで丁度いい』

『こらこらこら、一応ちゃんとお金払ってくれる客だよ。悪質ならアレだけど、初犯は大目にみてあげないと。それもこれも、シスターたちのテクがやば過ぎるんだよね~~~~ん』

 

 キャッキャッと両手に花ならぬ両手のシスターたちにセクハラまがいに頬を摺り寄せる男。エロシスターたちも愉快そうに笑っているが、ピイトはブスっとしたままだ。

 

『ふん。女の体を売り物にして私腹を肥やす寄生虫が』

『こらこらこら。それを言うなら、その寄生虫に雇われて給料貰ってる君はなんなんだい! 大体、俺っちは私腹なんて肥やしてないでしょ。教会への寄付だけじゃ食べていけないんだから』

『それがお前の言い訳か』

『あのね~、バスティスタ。俺っちは孤児で小さい頃から教会に住んでたから、シスターたちがどうやって俺っちを食べさせてくれたのか知らなかった。大好きだったシスターの一人が感染症で死ぬまでね。でも、それをやらなきゃ俺っちたちは餓死していた。だからこそ、誰よりもエロい俺っちは、体を売るも、もう少し安全なものをと提案して、今の仕事が成り立っているわけだよ』

 

 そんなことを言いながら、オーナーという男は、急にキリっとした表情で言う。

 

『バスティスタ。俺っちは皆を食わせるためにエロを提供しているだけじゃねえ。俺っちはな、同時にエロで世界を変えたいとすら思ってるんだ』

 

 ……何言ってんだ、この男……と、多分ピイトも同じことを思っているだろう。

 

 

『教えてやるよ、バスティスタ。エロってのはな、人と人を繋ぐコミュニケーションなんだよ。人は誰でもエロイ。エロくない人間なんて存在しない。言ってしまえば、エロというものは、たとえ種族が違えど生命には欠かせない文化なんだよ。エロはノーボーダー。みんながエロさを解放できれば戦争だって起こらねえ。世界はエロで変えることが出来る』

 

『貴様、頭は大丈夫か?』

 

 

 だよな! 俺も今、全く同じことを思ったよ。

 

『ほんとだぞ~、エロは友情を育むことだってできるし、半端な正義なんてエロの前には無力。よし、例を教えてやろう』

 

 ピイトの言葉に少しブスっとした表情を見せながら、オーナーと呼ばれた男は語る。

 

『これは俺っちが昔、学校に通っていた頃の話。俺っちは、小遣い欲しさにクラスメートの水着の写しn……いや、この際は肖像画と呼ぼう。それを校内で隠れて売っていた。すると、そんな時だった。俺っちの前に一人の不良が現れた。暴力上等喧嘩歓迎な校内最強最悪の不良だ。俺っちは、てっきり売り上げをよこせと言われるのかと思って怯えていたら、その不良が俺っちの前にドカッと座り、商品の中から一枚の女の絵を選んでこう言った。『これを言い値で買おう』ってな。いや~、俺っちはビビッたよ。まさか、あの不良が、あまり人気の無い女の水着絵を選んで顔を真っ赤にしてよ……その時、俺っちは思った。ああ……人は誰でもエロいんだ。エロの前に、人は誰もが純粋なんだ。それ以来、その不良とも商売を通じて仲良くなってな……エロが繋ぐ友情ってのを実感した……』

 

 なんだ、その馬鹿みたいにどうでもいい話は。

 つうか、俺は一体、何の過去を見せられてるんだ? 

 つうか、その不良、マヌケにもほどがあるぞ?

 

『こんなこともあった。俺っちのクラスで、マジメで秀才で校内一の美人な生徒が、俺っちの噂を聞きつけ現れた。校則違反を許すまじと、教師にも報告すると怒鳴ってな。だが、そんな時、俺っちがたまたま売り物として並べていた男の写真……肖像画なんだが、まあ、女子からの依頼もあって、クラスメートの絵は一通り用意していたわけなんだが、そこにさっき俺っちが言った不良が、文化祭の出し物で狸の着ぐるみに着替えさせられようとしていた絵を見て、その美人生徒は顔を真っ赤にしながら、『きょ、今日は見逃してあげるわ。つ、次はないので、そのつもりで。そ、それ、と、これは没収します。もう、も~、こんな可愛いベストショット、反則よ♪ じゃ、なかった、証拠品として私が責任持って保管するわ!』と百年の恋すら冷めるほどデレデレした顔で立ち去っていった。まさかのクラス内の恋の相関図を一瞬で頭の中に描いた俺っちは思った。エロこそ世界の真理に誰よりも早く近づき、そして半端な正義は無力なのだと』

 

 そして、またしてもどうでもいい話。なんか、少しデジャブ的な感覚に襲われたが、だから何なんだよ?

 てか、こいつ誰かに似ているような……

 

『バスティスタ。お前は最初、ただの用心棒として俺っちたちと出会った。でもよ、戦争で両親を失くした子供たちばかりが居る教会で一緒に暮らしてて、なんか、心変わりがあるんだろ? 皆お前を『マッスルお兄ちゃん』って慕ってる」

『だからどうした?』

『純粋無垢な子達に慕われて、お前は思ったんだろ? こんな汚い仕事で稼いだ金でこの子達を食わせているのか……ってな』

 

 オーナーとやらの男の話は心底どうでも良かったが、今の言葉だけは図星だったのか、ピイトの眉が動いた。

 

『いいか、バスティスタ。エロは人であれば誰もが必要なもの。恥じることなんてねえ。むしろこの世で最も気高い仕事なんだ。だから、お前も誇りを持て』

 

 もう、完全に開き直った顔で笑うオーナーという男。なんだかここまで来ると清々しいぐらいだが、そんな男の笑みにも、ピイトは納得いかないように、ふてくされながらその場を去った。

 

 

「結局なんだったんだ………?」

 

 

 うん、だから何? だから何なんだ? ハッキリ言って、それぐらいしか言いようの無い過去映像だった。

 つうか、うん。さっさとピイトの奴ぶっ殺さねえと………ん?

 

「つっ、今度は何だよ!」

 

 また、世界が高速で流れた。まるで早送りでもしているかのように、日が昇って日が沈んで雲が流れての光景。

 しかし、それも数秒して止まり、気づけばさっきの暗黒街とは全く別の光景が映し出された。

 青い空。どこまでも続く大海原。そして、ここは、世界のどこかにあると思われる小さな島の海岸線。

 ここは……?

 すると……

 

 

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