異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと 作:アニッキーブラッザー
「グラビディパ――――」
「ふわふわ乱キック!」
何度修復されようと、砕き、破壊し、そして息の根を止める。
「ラブッ!」
「おどざんっ!」
容赦をするな。
情けをかけるな。
甘さを見せるな。
もう、決めたことだろう?
自分に何度も言い聞かせながら、俺はただ、マッキーを殴った。蹴った。壊した。たとえ、どれだけ子供が泣き叫ぼうとも。
「つっ、はあ、はあ……ああ、しんど……やっぱガチだと勝てねえか……」
「分かっててこの道を選んだのはテメエだろ?」
「へぶっご!」
何度肉体が修復されようと、精神的な疲れや疲労まで変わるものでもねえ。
「かっ、かは……ぐっ、ごほ……はあ、はあ、はあ……」
徐々に弱りきり、目に光も失ってきたマッキーの姿に俺は唇を噛み締めながら、何度も蹴り倒した。
「ああああああっ! ラブに、なにするのこのクソガ――――」
「ふわふわ空気爆弾」
「ッ!」
マニーが隙を見て俺を奇襲しようとするも、もう俺には通用しない。
魔力を直接ぶつける、レーザーや魔導兵装の打撃は通用しない。
だが、空気爆弾は違う。爆弾そのものは、触れられれば消滅するかもしれないが、触れられない距離で爆発させて巻き起こす爆風まではマニーも無効化できない。
単純な衝撃波だけで、マニーには十分有効的だった。
ふたたび爆風で飛ばされて壁に背中を強打させるマニーは、苦痛に顔を歪めながらも、すぐに起き上がることはできない。
「終わりだよ、テメェら」
もうこれまでだと、改めて現実を突きつけてやった。
すると……
「ヴェルトくん……」
穏やかな声でマッキーが、身動きひとつ取らずに俺に話しかけた。
なんだ? 命乞いか? いや、違う……
「子供だけは……ピースだけは……どうにかできないかな?」
それが、マッキーなりの最低限の望みなんだろう。
もうこの場で、自分とマニーの死を受け入れている。覚悟もできている。そして、責任を取ろうとしている。
「随分とムシのいい話じゃねえか。テメェらはこれまで、同じセリフを言ったやつらをどんだけ殺してきた?」
「……ひはははは、もう覚えてないや。んで? ヴェルトくんは、そんな俺と同じように、殺しちゃうわけ?」
「……ふん、最後の最後まで口の減らねえ野郎だ」
でも、それでも子供だけは……その願いを、拒めるはずもなかった。
「だそれが……テメェの命を懸けた最後の願いだっつーなら……」
「ああ。パナイありがとう……」
返事は出さずとも、ただ頷いて、俺は警棒に手を掛けた。
「さよならだ、マニー。そして……マッキー!」
身動き取れないマニー。身動き取らないマッキー。
これで全てが終わる。
この戦の全てが。俺たちの因縁が。世界の正義の呪いの一つが。
その決着は、俺がつけなくちゃならねえ。
勇者が、魔王が、四獅天亜人が、大義の下でマッキーを始末するぐらいなら、せめて俺の手で終わらせる。
それが、まがりなりにもこいつと共に時間を過ごしてきた、俺の――――――――
「そんなのダメですッ!」
「ッ!」
次の瞬間、俺の振り下ろそうとした警棒が弾かれた。
「……なにっ?」
完全なる予想外。
油断なんてものじゃなく、予想もしてなかった。
全てを自分の中で背負う覚悟で、二人を殺して決着を付けようとした俺の警棒を、一人の男が弾いた。
どうしてコイツが? いや、何故止めた?
「テメェ、何のつもりだよ……ロア!」
俺の目の前には、額から溢れんばかりの血を流しながらも、真っ直ぐな瞳で俺を捉える、真勇者ロア。
どういうことだ? 洗脳は?
「テメェ、まさか、洗脳を自力で……」
こいつ……
「あの椅子から離れた瞬間、僕の脳に掛けられた邪悪魔法の戒めが僅かに緩みました……その僅かな一瞬、その洗脳魔法を解析し……解除しました。多少無理やりだったんで、魔力も使い切って、更に脳に相当な負担がかかって、頭が少し割れてしまいましたけどね」
フォルナが無理やり聖騎士の魔法を破ったのと同じことをこいつもやりやがった。
七大魔王や四獅天亜人すら陥った洗脳魔法を、自力で破りやがった。
だが、待てよ? それなら……
「ロア……じゃあ、俺のことは?」
「ええ。魔族大陸で戦いましたが……本当は二年ぶりなんですよね、ヴェルト・ジーハさん」
そうだ。既に聖騎士の魔法も解けているのだから、こいつは俺のことも思い出したんだ。何もかも……
「ひはははははは、パナ。さすが勇者様だね」
「マッキーラビット……」
「でも、どうしてヴェルトくんを止めたんだい? 正義を語る君たちは、真っ先に俺たちを始末しようとするはず。なら、ヴェルトくんを止める理由はどこにもないはずでしょ?」
マッキーの言うとおりだ。何故止めた? マニーも予想していなかっただけに言葉を失っている。
正義や大義という言葉で人生振り回されてきたこの勇者様からすれば、マッキーやマニーの始末は反対する理由はないはずなのに、なぜ?
