異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと 作:アニッキーブラッザー
奴は、両手を腰に回して何かを装備しやがった。
それは、自分の腕と並行になるように持って構える武器。
形は、なんか算数の授業で黒板に貼って使うデカイ長辺三角定規に見えなくもねえが、あの武器の構え方……
「トンファー? ファンタジー世界で、また随分とマニアックなもんを……」
「にへへへへ、亜人の教鞭を警棒代わりに使ってる君に、言われたくないね~」
長辺三角形型トンファーか。
こいつ、お姫様のくせに、ワイルドな武器を使うじゃねえかよ。
そういや、一人で家出してこの世界を回って、ついにはこの世界に喧嘩を売るような行為をしたんだ。
「そんじゃ、いっくよーっ! ほいやーーっ!」
あの、天然劇場が、随分と逞しくなったじゃねえか。
でもな……
「テキトーに戦う? テメエは、俺と喧嘩する気かよ?」
「ッ!」
神乃が豪快に回したトンファーで俺に一撃ふり下ろす。
どう見ても、避けることも弾くことも容易い投げやりな攻撃。
俺は振り下ろされたトンファーを警棒で真横に弾くように――――
「ふわふわ乱警棒!」
気流を纏った警棒でなぎ払ってやった。
「ちょっ、おおお、ちょおおっ!」
気流に飲み込まれて空中を二転三転して飛ばされる神乃。
やがて、背中のロケットが態勢を整えるように火を噴くが、神乃自身はテンパった様子で俺に叫んだ。
「ちょお、なにしてんのさ、朝倉くん! テキトーって言ったでしょ、テキトーって! なに、必殺技使ってんのさー! っていうか、まさか朝倉くん! 本気で私を殺す気DEATHか?」
神乃からすれば予想外だっただろうな。
でもな、こればかりはそういうわけにはいかねーんだよ。
「くはははは、神乃……お前は何を思い違いをしてやがる。俺は、テメェと喧嘩する気も、芝居に付き合う気も、ましてや殺す気もねえ……野生の天然記念物を保護しに来ただけだ」
「はい?」
そうだ。
俺の誓は三つある。
それは、神乃を見つけて「礼を言うこと」、「前世の想いを伝えること」、そして三つ目は?
もし、神乃が、この世界で何かに苦しみ、抱え込んでいるようなら、「今度は俺が力になる」ということだ。
「保護って、朝倉くん! 私は、動物じゃないぞよ! って、つまり……私を助けるってこと? それは、ダメダメダメダメ、朝倉くんにそんなメーワクかけらんないって。だから、ここは、芝居に付き合ってよ」
焦りながら、世界には聞こえないように小声で叫ぶ神乃だが、俺は鼻で笑ってやった。
「メーワクかけらんない? 前世で散々人を振り回したテメエが何を抜かしてやがる」
「いや、それを言われたらこっちも困っちんぐですけども! でも……」
「やるなら、真剣にテメエを叩きのめして、そんでもって今度は俺が全部なんとかしてみせるさ。俺はそのために今ここに居るんだからよ」
だからこそ、こいつが拒否しようと関係ねえ。
俺が力ずくで力になり、そして今、この場で全てを収めてみせる。
「分かるだろ? 神乃。文化財保護法により、天然劇場ならぬ、天然記念物はしっかりと保護しねえと……それが、俺の作る国、俺の世界の法律だ」
「ッ!」
「そして、躾の足りねえ野生動物のジャジャ馬は、ちゃんと躾てやらねえとな」
さっき、マッキーとの会話で俺は一度諦めた。
そう、もうどうしようもないんだと。マッキーとマニーの命を助ける方法はないんだと。
俺と仲間の力を結集させりゃ、今の半壊した世界の戦力にだって負けねえし、それこそ、俺がこの世界を征服しちまえば、どうとでもなるんだと。
ただ、その場は力ずくでどうにかできても、その後は?