「そうです。マッキーラビット……そして、マニー。いえ、マニー姫。あなたたちは許されない。正義の名の下に断罪する……それが人類大連合軍の、今の世界同盟の役目です。でも……ッ!」
すると、次の瞬間、ロアは俺の胸ぐらを強く掴んだ。
「あなたが! ヴェルト・ジーハが! 僕たちと同じことをしてどうするんですか!」
「……はっ?」
「どんなときでも! 正義にも悪にも執着せず、世界を左右させるような局面でも、世界の度肝を抜いて考えられない方法で解決するのが、ヴェルト・ジーハじゃないんですか! そのあなたが、相手を倒して終わりという、ありきたりな方法で決着をつけてどうするんですか!」
俺は怒られているのか? 間違ったことはしていないよな? なのに、なんで怒られているんだ?
「っ、ざけやがって、この坊ちゃんが! 俺がどんな気持ちでこの警棒を振りかぶったと思ってやがる! マッキーの覚悟がどんなもんか、俺がどんだけ痛い思いで理解したと思ってんだよ!」
「それがどうしたんですか! それで、なんで殺すという選択を取ろうとしたんですか! あなたは、マッキーラビットと旧友なのでしょう? それなのに殺したいのですか!」
「んとコラァ! 誰が一度でも殺したいなんて言った! でもな、他に方法がねーだろうが! もう、こいつは、そしてマニーももう戻る気はねえ! そして、もうこいつらは終わりだ。魔王や四獅天亜人共に囲まれて詰だ。どうせ殺されるなら、俺の手でせめて決着を付けようと思って、何が悪い! 同じ立場なら、テメェだって同じ方法を取るんだろうが!」
「ええ、その通りです! 僕は同じ方法をとります。でも、ヴェルト・ジーハはダメなんです!」
…………………………………………………………………?
「……ひ……ひはは……ダメだ、あのヴェルトくんがいつもと逆の立場だ………暴論を突きつけられてる……」
本来超優等生であるはずの、ロアの言葉の意味が最早意味不明過ぎて俺は言葉を失った。
そんな俺の様子に、シリアスを忘れてマッキーが笑いを堪えられずに吹き出してやがる。
いや、本当何なんだよ、この坊ちゃんは……
「ヴェルト・ジーハさん。あなたは、本当は殺したいなんて思っていないと言いましたね。だったら、やらなければいいじゃないですか! 魔族大陸で、僕たち世界同盟の前に立ちはだかった時のあなたは何だったんですか!」
「いや、だからっ!」
「やりたくないことはやらない! それがあなたでしょう? あなたが、そんなケジメとか決着とかのつけ方を、世にありふれた正義を名乗る輩と同じような方法を取るような人なら、人間も亜人も魔族もここまであなたを慕うことはなかったでしょう。僕の憧れた男は……そんなつまらない常識に囚われたりしない人です!」
どうしてだよ……………
「なぜ……今、そんなことを言う」
どうして、この最後の最後で止めやがる。
「なんでいま……じゃあ、どうすりゃいいって言うんだよ! あれだけのことをしでかした、マッキーとマニー。そしてもう、説得も更生も不可能なマニーをどうすりゃいいってんだよ。どーせこいつら、死刑だろうが……裁くのもお前ら、正義の味方様たちだろうが。そんな立場のテメエが、どうして俺を止めやがる! テメェから先にブチ殺すぞッ!」
それでも、それしか方法がねえから、俺は、心を鬼にしてでもと……
自分たちはやるくせに。「正義」のためとか言ってお前らなら殺すだろうが。
お前らなら、親も子も関係なしに「正義」と「大義」で何でも片付けるだろうが。
それなのに、なんで俺の方がハードル高いんだよ。ヴェルト・ジーハならそんなことしない? お前は俺の何なんだよ。
俺の何を知ってるんだよ。俺に憧れてる? ちょっと話した程度のくせに、過大評価を押し付けてんじゃねえ。
なのに、なんで……
「ひっぐ、いじめにゃいでくだしゃい……」
「ッ、……ピース……」
「わだしのおどさんどおがざん、いじめないでくだしゃい……ううう、あ、ひっぐ、うう」
どうしてだよ。どうして、世界にとって正しいことをしようとしている俺が、最後の最後で否定されるんだよ。