それこそ、世界がマッキーやマニーのことを忘れない限り、世界はいつまでもマニーを狙い続ける。
それを理解していたからこそ、マッキーも自分の死を受け入れ、そして神乃はマニーを救うために自分が身代わりになろうとした。
でも、神乃とこうして再会できて、俺はようやく気づいた。
「神乃、俺はまだ覚悟が足りていなかった。マッキーと決別する覚悟とか、戦う覚悟とか、殺す覚悟とか、そんなもんじゃねえ。不良として本気であらゆるものに反発する覚悟がな! 俺は思い出したんだ。テメエが昔俺に言った言葉をな!」
「えっ?」
「ちなみに反発とは、原発反対とはまるで関係ねーのであしからず!」
「あっ…ッ!」
どうやら、神乃も思い出したようだ。
―――なに言ってルノワール! あらゆるものに反発する? してないじゃん、君は! ライちゃんに言われたレッテルそのまま受け入れちゃって、それを覆そうと反発してないじゃん!
あの時と状況なんてまるで違うが、それでもあの時こいつは、「反発」とはこうあるべきと、俺に言った。
「俺はもう、受け入れねえよ。世界がなんと言おうともな」
だからこそ……
「この後の流れ? 世界が納得しない? 知るかそんなもん! どうして不良の俺が、世界を納得させなきゃいけねーんだよ! 俺は政治家でも勇者でもねーんだ! ガタガタ文句ヌカすやつは、ブチのめす! だから、黙って俺にブチのめされて、保護されなッ! 神乃! 今度は俺が、テメエを引きずり回してやるぜ!」
だからこそ、今こそ俺は全てに反発する!
その覚悟は、ようやく出来た。
「ぷくっ、ぷぷ、あはははははははははは! でもいいの~? 世界からなんて言われるか分かんないよ?」
「ああ。俺には興味ねえよ」
半分涙ぐみながらも微笑んだ神乃は頷いてくれた。
俺を信じると言ってくれているように。
そして、その涙を素早くぬぐい、神乃は今度は力を込めて俺に向けて構えた。
「なら、保護できるもんならしてみんしゃい! そう簡単にいくと思っちゃダメダメだよ? なんてったって、私も今じゃ、立派な不良姫なんだからねっ!」
「それがどうした! 俺は麦畑で生まれたこの世で最も凶暴な男だ!」
今度こそ本気で、全力で、全開で、包み隠すことなく俺たちの想いを込めて、俺たちは互いに向っていった。
「させないんだから! 邪魔しないでよ! マニーは、マニーが今、全部を賭けているんだから! 邪魔しないでよ、お姉ちゃんも、ヴェルトくんもッ!」
その俺たちの邪魔なんて、誰にもさせねえ。
俺たちの間に、テレポートで飛び込んできたマニーすら……
「「邪魔ッ!」」
「ッ!」
無視してふっとばした。
ふっとばされたその先は、ゴッドジラアの頭部。
いつの間にか、頭部へと身を乗り出していた、マッキー、ピース、ロア、ニート、フィアリが立っている。
しかし、もうあいつらのことを世界は誰も見ていない。
見ているのは俺たちだけ。
「終わったね……マニーちゃん」
「おかさんっ!」
ふっとばされたマニーをキャッチして抱きかかえるマッキー。
「ラブ……なんで……なんで……なんで! マニーはこれだけやってるのに、誰もマニーを見てくれないの? なんで! なんで……やだよ……どうして……」
その腕の中で、マニーはガタガタと震えて涙を流している。
「君が全てをかけて世界を壊そうとしたことなんて……あの二人にはもう、どーでもいいみたい」
「ッ!」
「パナイ負けだよ。君の、そして俺たちのね」
ああ。そうだ。もう、勝った負けたもどうでもいい。
今はただ……
「はあああああああああっ!」
「ウルアアアアアアアアッ!」
俺たちの時間を誰にも邪魔をさせない。それだけだった。